60 遠征
六月中旬
「梅雨だなぁ。どこにも出かける気がしない」
「去年まではこの時期はいつもダンジョンに籠りきりだったな」
ダンジョンは雨関係ないからな。
カミナも妊娠してから暇そうでダンジョンへの思いが募ってるみたい。
こんなに長い期間潜らないのは初めてだから、落ち着かないんだろうな。
「早く冒険者に復帰したい」
「やっぱ続けるのか?子供は俺が見るから早めに復帰しても良いぞ」
産まれるまであと4か月くらいだろうか。
その後、普通なら半年から1年くらいは子供の面倒を見るために母親は付きっ切りなんだろうけどね。
一応生まれて2か月経てば保育園にも預けられるはずだけど、さすがに早すぎるよな。
どうせ俺達は自由業、子供の面倒くらいいくらでも見れるから、なるべく自分の元で育てたい。
「GODが一人育ててるから安心」
「ああ、頼りにしてくれていいぞ」
「でも女の子は初めてでしょ?」
性別が解ったんだよね。女の子だった。
確かに男しか育てた事無いけど、赤ちゃんの頃はそんなに大差ないよ。
思春期が来たらカミナに頼る事が多くなるとは思うが。
「ねえ、冒険者同士の子供って、冒険者適性が強くなるんでしょ?」
「らしいな、高い能力を持った親同士の子供がそうなる理屈は解る」
身体能力の高い子供が生まれるんだよな。
でも健康が一番だ。能力とかは別に俺はどうでも良いけどな。
出来ればカミナにそっくりの美人になってほしい。
「子供に冒険者になってほしい訳でもないしな。親としては命懸けの仕事をやらずに済むならそれに越したことは無い」
「もしやりたいって言うならやらせるの?」
「うーん」
子供の人生だからな。止められないかもな。
カミナはどう思ってるんだ?やらせたいのか?
「親子で冒険者って言うのもちょっと憧れるかな」
「その場合は英才教育が出来るな」
レベルも簡単に上げてあげられる。200くらいまでならあっという間だ。
簡単には死なない体を作ってあげられる。
でもそれもどうなのかな?苦労せずにレベルが上って本人にとって良い事なのか。
勘違いしそうな気もするんだよな。難しいな。
「冒険者になるなら無敵に育てて欲しい」
「心配だからそれも解るんだよな。果たして何が正解なのか」
「ふふ、ちょっと先走り過ぎかもね、私達」
ああそうだな。まだ産まれてもいないのに何言ってるんだろうな。
少なくとも15年後、冒険者になれる年齢になってからの話だ。
それまでは健康にすくすく育ってくれればいい。
…その頃俺は70近くだ。
生きているのかな?まだダンジョンに潜っているだろうか?
子供の未来を期待するとともに、憂う自分がいた。
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熱海ダンジョン前広場
「おまたせー」
「おお、ルシルかわいいね!そのバイク」
あたし達はバイクの免許を無事に取り、今日はバイクのお披露目会だ。
エレナのバイクはすぐに来たらしいけど、あたしとクオンちゃんのバイクは結構時間かかっちゃった。
「イタリア製だよ?排気量200のスクーター」
「これってベ〇パ?」
「ううん、ラ〇ブレッタ」
「ライトかっこいいね。シートの形も奇麗」
白い車体に映える赤いシート。おじさんに進められて一目惚れしてしまった。
一応高速にも乗れるけど排気量200でついて行けるかな?少し不安。
「エレナのはそれアメリカン?」
「うん、小回り効かないけど足つきが良くてこれにした」
エレナは背が小さいからアメリカンにしたそうだ。
でもワイルドでかっこいいよ。
「中古だからすぐに来たんだよね。早く見せたくてしょうがなかった」
「実は私、エレナが乗ってるの見てんだけど」
「あたしも」
「ええ?!ばれないようにしてたのに!」
うっきうきのニヤケ顔で乗ってたのをあたしもクオンちゃんも目撃してる。
黙っておいてあげようって言ってたのに、結局バラすんだねクオンちゃん。
「中古の日本製か、現行では発売してないの?」
「うん、排ガス規制がなんとかでね。本当は新車が欲しかったんだけど」
「でもかっこいいよ。排気量は?」
「400っす。名前はドラッ〇スター」
ワイルドでかっこいい、ちょっと欲しいかも。
エレナ、あとで跨がせてよ。
「クオンちゃんのそれは…おじさんが駄目って言ったやつじゃないの?」
「うう、どうしても欲しくて師匠に逆らっちゃった」
B〇WのCE 04、電気のバイクだ。
スクーターに近くて乗りやすそうではあるけれど、航続距離が短いのと充電時間がネック。
5分で入れられるガソリン車と違って使い勝手が悪い。
「100キロくらいしか走れなくて充電2時間?それは旅行にどうなのかな?」
「うう、しかも電池が外れないから外で充電するしか無くてね、師匠のインフラ整ってないの意味を深く痛感しちゃった」
「あらら」
「仕方ないっすね、充電切れたら後ろに乗っけてあげますよ」
「ありがとうエレナ、で、でもね、実はもう1台…」
「「え?」」
クオンちゃんがアイテムボックスを開く。
中からもう一台バイクが出てきた。2台買ったの?
