92 ダンジョンには夢がある
「カミナ、これベルギー王室から」
「ええ?!どうしてベルギーがお祝いくれたの?」
昨日貰ったチョコを持ってきた。
子供の祝いって訳じゃないんだけどね。また政府が我儘言ってきたんだよ。
「なんだぁ、そう言う事かぁ」
「まったく、こっちは子供が産まれたてだってのに」
「休んでててもレベル下がっちゃうんだから働いてくれた方が安心だよ?でも危ない事はしないでね」
大丈夫、心得てるぞ。
それより出産後は甘いもの食べたくなるんだろ?これも食べてくれ。
「なんでペロペロキャンディー?」
「昨日、いろいろあったんだ」
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ウチの名前は三橋恵令奈。
今日は朝から伊豆高原ダンジョンに来ています。
「政府の車がある…今日も絶対来るはず…」
隣にいるのは長谷川琉詩流。
良い子なんだけどちょっと天然でおかしな妄想のある子だ。
「ねえルシル、ダンジョンに潜らないの?ずっとここに居るから政府の人が怪しんでるよ?」
「愛に障害はつきものでしょ?大丈夫!いざとなったらあたしの方が強いから」
それが大丈夫じゃないんだっての!
政府の人間に攻撃したらどうなることか。
冒険者の犯罪は重いんだよ?
「ああ、早く来ないかな、あたしのフィオナ王女」
「………」
勝手に亜人にしてるけど、これも不敬罪になりそうで怖い。
お願いだから来ないで、下痢でも起こしてくんないかな。
エレナは胃がキリキリする思いだった。
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伊豆高原ダンジョンに来た。
いきなり顔見知りの奴らがいて驚いた。
「お、おじ様!どうしてここに?」
「俺はこれから国の仕事で…お前達こそなんでいるんだよ」
ロープが張ってあるな。土日だから混乱を防ぐためだろうか。
王女が来ると予想して人が押し寄せているのかな。
「すんません、ウチらのせいなんです」
「どう言う事?つかルシルはこれどうしたの?」
「い、今はハイエルフしか目に入らない状態で…」
何言ってるのかさっぱりわからん。
お、飛川さんが近づいてきた。
「おじさんの知り合いなんですか?その子達は後ろに下がれって言っても言う事聞かないんですよ」
「す、すんません、ルシルが動こうとしなくって」
「このままでは王女を呼べません。何とかしてくれませんか?」
なにやってんだルシルは。おーい、おーい。
…目がうつろで聞こえて無さそう。まるで幻惑の魔法にかかったみたいだ。
「えーと、ルシルは奇麗な女が好きで」
「ええ?多様性の時代だな」
「王女様に何をする気ですか?拘束しますよ」
「ま、待ってください。悪気は無いんです」
エレナ、もっと詳しく説明してみなさい。
このままじゃどうにも出来ん。
「ほうほう、ルシルは奇麗な女をエルフだと思ってるの?」
「そ、そうっす。信じられないと思いますが」
「カミナの事はハイエルフって言ってたのか。旦那としては悪い気分じゃないな」
でも、おじ様の事はオークって…これは墓まで持っていこう。
ウチは重い十字架を背負わされてるんです。
「おじさん、なんとかしてください」
「別に良いんじゃないか?王女も冒険者としてやってくなら他の冒険者との交流も必要でしょ?」
「ですが、あまりにも様子がおかしすぎませんか?」
「言いずらいけどウチも心配っす」
「お前らはすでに頼りになる先輩冒険者ではないのか。これから始める新人の邪魔をするような奴なのか?」
「うう、違うっすけど、ルシルは今…」
エレナが泣きそうになっちゃった。お前が悪い訳じゃないのにな。
エレナを攻めても仕方がないか。ルシル!おい!ルシル!目を覚ませ!
「あれ?おじさんいつからいたの?」
「お前な、仲間にこんな顔させて何やってんだ?」
「え?」
ルシルがエレナの顔を見る。仲間の事を心配する仲間の悲痛な顔。
「お前は大事な仲間の声も聞こえないのかよ!」
「え?え?な、何怒ってるの?」
「ルシル~このままじゃ捕まっちゃうよ~」
なになに?何が起こってるの?
