第12話 公爵令嬢は話から外される
パチンと扇子の閉じる音。
公爵夫人の口角は上がっているが、目は笑っていない。
「悪いわね。あの子がいると話が進まなくなるのよ」
「いえ」
公爵夫人の指が、トントントンとテーブルを叩く。
「何から話そうかしらね」
「……」
「とりあえず、新居の話をしましたから、今後の貴方たちの生活費について、話しましょうか?」
「はい」
「こちらで全て用意します」
「はい」
「もちろん貴方がクラリッサに私的に何かを買いたいと言うのであれば、それは好きにしたらいいわ。警備費や使用人への支払い等は公爵家から出るわ」
「護衛騎士や使用人は、公爵家から派遣される形なのでしょうか?」
アリステアが訊けば、公爵夫人は満足げに微笑んだ。
「さすがね。話が早いわ。その通りよ」
「分かりました。……それなら、日々の食費や身の回りのものだけは、私たちで支払うというのは?」
「二人の日常的な生活費ということかしら?」
「ええ。それもダメなら、私の分は私が払います」
「こちらが支払うことに抵抗があるのかしら?」
「……いえ、有難いとは思いますが」
「なら、どうして?」
「例えば、買いたい本があるとします」
「ええ」
「でも、それが公爵家からの支払いだとしたら、躊躇せざるを得ません」
「それは貴方が払ったらいいわ」
「ええ。もちろんそうします。ただ、毎回『この服の支払いはどちらか? このお菓子は?』と考えるのが面倒です」
「ああ……そういうことね。分かったわ。貴方の言う通りにしましょう」
公爵夫人はそう返し、話を進めた。
「貴方たちの新居が決まり次第、その家の規模にふさわしい使用人をこちらで用意します」
「分かりました。……先ほど、期限について確認しそびれましたが」
「期限?」
「新居をいつまでに決めるかです」
「……そうね、新居を整える必要もあるから早い方がいいわね。十一月末までには決めてもらえるかしら?」
「分かりました」
「あと、家具と内装などの、新居に関する費用も公爵家から出します」
「……助かります」
公爵夫人は再び扇子を広げた。
「あなた、嫌ではないの?」
「どういう意味でしょうか?」
アリステアはまっすぐに公爵夫人を見る。といっても、前髪があるので向こうからは見えないかもしれない。
「あなたは言われるわ。公爵家から養われている、と」
「その通りですから」
「嫌ではないの?」
「……彼女と結婚すれば当然そうなりますよね?」
「そうよ」
「それなら別に。それが嫌なら婚約なんて申し入れませんよ」
扇子で口元は見えないが、公爵夫人の瞳は面白そうにアリステアを見ている。
「あなた……クラリッサが好きなのね」
「……はい」
「わたくしの質問がめんどくさいと思っていらっしゃる?」
一瞬、アリステアは言葉に詰まった。
だが、ため息を吐いて、正直に答えた。
「ええ」
「素直に返事するのねぇ」
パチンと扇子が閉じられて、口元も目元も笑っている公爵夫人の顔が現れる。
「嘘をついてもお分かりになるようでしたから」
「貴方、嘘が下手だという自覚はないのかしら?」
「……」
「アーサーが貴方を気に入った理由が分かったわ」
「……こちらは分かりませんが」
「ふふ。そうでしょうね」
公爵夫人はパチンパチンと扇子を開いたり閉じたりする。
「さて、話は終わりよ」
「こちらからお訊きしても良いでしょうか?」
「あら? なにかしら?」
アリステアは軽く呼吸を整えてから。
「なぜ、彼女に……過激な小説を読ませたのですか?」
そう、切り出した。




