55 中ボス突破
春休み
最近あったかくなってきたなぁ。
カミナも安定期に入り、穏やかな日々を過ごしている。
「安定期に入ったんだから、もっとダンジョンに行ってきても良いんだよ?」
「ああ、でも邪魔じゃなければ出来るだけカミナのそばにいたい」
「邪魔なわけないでしょ」
妊娠中は神経質になるものだ。
その辺もカミナは比較的安定している。
多少の我儘はあるものの、可愛い範疇で収まっている。
前妻の時はこいつ何様なんだ?って思う事が何回かあったからな。
「カミナ、産後は冒険者に復帰するのか?」
「うーん、復帰したいとは思うんだけど…」
まだ解んないみたいだ。
俺としてはせめて子供が幼稚園に入るくらいまでは休んでほしいと思ってる。
いや、俺が育児やってカミナが冒険者でも良いのかな?
今は女が家庭を守る時代でもないからな。
「冒険者が子供を産むとね、レベルが結構下がるらしいの」
「らしいな、妊娠中は全然動かないからだろうな」
あとは子供に栄養が行くからだろうか。
産後、レベルが30くらい落ちてたと聞いた事もある。
カミナのレベルで30も落ちたらでかいな、低レベルとは必要経験値が全然違う。
「まあでも精霊を頼れば取り戻せるだろう」
『任せとけよ』
頼んだぞ文太、そしてカイ君も。
頼りになる精霊がいるんだ。カミナはそんなこと心配せず元気な子を産むことだけを考えてくれ。
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熱海ダンジョン99階層
「う、ウチらがついに、100層中ボスに挑戦っすか」
「やばいよ緊張する」
「い、いざとなったらサルエロの加護で逃げれるからね。駄目だと思ったらいつでも合図出して」
熱海の女の子達、ルシル、クオン、エレナ。
レベルが平均125になり、いよいよ100層に挑戦だ。
これを超えることが出来たら長らく続いた足踏み状態から抜け出せる。
「予習してるよね?100層中ボスはガーゴイル」
「攻略サイトを何回も見直してきたよ」
「石で出来た飛ぶバケモンっすよね?ウチの弓通じるかな?」
予習はばっちり、イメトレもしてきた。
い、い、行くよ?うわーやっぱりちょっと待って!
「みんな、深呼吸を」
「うん、すー」
「ふいー、あ、おじ様みたいな声出ちゃった」
「あはは、エレナ笑わせないで」
「き、緊張をほぐす為にっすね」
「ありがとう、エレナ」
「う、うん(お礼言われると複雑)」
「じゃあ、あらためて行こう!」
熱海ダンジョン100層 ガーゴイルの間
台座がある。その上には翼の生えた猿のような石像が。
あたし達が階段を降り立つと、ゆっくり羽ばたき浮かび上がる。
ピャーーーーーーーーー
奇妙な鳴き声でまずは威嚇。
びくっとはしたけど躊躇してられない。
まずは炎の魔法をガーゴイルに向け発射する。
当たらない、ホバリングしながら避けられた。
エレナが弓を放つ。
何発か当たるがそれほど効いているようには見えない。
スキルを使って強力な矢を放つがそれは避けられた。
クオンはスリングショットで攻撃している。
遠距離攻撃のないクオンは通販でスリングショットを買い、河原で手ごろな石を集めていた。
地上の世界の武器はダンジョンではあまり効果が無いのだが、挑発は出来る。
この日の為に準備は怠っていない。
ガーゴイルがエレナに向かって急降下。
エレナは横に動くが避けきれない。
横っ腹を攻撃され激しく転がる。
「エレナ!大丈夫?!」
「いてて…だ、大丈夫!」
自分で回復し、事なきを得る。
エレナもヒールのレベルが4まで上がっていた。
専門職ではないものの、このパーティの回復役はエレナしかいない。
おのずと頼られ、使用頻度が高くなっていった。
「くそ!また上昇した!」
エレナへ向かって急降下したガーゴイルを狙って、クオンが剣を取り出し一直線。
だが間に合わない、ガーゴイルはすでに上昇を終え、奇妙な鳴き声で威嚇中。
クオンはまたスリングショットに持ち替える。
ガーゴイルはクオンの方を向いている。
ルシルは気づかれないよう炎の魔法を放つ。
当たった!ガーゴイルがたまらず落下してくる。
チャンスだ!みんなで総攻撃!
「くらえ!」
「いった!往生際悪い!」
「あばれんなよ!」
おのおのガーゴイルの事情など知らず好き勝手なことを言いながら攻撃。
ガーゴイルの目が光り、皆の目が眩む。
「う!しまったこれがあるんだっけ」
「やばい!あたしモロに見ちゃった!」
「う、ウチも、ぎゃあ!」
「エレナ大丈夫!?」
眩しくて状況が見えない。エレナは無事だろうか?
さ、サルエロの加護かりる?
