57 警戒中
飛川さんから会いたいという連絡が来た。おそらく先日の事件の話だろう。
カミナと一緒に待ち合わせの場所へ行こう。
「ご足労頂きありがとうございます」
都内のイタリア料理店の個室だ。
さすが議員、良い店使ってるなぁ。
「先日の容疑者なんですが、どうも冒険者権利向上委員会の者だったらしく」
「なにそれ?そんな組織があるの?」
「元々冒険者が犯罪を起こした場合、一般人より罪が重くなるじゃないですか?それの平等化を目指す組織で…」
ああなるほど、不公平と戦う人たちか。
それで男子の冒険者就労年齢引き上げにも反対してるのか。納得した。
「って事は同じ思想の者がまだ何人もいるって事?」
「正確な人数は不明です。ですが組織の中にも穏健派と過激派が存在するらしく…」
この前暴れたのは過激派の人だったらしい。
組織が一枚岩じゃないんだな。困ったもんだ。
「ちなみにこの前の容疑者は何か喋ったの?」
「いえ、高レベルの冒険者に頼み、捕まえた容疑者に幻惑の魔法を試みましたが、状態異常阻害のスキルを持ってました。なので重要な事は何も聞き出せていません」
「ふむ、組織の情報を聞き出すのは無理なのか」
「解っているのは代表者の名前だけ、その人は穏健派なので今回の騒動には頭を悩ませている状態でして」
「なるほど、一部が暴走し始めているのか」
でも代表が解っているのなら、そいつが組織の人数くらい把握してるでしょ?
穏健派なら接触できないの?
「代表は冒険者でもない一般人なんですよ。おそらく傀儡です」
「ああ、雇われ店長か」
主張したいから組織作ったんだろうけど、立場もあるから自分達の身元は明らかにしたくない。
実態をはっきりさせない為に一般人雇ってるのか。
では会長が組織の全貌を把握している可能性は低いだろうな。
「代表が一人だけ連絡とってる人がいるんですよ」
「ほう、どこのだれ?」
「愛知の片倉という人物です。ですがこの人も一般人、更に片倉が連絡を取っている人物がいて…」
海外含め、いくつも経由させて連絡とってるらしい。
それもう犯罪組織のやり口じゃないか。凄いを通り越して呆れてしまう。
なので関係者を特定するのは不可能みたい。
「政府としても、新政策の施行に支障が出ているような状態でして」
そうだろうな。反対意見も多そうな政策だ。
敵対者はこの機会を逃さないだろう。
「元々は未成年の男の子は背伸びしたがるので事故も多い事を懸念して決まった政策なんですが」
「うーん、確かに俺も若い頃は女の子の前で張り切ってたかも」
「GOD?」
カミナに睨まれる。まあまあ冷静になれ。
昔の事は仕方ないでしょ。カミナはその頃生まれてもいなかったんだから。
「まあそれでも不公平だという意見が出るのは仕方ないよ」
「冒険者犯罪の9割が男性です。精神が成長しきらないうちに力を持てば、振りかざしてみたくなるものだと…」
「女ならそうならないと?」
「無くなりはしないでしょうが、少なくはなるでしょうね。これは精神の成長の男女差の研究資料なんですが…」
どれどれ、女子は10歳くらいから始まり…へえ、男子は成熟に20歳までかかるの?
精神の成長にはそんなに差があるのかよ。
「女子は初潮を向かえたあたりから考え方が変わるんですよ。母になる覚悟をすると言うか」
「そういう事か、確かに男は十代で親になる覚悟は無いもんな」
なるほどね。しかし女子の方が陰湿なイジメをする傾向にあると思うけどな。
あれはどうなんだろう?力を持たせたらマズい気もするけどなぁ。
「生理などでストレスが溜まりやすい傾向にあるのは否めません。ですがそれはモンスターを倒すことで発散出来るという研究資料もあります」
同級生などに向かう攻撃をモンスターで代用か。
なんかモンスターが可哀そうになってきた。
「脱線してしまいましたが、今回の過激派の行動で更なる暴走が懸念されている状態でして」
ふむ、過激派達が引っ込みつかなくなってる可能性はあるよな。
口火が切られてしまったからには仕方ない、自分達も後に続けってところだろうか。
「今後も緊急事態の際には更なるご協力をお願いしたいのと…」
「他にもあるの?」
「はい、省内で出た話なんですが、過激派達は育成の三人を狙う可能性があるのではないかと」
ああ、政府に反抗したいから政府が育てた子達に危害を加えたいって事?
