84 海外視察
「ふはは、政府専用機に乗れるなんてな」
「おじさん、偉い人もいるんでお静かに」
現在9月中旬、ここは羽田空港。俺はこれからアイスランドへと向かう。
飛行機の乗り込み着席、シート広いな。おや飛川さんが隣か?
「アイスランドのよーおな、いなーかへー行こう―♪」
「それ、アイルランドですよ?」
そうなのか、ややこしいなアイスランド。
いや、著作権に引っかかるのが嫌なのでわざと間違えたんだ。うはは。
「て、テンション高いですね」
「海外旅行だから嬉しいに決まってるでしょ」
「あくまで視察ですよ?お願いしますね」
「冒険者は俺一人なの?」
「綾元さんを誘ったのですが断られました。彼女は政府の人間を避けてるようで…」
そりゃそうだろうな。無理難題押し付けられたくないだろうし。
彼女は現在世界で唯一の錬金術師だ。
今のところそれを知ってるのは俺と飛川さんだけだけど、政府の人間と顔見知りになるこんな機会には来ないだろう。
つか抜けてるとこあるからボロ出したくないのだと思う。
「じゃあ寝る。マスクはするけどイビキうるさかったら許してね」すぴー
「は、はあ、もう寝てるわ」
「豪胆ですね。さすがは別府覇者」
「琥珀ちゃん」
飛川 珠希 秘書 戌中 琥珀 23歳。
今年の春から私の秘書として働いてくれている。
彼女は私と一緒で元冒険者だ。
私の元で政治を学び、ゆくゆくは政界に飛び込む予定の子。
「琥珀ちゃんはどこに潜っていたんだっけ?」
「宮城の秋保200ですよ。レベル94でやめちゃいましたけどね」
彼女は土日だけダンジョンに潜る週末冒険者だったらしい。
学業、仕事を優先し、あくまで冒険者は副業として考えている者も多い。
「大学の学費は自分で稼げたし、もういいかなと」
「命がけの仕事だもんね。でも自分で学費稼いだの?偉いわね」
「うちの場合は親が甲斐性無しでしたから。私、一歩間違えば今頃風俗嬢だったと思いますよ」
へえ、あまり良くない家庭に生まれたのね。
というか、面接の時は全然そんなこと言わなかったのに。
言ったら落とされると思ったのでしょうね。
少しずつ馴染み、心を許して来てくれてるのかな。
「冒険者になり強くなったので親も何も言わなくなったけど、小さい頃は虐待も酷かったんですよ?」
「苦労したのね」
「なので、不幸な子供を減らすためにも私は政治家になりたいんです」
信念があるのね。私が政治家になった理由とは大違い。
私は最初はやる気が無かった。今は総理大臣を目指しているけれど。
「琥珀ちゃんは留学制度をどう思っているの?」
「期限を決めれば別に良いんじゃないかと思います。最長5年以上は居られないようにするとか」
「それは、レベルが高くなりすぎないようにって事?」
一案としてはアリね。でも最初からレベル500の人が来たら5年でも結構強くなってしまいそう。
今、アメリカの冒険者が一人日本に来ているのよね。
彼女はレベル550から現在760くらいまで上がってる。
かなりの速度でレベルが上がってるから要注意人物に設定されている。
「その人は無茶してたみたいですよ?別府の400中ボスソロ連戦してたとか」
「アイテムボックスがすぐいっぱいになっちゃうでしょうに…ドロップ無視してたのかしら?」
「貴重なアイテム以外は無視してたらしいですね。どうせ税率50%なので惜しいとも思わなかったんじゃないですか?」
税率が高すぎるとそう言う事も起こりえるのか。
単純に経験値のみを求め、資源を持ち帰らない。
それだと日本政府にとってはありがたくない冒険者だ。
留学させてあげてるのにそんな事されたらたまったもんじゃないわね。
「外国人は日本が資源で潤う事など求めないでしょうから」
「どこかで反発があるのね。やっぱり留学制度なんて作るべきでは無いのかもしれないわね」
「まあその辺も視察で見えてくるんじゃないでしょうか?」
そうだと良いわね。留学を断るにしても説得力のある理由が無いと。
受け入れるなら受け入れるでそれなりのメリットが無いと。
政府の人間としては自国の利益を優先して考えさせてもらう。
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「さすがアイスランド、涼しいなぁ」
飛行機で18時間の旅、アイスランドに着いた。
「しかし想像通りの田舎だな。高い建物もあんまり無いし空が広い。資源で潤ってるように見えないね」
「あまり余計な箱モノは作らないようにしてるみたいです。移民が来る心配をしてるみたいで…」
なるほど、移民問題か。
人口40万のアイスランドに移民が押し寄せたらたまったもんじゃないだろうな。
「じゃあ見た目に反して結構潤ってるの?」
「その辺の情報は公開されてないので解りません。ですが国民の幸福度は高いようです」
じゃあ潤っているのだろう。治安も良いらしいし良い国なのかもな。
冬も滅茶苦茶寒くなる訳でも無いらしい。意外だな。
現地の大使館員かな?日本人ぽい人がアイスランドのお偉いさんを連れやってきた。
なにやら談笑してるが蚊帳の外だ。寒くなってきたから早いとこ移動しようぜ。
ひとしきり紹介が終わった後、取り合えずホテルへと連れていかれる。視察は明日からみたいだ。
「うう、お腹空いたなぁ」
「飛行機でずっと寝てるからですよ。何か食べに行きますか?」
外に出ていいの?せっかくだから町も見てみたいよな。
アイスランドの名物って何?ラムとシーフード?
