11.エイナ・トワードとトルシィ商会
改めて、人形屋を営むことにしたエイナ・トワードとヴィル・アリナ。
学園祭にて決起した2人は小屋へと帰り、夕飯を済ませている最中であった。
小屋の中。大きなスクエアのテーブルを挟んで向かい合う2人は各々食事を口に含んでいた。
エイナは口内の物を胃に流しこむと、意を決して話しかける。
「それで助手一号。……人形屋を開くのはいいのだけれど、この先どうしましょう。」
「どうするって?」
「その……本気で人形に向き合うって言ったけれど、その本気ってのが具体的に分からないのよね。」
本気に、真摯に。それこそエイナが目指すべき人形作りへの態度。
なのだが、肝心の成すべき行動がイマイチ分からなかった。
ヴィルは言っていた。
時間をかければ良いのか。賞でもとれば良いのか。
正直なところ、エイナ自身の解答としてはそのどちらもが本気、尚かつ真摯な態度であると考えていた。
だとしても、何をすべきかは漠然としている。
「うーん。まずは人形屋って言うんだから店としてしゃんとするところからじゃねぇか。」
「しゃんと…。」
「おう。例えば…汚ぇ備品とか設備の取り換え…あといつも不足してる材料の管理とか…。」
ヴィルの言う通り、エイナが普段使いをしている工房は薄汚い。
煤や埃は勿論、ささくれだったテーブルや椅子は一種の凶器とも言える。
「わ、悪かったわね汚くて!」
「ホントだよ。掃除ぐらいはしろよな。あと、買い物に行くときはメモぐらいしとけ。いつも材料足りなさすぎなんだよ。」
「しても忘れるのよ!」
「じゃあ手にでもしとけ!言い訳は聞かねぇ!」
エイナは思わず耳を塞ぎたくなる。
思えば、生真面目に店の営業をしていたことはなかった。
依頼に対しては常に全力を注いでいたが、その他はおざなりであった、ということである。
これから本気で真摯に人形屋を営むというのならば、確かにもう少し几帳面になるべきかもしれない。
「で、でも…何か買うにしてもお金が足りないわよ…。父さんの遺産はあるけれど…。」
「父『さん』の遺『産』か。あんま面白くねぇな。」
「言ってる場合じゃないわよ!!とにかくお金が無いのよ!お!か!ね!」
エイナは立ち上がり、机を叩く。食べ終わった食器達が僅かに揺れた。
ヴィルは腕を組んで口を曲げる。
「んー。金…つまり融資か。まぁあてはあるぜ。」
「そ、そうなの!?」
「おぅ。」
「まさか盗みじゃないでしょうね!?」
「ちげぇよ!失礼な奴だな!……明日、とりあえず訪ねてみようぜ。オマエもついて来いよ?」
「わ、分かったわ。……言っておくけれど人の道を外れることはしないわよ?」
「俺もしねぇよ!」
途中、脱線はしたものの、とりあえずの目標は定められた。
エイナとヴィルは明日に向け、早くに床へつくのだった。
***
話し合いを終えた翌日。
2人は早速、あてとやらを頼りに出かけることに。
向かったのはエイナらが住む小屋から離れ、列車が行き交う賑やかな街。その中央に、白く巨大な建物があった。
それは上へ行くにつれて尖り、全体的に角張った形だ。
「大きいわねぇ。」
「まぁデケェ商会だからな。」
「へぇ。貴方、商会にあてなんてあるのね。」
「………………あてってほどじゃねぇけど…まぁ話ぐらいは聞いてくれると思うぜ。」
2人は並んで白い建物へと吸い込まれる。
入ってすぐ、2人の視界には肌色が目一杯に広げられた。
「「!?」」
何事かと思い立ち止まると、すぐさまエイナ達は何者かにぶつかったことを知る。
だが、それを知るのが遅れたのはぶつかった対象が柔らかくもあり硬くもある、不可思議な感触だったからだ。
「む。これはこれは。エイナ殿にヴィル殿。どうかされたのであるか。」
2人が見上げた先には見覚えのある顔の男。
彼は以前、エイナへ依頼をしたバードン・トルシィであった。
「バードンさん!どうしてこんな所に…。ここ、商会よ?貴方の好きな至高とやらは見つからないと思うわよ…?」
バードンの依頼内容は、とにかく彼を打ち付け虐め抜くこと。エイナらには理解の出来ない被虐趣味を持っていた男だったのだ。
それ故、彼がこんな所に居ることへ違和感が生じる。まさか新たな至高を求めて盗みでも働こうと言うのではないかとエイナはふと考えた。
だが反してバードンは頬肉を盛り上げ笑う。
「どうしても何も…。ここは私の商会であるからな。」
「えぇ!?そ、そうなの!?」
「そうである。」
未だ信じられないエイナは横にいるヴィルの顔を見る。
頷く彼を見て、嘘ひとつないことを感じ取った。
「助手一号…あてってのは…。」
「おう。バードンさんだ。」
「…………。」
不安は拭えないままでいる彼女を置いて、ヴィルはバードンを見上げ続ける。
「で、バードンさん。話があんだ。良いか?」
「うむ!勿論である!さっ!ついてくるである!」
壁が意味をなさないほどの声に驚きながらも、2人は大人しくバードンへついていくのだった。




