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ダンジョンだじょーん(仮)  作者: ヒゲ面の男


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83/101

83 旅の終わり

「う、うんま~い」

「ええ?涙出るくらい美味しいんだけど」

「ヒラメってこんな味なの?生卵がまた絶妙にあうね」


 八戸の某食堂で朝食中、この旅の最後の食事になるのかな。

 最後の最後でこんな食事に巡り会えるとは。


「ああ、旅が終わるんすね」

「エレナ、泣きながら食べないの」

「でも美味しいだけに悲しくなるよ。次はいつこれを食べられるの?」


 八戸に来る用事なんてあるのだろうか。

 …無いよね。この辺観光する場所も少ないみたいだし。


「やっぱテレポート覚えないと」

「それこそいつになるのやら…この話、前もしなかったっけ?」

「ウチらのこの夏は結局レベル168で終わっちゃったっすね」


 移動も多く、効率は良くなかった。

 熱海にずっと居ればレベル自体はもっと上げられただろう。

 でもそんなものより今は3人で作った思い出の方が大切だ。


「そもそも熱海にいたらこんな美味しい物があるって事も知らなかったんだよ?」

「本当だよね。それに今回の旅で行ったお店がこの先いつまでも続く保証も無いし」

「そう考えるとこのタイミングがベストだった気がしてくるっすね」


 ポジティブな結論が出て良かった。願わくば未来永劫この店が続きますように。

 なんて思うのは、一期一会の大切さをこの旅で学んだからかもしれない。

 あたし達、成長出来たよね?この旅で本当にいろんな事を学んだ気がするよ。

 かけがえのない資産を手に入れ、感傷に浸りながら八戸を後にした。



 ------------------



「アイスランド?どこそれ?」


 本日はダンジョン探索の日。

 ミオコ達に話してみたけどあんまり興味を示さなかった。


「アイスランドって最高深度いくつのダンジョンがあるんですか?」

「500だったと思う。でも別にダンジョン潜りに行く訳じゃなくてだな」

「行くだけで19時間とかスマホ君が言ってるよ?おじさん物好きだね~」


 確かになぁ。政府専用機らしいからもっと早いとは思うけど。

 ご飯美味しいのかな。観光は何があるのだろう?俺もよく知らない国だ。


「でも小っちゃい国なのに100以上のダンジョンがあるらしいぞ」

「へえ、じゃあ資源大国なんですか?あんまり話聞きませんけどね」

「それが人口40万くらいしかいないらしくてな」

「うわあ、宝の持ち腐れじゃん」


 なのでEUの冒険者を受け入れているんだろうね。

 それでもあまり話を聞かないって事は成果が上がっていないという事なのだろうか。

 遠い国だから情報入って来ないだけかも。わかんないや。


「それで、日本も留学が始まるかもしれないって事なんですか?」

「それはまだ解らない。取り合えず受け入れてる国に視察に行こうって話だ」

「ふーん、どこにあんだか知らないけど、お土産買って来てね」

「もっと興味持てよ。二人は外国人冒険者が日本に来たらどう思うんだ?」

「私は別にどっちでも良いかな」

「ウチは嫌ですね。言葉通じないだけでどれだけトラブルが増えるか」


 それもあるよな。ダンジョンはただでさえ敵の取り合いになる事もあるし。

 特に日本に来る外国人は都合が悪くなると言葉解らない振りするし。

 舐めてるよな。俺もどちらかと言うと反対かも知れない。


「ミヅキはそういや帰国子女だっけ?外国語話せるのか?」

「うん、英語だけ話せるよ。イギリスに居たからね」


 アイスランドはイギリスの近くなんだけどな。

 あの辺はアイルランドとかややこしい国多いよな。


「親の仕事か何かでイギリス育ちなのか?」

「うん、父親が金融関係の仕事してて、しばらく向こうにいたの」

「ほう、エリートじゃないか」

「頭の良さは遺伝しなかったけどね」


 自分で言うなよ。俺もそう思ったけどさ。

 奔放な冒険者になって親は心配してないのだろうか。


「大学くらい出ろって言われたけど、冒険者には必要ないじゃん?」

「まあその辺は人それぞれだとは思うが…」

「おじさんも中退したんですよね?」

「ああ、でも最近はオンライン大学とかあるだろ?今からでも大卒の肩書き欲しいなぁとは思ってしまう」


 見栄の為だけの肩書きになってしまうんだけどね。

 子供がいると、他の親御さんにどこの大学出たのか聞かれることがある。

 自分の子供の友達として相応しいか品定めしてる節があるんだよな。

 まあそういう親はロクなもんじゃないんだけど、やっぱ大学中退だと舐められちゃうんだよな。


「産まれてくる子の為に大卒の肩書き欲しいって事ですか?」

「別府覇者とカミナの子だよ?肩書きは十分でしょ」

「むしろ子供が期待され過ぎて可哀そうな気もしますね」

「世間の目だとそうなるのか」


 言われてみると確かにそうだな。

 でもそれは冒険者目線での話、一般人には大卒の肩書きの方が大きい。


