5.エイナ・トワードと学園祭
なんでも屋を営むエイナ・トワードのもとに、今日も今日とて依頼が届く。
がしかし、本日の依頼はこれまた違った様子である。
というのも、依頼主は以前エイナ・トワードへ頼み事をした人物だったのだ。
「それでアインさん。今回の依頼は?」
テーブルを挟んで問いかけるのはこの家の主、エイナ・トワード。対するは依頼主である女生徒アインだ。彼女はレースのついたハンカチを額に当てながら口を開く。
「えぇ。…実は近々、学園祭が開催されますの。そこで、自作の人形を展示したいと思いまして。」
「なるほど。それで、私に協力して欲しいってわけね!」
カップいっぱいの紅茶を飲み干して、エイナは纏める。
隣でじっと話を聞いていた青年ヴィル・アリナはそんなエイナの様子に物言いたげであった。
「協力つってもオマエが全部作るわけじゃねぇよな?そしたら意味ねぇし…。」
「勿論よ!私はただ手伝いをするだけ!展示品を作るのはアインさん自身よ!」
了承したのか、アインは微笑みながら首を縦に振る。
「ありがとうございます。皆さまをあっと驚かせるほど、良いものにしますわ。」
「そうと決まれば早速取り掛かりましょ!一秒でも、二秒でも早く!」
「…………ヤケにやる気だなオマエ…。」
鼻息を荒げるエイナに気圧されつつ、早速人形作りに取り掛かるのだった。
***
場所は移り、エイナ・トワードの家に併設してある工房。
そこに、彼女ら三人は荒削りな木のテーブルを囲み立っていた。
「で、作るっつっても、また前みてぇに魔法で作るのか?」
ヴィルはとある依頼を思い出す。
以前、彼が持ち込んだ人形製作の依頼。その際に、エイナは作製魔法という便利極まりない技法であっという間にぬいぐるみを編み出したのだ。
今回もまた同じようにするのかと考えていたヴィルだったが、エイナは否定する。
「いいえ!作製魔法は一朝一夕じゃあ出来ないもの!ちゃあんと師事をしなきゃだもの!だから、今日は手作りでいくわよ!いいわねアインさん!」
「任せてくださいまし!私、悪達者のアインと呼ばれてますもの!」
豊満な胸を誇らしげに張る。
が、ヴィルはすかさず割って入った。
「それ褒められてねぇぞ…。」
「そうなんですの!?達者と言われましたのに!」
「達者は達者でも悪達者じゃあなぁ…。」
「達者でも悪達者でも何だっていいわ!熱意があれば大歓迎なんだから!」
「ありがとうございます!私、頑張りますわ!」
暑苦しい2人は力拳を作ってやる気十分な様子。
ヴィルはこれ以上何か言う気力もないので、大人しく手伝いに殉じることにした。
エイナは声を張ったまま、大股で工房の壁面に打ち付けてある棚を物色する。
そして、次々と棚の上からテーブル上へとものを移していった。
糸や布、紙にペン、オマケに粘土。見るに、人形作りの材料だろう。ついでに置かれた缶には何が入っているか予想つかないが。
「さて。アインさん。人形といっても、色んな種類の人形があるわ。貴方はどんな人形を作りたいかしら。あぁ、どんな材料を使って作りたいかでも良いわよ!」
テーブルを五指で示しつつ、説明をする。
アインはというと、小さく呟きながら並べられた物をじっと見つめていた。
「そうですわね…。………エイナさん。これは何ですの?」
彼女が指さした先はヴィルもまた気に留めていた缶である。ラベルは貼っておらず、中も見えない。2人には中身がてんで予想つかなかった。
「あぁ。それは石膏よ。」
「石膏…!これでも人形は作れるんですのね!」
「えぇ。形を作って、焼いて色付けすればあっという間に人形の完成よ!」
「!!決めましたわ!私、石膏で作ります!」
瞳を輝かせて宣言する。
アインからすれば、石膏を使用するというのは職人に他ならない。
職人。限界までこだわり抜き、技術を研鑽させる姿は名家のアインにとって憧れでもあった。
「そうと決まればまずは原型作りよ!」
糸や布、不要と思われる物を棚に戻し、残ったのは缶と粘土それから細い刃物状の小道具だけ。
「原型ってなんだ?」
「読んで字のごとくよ。石膏を入れて固めるのに使う型なの。工作みたいに粘土で形作るのよ。」
「へー。」
息を漏らしながら、エイナの話を聞く。
なるほど。つまり机上にある小道具で粘土を形成していくというわけか。
ヴィル自身には縁もゆかりも無い知識だった為、驚きながら納得をする。
魔法を使わない人形作りを見学できることに期待をしつつ、見守るのだった。