羊はあまり好きでは無いのだが…でもせっかくだし食べてみるか。
「やっぱ牛のが上だよな」
「言葉通じないと思ってハッキリ言わないでくださいよ」
まずくはない、どちらかと言うと美味しい方だ。
でも牛が上位互換だと感じてしまう。
「鳥や豚も食べないんですか?」
「いや、カレーとかなら鳥が好きだし、豚バラは脂が美味しいから好きだよ」
羊は元々日本では人気が無い。
日本人の味覚にもあってないんじゃないだろうか。
「毛むくじゃらの生物ですから、湿度の高い日本では生きにくいんですよ」
「なるほど、そもそも育てにくいのか」
食文化も定着しなかったって事か。
羊料理なんてジンギスカンくらいしか知らないもんな。
「このスープは美味いな。滅茶苦茶美味い」
「魚介の出汁が凄いですね」
アイスランドはスープが美味いんだな。
スープの国と俺の脳に刻まれた。
「ふう、美味しかった。何時間ぶりの食事だろ?」
「機内食まったく食べなかったですね」
機内食を美味しいと思った事が無い。
でも政府専用機なら特別なものが出たのかな。
「私の秘書がおじさんの分まで美味しそうに食べてましたよ」
「あの子か、あの子はなんか訳ありじゃないか?食べ物への執着高そうだったぞ」
…気づかなかったけど、虐待されてたなら小さい頃は食事もまともに貰えなかったのかしら?
おじさんよく見てるわね。ずっと寝てると思ってたのに。
「手首とか調べた事あるのか?」
「ええ?無いですけどまさか…」
「いや、俺の考え過ぎかも、忘れてくれ」
「………」
夏でもいつも長袖を着てる。それに…
「ブルーラグーンって言う水着で入れる温泉があって、明日はそこに視察に行く予定なんですが」
「ああ、500ダンジョンがある場所だな」
「一応水着持って行った方が良いかもっていったら、私は入らないから大丈夫ですって」
そうか、ちょっと怪しいよな。
…まあ、恥ずかしいだけかもしれないし、そうであると決めつけるのは早計だけど。
現代ではヒーラーの存在により怪我をしてもキズが残らない事が多い。
でも自傷行為は夜中に緊急搬送されることが多く、ヒーラーも病院に常駐している訳では無いのでキズが残ってる事が多いんだよな。
そして古くなったキズはヒーラーでは消すことが出来ないので自傷跡は残り続ける。
「ちなみに、自傷癖のある子が議員の秘書でも問題ないの?」
「法律上は問題ありませんが、ストレスのかかる仕事ではあるので向いてないでしょうね」
まだ確かな話ではない。いらん心配かも知れない。
飛川さん、おかしな爆弾抱え込んでなければいいんだけど。
「ちなみに今その子は何してるの?」
「時差ボケ治すためにホテルで休むって言ってました」
そうか、秘書なのにどこにでもついてくる訳でも無いんだな。
現代の働き方だからかな。昔とは違うか。
「飛川さん、神妙な顔してるけどまだそうと決まった訳じゃないからね」
「え、ええ、でも言われてみると思い当たる節が…」
「あんまり刺激しちゃ駄目だよ。海外で問題起こされたら厄介だ」
「は、はい」
俺も普通に接するようにしよう。
そもそも今回の目的とは関係の無い話だ。
俺がどうこうする問題でも無いしな。
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「ここがブルーラグーンか」
翌日、朝から視察が始まる。
ダンジョンの横に露天の滅茶苦茶広い温浴施設、日本では見た事の無い光景だ。
「地熱発電に利用した地下の熱水を排出してるらしく…」
「ふーん、天然温泉では無いんだ?」
まあでも似たようなもんか。効能とかあるみたいだし。