「こ、こっちは師匠おすすめの…」
「アドベンチャーバイク?」
「ス〇キのVスト〇ーム250、道が悪くても安心」
「つか2台も買っちゃって。おじ様に怒られるっすよ?」
「かなぁ?全部で300万くらい飛んで行っちゃった」
散財してる。おじさんが顔をしかめると思う。
あたし達は最近金銭感覚がマヒしてきているのかもしれない。
「でもさ、夏休みは長い旅行になるだろうし、バイク交換したりしていろいろ楽しまない?」
「確かに色々試せて良いかもだけど」
「ウチ、アドベンチャーは足つき無理だと思うっす。両足ぷらーんって」
エレナは身長150って言ってるけど本当はもっと低そう。
多分146くらいしかない。ちっちゃくて可愛いけどね。
ちなみはあたしは160、クオンちゃんは170の長身。
「いいの!電気の方は街乗りに最適だし、私大学行く事に決めたからこれで通う。アドベンチャーはおじいちゃんが乗ってみたいって言ってたから譲るかも」
「へえ、進学にしたんだ?」
「小田原に私でも入れそうな大学のキャンパスがあってね」
「小田原なら近いっすね。じゃあウチらとパーティ続けてくれるんすか?」
「もちろん、もうダンジョン無しの人生なんて考えられない」
そっか、進学に決めたんだね。
あたしはどうしようかな。東京に行くつもりだったけど気持ちが揺らいでる。
東京からだとダンジョンは遠い。
時間的に一番近い熱海でも新幹線で33分、往復1時間と考えると楽ではない。
本数も1時間に2本くらい、移動に時間がかかりすぎる。
「それよりさ、私もうすぐ18じゃん?今は車に目移りしててね」
「ま、まだ買うつもりっすか?」
「大型バイクの免許も取りたくなってきてね」
「ど、どこまで行く気なの?」
「お金貯まる一方だと感覚おかしくなるよ。自覚はあるけど冒険者はいつ死ぬか解らないし、だとしたら使わずに死ぬのも勿体ない気もするし」
「「うーん」」
確かに一理あるよね。あたしもスマホの機種変1年でしちゃったし。
化粧品とかの値段も見なくなった。
最近はハイブランド製品をついついネットで検索してしまう。
「ウチも実は80万のPC買っちゃったっす」
「私の事言えないじゃん」
「なんか、金あると取り合えず一番高いのをって…」
「「わかるー」」
これはまずいかも知れない。妙な心理状態に陥ってる気がする。
あたし達はまだ未成年、どこかで歯止めを効かせなくては。
「お金持ってるとさ、友達とかがタカって来ない?」
「あるね、断ってるけど」
「ウチ何人かと縁切っちゃった」
「やっぱ良くないと思うんだよね。無駄遣いしてると周りの目も変わってくるし」
「確かにね。自分で稼いでるのにズルいと思われちゃうんだよね」
「だったらお前もやれよって言うんだけど、怖いからやりたくないって、なんなんだよって思う」
「あたし達もさ、友達にとって目の毒になるような事してるのかなって気がするんだよね」
「うーん、確かに」
「ダチが援交始めたんだよね。あれってウチのせいだったのかな…」
人が羨ましくて安易にお金を得る方法に走ったのかもしれない。
エレナのせいとまでは言わないけど、余計な刺激を与えてしまった可能性はある。
「あたしは少しお金使うの自粛するよ。友達はお小遣い5000円とかだし」
「そうだね、私も受験勉強少しはしないといけないし、今誘惑を増やすのは良くないか」
「ウチもそうしようかな…旅行も控えてる訳だし、無駄遣いは自粛する」
みんな解ってくれて良かった。
なにより自分が気づけて良かった。
「じゃあそろそろ本来の目的に行く?」
「バイクで初のダンジョン遠征だね」
「目指せ!畑毛ダンジョン!」
今日の本当の目的はツーリングダンジョン旅。
あたし達は100階層のダンジョンボスが攻略できるレベルになったのだ。
現在のレベルは140、近くの畑毛ダンジョン100階層攻略が今日の目的。
バイクの移動になれたい思惑もある。いきなり北海道でぶっつけ本番ではやっぱり不安だからね。