それはさすがに飛躍しすぎのような気もするけど。
まあ絶対無いとは言い切れんのか。
「三人は順調に育ってます。政府の成功を認めたくない過激派が狙う恐れは十分にあるかと」
「しかしあの子たちは人気が出始めてるでしょ?そんな子に危害を加えたら世論まで敵に回すような」
「そこまで冷静に把握出来ていれば良いんですが」
ふーむ、追い詰められてそうだしな。正常な判断は出来ないかもしれない。
「でもそうなると護衛でもつけないと」
「今回お呼びしたのはその件で…」
「え?俺に護衛しろって事?」
女子高校生をおっさんが護衛?もっと適任者がいそうだけどな。
常識的に考えて女性の冒険者の方が良いでしょ?
「本来は絶対防御持ちのカミナに頼めれば時間も稼げるし最適なのですが」
「カミナは駄目だよ?妊婦なんだから」
「ですよね。なので代わりに引き受けて頂けないかと」
そう言われてもな。警護するって言っても24時間って訳にもいかないし。
そもそも襲われると決まった訳でもない。いつまでの依頼になるのやら。
俺も身重のカミナを放って何日も留守にするわけにもいかないし…
「普段の監視は我々でやります。監視がなにか異変を感じた時にテレポートで飛んできてもらえればと」
「緊急出動と一緒か。間に合うのかな」
「3名の自宅、学校、利用駅等を覚えてもらう必要はありますが」
なるほど、それならまだ負担は少ないかな。
だが俺も24時間いつでも飛べるわけではない。
「他の冒険者にも声をかけています」
「多くの冒険者で三人をカバーしろって事ね。カミナ、ミオコとミヅキはやると思うか?」
「報酬次第じゃない?安ければダンジョン優先すると思う」
そうだよな、経験値も稼げなくていつ終わるか解らん任務の為に待機するならそれなりの対価が必要だ。
ダンジョン潜った方が稼げるならやる人は少ないだろう。
「報酬はそこまで多くはありません。警護に大金使ってしまうと本末転倒というか」
だな、資源を持ち帰るために冒険者はいるのだ。税金で保護する為ではない。
それならむしろ、冒険者をやめてもらった方が良いという話になる。
なんでその子達ばかり優遇されるのかって事にもなりかねない。
冒険者は自己責任、本来は自分で身を守らなければならない。
「話は分かりました。緊急出動と一緒と考えれば断る理由も無いかな」
「ありがとうございます」
「3人はこのこと知ってるの?」
「いいえ、伝えていません。不安にさせても可愛そうなので普段と同じ生活を送ってもらいます」
ふむ…理想は三人が気づかずに終わらせることだよな。
怖い目にあってしまえばそれだけで冒険者をやめかねない年齢だ。
「じゃあこれまで通りダンジョンにも潜らせるの?」
「はい、ダンジョンの中はむしろ安全というか、襲われる事は無いと思ってます」
「そうなの?どうして?」
「過激派の目的は自分達の主張や存在を世に知らしめる事です。モンスターにやられたかも解らないダンジョンで襲っても仕方ないからです」
なるほど、はっきり自分達の犯行であると解らないと意味ないのか。
では人目が多い場所の方が襲われる可能性が高いという事か。
「ダンジョンでは他の冒険者の助けが入る可能性もありますし」
「じゃあ学校が一番襲われる可能性が高いのかな」
「もしくは駅とか」
大きく報道されるような場所を選択するのか。
自己主張出来ないと意味ないもんな。そうなるのか。
うーん、危険なのであれば三人をしばらく秘密裏に隠して外出させない方が良いのではないかとも思うけどな。
ただ本当に三人を狙ってくるのか?そこまでするのも杞憂な気もする。
やはり監視にとどめておくのが良いのかな。
「話は以上です。こちらは三人の住所と学校の所在地と行動記録です」
メモを渡された。後で現地に行ってテレポートポイントを作っておかなくては。
飛川さんと別れてじゃあ帰ろう。
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「三人の関係各所を回ってきたよ」
「GOD、おかえりなさい」
カミナの家に戻り、一息つく。
ふう、長距離の移動が続いて少し疲れた。
「熊本の子は狙われる可能性低いと思う、バス通学だし高校も小規模だ」
「じゃあ兵庫か群馬になるのかな」
正確には神戸か高崎の子だな。
神戸の子は学校も利用駅も大規模、高崎の子は学校は大規模だけど自転車通学だ。
