17.エイナ・トワードは意地っぱり
ベネクト院にいる男が満足する人形を必ず作る。そう誓ったエイナ・トワードとヴィルだったが未だ明確な筋書きはない。
「で、どうすんだエイナ。あいつがちゃんと気に入る人形つっても、どんなの作んだよ。」
「よく聞いてくれたわね。」
エイナは顎をさすりながら思考を巡らせる。口はオマケに開いていた。
「そもそもどうしてあの人形を満足してもらえなかったか、分かるかしら。」
「どうしてって…やっぱクオリティの問題か?いやでも、『ケーピ』モデルで作った人形ならあれも上出来だと思うけどな…。」
『ケーピ』モデルとは製作魔法の一種である。主に子供向けの人形をすぐに、大量に作れることが特徴だ。そして何より、このモデルで作った人形は色がはっきりとしていて、顔立ちも可愛らしく出来る。
故にエイナも『ケーピ』モデルを使ったのだが、本人にとってはこの考えは失敗だったと言わざるを得ない。
「そう。『ケーピ』モデルにして、なのよ。それじゃ駄目なのよ。」
「つまりはなんだ。作製魔法の種類の選択を間違えたってわけか。」
「えぇ。そうね。私が使うべきは『ケーピ』モデルの作製魔法じゃなかったんだわ。」
「じゃあ何使うんだ?」
はんば期待をしながら聞く。
「モデル『ビスケイト』よ!」
「『ビスケイト』……。焼き物を作るタイプの作製魔法か?」
ヴィルは脳裏で思い浮かべるのはビスケイトという言葉。それは焼き物あるいは焼くことを意味するものだった。
「えぇ。でも、少し違うわ。焼き物は焼き物でも他の作製魔法より細かく指定できるのよ。人形で言えば、服装とかね。レースの数、フリルの幅、首元のリボン、あらゆる細かいところ全てを網羅できるの。」
「細かく作れるか…。マネキンみてぇなもんができるんだな。」
「えぇ!まさにそうよ!お洋服付きのマネキン!それが作れるってわけ!」
確かにそれならば男の思い描く人間を事細かに再現できるだろう。
しかし、そう順調にいくとは思えなかった。
作製魔法に詳しくないヴィルでも、すぐさま顔を明るくすることなど出来ない。問題は別にあるのではないかと思い至ったからだ。
「なぁエイナ。確かに『ビスケイト』モデルなら良いもん作れるかもしんねぇが、オマエはその作製魔法を使えんのか?」
簡単なこと。そもそもモデル『ビスケイト』の作製魔法を使えなければ、人形作り云々の話ではない。
やはり、そこは問題だったのか、エイナはあからさまに苦い顔をした。
「使えはするわ。……でも、課題があるのよね。」
「課題?成功率が低い、とかか?」
「いえ。ほぼ百パーセント成功はするわ。ただ……大掛かりな作製魔法だから特製の魔法陣が必要なのよ。」
彼女の話を聞きながら、ヴィルは思い出す。確かに、作製魔法使用時には魔法陣が形成されていた。しかし、その時はエイナ自身が魔法陣を形成していたのだ。今回もまた同様にすれば良いだろうに。
「オマエが作ればいいんじゃねぇのか?前みたいによ。」
「………出来ないの。モデル『ビスケイト』は魔法陣を形成するのと魔法陣を使うのとでは勝手が違うのよ。私は後者は出来るけれど前者は無理。」
「そ、そうなのか……。」
束の間の落胆。だが、考えてみれば当然か。道具の使い方を知ってはいても、その道具を作る方法を知っている人間など一握りだ。魔法といえど、例に漏れず。
「じゃあ別の作製魔法を使うしかねぇよな……。」
「それは嫌よ。」
「え?」
思わぬ返答に目を丸くする。
「私が作りたいものは、『ビスケイト』モデルでしか作れないわ。それじゃないと、きっと、あの人も満足しないわ。……もう適当な仕事はしない。こだわるのならこだわり抜くわ。それが人形屋としてのケジメよ。」
「…………………。」
そうだった。彼女は、エイナ・トワードは人形屋なのだ。人形屋と名乗っているのだ。であれば、名を冠する人形づくりにおいて妥協などあり得ない。
人形作りに本気で向き合うといったのだ。人形屋に二言はない。
「そうだったな。駄目だよな。妥協なんてよ。」
「えぇ。」
「悪かったな。変なこと言って。」
「構わないわ。貴方、いつも変なこと言ってるもの。」
「オマエに言われたかねぇよ!?」
ヴィルは相手のペースに巻き込まれそうになり、一度咳き込む。軌道修正をはかるのだ。
「で。肝心の魔法陣はどうすんだ?」
「そう、ね…。作れる人を訪ねるわ。正確には魔法陣が描いてある場所を、だけれど。」
「描いてある場所?空中にばっ、と描くんじゃねぇのか。」
「大掛かりなものだもの。基本的には場所を固定して、魔法陣を設置するの。だから今からこの足で訪ねまくるわよ。」
あてがあるということなのだろう。意気込むエイナを見て、ヴィルは頷く。
「おう。そんじゃ、行こうぜ!」
「えぇ!」
2人の魔法陣探しが始まった。




