第11話 公爵令嬢は新居について考える
予定通り、週末。
アリスさんがうちに来た。
お父様とお兄様がアリスさんを威嚇しようとするので、お母様の助言を受け、アデレインお義姉様とソフィア様を招いた。
今回、ソフィア様にはお父様のお相手をしていただく。
――公爵閣下のお相手なんて、とても勉強になりますわ
クラリッサの可愛い生徒は、力強い。
伯爵夫人が隣でくらくらしていたけれど、クラリッサはソフィア様を頼ることにした。
「ソフィア様は本当に素晴らしいご令嬢ね」
お母様はアリスさんが公爵邸の二階のサロンに入るなり、そう言った。
「……恐れ入ります」
「とても助かるわ。旦那様の面倒まで見て頂けるんですもの」
「……」
「さて、話をしましょうか?」
* * *
ローテーブルを挟んで、公爵夫人がひとりでソファに座り、アリステアと彼女がその向かいのソファに並んで座る。
「呼んだのは、あなたたちの新居のことよ」
「……新居?」
彼女が不思議そうに首を傾ける。
先のことを考えるのが苦手な彼女らしい反応だ。
「アリステアさんには申し訳ないけれど、こちらで候補を絞らせてもらったわ。その中から選んで頂戴」
薄々、予想はしていた。
ブランデルウッド公爵家のご令嬢が、好き勝手にその辺に住めるわけがない。
「分かりました」
「……物分かりが良すぎて、つまらないわね」
アリステアはどうやら公爵夫人のお眼鏡には適わないらしい。
心中で焦るも、もちろん顔には出さない。
「お母様、候補はいくつあるのですか?」
「三つよ」
公爵夫人は、新居の情報が書かれている紙をローテーブルに並べていく。
「お母様、四つありますけど?」
「ええ、まず、こちらの一枚」
ずずっと、公爵夫人がアリステアたちに向けて差し出してくる。
「我が家から馬車で五分、元々我が家の管理にありますので、警備も修繕もさして困りません。近いということもあって、旦那様がこれならと持って来た案件です」
「……なるほど」
「ですが、これはわたくしが却下します」
「お母様?」
「五分程度では遊びに行った気になりません」
「……なるほど」
公爵閣下の推薦は、夫人によって候補から外された。
「改めて、こちらから。王立図書館から徒歩十五分程度、三階建てですが規模は少し小さめです。かつて学者が住んでいたということもあって、書庫は広めにとられています」
一枚の紙がアリステアの前に差し出された。
「次に、旦那様の大叔母様が過ごされていたお屋敷です。薔薇園と温室があるのがわたくしとしては魅力的です」
二枚目の紙は、アリステアと彼女のちょうど間にある。
「こちらはなかなかに面白くて、王都内の郊外にあります。通勤は辛いと思いますが、わたくしは自然に囲まれたこのお屋敷を大変気に入っています」
三枚目の紙には、王都の北側にある森に隣接した屋敷で、庭がかなり広いと書かれている。
(……森に飛び出さないか注意が必要)
下に書かれた注意書きに気づき、アリステアは隣の彼女を見る。
「アリスさん。森ですって。小鳥さんとか鹿さんとかいるのかしら?」
目をキラキラとさせている。
(なるほど)
「今すぐ決めてはなりません」
「はい」
それぞれの紙の上に、鍵が一つずつ置かれた。
「お屋敷の鍵になります」
「管理人などは常駐しているのですか?」
「大叔母様の家だけです。下見に行きたいときには、事前に知らせてください」
「分かりました」
「それから、必ず護衛を付けます」
「はい」
「……アリステアさんは、普段からお一人で動かれているようですけど」
「心得ています」
「……ほんと、つまらないわ」
公爵夫人は肩を竦めた。
アリステアの隣では、公爵夫人の声も聞こえていない様子で、彼女が三枚の紙を真剣に読んでいる。
「アリスさん、図書館から近いので、ここがいいと思います」
アリステアの目の前に置かれた紙を手に取り、彼女が勧めてくる。
「ああ……君は今後、家庭教師としてどの家に行くか分からないだろう? なるべく王都の中心か馬車で行き来しやすいところがいいと思うが」
「それなら、なおさら図書館の近くが良いのでは? 王都の中心にありますよね?」
「そうだったな」
「それに図書館なら今後も通いますし」
「……なるほど」
図書館近くのお屋敷の情報に、アリステアも目を通す。
「ふたりとも、今は決めないの。見てからにしなさい」
公爵夫人がもう一度、釘を刺してきた。
「ああ、それから触れ合いについてですが」
さらりと話題を変えられ、アリステアと彼女の体がビクリと動き、固まる。
「服を着ていれば良いです」
「え?」
「……」
あまりにも緩いそれにアリステアは愕然とする。
「なにか?」
にっこりと微笑まれて、反論さえできない。
「お、お母様!!」
「なあに?」
「も、もちろん服は着ています!!」
彼女もかなり動揺しているらしい。
「ええ。それなら良いのよ。ああ、クラリッサ、悪いけど席を外してくれるかしら?」
「どうしてですの?」
「貴女の婚約者に話があるから、に決まってるでしょう?」
公爵夫人は扇子を取り出し、口元を隠した。
「さぁ、行きなさい」
そして細い指が、ドアへと向けられた。




