6.アインの挑戦
エイナ・トワードとアインの人形作りがいよいよ始まる。まずは石膏を流し込むための型作りだ。
材料と手順は簡単。
粘土を思い描く形に形成するだけ。
アインは角張った椅子に腰掛けて早速、鶯色の粘土を捏ねる。
そうして数十分。
「………なぁ、アイン。それ、何作ってんだ?」
眺めていたヴィルは思わず口を挟む。そうせざるを得ないほど、アインが手にしている粘土は不可思議な形だったのだ。
なんとか自身の記憶と擦り合わせてようやく一致するものは、モアイ像である。
当のアインは得意げに言う。
「馬を作っておりますの!」
「馬!?本気で言ってんのか!?」
「勿論ですわ!」
いま一度確認するが、やはり馬には見えない。
すると首を傾けながら観察していたエイナが口を挟む。
「鬣が付いていないから馬に見えないのかもしれないわね。」
「確かに忘れていましたわ!すぐに作りますの!」
鬣が付いているかどうかの問題ではない気もしたが、とやかく言うことはなくヴィルは見守る。
その最中、アインは早速粘土を手に取り鬣にあたる部分を作り始めた。
彼女は馬の背に刺々しい突起を形成する。
が、順調に進むことはなく。
「……細かい作業は難しいですわね……。あっ。」
そう言って触れていた粘土を握りつぶしてしまう。
「ち、力入れすぎだろ…!」
飛び散る粘土を拾いながらヴィルは驚く。
意図して潰したわけではないだろうが、それにしても恐るべきパワーだ。迂闊な発言は出来ないかもしれない。
「もう一度やりましょ?」
「えぇ。そうですわね!」
2度目の挑戦。
次こそはと意気込みアインだが、それが仇となったようで、またしても有り余る力で粘土を握りつぶしてしまう。
「儚い命だったわね…。」
「だな。」
「ねぇアインさん。やっぱり別のものを作るとか、他の材料で作るってのはどうかしら?」
親指と人差し指にこびりつく粘土を取りながらアインは顔を上げる。
「いえ!私、石膏で、馬を作りますわ!一度決めたんですもの!曲げたくありませんの!」
彼女の表情は真っ直ぐで、失敗を得てもなお、くじける意思は見られなかった。
その様子に、エイナは思わず閉口する。
それは在りし日の誰かを眺めているような心地でもあった。
「うーん。まぁ、作りてぇもん作った方が良いか…。なぁ、エイナ。」
「え、えぇ。そうね。……そうよね。」
エイナは瞳を伏せたかと思うと、またいつも通りの面持ちで声を張る。
「それじゃあ方法を変えましょう!」
そう言って漁り始めるのは、筆やら何やらが収納されたタンブラー。整理整頓がなされていないのか、すこしの間ガチャガチャと音をたてて何かを探す。
「!あったわ!これよ!」
「ヘラか…?」
「御名答!粘土に使えるヘラよ!」
先端が平べったくなったヘラを片手に説明する。
「アインさんは力が入りすぎるのよね?なら、コレを使って鬣を作りましょう!もっと具体的に言うならば、ヘラで削っていく感じね!」
「なるほど…!では早速いきますわ!」
いま一度、アインの挑戦が始まる。
彼女はエイナからヘラを受け取り、製作途中の馬を模した粘土へそっと当てる。
丁度頭の部分。狙いを定めてそこを剃り落とすようにヘラを振り落とした。
「やったかしら…!?」
「やめろ馬鹿!そういうこと言うな!」
焦るヴィルをよそに、エイナは身を乗り出す。
「!良いじゃない!鬣っぽいわよ!」
彼女の言葉を疑いつつ、机上にある粘土へ視線を移すと驚くことに馬の頭部分にはギザギザの鬣と思わしき物が完成していた。
「おぉ!すげぇ!」
「や、やりましたわ…!私、やりましたわ!」
アインは大喜びで飛び跳ねる。
まだ完成というわけではないが、彼女にしてみれば大きな進歩だろう。
「よし!それじゃあ次よ!」
そう言って取り出したのは鶯色の粘土とは別の土褐色の粘土。
ソレが入った四角い木箱の蓋を開けながら続ける。
「アインさん!貴方の作った粘土をここに埋め込んで頂戴!」
傾聴していたヴィルは納得をする。
「なるほどな。粘土を窪ませて、そこに石膏を流すってわけか。」
「正解よ!それじゃあ早速!」
「分かりましたわ!」
エイナに言われた通り、木箱に入った粘土へ練った馬の半身押し付けた。
「それじゃ今度は左半身ね!」
もうひとつの木箱で再び同じ作業を繰り返す。
そうして出来た2つの跡。くっつけると丁度馬の全身が出来上がる、という寸法だろう。
「さてと。それじゃ、箱の穴から石膏を入れちゃいましょ。で、あとは固めて終わり!」
前途多難に思えた人形作りだったが、意外にも順調である。
あとはそれを窯で焼く。しばらく時間があるので、待つのみだ。