しかしダンジョンに潜る冒険者と水着で温泉楽しむ者達のミスマッチ、シュールだな。
「海外の冒険者を受けいれてるんでしょ?現地人との比率はどんなもんなの?」
「80%が海外の冒険者ですね」
「へえ、8割も?イザコザ無いのかな」
「それが結構うまくやってるみたいです。税率も現地の冒険者と同じに設定してあるらしくて…」
ほう、海外冒険者も税率一緒なのか。
これは日本にとっては耳が痛いな。
「25%で統一してるみたいです」
「ふーん、ちょっと高いけど海外の冒険者にとっては恵まれた環境だな」
日本は日本人なら20%、外国人は50%だったはずだ。
留学を受け入れた場合、この辺にも不満が出そうだな。
「どこの国の人が多いとかあるの?」
「イギリスとベルギー、スイスからの冒険者が多いそうですよ」
「へえ、それなりに発展してる国なのに、出稼ぎでこんな北まで来るとは」
「…イギリスとベルギーのダンジョンの数知ってますか?」
いや知らないな。少ないの?
「イギリスは4、ベルギーは3か所しかありません」
「そんなに少ないの?!」
「スイスは21か所ありますが、税率の関係でこっちに来る人が多いとか」
スイスは税金高いもんな。ちなみに日本のダンジョンの数はどれくらいだっけ?
「498か所です」
「そりゃ不満出るよね」
更に新ダンジョン誕生中、あれをいれれば500越えそう。
200越えてるのがアメリカ、中国。
100越えてるのがイタリア、ハンガリー、トルコ、アイスランドあとインドネシア。
「中国も数は多いですが300層が最高ですからね」
「アメリカは500層だっけ?まだ恵まれてる方なのに、留学させろってうるさいんだな」
しかしイギリスとベルギーは可哀そうだな。
情で考えちゃいけないんだろうけど、この二国だけでも受け入れてあげられないだろうかと思ってしまった。
でも日本だと税率50%だ。アイスランドに来た方が幸せかもしれないな。
「税率50%でも高層ダンジョンは魅力なはずです。他では出ないスキルや魔法もありますし」
「外国人がドロップしても制限なく与えてるの?」
「その問題もあるんですよね。これまでは特例出した外国人もそこまで深いダンジョンに到達できなかったので放っておいたんですが…」
レベル760を越えた外国人がいるらしい。
そこまで上がると脅威だな。
「アメリカ人の女性インフルエンサーなんですけどね」
「ああ、ケイトリンか。あいつは滅茶苦茶怪しいぞ?なんで許可出したの?」
「接触したんですか?」
ああ、2回ほど。いや、冒険者神社を合わせれば3回か。
最後に会った時は勝手に混浴して来た。どう考えても行動がおかしい。
「彼女が日本に来た経緯は私ではちょっと解りません」
「もっと上の判断なのか。どうせ美人だからとかじゃないの?」
「うう、否定できないですね」
政治家に限らず日本人は白人の美人に弱いよな。
容姿に対する劣等感の現れに見えて情けない。
まあハゲてた頃は俺も劣等感丸出しだったけどね。
「おや、他の人はもう視察終わりなのか」
「ええ、水着着てブルーラグーンに入るそうです」
少しは良い案考えてるのかな。
まあいいや、俺もせっかくだし入ってこようかな。
入場料たっけ!物価高いのかな。
「…あの人、私と全然目を合わせてくれませんね」
「こ、琥珀ちゃん。気のせいじゃない?」
ずっとそばにいたのに声もかけられなかった。
何か嫌われるような事したのかな。
「先生も入るんですか?」
「ううん、私もやめておくわ」
本当は入りたいけど琥珀ちゃんから目を離せない。
ふう、取り越し苦労だと良いんだけどね。




