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ダンジョンだじょーん(仮)  作者: ヒゲ面の男


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95/101

95 黄昏

 翌日、奥飛騨ブロンズダンジョンの誕生をネットで見守る。


「出てきた出てきた。うはは、今回も500なのかな?」

「ニュースでは500って言ってたよ」


 にょきにょきにょきにょき、ちょっとエッチだな。

 カミナ、いつごろからそのー、おかしな事出来そう?


「お、お医者さんはもう大丈夫ですって」


 おかしな事をした。



 その後の中継は見ていないが30人ほどの冒険者が新ダンジョンに入って行ったらしい。

 新しい発見があるといいな。命だけは大事にしろよ。


「しかし30人か、思ったよりは少ない」

「サイコロ目当てで道後も増えてるらしいからね」


 どっちも行きたいけど選ばなければいけない状態か。

 ぜいたくな悩みだ。また日本に批判が集まりそうだな。


「さて、私も軽い運動からリハビリ始めないと」

「冒険者復帰の為か?」

「もちろんだよ」


 ひょっとしたら冒険者をやめるかもと思ってたけどいらん心配だったか。

 むしろ1年近く潜れなかったからウズウズしてるようだ。


「軽い運動って言うと、ウォーキングとか?」

「それは一般人の軽い運動だよ?」


 冒険者の軽い運動は違うらしい。


「ソロで100層ダンジョン潜ってくるね。2時間ほどで帰ってくるから赤ちゃんは見ててくれる?」

「な、なに?だ、ダメダメ、許しません!」

「ええ~?」


 いくら100層と言えど、一人で行かせるわけには…

 そういえば産後はレベル落ちるんだったよな?今のレベルはいくつだ?


「789、11落ちちゃった。でもこのレベルなら300でもヒーラーソロで行けるはずだよ」

「そうは言っても…勘を取り戻す必要もあるだろうし…ミオコミヅキがいるならまだしも」

「あの二人はレベルアップにどん欲だから100層に付き合わせるのも」


 経験値稼げないもんな。言えば来てくれるかもしれないが、カミナは遠慮してるみたいだ。

 うーん、どうしたもんか。あ、そういえば…


 ピンポーン


「よく来てくれたな」

「頼っていただけて光栄です」


 以前ベビーシッターをやると言ってくれた小早川智花を呼んだ。

 土曜日なので学校休みで良かった。


「浮気相手じゃないよね?」

「そんな人間を堂々と嫁の前に呼ぶ馬鹿はいません」


 カミナのいつものやつだ。お前だって一度会ってるでしょ?

 まったく、俺の言う事全肯定の割には女関係だけは信頼されてない。


「楓ちゃんって言うんですね。よしよし、良い子だね」

「ほう、言うだけあって慣れてるな」


 年の離れた兄弟がいるんだっけ?抱き方で解る、こいつはプロだ。

 おむつもミルクもばっち来いらしい。

 時給2000円でいいか?快く了承してくれた。


「恩人と憧れの人の子育てのお手伝いが出来るだけで幸せです」

「それじゃあ俺はカミナについて行ってくるよ」

「あ、楓ちゃんが寝てる間は攻略サイトの編集してていいですか?」


 いいよ、そういえばサイコロの反響はどうだ?

 閲覧が一気に増えたらしい。良かったな。


「もう、一人で大丈夫なのに」

「浮気か?」

「違うもん」


 いつもの仕返しだ。良いから早く行こうぜ。

 どこの100層行くつもりだったんだ?


