72 フサフサ
道後、育成五日目、不死王倒して女の子達はレベル7獲得。
これで全員102になった。依頼達成だ。
ふう、疲れたな。育成はともかくその後の銅ダンジョンに連日潜ったせいで疲れが溜まってしまった。
これからどうするかな。ミオコ達とこれからの事を相談しないと。
「お疲れ様です~」
「ああ、綾元さんもお疲れ様」
育成が終わったのでお別れになるかな。
というか、綾元さんはまだまだ道後にいるつもりだろうか。
「ちょっとご相談がありまして~」
「ええ?もう銅ダンジョンは付き合えないよ」
「違うんです~。錬金術の書を読んだんですが~」
もう読んだのか。当然だけど綾元さんの物になったのか。
ダンジョンで出た書物は一度読んでしまうと消滅してしまう。
他の人が読みまわしが出来ない使用になっている。
なので錬金術の知識があるのは綾元さんだけという事になる。
知識を聞いても他者は調合も生成も出来ない。
「ゴーレムが作れるみたいなんですよ~」
ゴーレム?あのゲームとかに出てくるやつ?
話を聞いてみると人間と同じ大きさほどののゴーレムが作れるようになったらしい。
製作者の命令を厳守、不眠不休の忠実なしもべになるそうだ。
「ミスリルで作ると~レベル500の冒険者と同程度の強さになるそうです~」
ほう、良いんじゃないか?いや、ミスリルって結構高いよな?
コスパが合うのだろうか。
「製作には26キロほど必要で~」
ミスリルは現在グラム2万くらいらしい。
26キロって事は…5億2千万?!滅茶苦茶高いじゃないか。
「120年ほど動くそうです~」
「いやそれ製作者が生きてられないでしょ。死んだら暴走するんじゃないの?」
「所有権は移せるみたいで~」
生前贈与、相続贈与も可能らしい。その辺も命令出来るのだとか。
「まあ120年働いてくれるなら一年あたり430万くらい?お得かも知れないね」
「それが~他にコアになる素材が必要でして~」
「なんなの?」
「オロチの勾玉らしいんですよ~」
ああ、持ってるわ。というか俺しか持ってないやつだ。
それで相談と言う訳か。なるほど。
「やっぱり持ってるんですね~?ゆ、譲ってもらえませんかね~」
「うーん、さすがにタダでは無理だし、市場に出回ってないから参考価格が解らんしどうしたもんか」
「え~と、これ錬金術の本に書いてあった薬なんですが~」
「ゴーレムの他にもなんか書いてあったの?」
「毛生え薬らしいです~作ってみました~」
「譲るよ。これと交換で勾玉を譲る」
なんという相互利益な取引き。
誰も損しない、世界中が幸せになる相互交換。
「効果は一生らしいです~」
俺は即座に自宅の保管庫へと飛ぶ。
勾玉をつかみ取り、道後へUターン。
「はい交換、これを飲めばいいの?」
「いえ~塗り薬です~」
毛が欲しい場所に塗るのか。ちょっと薄い部分に塗ってくんない?
変な所へ塗らないでね。
「ちょっと待ってくださいね~」
化粧品の筆を出して塗ってくれるみたい。
そっか、直に触ると自分にも毛が生えちゃうのか。
綾元さんも効果を知りたいから協力的だ。
というか、大儲け出来るぞその薬。
「残念ですが~、この薬の材料も貴重品ばかりなんですよ~」
あまり量は作れないみたい、そっか、世の中を救う薬なのに残念だな。
塗られた場所に熱を感じる。何が入ってる薬なのだろう?
「生えてきました~」
「ええ?即効性凄いな!」
確かにもぞもぞするんだよな。
どうなってるんだろう?早く見たい。
「5センチほどで止まりましたね~。ここからは普通に伸びるはずです~」
「ちょ、ちょっと綾元さん、化粧のコンパクトとか持ってない?」
「持ってますよ~」
コンパクトの鏡で自分の姿を見る。………おお、懐かしい、いつ以来だろう?この感じ。
指で髪に櫛を通してみる。ああ、懐かしい感触だ。俺、ハゲじゃ無くなったんだな。
「ハンカチをどうぞ~」
「ああごめん、俺泣いちゃってた」
「お役に立てて良かったです~」
ありがとう綾元さん、RINE交換して?