ここどこ?あたしなんでこんな場所にいるの?
「エルフは比喩表現なのか?王女は耳長くないでしょ?」
「う、うん、それは解ってるけど」
「因みにエルフが美しいってのは国によって違う。場所によってはいたずら妖怪だからな」
「え?そうなの?」
「だから王女にエルフなんて言ったら嫌われる可能性もあるぞ」
「ガーン」
え、エルフが、妖怪?そんな、あたしが今まで信じてきたものはいったい…
「どこでその先入観植え付けられたんだ?」
「え?映画とか、小説とかで…」
「そうか、それは作者が勝手にキャラ付けしたものだ。特徴を与えて目立つようにしてるだけなんだからな」
「おじ様、容赦ないっす」
「産まれてくるお子さんにも同じ事言うのかしら?」
「うるさいな、エレナ、サンタとか信じてたか?」
「え?子供の事は信じてたっす」
「良い子にしてたらプレゼント貰えるとか言われなかったか?あんなのしつけの出来ない親が自分の都合で作り出した民間伝承だ。なまはげと一緒だ」
「ほ、本当に容赦ないっすね」
実際サンタなんかいないでしょ。幻想に夢など見るな。
「ダンジョンに夢があるんだから現実を見つめろよ」
「そ、そうっすね。ルシル、エルフなんていないよ?王女様に理想を押し付けるのはやめて!」
「う、うん、なんかあたし、おかしかったかも。でも奇麗な女の子が好きなのは本当で」
「付き合いたいとかなのか?」
「う、ううん、そこまでは思ってない。仲良しになれたらなって」
だったら何も問題ないじゃないか。飛川さん、そろそろ王女たち呼んであげなよ。
さすがに待ちくたびれてると思うぞ。
「お前らも来い。王女を紹介するから」
「ええ?それはそれでいいんすかね」
「おじさんそんな権限持ってるの?」
飛川さんは苦い顔、大丈夫だから心配するな。
「もう、何かあったら貴方の責任ですよ?」
「ああ、それでいいよ」
飛川さんが連絡をし、王女たちが飛んでくる。
SPに囲まれながらこっちにやって来た。おや、何かを見つけ、目を見開いてるな。
「わ~!ギャルだわ!ねえ、貴方ギャルよね?」
「う、うん、そのつもりだけど」
「すご~い!本当にいたのね!初めて見たわ!」
王女がやたら興奮してる。ルシルは逆にタジタジだ。
なんか思ってたのと違うな。
「良いわよね!私もこんなに自由な格好をしてみたいわ!」
「フィオナ王女、ギャル知ってるの?」
「ええ、私だって日本に来るのに何も勉強してない訳じゃないわよ?同世代の女の子の趣味趣向くらいチェックするわよ!」
王女は自由が無い分自由に見えるギャルに憧れがあったらしい。
品行方正を求められる立場、羽目を外せないんだろうな。
「凄いわ!幻想の中の生物では無かったのね!」
「………」
王女の中ではルシルがエルフだったらしい。
なんだこの展開、時間無駄にした。
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ダンジョン潜りたいのに王女がルシルを離さない。女には話す事が無限にある。
俺も暇な訳じゃないんだけどな。
「ねえねえ、連絡先を交換してくださらない?」
「うん、いいよ」
やっと終わった?終わったよね?