これから夏休みになるまで土日はこれを繰り返す予定。
「インカム付けた?これで走行中も話せるね」
「パイセンどっちで行くんすか?」
「電気で、帰りはアドベンチャーにしようかな」
「いいっすね、ルシル、帰りはバイク取り替えない?」
「まだ慣れてないから人のバイクに乗る余裕ないよー。それにマニュアルでしょそれ?」
「うん、たまにエンストしちゃう。うわ!パイセンはやっ!」
「で、電気の加速凄いね。おいて行かれちゃう」
「アメリカンも車体重いからルシルにもおいて行かれそう」
排気量=速いという訳でも無いんだよね。バイクって。
クオンちゃーん、初日だし安全運転で行こうよ。
「ごめん、慣れてないから想像以上にスピード出ちゃった」
「ウィリーでもしたら危ないっすよ?」
「スクーターでは良くあるらしいね。あたしも気をつけないと」
梅雨時期だが今日は天気が良い。バイクデビューには最適の日だ。
景色を楽しみながらゆっくり行こうよ。
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「服装間違えたかな?ちょっと熱くなってきたかもっす」
「そう?私は丁度いいけど…」
「エレナのは足に熱がモロに来るからじゃない?」
「そう言う事か。バイクって服装難しいんだね」
あたしは丁度いい。エンジンが後ろにあるからだろう。
天気によっても服装変わってくるだろうし、時間帯でも変わるんだろうね。
そう考えると車が最強なのかな。
「でも走り出すと気持ちいい」
「風を切って走るって最高っすよね。ひゃっほー」
「エレナは元ヤンの血が騒いでるだけでは…」
まあ言いたいことは解る。なんでだろう?この翼が生えたような感じ。
自分の行動範囲が広がるのを感じる。自分の力でどこへでも行けるような気持ちになる。
移動手段を自分の資産として持つというのはこういう事なのか。
「ひゃっほー」
「お、ルシルものってるね」
「いたっ!なんか虫が顔に当たった!」
「ルシルのヘルメット、バイザーが無いもんね」
バイザーか、あれ可愛くないんだよね。
でも買おうかな。取り外しできるやつあるし。
こうして乗ってみて解る事がたくさんあるなぁ。
「ヒールいる?」
「そこまでダメージ受けてないよ。でも虫対策は必須かな」
「虫は嫌だよね。伊豆半島は虫が多いよね」
「ウチの家、ムカデがやたら出るんすよ」
「私の家もだよ、古い家だからなおさら…」
そんな事を話しているうちに着いた。
ここまで30分、あっという間だったな。
「お、おお、体が変な感じ」
「ほんとだ、緊張してたのかな?」
「体が強張ってるね。これは多分慣れの問題だよ」
バイクから降りると体がおかしい。
伸びをすると強張りが取れてくる。
30分同じ体勢だったからかな?変な感じ。
「面白いね、バイクって」
「うん、長距離だと休みもいれないとね」
「膀胱に刺激来ないっすか?ちょっとトイレ」
な、なるほど、そういうのもあるのか。
あたしはスクーターだから大丈夫、電気のクオンちゃんも大丈夫だろう。
エレナのバイクは振動がダイレクトに体に来るのだろう。
「ふいー、スッキリしたー」
「エレナ、師匠みたいだね」
「二人もダンジョン前に行っといた方が良いっすよ」
確かに、万全の状態で挑まなければ。
今日は初のダンジョンボス討伐予定日だ。
サルエロの加護を使えばいつでも逃げれるけど失敗はしたくない。
「いざとなったらスクロールもあるっすよ。100階層ならダンジョンボスも一撃みたいっす」
「でもそれは奥の手にしたいよね」
「実力で倒したいよね。推奨レベルも越えてるし」
畑毛ダンジョンを3人で攻略する場合の推奨レベルは135らしい。
レベルに余裕あるし、いけると思うんだけどな。
もちろん命が一番大事、いざとなったら惜しみなくスクロールを使う。
計画は万端、トイレに行ったらダンジョンに潜ろう。