「宝塚に行こうと思ってたんだけど、GODが来てくれるなら行ったことないダンジョンに行ってみたいな」


 宝塚はカミナが一番最初に潜ったダンジョンだ。当然テレポートで行ける。

 今日は一番近いダンジョンに行こうぜ。


「2時間ほどで戻ってくると思うけど、なんかあったらRINEして」

「わかりました」


 まあダンジョン入っちゃうとRINEも届かないんだけどね。

 しかしいきなりダンジョンでリハビリすることになるとは思わなかったな。

 よし、安全第一で潜ろう。


 東京 岩蔵ダンジョン


 東京都に3つしかないダンジョンの一つ、青梅市にある岩蔵100ダンジョン。

 公共交通機関や車で来るとなると結構かかるんだけどテレポートなら一瞬だ。


「人がいないね」

「ああ、駅からも結構遠いから不人気ダンジョンだ」


 土曜日なのにぽつぽつとしか人がいない。

 地元の人しか来ないんだと思う。


 カミナが着替えるのを待つ、体系変わっちゃっただろうから時間かかってるな。

 出会った頃の装備で出てきた。やはりビキニアーマーはまだ無理か。


「ふう、体型戻すためにも頑張らないと」


 そうだな、体型戻してくれた方が俺もうれしい。

 じゃあさっそく潜ろうぜ。


 30分後


「もう、GODが倒しちゃうとリハビリにならないでしょ?」

「むう、心配でよう」


 敵を見つけ次第カミナを守るナイトのように瞬殺、おかげでカミナがご立腹だ。

 むしろよく30分も我満したよね。


「ここからは私が全部倒します」

「解ったよ」


 動きが全盛期と全然違う、だから心配になってしまったんだ。

 ああほら、避けるのがワンテンポ遅い、敵を近づけすぎだ。

 あ、攻撃食らったな。ダメージはないみたいだけどこんな低階層の攻撃食らっちゃうのか?

 やっぱ出産という大仕事はここまで影響を与えてしまうのか。


「ふう、やっぱり体が重いね」

「このへんでやめとくか?」

「駄目、最後まで行くからね」


 まあダンジョンボスでも大したダメージ食らわないとは思うけど…

 やる気あるみたいだし、行かせてみるか。


 ダンジョンボスの部屋まで来た。カミナ結構攻撃外してるなぁ。


「えい!」


 やっと当たった。それ以降は立て続けに当たる。

 勘が戻ってきたのか?あ、敵が死んじゃった。

 もうちょっと戦いたかったみたいだ。弱い相手だから物足りなそう。


「ドロップは俺が拾うよ」

「いいよ、私が倒したんだから」


 前かがみが大変そうなんだよな。

 今まではお腹が大きくて出来なかった体勢。

 一年間使わなかった筋肉を使うことになる。


「ふう、戻ろっか」


 結局2時間以上かかったな。

 リターンでダンジョンから出てカミナ邸に戻った。



 ------------------



「おかえりなさい」

「むう、物足りない」

「初日なんだからこんなもんでしょ?」


 カミナは納得いってないみたいだ。

 自分の動きが許せないのだろう。


「それでは私はこの辺で…」

「もうちょっと居て、少し休んでからもう一回行ってくる」

「ええ?復帰したばっかだし今日はもういいでしょ?」

「いや!こんな体たらくじゃ自分を許せない」


 カミナ我儘モード発動。

 はあ、仕方ないな。小早川ちゃん、延長頼めるか?