またどこか薄くなるかもしれないし。
俺の専属毛生え薬係として今後ともよろしくお願いします。
「勾玉一応あと6つあるからね」
「ええ?!そ、そんなに出たんですか~?」
うん、7つ出た。オロチは首が7つあるからその分出たんだと思う。
しかしまさかこんな形で役に立ってくれるとは。保管しておいて良かったな。
「でも綾元さん、所有権が譲れるなら悪用しそうな人には絶対譲らないでね」
「そうですよね~、作って良い物なんでしょうか~?」
レベル500の冒険者と同等のゴーレム。
悪人に渡ってしまったら脅威なのは間違いない。
正しい使い方をすればとても頼りになる。
「じ、実は、言おうかどうしようか迷ったんですが~」
「え?」
「オリハルコンでも作れるんですよ~、そっちはレベル1000の冒険者と同等の強さで~」
1000!!!
それってトップレベルの冒険者のレベルだぞ?
そんなのが悪人に渡って暴れだしたら…
「ただ~オリハルコンの場合は50キロ必要で~、グラム5万くらいなので~」
25億か、なかなかのお値段、何年もつの?160年?
一年あたり1500万くらいか。
でもレベル1000の冒険者を一年あたり1500万で雇えると考えるとかなりお得かも知れない。
初期費用が掛かりすぎるけど、作る価値はあると思う。
「アダマンタイトとかヒヒイロカネは?」
「書いてありませんでした~」
少しホッとした。オリハルコンより貴重なアダマンタイトとヒヒイロカネ。
でも今回出たのは錬金術『上巻』だ。ひょっとしたら…
「作るのは綾元さんの自由だと思うけど、責任持ってね?」
「お、脅かさないでくださいよ~」
「国にバレたら軍事力として考えるかもしれない、25億でレベル1000の冒険者を手に入れられるなら安いもんだ」
「た、確かに~」
脅かして悪いんだけどさ、それを操れる綾元さんにだって危険が迫ると思うよ?
どっかの国にバレれば、なんとかして手に入れようとするかもしれない。いや、確実にそうなるな。
まあ綾元さんもレベル950の冒険者、外国勢力に狙われても自分で守れるだろうけど。
「う~ん、作るかどうかも含め、もうちょっと悩んでみます~」
そうだな、それがいいよ。
しかしとんでもない物が作れる書だったんだな。
今後、攻略が進むと錬金術がありふれた物になるのか?
低ドロップの超レアアイテムであってほしい。
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「キャーー!!アザラシ可愛い!」
北海道五日目、旭山動物園に来ている。
「カバを下から見れるんだって!」
「シロクマやる気ない!ずーっと寝てる!」
「オオカミかっけー!」
「サルエロ!仲間がいるよ!」
『ワタクシもっと品がありますわよ~ん』
はあ、はあ、はあ、堪能したー。
子供みたいにはしゃいでしまった。もうお昼すぎてるじゃないの。
「動物園なんて小学校以来かな?楽しかったー」
「お腹空いたね」
「えーと、おじ様おすすめのお店は確か…」
「え?こんな狭いとこ入っていくの?」
ここ?ちょっと女子には入りにくい雰囲気のお店だ。
だ、大丈夫なのかな?怖いんだけど。
「これはさすがちょっと無理じゃない?」
「うん、女子高生には無理っす」
おじさん、女の子でも入れる店選んだって言ってたのにな。
でも今の子の好みなんて解んないか。教えてもらっておいて我儘言ってもしょうがない。
じゃあ自分達で他のお店を探そっか。
「おーここだここだ、あのドラマの店」
「変な場所にあるんだなー」
観光客っぽい人達が今のお店に入っていった。
…ドラマの店?何のドラマ?
「ちょっとおじ様に聞いてみるっす」
すぐに返信が来た。何故か写真付きだ。
ー孤独のおじさんのドラマに出た店だぞー
「ええ?あのドラマの?!」
「つかなんで師匠フサフサなの?カツラ?」
「情報量多い!どっちに反応しろって言うの!」
あのドラマの店なの?それなら行ってみたい。
観光客も多いみたいだし、だったらあたし達も入れるかな?
とんかつと豚肉料理の店か、よ、よーし。
「ね、ねえ、旅の恥はかき捨てって言うよね?」
「うん、入ってみようよ」
「おじ様なんでフサフサ…」
がらがらがらがら。
あ、良かった。女のお客さんもいる。こ、この席良いですか?
