第21話 公爵令嬢は教えてもらう
公爵家に戻り、早速お母様に『森のお屋敷』にしたと報告。
そこからは、間取り決めで時間を費やした。
他のお屋敷も見ていたので、どういう間取りにすればいいのかは、なんとなく想像がついた。
アリスさんとお母様と三人で話し合い、書庫はそのまま残し、一階を接客空間、二階を客室、三階を家族の空間とすることにした。
ちなみにお部屋の数が多いのは、以前は学者さんとそのお弟子さんが暮らしていたからだとか。
あと、一年に数回、森の調査などで学者さんたちが立ち寄る決まりになっていて、お屋敷の東側の一部は、その人たちのための宿泊空間らしい。
だから、今後もそこだけは残す必要があり、調査にくる彼らを受け入れることが条件だと言われた。
お母様から慌てたように確認され、あそこに住めるなら、別にそれぐらいと、クラリッサは頷き、アリスさんも特に気にしていないのか、『問題ないです』と返していた。
「でも、まさかあそこにするとは思わなかったわ」
夕食後、お母様の元を訪れると、第一声がそれだった。
「……そうですの?」
「ええ。書庫は広いけれど場所は遠いでしょ? それに色々と手間があるし」
「はい」
「それでも、あそこが一番良かったのね」
ふふっとお母様が楽しそうに笑う。
「……母上、何故、そんな遠くを候補に挙げるんですか? もっと家から近い場所。もしくはオルダートン侯爵邸から近ければ、僕がいつでも駆けつけられたのに」
先に部屋にいたヒューイお兄様が、なぜか文句をつけている。
「わたくしが遊びに行きたいと思ったからよ」
「……」
「さて、ヒューイ。貴方はさっさと部屋に戻りなさい」
「待ってください!! 母上!!」
「わたくしがいても貴方の刺繍の腕は上がりません」
「そ……そうですが」
「大人しく部屋で刺していなさい」
どうやらお兄様はアデレインお義姉様の『祈り袋』に刺繍を刺していたらしい。
「お兄様、頑張って」
「……クラリッサ!! 嫁に行く必要なんてない。ずっとここに」
「ここにいてもお兄様には会えなくなりますわ」
「……そういう問題ではない」
「いいから、さっさと出て行きなさい!!」
お兄様はお母様に追い払われた。
* * *
「で? 貴女はなんの用があるのかしら?」
「……あの、使用人についてなんですけど」
そこまで言って、何をどう訊いたらいいのか分からなくなった。
人数を訊けばいいのかしら? あのお屋敷の使用人棟で問題ないって言って貰えばいいのかしら? でも人数をアリスさんは気にしていたような。
「使用人?」
「あの……はい。アリスさんがその使用人棟のことも気に掛けていて、使用人はわたくしたちの生活を支えて下さっていて、だからきちんと彼らが生活できるような場所である必要があって……」
「……ふふ。アリスさんがそう言ったの」
「はい」
「貴女はそれに納得したのね」
「はい」
クラリッサが頷くと、お母様が向かいのソファから立ち上がり、ぎゅっと抱きしめてきた。
「貴女はわたくしたちの可愛い子供で」
「……はい?」
「とても大事に育てたの」
「ええ」
とんとんと背中をやさしく叩かれて、心地良い。
「でも、貴女はブランデルウッド公爵家の唯一の令嬢で、みんなが甘やかしたわ」
「……」
「しょうがないと言えばしょうがないわね。可愛いんだもの。そして貴女は素直でまっすぐだから当たり前のようにそれを受け入れたわ」
「……」
「わたくしは不安だったの」
「……おかあさま」
背中を撫でていた手が、クラリッサの頬を包んだ。
あたたかい。
「貴女は悪い子ではない。でも見えていないものが多すぎたわ」
「……はい」
「それを指摘してくれる人は、いなかったでしょう」
「……はい」
クラリッサには誰も反論しなかった。
心のすべてを預けられるほどの友人もいなかった。
楽しくおしゃべりはできても、クラリッサの言葉をみな受け止めるだけ。その先に進むことはなかった。
「貴女が『わがままなんですか?』って突撃してきたときは驚いたわ」
「……」
アリスさんが初めてだった。
面倒そうにため息を吐いて、クラリッサのわがままには付き合えないって反論してきたのだ。
「貴女とその人が仲良くなってくれればいいなと思ったわ。その人が、どんな形であれ、変わらず、貴女と向き合ってくれることを祈ったわ」
「……お母様」
すりすりと頬を撫でられて、目尻に涙がたまる。
愛されているのだとずっと知っていた。
でも、もっとずっと愛されていて、不安に思われていて、それでも見守ってくれていたのだと知る。
「貴女の旦那様が、アリスさんで良かったわ」
お母様の言葉にクラリッサは大きく頷いた。