「私は何時間でも、むしろこんなに広くて素敵な部屋で過ごせてご褒美です」

「こっちではアパート暮らしか?部屋狭いの?」

「東京家賃高いので6畳一間ですよ。贅沢は出来ません」


 そうかそうか、腹減ったらうばー呼んでも良いからな。

 金は後で払うから立て替えといてくれ。


「憧れのうばーを?学生には贅沢なあの?」

「大学生ってそんな感じだよな」


 全てを切り詰め貧乏生活、それはそれで楽しそうだけどな。

 俺は高校時代から冒険者やってたから金に余裕あったけど、友達は皆大変そうだったのを思い出した。

 結局大学はやめちゃったけど、行っておけばよかったと未練がある。

 やっぱ今からでも…いやいや、子どもが小さいのに何を言ってるんだ。


「GOD、次も違うダンジョンに行きたい」

「じゃあ奥多摩行くか?あそこは更衣室が古いから先に着替えていった方が良いぞ」


 と、ルシル達が言ってた。

 俺が行った頃はそんな事なかったんだけどね。

 年月で朽ち果ててしまったのか。


 それじゃあもう一回行ってくるよ。

 カエデを頼んだぞ、小早川ちゃん。



「うわぁ、懐かしいな」


 35年ぶりくらいだろうか?あまり変わってない。

 ここは精霊がいたから口説き落とすために何度も来たんだよな。だから景色を覚えてしまっている。

 結局口説き落とす事は叶わなかったんだけどね。


「や、山奥だね。ここ本当に東京都?」

「ああ、あはは、いまだに電話ボックスがあるよ」

「本当だ。使う人いるのかな?」


 この電話ボックスから当時の彼女に…おっとやばいやばい。

 郵便ポストも古いやつだ。ここは時が止まっているな。

 こうして昔来たダンジョンに戻ってみるのもいいもんだな。いろんな思い出が蘇ってくる。


「おやおや、久しぶりだね」

「ん?………常盤さんか?あんたまだここにいたの?」

「ひっひっひ」


 受付がおばあさんだとルシル達から聞いていたが、知ってる人だった。

 ダンジョン誕生当時から受付を続ける常盤さん。うわあ、懐かしいなぁ。


「立派になって、ここに来た頃は鼻たれ小僧だったのに」

「それはさすがに嘘だろ。すでに二十歳超えてたはずだ」

「ひゃっひゃっひゃ」


 楽しそうに話す姿にカミナが浮気を疑ってくる。お前、見境ないな。


「こんなに若い嫁を貰いおって」

「嫁だとよく解ったな。親子に見えないか?」

「これでもダンジョンの受付じゃぞ?内部情報にも詳しいんじゃ」


 そりゃそうか。年寄りだからと侮ってしまった。

 むしろベテランの受付嬢だもんな。


「潜るのかい?アンタには物足りない階層だろうに」

「今日は嫁の産後のリハビリでね」


 もっと話していたいけどカミナが睨んでるからそろそろ行ってくるよ。

 まったく、常盤さんは既婚者だったはずだぞ?今はどうか知らんけど。


 ダンジョンに潜るとすぐにカミナが文句言ってきた。


「GOD、あの人とはどういう関係だったの?」

「お前な、多分70超えてる人だぞ?詳しい歳は知らんけど」


 失礼だから歳は聞いた事ないけどさ。

 でも最初に来た頃もすでに結構…げふんげふん。

 下手したら80超えてるかもしれない。


「ああ見えて良い人なんだからな。失礼な事を言うのは良くない」

「ええ?お、怒った?」


 怒っては無いけどさ。子供の写真を見せてもらったことがあるんだよな。

 このダンジョンの中で見かけたら教えてくれって。

 …おそらくは亡くなってしまったお子さんの写真だ。

 あの人は受付をしながら帰ってくるのを待ってるんだ。


「そ、そんな過去が?ご、ごめんなさい、本当に」


 カミナ滅茶苦茶反省モード.良いよ、知らなかったんだから。

 ……あの人は、今も待っているのかな。


 ダンジョンで死ぬと死体も見つからない。

 諦めきれないんだよな。物証が無いと。

 頭では解っていても一部の望みに縋ってしまう。


「じ、実は生きているかも」

「40年もダンジョンの中でか?」

「で、でも、そう信じたい…」

「…」


 俺もバク子に調べてもらったことがある。でも…

 元々人気のないダンジョン、俺以外の者がダンジョン内にいない時もあった。

 つまりはそういう事だ。常盤さんには言えてないんだけどね。


「そ、そうなんだ…」


 命の誕生の影で、亡くなっていく者もいるんだ。

 カミナだって仲間を失っている。他人事とは感じないだろう。


「…寒くなる前に、またシオリさんの墓参りに行こうか」

「うん、くすん」


 カミナが半べそなので俺もそこそこ手伝いながらダンジョンを制覇した。



 ------------------



 ダンジョンに潜る前とは打って変わって低姿勢のカミナが常盤さんにペコペコしてる。

 お元気でいてくださいね、何かお困りじゃないですか?とか態度変わりすぎだろ。


「ひゃっひゃっひゃ、100まで生きるから大丈夫だわい」


 確かに生きそうだな。長生きしろよ。

 じゃあ俺達は帰るぜ。カミナいつまでぺこぺこしてんの?飛ぶぞ。

 消えゆく俺達に手を振って送ってくれる常盤さん、その内また顔を見に来よう。

 二人が消えて常盤さんが一人残される。

 振っていた手を下ろし、しばし感傷にふける。


「ふぉっふぉっふぉ、受付最後の日に懐かしい顔が見れて良かったわい」


 暮れ行く夕日を背に常盤さんはしばらく佇んでいた。

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