15.エイナ・トワードの作製魔法
来るはずもない人間を待つ男。そんな彼の支えもとい人形を作るため、エイナは早速男に話を聞くことにした。
男は疲れたのか、自身が割ったステンドグラスの残骸近くで静かに座っている。
「ねぇ。さっきの話だけれど。」
エイナに呼応して、顔を上げる。
「貴方が待っている人は、どんな人だったの?好きなものは?一緒に行ったところは?綺麗好き?それとも大雑把?それと写真なんてあるかしら。」
突然まくし立てられた状況に、男は思わず唖然とする。
だが、それも少しの間。
しばらくすれば、堰を切ったように今度は男の言葉が矢のごとく注いでいく。
「あの子は…あの子は元気な子だったんだよ。出掛けるのが好きで、よく隣の国なんか遊びに行ったんだ。片付けは苦手だったけど、でもそんなの良かったんだ。ぼくが代わりに出来たから。」
「……………そう。」
エイナはただ頷いて、彼の話を受け止めた。
男の言う女性はすでにこの世を去っている。彼の話はすでに過去となり、これ以上の記憶が増えることはない。
「あぁ。写真があったら見せたかったんだけど…あいにく、持ってないんだ。」
「あら。そうなの。」
「うん。でも、別に良いよ。だって、写真なんかなくてもあの子には直接会えばいいからね。」
エイナは言葉に詰まる。
会うことは叶わず、写真すら持たない男は本当に、拠り所ひとつない。その事実に当人が気づいた時、果たして彼は同じように明日を迎えるのだろうか。
エイナは首を振る。そんなはずがない。人間はそれほど強くはない。
「………ねぇ。良かったら、絵を描いてみない?」
「絵?」
「えぇ。写真の代わりよ。私、どうしても見てみたいの。」
「いいよ。先生に紙とペンを借りなくちゃ!」
男は先生、と呼びかけながら院長へと近付く。
「先生!ペンと紙を貸して!」
「あぁ。構わないが…何をするんだい?」
「絵を描くんだよ!とびきり綺麗な絵!あの子の絵!」
「…………そうかい。それじゃあ、いっとう綺麗に描いておやり。」
「うん!」
懐から取り出された紙とペンを受け取った男は、早速床に伏して紙へ自由にペン先を走らせる。
どうやらこだわり抜くようで、男は紙をくるくると回転しながら想いを表現していく。
「おぉ。綺麗ね。貴方、画伯じゃない!」
「へへっ。モデルが良いからね。」
誇らしげに書き終えた絵は、柔らかく微笑むひとりの女性のものだった。黒一色だというのに髪の一本一本が丁寧な線で描かれており、味わい深い。
「この絵、貰ってもいいかしら。」
「もちろん。ぼくの自信作だからね。」
「そうね。ありがとう。お礼はするわ。……それじゃあ少し席を外すわね。」
「うん。またね。」
男へ手を振り返しながら、エイナはヴィル達の元へ戻る。
「行くわよ助手一号。早速人形を作らなきゃ。………彼が待ってるわ。」
「…………あぁ。そうだな。じゃ、オレはこれで。」
ヴィルは小さくお辞儀をして院長の前から立ち去ろうとした。その前に。院長が静かに口を開く。
「期待はしていないよ。ただの人形屋が、なにか出来るとは思えないからね。」
「それじゃあ期待をしてくれるように頑張るわ。」
堂々とした宣言をして、ベネクト院を後にするのだった。
***
エイナは自身の店へ戻り、早速人形作りの用意をする。
今回は以前のような石膏ではなく、スタンダードな綿と布を使った人形を作るらしい。
「人形っつっても、等身大の作んのか?」
男から貰った絵を眺めながら、ヴィルは問う。
「いえ。普通の、可愛らしい人形よ。」
「……そうか。」
てっきり人形を 人の代わりとしてたてるものだと考えていたので、思わぬ解答に面食らう。
男の支えにするというのだから、出来るだけ本物に近付けた等身大の人形を作るのかと思っていたのだ。
そんなヴィルの予想を別に、エイナは材料を用意したかと思うと空中へ手のひらをかざす。作製魔法をしようするのだ。
固唾を飲んで見守っていると、すぐさま魔法陣がどこからともなく現れた。
何重にも連なる魔法陣は複雑な模様を伴い、それぞれバラバラに回り出す。
「いつ見てもすげぇな。」
「あら。作製魔法に興味を持ったのかしら。」
「まぁ、少しは。作製魔法っっても、何を作るかで種類がちげぇんだろ?」
「えぇ。そうよ。それで名前も変わってくるわ。私が使うのはモデル『ケーピ』。」
「『ケーピ』って、『ケーピ』人形の?」
「そうよ。」
ケーピ人形といえばずいぶん前に流行った人形だ。
先端が少し尖っている頭が特徴的であり、着せ替えも出来るため子どもたちの間で一躍ブームとなった。
「製造魔法ってのは開発した人が名付けてその方法を広めるのよ。魔法陣の形成から動かし方に至るまでね。」
「へぇ。てことは、オマエも教わったってわけか。」
「えぇ。私が師事した人は『ケーピ』モデルをよく使ってたのよ。」
「ふぅん。」
ヴィルにとっては知らない世界。俄然、興味もないわけではない。がしかし、それ以上追求することはなかった。
彼の苦い記憶が顔を出すからか、あるいは恐怖からか。いずれにせよ、そんな様子を粒ほども存じないエイナは誇らしげに作製魔法を使用するのだった。




