86 カルチャーショック
「遅かったよね。苦戦したのかよ」
100層ダンジョンボスを倒してリターンで戻ってきた。
ガイドさんが心配してた。精霊で時間食っちゃったんだよな。
二人とも解ってると思うけど精霊の事は内緒だぞ?
他国にまで来て精霊横取り、やっぱ気まずいな。
ドロップ全部タダで渡そうかな?それも逆に怪しまれちゃうか。
「おお、さすがだね。ボスまで行ったの?」
「ああ、ちょっと途中でお腹痛くなって遅くなっちゃった」
「ダイジョブか?医者行くか?」
もう大丈夫だよ。おさまったから。
今日はこの後どうするの?まだ昼前だけど。
「午後はこの国一番の冒険者パーティと会う。首都に行こ」
ほう、冒険者から直接話を聞けるのはありがたいな。
現状をどう思っているのか。問題はないのか。色々聞いてみたい事はある。
じゃあさっそく首都へ向かおう。
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レイキャビク 某ホテル
「やあ、貴方が別府覇者かい?」
30代の男二人と女二人の4人パーティ。
さすが世界最高峰の別府、俺の功績はこんな遠い場所まで伝わっているようだ。
「今日は時間を作ってくれてありがとうね」
「ううん、私達こそ別府覇者と話が出来て光栄だわ」
本当は通訳はさんで話してるんだけどね。ややこしいから割愛。
「別府のボスがドラゴンって本当?」
「ああ、七つ頭のドラゴンだ」
「わお、そんなのどうやってソロで倒したの?」
ひとしきり質問攻めにあう。こっちが話聞きたかったんだけどな。
でも後回しにするか。気がすむまで質問に答えれば向こうも本音を話してくれるだろう。
「ブロンズダンジョンには潜ったの?」
「ああ、100層までだけどね。エイとタコを掛け合わせたようなモンスターが居た」
「何か新しいドロップはあったの?」
「いや、残念ながら無かったよ」
ここは方便で。ごめんね嘘ついて。
「でも違う階層で未発見の盾が見つかっている」
「ああ、水晶の盾ね。SNSで見たわ」
「魔法を跳ね返すらしいな?本当なら凄いぞ」
「俺はAIだと思ってた」
こんな遠い場所まで情報が伝わっている。
インターネットは世界をつないでいる。
「あんな凄い装備アイスランドじゃ夢のまた夢よ」
「みんなは行けるものなら日本のダンジョン潜ってみたいのか?」
「もちろん」
「夢の国よね」
「そっちは政府の人だろ?留学の件何とかしてくれよ!」
「え、えーと、ただいま検討中でして」
問題があると困るのでこうやって視察をしているんだ。
でもそうか、やはり日本のダンジョンは魅力的か。
アイスランドとしては国のトップが海外に行っちゃうと困ると思うけどね。
「現在他国の冒険者がアイスランドに来ている訳だけど、トラブルとかはないのか?」
「喧嘩とかはしょっちゅうよね?」
「酒が入るとどうしてもな」
「俺達はバイキングの末裔だからな!」
それくらい当たり前でしょ?と言った感じだ。
治安が良いと聞いていたけど、やはり文化の違いを感じるな。
「日本は犯罪起こした時点で冒険者資格をはく奪。場合によっては極刑だ」
「ええ?うそでしょ?!」
「死刑なんて野蛮な!」
まあ想像通りの文化の違いだな。
宗教観違うからね。理解できないだろうな。
「君達が日本に来るとして、日本の法に遵守出来るかい?」
「う、うーん、死刑があるとは知らなかったな」
「冒険者資格を取られると言っても私達はアイスランドで発行されたものを持ってるのよ?それを日本の権限で奪えるの?」
「それは横暴だよな」
「だが日本には日本のルールがある。ルールを守らず自国でいる時のように振舞えばやはり日本は受け入れは難しいと考えるだろう」
「うーん」
「そこまでして行きたいかと言われると…難しいな」
「リスクが高いわよね?」
予想通りだな。やっぱ留学受け入れは難しそうだ。
まあいいや、違う事も聞いてみるか。
「税率についてはどうかな?今は日本のダンジョンに潜る場合、日本人が20%で外国人は50%なんだけど」
「それはまだ我慢できるわね」
「高階層潜れるなら収入増えるし、税金高くてもこっちの500潜ってるよりは収入多くなるんじゃないかな?」
「でも出来れば一律にしてほしいよな」
ふむ、税金はまだ我慢できるのか。
いや、最初はそう言ってても次第に不満が募っていくもんだ。
特に海外冒険者の数が増えれば不公平の声が大きくなるだろう。
「細かい部分でもマナーが違う。日本ではダンジョンで用を足すときも簡易トイレを使う者が多い」
「へえ、おもしろいね」
「それは私は賛成かも。特に男はみんなその辺でどばどばしてるでしょ?」
「酒飲みながらダンジョン潜ってる奴も多いからな」
ええ?酒飲みながら潜ってんの?あぶなくないのか?