昭和っぽいお店だ。おすすめが書いてある。
おお、ドラマのおじさんセットがある。あたし、これにしようかな。
「お嬢ちゃん達、どっから来たの?」
「え?あ、熱海です」
「熱海?!」
「静岡のか?!」
他のお客さんに話しかけられた。
女子高生三人はやはり珍しいようだ。
「知り合いに絶対行っておけって」
「おお、そうなのか」
「有名になったもんな」
自分達で選んだ訳では無く、勧められたから来ました。みたいな感じに演出出来た。
これくらいの見栄は許してほしい。
「ああ、優しい味…」
「量が凄いっす」
「エレナ、それちょっと頂戴」
あたし達は今、あのドラマのお店で食事してるんだね。
不思議な感じ、こんな遠い場所に来て、あのテレビの中の店にいるなんて。
田舎に住んでるとなかなかこんな機会はない。
「後でサブスクでこの店の回見ようっと」
「いいね、私も見たい」
「ウチ、見た事無いんだけど」
「エレナも見てみなよ。富良野のドラマもついでに」
「うう、どんどんノルマが溜まっていく」
この後電車移動だしさ、時間はたくさんあるよ。
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「よう!ミオコとミヅキ」
「どちら様ですか?」
「ナンパ?おじさんいい歳こいて何やってんの?」
「奥さんが泣いてますよ」
「あ、おじさんに奥さんなんていないか?ごっめーん」
ミオコとミヅキにボロクソに言われる。お前達は普段そんな感じなんだな。
嫁ならいる、お前らもよく知ってる奴だ。
「ええ?!お、おじさんなんですか?」
「どのみちおじさんなんだな」
「ど、どうしたの?その髪?!」
えーと、錬金術の事は言えないんだよな。
こいつらが知ったらそれこそ悪用しかしないし。
「ダンジョン頑張ったから若返ったのかなー」
「いくらなんでもそんな事」
「カミナは知ってるの?」
いや、まだ知らない。びっくりして母体に響くといけないから言ってない。
どのタイミングで言おうかな。
「早めに言った方が良いですよ」
「そうかな?びっくりした拍子にポコっと生まれて早産になったらどうするの?」
「かといってこれから産むって時にフサフサおじさん登場じゃふざけてると思うでしょ」
「俺がフサフサだとふざけてる事になるのか?」
好き放題言いおって。
カミナなら俺がどんな姿でも受け入れてくれるはずだ。
つかハゲからフサフサになったんだから喜ばしいだろうが。
もういい、フサフサの画像をカミナに送る。
ー?!?!?!?!?!?!?!?!ー
「滅茶苦茶取り乱してるわ」
「「あーあ」」
大丈夫、カミナは強い子。元気な子を産んでくれるはずだ。
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「あ、降って来たよ」
「電車にして正解だったね」
ただいま電車で移動中、宗谷本線3時間の旅。
「また旅館にチェックインした後夜に潜ろっか」
「うん、そうしないと消化出来そうもない」
「あ、キタキツネっすよ」
「「どこどこ?」」
おー、遠目からだけど確かにキタキツネだ。
すでに遭遇してるし動物園でも見たけど、ついつい目が行っちゃうなぁ。
「こうしてみると珍しくないんだね」
「そうみたいね。地元の人は見向きもしない」
「犬猫と同じ感じっすかね」
身近な場所にいるんだね。
あたし達も次第にそうなっていくのだろうか。
「あ、あそこのヒマワリ園、本当は行く予定だったんだけどね」
「帰りも同じルートでしょ?その時寄ろうよ」
ヒマワリは晴れの日に見ないと意味がないと思う。
季節、天気、時間帯、この三つが揃った時に最高の物が見れるはずだ。
「って、おじさんが言ってたよ」
「私、時々雲の形が凄すぎて感動する事あるんだよね」
ああ解る、とんでもなく芸術的な時あるよね。
特に夏の入道雲は壮大だ。青い空に映えて生き物のように見える。
「違う角度から見たら全然違うように見えるだろうし、今この時この場所でしか見れないって思うとちょっと涙が出るんだ」
「ロマンチストっすね」
でも解るよ。そう思える気持ちを無くさないで欲しい。
涙を流せる感情を大事にしてほしい。
「でもラベンダーは見飽きたっす」
「最初の感動はどこへ行ったの?」
「キタキツネもそうなるの?」
何事も、程々が良いって事だよね。
貴重な体験も過ぎればレアでは無くなってしまう。
あたしも胸に刻んでおこう。
この後豊富ダンジョンに潜ってこの日は終わった。