「自分のフィールド外の事は認めないような人はこっちから願い下げだよ」

「ミヅキにしては正しい事を言ってるな。だが子供の内は狭いコミュニティで活動する事になるからな。ある程度相手を立ててやる必要も出てくる」

「面倒なものですね。ウチも子供くらい欲しいけどそんな話を聞いてしまうと…」

「それって日本特有の物じゃないの?イギリスではもっと自主性を求められたよ?」


 その通りだと思う。海外育ちのミヅキには理解できないだろうな。

 日本では空気を読み、時には前に出ない事を求められる事がある。

 おかしいとは思うぞ?でも平凡な人間にも自尊心があって、それを傷つけると逆恨みされるから面倒なんだ。


「あはは、足の引っ張り合いなんですね」

「お前らだって感じた事あるだろ?動画サイトやってた頃は意味の解らん言いがかりつけられてたろ」

「うん、日本人ってそういうとこあるよね」


 嫉妬心が強く陰湿な側面があるのが日本人だ。

 ただ、誤解しないで欲しいが良い面もたくさんある。

 トータルで見れば日本人は世界最高の民族だと思ってる。


「俺もハゲの頃はすべてのフサフサに対し憎しみを持ってた」

「あはは、生えて良かったですね」

「でもなんで生えたの?」


 おっと、都合の悪い方向に話が進んでしまった。

 まあいいじゃないか、そろそろダンジョン潜ろうぜ。

 いつも通りのダンジョンボスマラソンだ。もうすっかりルーティーン化している。

 それでも気を抜かずに行こうぜ。



 ---------------



「東京駅だね。ここで乗り換えだよ」


 ルシル達は八戸を新幹線で出発し東京駅まで来た。


「ぱ、パイセン、都会っすよ」

「うう、田舎者にはまぶしいね」

「あはは、青森は凄い田舎だったよね」


 落差が激しい事によるちょっとしたお上りさん状態。

 はあ、でもここからまた田舎に戻っていく事になるんだよね。


「お昼はこっちで食べて行こうよ」

「本当は仙台で牛タン食べたかったな」

「朝食から時間経って無かったじゃないっすか」

「旅行の最後だし暴飲暴食しても良いじゃないの」


 まあそれもいいかとは思ったんだけど、早すぎてお店がまだ空いてなかったんだよね。

 クオンちゃんは代わりに宇都宮で餃子食べたいって言いだしたんだけど、目当てのお店は本日定休日だったみたい。

 なので東京駅に至る。


「まあ牛タンも餃子も将来ダンジョン行くときで良いじゃないっすか」

「一期一会を忘れたの?目当てのお店が未来に存在するとは限らないんだよ」

「今は存在しないけど、未来に出てくる名店もあるかもしれないよ?」

「その頃にはテレポート覚えてる予定だから簡単に行けるの」


 クオンちゃんがここに来て我儘モードだ。

 年上だから旅行中は引っ張ってくれたんだけどね。

 目標を達成し、気が抜けちゃったのかもしれない。

 …いや、アレかな?これでしばらく冒険者をお休みになるから寂しいのかも。

 仕方ないなぁ。今日は我儘に付き合うか。


「目標達成のお祝いとして昼食は豪勢に行かない?」

「うん、付き合うよ」

「朝は魚だったしじゃあ肉っすか?」


 駅ビルに神戸牛のお店があるね。評価も高いしここにする?

 異議無しという事でさっそく向かう。



「…美味しいね。でもなんか物足りない」

「今までで一番高い食事なのにね」

「やっぱ現地にまで行くプレミア感も大きいんすね」


 本当にその通りだと思った。

 シチュエーションで味の感じ方も変わってくるのだろう。

 神戸牛は神戸に行って食べた方が満足感が得られるのだと思う。


「大間通ってきたけどマグロ食べてくるべきだったんすかね?」

「時期が合わなかったからね。水揚げされてるのかな」

「マグロは和歌山が良いっておじさんが言ってたよ」

「へえ、まだまだ知らない事だらけだね」

「大冒険した気になってたけど、所詮はまだまだって事っすね」


 一期一会も大事だけど、これからの楽しみも残しておこうよ。

 実際全国制覇したらやる事無くなっちゃうんじゃないかな。

 新ダンジョンも誕生して、まだまだ先の長い話ではあるとは思うけどさ。


「そうだね。まだまだ全国にはまだ見ぬ美味しい物があると思っていた方が幸せかもね」

「ウチらの目標がいつの間にかグルメ旅行になってるっすね」

「あたしはもうそっちが本命で良い気がしてきた」

「あはは、私もそうかも。ダンジョンってさ、潜ってしまうと他と大差ないよね」


 代り映えのしない景色、代り映えのしないモンスター。

 100層程度だとそんなに変化無いんだよね。

 これだけ攻略を繰り返すとただのノルマとして考えるようになってきた。


「旅をしながら良い景色を見て美味しいもの食べてお金稼ぎにダンジョン潜る。それで良いのかもね」

「遊牧民みたいっすね」

「悪くない人生だと思うよ?どうせなら海外のダンジョンも潜りたいくらい」

「そう言えば、今留学がどうとかって話になってるよね」

「海外の人受け入れるならこっちも海外ダンジョン潜らせてほしいっすよね」


 そうだよね、でないと不公平だ。

 何で日本ばかり負担を強いられるの?