お国柄というか、倫理観が違うんだろうな。
「ちなみに飲んだ後の酒瓶とかは…」
「ダンジョンの中に捨ててるよ」
「翌日には奇麗になるからね」
「家庭用のごみをわざわざダンジョンで捨てる奴もいるよな?」
あらら、これはどうなのだろう?
マナー的にはどうかと思うが、確かにゴミ処理場所として優秀なのは解る。
でも日本でそれやると叩かれるよな。
「C国ではアイテムボックスに大量のごみを集め、国ぐるみでダンジョンを処理場として使ってますよ」
「そうなの?飛川さん」
そんな話を聞くと余計留学は難しいと思ってしまう。
文化が違い過ぎるんだ。そして人の国の文化を大事にしない人も多い。
「いえ、おじさんが知らないだけで、リサイクル料金がかかるゴミをダンジョン内に不法投棄してる人は日本にもいます」
「そうなの?最悪だな」
知らなかった。悪い奴はどこにでもいるもんだな。
ただこれを悪い事と決めるのも日本の倫理観の中だけの話、どうせ次の日には奇麗になるんだから利用した方が賢いと考える人も多そうな事例だ。
ふーむ、やっぱり難しいなぁ。
「ありがとう、いろいろ聞けて勉強になったよ」
冒険者達に礼を言ってお開きになる。
ふう、為になる話を聞けたけど課題が山積していることが解った。
「おじさん、さっきの話ともつながるんですが、C国では一部のダンジョンでモンスターが狂暴化していると噂があって」
「狂暴化?モンスターはそんなもんでしょ?」
「いえ、同じゴブリンでも狂った暴徒のように命を恐れず襲い掛かってくるらしく…」
ふーん、モンスターが進化してるのかな?
銅ダンジョンみたいな新しいダンジョンに変化するとか…?
「いえそれが、ダンジョンに放射性廃棄物を捨てていたのではないかという噂がありまして」
「はあ!?ダンジョンを核のゴミ処理場として使ってるのか?」
「あくまで噂の範疇ですよ?でもそれでモンスターがおかしくなったんじゃないかと…」
なんという馬鹿な事を、でもそれだと放射能の影響は消えないって事じゃないか。
汚染されたダンジョンでは冒険者が潜る事も出来ない。
モンスターは出るけど資源を生み出す貴重なダンジョンをそんな状態にしてしまうだなんて…
「C国は日本の冒険者に調査してもらえないかって言ってきたんですよ?」
「何言ってんだ。日本の戦力減らす為だろ。そんなの絶対協力しちゃ駄目」
「解ってますよ。尻ぬぐいなんてしてやる必要ありません」
馬鹿な事しちゃったもんだな。事前にそんな事になるなんて思わなかったんだろうな。
いや、日本だって一歩間違えばやってたことかもしれない………やってないよな?
