第26話 公爵令嬢は選別する
「では、本日もよろしくお願いいたします」
玄関ホールでクラリッサ達を待っていたのは、商会長さん。
今回の家具の選別にも付き合って下さるのだ。
作戦が失敗してがっかりしていたクラリッサだが、本来の目的を思い出した。
隣ではアリスさんがぐるりと辺りを見渡していた。
「三階の家具は不要でいいと思うが、君が残したい家具はあるのか?」
「残したい家具……あ、書庫の家具は全部残したいですわ!!」
「書庫の家具?」
「アリスさん、本しか見てませんわね?」
「……すまない」
素直に謝るアリスさんが可愛くて、クラリッサはウキウキする。
一度作戦が失敗したから、何だというのか!!
いつだってアリスさんの膝を狙って着地をすればいいのだ。
馬車が無理なら、それ以外にアリスさんが座っている時。
とにかく倒れこむ!!
「今決めずに一階から順番に、家具の様子を見た方がいいかもしれないな」
「ええ! まずは、ここからですわね?」
「そうだな」
「では、はじめましょう!!」
周りへと視線を向ければ、傘立て、コンソール、その上に置かれている鏡など、玄関ホール内だけでもチェックする家具は多い。
(意外と大変そうですわ)
クラリッサは気合を入れ直した。
* * *
アリステアは、彼女と一緒に一つ一つの家具を丁寧に見ていく。
玄関ホールの家具は、基本的には全て使えそうだということになった。
彼女に「新しいものにしなくていいのか?」と確認したのだが、特に気にならないらしい。屋敷の雰囲気にも合っているので、新たに購入する必要性を感じないとまで言われた。
ただ、下から上までのウォールナットの壁は少し暗いのが気になるらしく、商会長に相談したところ、壁の上部をアイボリーに改装するのがいいだろうと言われた。
そうして、書庫の家具チェックへと移る。
ドアの向こう側には、本棚以外にも机や椅子、色々置かれていた。
「確かに家具があったな」
「……アリスさん。こんなに大きな机を無視したんですの?」
「すごいな」
「本当ですわ」
書庫の中央にどんっと置かれた長机。
椅子が両側にそれぞれ五脚もあり、十人が余裕で囲める大きさだ。
「これは……要らないか?」
「でも、調べものするときにこの広さは便利ですわ」
「ああ……そうか」
「あちらの机もそれなりに広いのですけど、いっきに三冊とか広げたいときには、ちょっとだけ足りないのです」
クラリッサは部屋の隅にある机を指さした。
「では、この机と椅子も残すか」
「いいですの? これが無ければ本棚を増やせると思いますけど」
「充分ある」
「ふふ。そうですわね」
おかしそうに笑われて、アリステアはくすぐったい。
彼女の小さな手をそっと取る。
そして、そのまま握った。
(……指を絡めたら、さすがに嫌がられるか?)
形を変えて繋ぎたい。
だが今は真剣に家具を選定しているところだ。これ以上はダメだ。
「椅子は、木製の物は残しても問題ないだろう」
話題を戻す。
「それは……ソファはダメってことですの?」
彼女が近場のソファへと手を伸ばし、座面を撫でる。
アリステアが意見を求めて商会長を見れば、彼もうーんと顎に手を当てて悩んでいる。
「……デザインが気に入っているようであれば、修復。それが難しいようであれば、似た家具を誂えます」
「どうする?」
「……そしたら、二階のサロンのような感じのところのソファだけ新調するのは、どうかしら? 他は修復をお願いするとして」
「なるほど。……窓際の木製の長椅子は?」
「あれは!! 好きですわ。 座面のクッションは別なのかしら?」
「ええ。クッションだけ別ですね。どうしましょうか? 柄は同じにしますか?」
「ん~……悩みますわ」
「それなら、新調するソファが決まってからにしたらどうだろう? そこまで急ぐ必要はないと思う」
「そうですわね。最悪、六月に間に合わなくても」
「ああ、他の家具が入っているし、問題はないだろう?」
「ええ」
彼女が納得したように微笑む。
ついつい手に力が入りそうになる。
(……本当に、これが毎日になるのか)
口元が緩みそうになるのを必死で抑えた。
* * *
「なにかあったのかしら?」
三階まで見終え、使用人棟へと移動しているところで、クラリッサは外の騒ぎに気づいた。
「ちょっと見てくる。君はここにいて」
アリスさんが手を離して、一人で行ってしまう。
その後ろをロビンが追いかける。
クラリッサはヴィヴィアンと二人、その場で待機した。
* * *
「離せ! 離せよ!!」
騒ぎは裏門の付近だった。
アリステアがそこに着くと、公爵家の騎士が少年を捕まえているのが見えた。
少年は三人いて、服装を見る限り平民だと思われる。
捕まっているのは一番小さな子で、他の二人が騎士から少年を剥がそうとしていた。
「何があったんだ?」
「……は」
騎士はすでにアリステアを主人と思っているらしい。
こういう扱いは慣れない。
「こちらの少年たちが勝手に忍び込みまして」
「うるせ!! ここは空き家だろうが!!」
一番大柄な少年が声を張り上げた。
「空き家でも不法侵入は認められていない」
アリステアが言えば、ギッと睨まれた。
「それならお前たちだって、不法侵入だろうが!!」
「まず、ここは空き家ではあったが、以前から所有権は商会にあった。そして今現在はブランデルウッド公爵家へ権利は移行。俺たちは公爵家の許可を得てここに来ている」
「そんなの知らねーよ!!」
少年は話し合いというものに応じる気はないらしい。
「お願いだよ!! 離してよ!!」
もう一人の少年は、騎士に縋りついて懇願している。
いちばん小さな少年は騎士に抱えられて、泣きそうだ。
「何が目的で、ここに来たんだ?」
もう一度アリステアが少年たちに質問するも。
「うるせー!!」
「お願いだから離して!! ルカは悪くない!!」
明確な回答はなく、ただ騒ぐだけ。
ぐいぐいと騎士を引っ張る少年たち。
剣を持っている騎士相手に、二人の少年は必死に小さな少年を取り戻そうとしている。
「ぼく、本のつづきがよみたくて」
騎士の腕の中で、小さな声がした。
アリステアは一番話が通じそうだと感じ、ルカと呼ばれた少年と話すことにした。