「今までは突っぱねて来たんだけど新ダンジョン誕生で外圧が厳しいとかなんとか」

「おじ様戦犯って事っすか?ダンジョン出したのおじ様って動画で言ってたし」

「日本の為には良い事なんじゃない?新しい資源も期待できるし」

「…ひょっとして、髪が生えたのって」

「あ、そういう事なのかな?」

「何々?ウチ良く解かってない」


 だから、髪が生えたのは新ダンジョンが理由なんじゃない?

 方法とかは想像もつかないけどさ。


「ま、マジっすか?じゃあひょっとしたらパイセンみたいなエロい巨乳になる方法も…」

「だれがエロい巨乳よ。でもあってもおかしくないよね。だったら私だって肌の色白くしたい」

「クオンちゃんは小麦色の肌がダークエルフみたいで可愛いのに」

「私、ダークエルフだと思われてたんだ?」


 ルシルに悪気はない。天然なだけ。

 でもダークって悪い意味だからね。


「胸なら豊胸すればいいでしょ?お金ならあるんだから」

「それはなんか違うんすよね。異物入れるんすよね?」

「詳しくない。私には必要ないし」

「ぐぬぬ」

「エレナは弓職でしょ?胸大きいと邪魔にならない?」

「邪魔だと感じてみたい気持ちがわからんか?」


 怖い怖い、マジにならないでよ。

 あ、あたし達はまだ16歳だしまだ成長するかもよ?


「こうなったらおじ様を問い詰めなければ」

「ちょっと失礼な事はしちゃだめだよ?」

「う、うん、取りあえずはそれとなく聞いてみようよ」


 さあ、熱海に帰ろうよ。

 うっわ、3人で6万だって、恐ろしい物食べちゃったね。

 高校生なのに金銭感覚おかしくなりそう。



 -----------------



「あれ?何この感じ」

「どうしたんすかパイセン」


 東海道新幹線に乗り換え、熱海に近づいてきた。

 クオンちゃんの様子がおかしい。


「なんか、見知った風景が見えてきて嫌な気分に」

「ああ、旅行あるあるっすよ。楽しかった旅行の後に地元に帰ってくると、『自分はなんでこんな場所にいるんだ』ってなるんす」

「そっか、クオンちゃん旅行らしい旅行初めてだもんね」


 あたしもさっきからその気分に陥っている。

 飽き飽きしてる場所に対しての嫌悪感を旅行後は特に感じてしまうものなのだ。


「いやだよー受験勉強したくないよー」

「パイセン駄々こねないの。熱海も良い所っすよ」

「エレナは地元ラブだからそこまででもないんだ?」

「うん、今は家に帰って取り合えずバイクでも洗いたいかな。長旅の労いをしてあげたい」


 偉いね。確かに頑張ってくれたからあたしも洗おうかな。

 夏休みの間ともに頑張ってくれたパートナーへの感謝を込めて。


「私、電気は売ろうっと」

「ええ?電気で大学通うって言ってなかった?」

「電気は不便、アドベンチャー大好き」


 確かに後半はアドベンチャーにしか乗ってなかったよね。

 充電に何時間もかかるのでは時代に早すぎたのだろう。


「どうせ受験勉強で乗る暇も無いしさ、遊ばせておいても仕方ないし」

「勿体ないっすね。おじ様に怒られますよ?」

「うう、師匠が買ってくれないかな?」

「欲しそうではあったけど、新品何台も買える人だよ?」

「子供出来るんだから乗る暇も無いんじゃないっすかね」


 あ、熱海に着いたよ。クオンちゃん駄々こねないで降りないと。

 もう、年上なんだから拗ねないでよ。

 見知った駅前、呆然とするクオンちゃん。


「うう、なんで私は帰ってきてしまったの?」

「旅行が終わったからっす」

「エレナ、容赦ないね」

「はあ、大変だったけど本当に楽しかった。来年も行こうね?」

「もちろんっす。次は九州っすよ」

「待ち遠しいね、あたしもそれを目標に一年頑張るよ」


 大冒険がこれで本当に終わってしまった。

 寂しい、今はただただ寂しい気分だ。

 夏休みの終わりはいつも寂しい物だけど、今年は格別に寂しく感じる。

 はあ、明日から日常に戻らなきゃいけないんだね。

 後ろ髪引かれる思い。去り行く二人といつまでも手を振り続けた。

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