駄目だ、また話し始めた。もう寝たい。
「熱海に潜っているのね。私達も育成が終わったら熱海で活動しようと思ってるの」
「東京から通うの?新幹線で40分だもんね」
「ええでも電車は危ないんじゃないかって皆が言うのよ」
いつまでもテレポートで運んで貰える訳じゃないからな。
東京から一番通いやすいのは熱海になっちゃうんだよな。
王女達もいろいろ考えているようだ。
「日本政府は一両貸し切りにするとか言い出すし、大袈裟で困ってるのよ」
飛川さん、そんな事を言ったの?税金は国民の為に使ってください。
お、エレナ、日本語が解らない子と何かコミュニケーション取ってるな。
お前外国語解かるの?そんな訳ないか。
「おじ様、チョコ貰ったす」
「お前小っちゃいから小学生だと思われたんじゃないか?」
「そ、そうだったの?なんかやたら頭撫でられると思ったら!」
日本人は若く見えるらしいからな。
良いじゃないか、俺も若く見られたい。
「この後ボスに行くんすよね?羨ましいっす」
「もうお前らも来るか?話終わる気がしない」
「え?いいんすか?」
うん、よく見たらまた二人休んでるし。
やっぱ貴族様には厳しいのかもしれないな。
すぐ終わらすからずっと話してて良いよ。
「ルシルー、ボスに連れてってくれるってー」
「ええ?いいの?」
「一緒に行けるの?嬉しいわ!」
はいはい、じゃあダンジョンに入ってチョイス、そしてホゲーをズドーン。
「うおおおお!」
「あ、言うの忘れたけど精霊に当たったらお前ら死ぬ」
「さ、先に言ってよ!」
俺も何回か試すうちに大体範囲が解るようになってきた。
お前達が当たりそうなら使ってないよ。
「ボス一瞬だけ見えたけど怖かったね」
「あんなの勝てる気しないよ」
「ドロップ拾うの手伝って」
俺のアイテムボックスに投げてくれ。
エレナ、物欲しそうな顔をするな。
「うはは、レベルが3あがった」
「あがったねー」
他の子はどうだろう?
王女は12上がって66、昨日来なかった二人は今日は来てる。20上がって46か。
これで王女パーティは66、54、54、46、46になった。
よし、これで次からフェンリルに行けるな。
「ねえ、なんだか休みが多くて申し訳ないわ?私が100になった時点で契約終了でいいわよ」
「王女は毎回来るのか?この後王女が毎回休んで他の子がどんどんレベルが上り…」
「そ、そんなずるい事しません!」
あはは、冗談だよ。王女だけはやる気満々だもんな。
そう言ってくれるとありがたい。いつまで続くかちょっと不安になってたところだ。
さて、じゃあダンジョンから出るか。
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ボスでいったん水を差したしこのままお開きになるかと思ったらまだ話してるよ。
何をそんなに話す事があるのやら、俺は先に帰るぜ。
「バイクに乗ってるの?いいわね憧れだわ!」
「エレナはアメリカンに乗ってるんだよ」
「日本は小学生なのに免許が取れるのね!ダンジョンにも小さいうちから潜って…」
「う、うちこれでも16歳だよ」
「え?…………おほほほほほ」
笑ってごまかされた。くう、怒りたいけど偉い人。
他の子達は退屈してないかな?二人で話してる、問題ないみたい。
「へえ、ベルギーは18まで義務教育なんだ?」
「ええ、だから向こうだと冒険者になれるのも18からなのよ」
日本に来るからと特例で15から潜る許可が出たらしい。
家庭教師を連れ勉強もおろそかにしない。大学ももちろん行くつもりなんだって。
「日本の大学に行くの?」
「まだ解らないわ。ネットで母国の授業も受けられるし、そちらを選ぶかも」
「お、王女様、そろそろ…」
政府の人がそろそろきりあげたいみたい。
この人は飛川さんだっけ?議員さんらしい。
おじ様、議員にもコネあるのか。ウチとも仲良くしてください。
「ねえみんなで写真撮らない?あれ?マイスターは?」
「マイスター?おじさんの事?とっくに帰ったよ」
「まあ…あの方結構淡白よね」
「あはは、言えてる」
5人で写真を撮り共有した。
今日来なかった人もいるんでしょ?今度はそろって写真撮れると良いね。
王女達がテレポートで帰っていく。見えなくなるまで手を振り続けた。
「ごめんねエレナ、迷惑かけちゃって」
「ううん、レベルが3上がった事ですべて吹っ飛んだよ」
「あはは、おじさんあんな事してんだね。一瞬で終わるのに凄い報酬らしいよ」
「羨ましい、ドロップも独り占めで更に報酬も出るなんて」
本当だね。ドロップだけで1000万くらいあったんじゃないかな?
あれが高レベルの冒険者の稼ぎなんだね。
「ダンジョンには夢がある、か」
「ウチらもいつかは…」
バイクに跨り決意を新たにする。
あたし達もいつかは日本中のダンジョンを制覇する。
おじさんに負けないくらい強くなるからね。




