第14話 公爵令嬢はふたりの暮らしを思い描く
お屋敷の中はウォールナット材が使われ、アイボリーの壁ともよく合っていた。
とても不思議なお屋敷で、部屋がいくつもあり、一体どこをどう使っていたのか、クラリッサには見当がつかない。
アリスさんも部屋を見ながら首を傾げていた。
そうして、全てを見終わったかと思われた頃。
商会長がにこりと微笑んだ。
「まだ、ありますよ」
一階の玄関ホールの奥へと案内され、商会長さんがドアを開けた。
「まぁ!!」
広い、広いお部屋。
今まで見たどの部屋よりも広く、何よりも目を奪われたのは、壁一面の書棚。
しかも吹き抜けになっており、天井も高い。
隣のアリスさんを見れば、同じく圧倒されているようだった。
「すごいな……」
「ええ」
アリスさんが一歩一歩、部屋の中へ進んでいく。
クラリッサはそっと手を離した。
アリスさんの足はそのまま本棚へと向かい、本を手にする。
埃をかぶっていても気にならないのか、手にとっては戻し、また次の本へと移っていく。
(ふふ。本が好きなんですのね)
アリスさんが本に夢中なので、クラリッサは書庫全体を見て回る。
他の部屋の二倍ぐらいあるだろうか。
ところどころに置かれた机と椅子。
どこでも本が読めるように配置されているようだった。
「まるで小さな図書館だわ」
中央には大きな机があり、両側に椅子が五脚ずつ置かれている。
「あら?」
階段が現れた。
まさかと思ってそこを上がれば、その先にも書棚。
しかも一部はサロンのような空間が広がっていて、窓からは柔らかな日差しが入り込んでいる。
「……素敵だわ」
二階の手すりから下を覗き込めば、アリスさんの姿が見えた。
(もしここを新居にしたら、こうやってアリスさんを眺めたりするのかしら?)
ドキドキして、わくわくする。
「アリスさん!!」
思わず声を出して呼べば、弾かれたようにアリスさんが顔を上げた。
クラリッサがどこにいるのか分からないのだろう。
キョロキョロとあたりを見渡している。
「上ですわ!!」
もう一度叫ぶと、二階にいるクラリッサに気づいた。
クラリッサはブンブンと手を振る。
アリスさんが本を書棚に戻し、こちらへと向かってくる。
とんとんとんと階段を上がる音。
少しずつ近づいてくる足音。
(ああ!! どうしましょう。こんな風にアリスさんの音を毎日聞くってことよね)
想像すればするほど、心臓が早鐘を打つ。
ふたりでの暮らしが楽しみで嬉しくて、クラリッサは思わずしゃがんだ。
「どうした? 具合が悪いのか?」
走って来る足音に、クラリッサは慌てた。
そんなつもりではなかったのに、誤解を与えてしまった。
バッと勢いよく立ち上がると、アリスさんにぶつかりそうになって、避けようとした体はバランスを崩す。
「あぶない!!」
腰に回ったアリスさんの手。
ぐっと抱き寄せられる。
クラリッサもなんとか体勢を立て直したくて、つい、アリスさんの背中に手を回してしまった。
「……」
「……」
抱き合っているような状況だ。
離れなくてはいけないのだが、完全にパニックになっていて体が動かない。
「服を着ていますから、問題ありません」
唐突に声がした。
イーディスだ。
いつの間にかクラリッサ達の傍にいた。
(恥ずかしい……)
クラリッサは顔を上げられない。
抱き合いたくて抱き合っているわけではないのだ。
これは不可抗力というもので、望んだわけではなくて。
(……ど、どうしたらいいの!?)
「大丈夫か? やはり具合が悪いのか?」
アリスさんの言葉にハッとする。
クラリッサは今度こそアリスさんから離れた。
「違いますの。アリスさんがこっちに来ると思ったら嬉しくて、毎日そんな風に暮らすのかなぁって考えたら、もう~嬉しすぎて気持ちが高ぶって、ぐわーってなってそれで、しゃがんでしまっただけで」
「そ……そうか」
アリスさんの表情の変化は、どうしても分かりづらい。
クラリッサだけが動揺しているような気がしてくる。
「あの……」
「ちょっと待ってもらっていいか?」
アリスさんが謎の『待った』をかけた。
よく分からないが、クラリッサは待つ。
じーっとアリスさんを見ながら。
「……頼むから、見ないで貰えると」
「え?」
「……君が可愛すぎるから、ちょっと俺も耐えられない」
そう言ったかと思うと、アリスさんがしゃがんだ。
クラリッサより下にいるから、アリスさんのうなじが見えた。
(赤い……)
その変化にクラリッサは嬉しくなった。