高崎の子はダンジョンへの行きかえりで駅を利用する。
「神戸の子は中学の時もあんな目にあってるのに…」
「ああ、そうだったな」
冒険者史上最大の大量殺人事件。
800人犠牲になった事件の生き残りだっけ。
カミナに憧れてる子でもあったな。
「学校や駅で狙うとしたら、一般人も巻き込むかもな」
「そんな事になったらあの子責任感じちゃうよ」
「でも俺は狙われるとしたら高崎の子だと思う」
「え?どうして?」
「あの子人気あるんでしょ?より知名度の高い方を狙うんじゃないかな」
最近人気急上昇中の立石 奏ちゃん。
水泳を諦めた剣士の子だったな。
現在朝ドラの主人公のような爽やかさで人気を博している。
「まあ何か起こると決まった訳じゃない。警戒が杞憂で終われば良いんだけどな」
「そうあってほしい」
育成で関わった子達という事もあって、カミナも思うところがあるようだ。
母体に良くないから心配しなくて良いんだぞ。
俺に任せて安心して過ごしてくれ。
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翌日、依頼受けちゃったもんだから気になって仕方ない。
何かあったら監視から連絡が来るはずなのに、気になってパトロールに来てしまう。
「熊本の子は朝早いんだな。学校遠いんだっけ」
バス停で待つ坂本美琴を遠くから見つめる。
バスの本数も少ないんだろうな、大変だ。
「怪しい奴、何者だ?」
「ええ?!忍者?!そっちの方が怪しいだろ!」
なんか変なのに絡まれた。
多少のひと悶着の後、誤解だと解る。
「なるほど、道後で指導された方であったか」
「ミコトちゃんの師匠でしたか、じゃあそちらも警戒を?」
この人も国に頼まれたらしい。ただしミコトのみ集中的に守るって。
ここはこの人に任せて俺は神戸と高崎に集中した方が良いかもしれないな。
「では高崎に行ってきます。なにかあったらすぐ連絡ください」
「うむ、かたじけのうござる」
高崎の立石 奏が自転車で家から出てくる。
学校まで30分のはずだ。安全運転で進んでいく。
歩行者の信号ではちゃんと自転車から降りて横断歩道を渡っている。えらいな。
閑静な住宅街を進んでいく、学校まで賑やかな場所は通らないんだな。
こうしてみると通学中に襲われる心配は無いかな。
神戸の女の子、江藤 彩花が駅のホームで電車を待っている。
女子高に通う彼女は神戸三ノ宮駅から門戸厄神駅まで電車で通っている。
「バク子、怪しい奴はいるか?」
『冒険者が数名、ですが混雑する時間帯なので怪しい者かどうかは』
そうだな、冒険者だって普通に駅は利用する。
これからダンジョンに向かう人もいるだろうしな。
少し離れて電車に乗るか。バク子、アヤカに近づく冒険者がいたら教えてくれ。
結局、門戸厄神駅までアヤカに近づく者はいなかった。
学校の正門をくぐるのを見届け、東京に戻った。
「どうだった?」
「朝心配なのはアヤカちゃんだな。他の二人は大丈夫だと思う」
「そっか…」
カミナとしてはアヤカちゃんが一番心配なのかな。
憧れてるとまで言われたら懇意にもなるか。
また後で様子を見に行くよ。
夕方、高崎のカナデちゃんは学校終了後、家に帰らず自転車で駅に向かうんだったよな。
新幹線で湯沢に行ってたはずだ。
新幹線に乗り込むところまで見送って次へ。
神戸のアヤカちゃんは学校終了後、パーティメンバーが学校まで迎えに来るみたいだ。
車を運転できる仲間がいるんだな、そのまま有馬へ。
山道を通っていくみたいだ。ここでは襲われないだろう。
熊本は忍者に任せ、東京へ戻る。
「取りあえず全員ダンジョン探索中か。夜はどうするかな」
「狙うなら日中の人が多い時間帯じゃないかな」
そうだよな、この後ダンジョン探索後は行っても無駄かもしれない。
熊本の子は家の目の前がダンジョンなんだよな。山奥のダンジョンだから人気は少ない。
神戸の子は21時くらいまで潜って家まで送ってもらうはずだ。車中で賑やかな場所も通るがどうせ狙うなら朝の方が効果的。
高崎の子21時半くらいまで潜り高崎に戻ってくるのは22時、その頃はさすがに高崎駅も人通りが減ってる。
高崎の子が狙われるとしたら学校かなぁ。
「うーん、取りあえず今日はここまでにしておくか」
「GODお疲れ様」
移動だけで本当に疲れた。もう休もう。