「安心してください。学者から案が出た事はありますが、日本は検討に検討を重ねる国なので」
判断遅いだけじゃないの?まあ良かったけどさ。
しかし、ダンジョンの復元力にも限界があるのかな。
危険な場所だけど大切に守っていかなければいけないな。
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夜、オーロラが見える。ホテルの窓から観賞中。
ホゲーがその中を気持ちよさそうに泳いでいる。
泳いでるって言っても飛んでるように見えるんだけどね。
夜空を泳ぐ巨大な発光するクジラ。神秘的だ。
「おっきいなぁ、こんなに大きな精霊もいるんだな」
『俺とどっちが強そうに見える?』
「文太、比べるまでも無いだろ」
レッサーパンダが隣でぎゃあぎゃあ騒いでる。
お前は可愛さを突き詰めろよ。
『狭いダンジョンの中から出る事が出来て幸せだぞえ』
「今まで誰とも契約してないのか?」
『初めてだぞえ』
元の所有者が亡くなったとかではないのか?
だとしたら40年近くダンジョンの中にいたのか。
良く今まで見つからずにいたもんだ。
『以前一度、出現条件を達成したパーティはいたのだがな、私の所有を巡って揉めだしたぞえ』
「ああ、それだと契約する気になれないよな」
自分の物だ!って内輪もめしたのだろう。
選択権は精霊にあるのだ。その辺を勘違いしてはいけない。
実際ダンジョン内ではよくある事なんだよな。ドロップで揉め、モンスターの取り合いで揉め。
俺はそれが嫌でソロになったけど、だから精霊6体と契約出来たのかもしれないな。
「しかしアイスランドの精霊とも言葉が通じるのがなんか不思議だ」
『俺達は心に直接語りかけてるだけだからな。人間の言語を理解している訳でも無い』
文太先生が言うにはダンジョンに国籍がある訳では無い。
たまたま日本にダンジョンが多いけど、精霊の中では一つの世界という認識らしい。
『主は俺達に話しかけるけど、俺達は心を読んでいるだけなんだ』
「そうなのか。じゃあ嘘言ってるのも解るのか?」
『ああ、だから嘘言ってるようなやつとは契約しねえ』
「素直な良い子で良かったぜ」
『それは怪しいけどな。でも面白そうな奴だから契約したんだぜ』
お陰で別府覇者にまでなれたよ。
お前達がいなければ不可能だっただろう。
「お前達は新しいダンジョンの存在を知っていたのか?」
『いや、知らなかったな。主だって世界の全てを知ってる訳じゃねえだろ?』
ああ、知らん事だらけだよ。
今日もカルチャーショックだらけだった。
『でも人間の世界も面白いよな。あの空はなんでカーテンみたいに揺らめいてんだ?』
「謎だな。スマホで調べてみようかな」
『いや、いいよ。主も見逃すな。今ここでしか見れない景色なんだからな』
「文太とは千葉で会ったんだよな。日本中いろんな場所に行ったよな」
文太とは比較的早い段階で出会った。日本縦断の最初の頃だったよな。
最初にフェリーに乗った時に海を見つめ動こうとしなかった事を思い出した。
『狭いダンジョンにいたから、水だらけの世界が信じられなかったんだ』
「この世界は7割が海だからな」
『主が見つけてくんなかったらそんな事も知らずに今もダンジョンの中で呆けてたぜ』
「お前の出現条件は両手を上げて威嚇だったよな。今思えば俺なんであんな事したんだろ」
武器も持たずに両手を上げて威嚇、胴ががら空き無防備極まりない格好だ。
多分映画の真似をしたのだ。そんな空手映画があったんだよ。
「若気の至りだな。なんかおかしくなって素手でモンスター倒したくなったんだろな」
『無茶な奴だぜ。まあ低階層だったし主はレベル高かったからいけたのかもしれねえが』
そんな事してたら急に発光するレッサーパンダが現れてびびった。
お化けだと思って叫び散らかした記憶がある。今思い出すと恥ずかしい。
『いや~~って言ってたな』
「そんな女みたいな声出したのか俺」
『それでおもしれえって思った』
「乙女な部分があって良かったぜ」
冒険者を辞めてからも結構旅行に行ったよな。
検査が厳しいけど海外にもたくさん行った。
お前達に世界を見せることが出来て良かった。
オーロラの中を泳ぐ精霊とそれを見守る一人の人間と五体の精霊。
夜が更けるまで飽きる事も無く空を見上げ続けた。