「大丈夫!あいつウチを踏み台にして飛びやがった」
な、なんだ、そういう事か。だんだんと目が慣れてくる。
見えるようになった瞬間クオンが急降下をモロに食らった。
「ぐふぅ!!!」
「大丈夫?!」
「いっったぁぁぁああぁあ!!!」
今のはまずい、エレナが回復に走る。
それを狙うガーゴイル、させるもんか。
杖をしまい、剣を二本出しクロスさせる。
ガーゴイルの急降下をはじき返す。
上空に戻り、忌々し気に奇声を上げるガーゴイル。
よし、今のうちに体勢を立て直そう。
……………
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「か、勝てた」
「し、しぶとかったね」
「初見は…どうしても…苦労するっすね」
三人とも疲労困憊。
息が荒く立ち上がる気力もない。
「ドロップ品拾わなきゃ」
「もうちょっと休まない?」
「どうせ休むならさ、ほら、次の階層」
「あ!そうだセーフティエリア」
ずっと行ってみたかったセーフティエリア。
つ、ついに足を踏み入れることが出来るのか。
「取り逃しは無い?」
「完璧っす」
「じゃ、じゃあ、行こう!」
熱海ダンジョン101階層 セーフティエリア
「わあ、草原みたいになってるんだね」
光がある、風がある、ダンジョンの中なのに不思議。
木も生えてる、あっちの少し高くなってる岩場が温泉みたい。湯気が出てる。
「温泉!温泉入りたいっす!」
「の、覗かれないかな?」
草原に2か所ほどテントが張ってある。
現在2パーティがこの階層にいるという事だ。
「大半がマナーを守る良い人達だけどね。時々はやっぱりそういう事もあるらしくて」
「じゃあ、1人が入ってる時は2人が見張りとかどうっすか?」
「交代で入るの?」
「てか私と一緒に入るとそれすなわちサルエロに見られるって事だからね」
「「あ」」
わ、忘れてた。そうだったっけ。
『ワタクシが見張りをしますわよっほーん』
「ええ?信じていいのかな」
『主の清らかな体はワタクシだけの物、不届き者にはこの魅惑の腰振りダンスを!』カクカクカクカク
「「「…」」」
『お疲れでしょう?ワタクシ、プリンスとして無粋な事はしませんですわよっほーん』
不安だ。でも、入ってみたい。
思い切って入っちゃおうか?サルエロ、信じてるからね。
「この辺の地面に剣を刺して使用中の紙つけとこ」
「パイセン、剣傷つくっすよ」
「使い捨ての安いヤツ使うから大丈夫だよ」
近づくほどに湯気が濃くなる。ちょうど木々で目隠しになってるね。
誰も入ってないよね?こっちが覗きをしたでは本末転倒だ。
「うわぁ、熱いんじゃないかなこれ」
「攻略サイトで40度適温って書いてあったけど」
「当然だけどシャワーないっすね。かけ湯って事っすか?」
そうなるね。でも風呂桶なんか当然あるわけもなく。
なんか代用出来るもの持ってる?
「これ、使ってないけど兜」
「ああ、ちょうどいいっすね」
「クオンちゃん、あたしにも貸して?」
そうと決まれば裸になろう
やっぱりそわそわするな。誰も見てないよね?
「ぱ、ぱいせん」
「うわ、おっきいね。着やせするタイプなの?」
「まあね!」
いいな、Fはありそう。
エレナはAかBだね、大丈夫、これからだよ。
慰めるなって?ごめんごめん。
「下はあんまり見ないで、まだ脱毛途中だから」
「あたしも」
「あはは、ウチもっす」
最近はお金に余裕があるので皆、ムダ毛脱毛に夢中だ。
今は学生のうちからやる子も多い、そういうお店も増えたからね。
さて、どうしたもんか。
洗い場なんて当然ない。今日はシャンプーも石鹸もない。
まあ頭はいいか。岩の上で体を軽くお湯で洗ってさあ入ってみよう。
「あ!すごく好きな温度!」
「本当だ!気持ちいい!」
「不思議っすね、これお湯どこから来てんの?」
お湯が流れる音はしないね。
排水溝も無い、このお湯、循環してないのだろうか。
「それでもダンジョンの復元力でお湯は綺麗になるし、温度も変わらないらしいよ?」
「へえ、便利っすね。家にもほしい」
「かけ湯した分のお湯は補充されるの?」
「ダンジョンの復元力はお湯の減りを許さないんだって」
確かに不思議だ、どこから湧いてくるのやら。
掃除いらずで燃料いらず、いつでも適温、水道代もかからないって事?
確かに欲しい、でも出来ればシャワーはつけたい。
「さて、100層も攻略出来たし、これで停滞状況ともおさらばだ」
「もうちょっと余裕もってガーゴイル倒せるようになりたいっすね」
「この後は今のレベルで115くらいまで行けるんだよね?じゃあ少しでもレベル上げないと」
春休み中はどこまで行けるかな?
一つの目標を達成し、すぐに次の事を考えてる。
「ねえ、レベル132になれば、100層の低層ダンジョンで攻略できる場所が出てくるんだよね」
「ええ?もうすぐじゃないっすか」
「低層とはいえ完全攻略が出来るって事?」
「次の目標はそれにしない?」
「やべえ、燃えてきたっす」
あたし達がダンジョン制覇?
これは凄い、あたし達ってもうそこまで来てるんだね。
冒険者になって11か月、ルシルは自分の成長に驚いていた。
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小早川智花は東京に来ていた。
去年度までは熱海の高校生だったトモカ。
4月から晴れて大学生、新生活に期待と不安でいっぱいなこの頃。
引っ越しで大忙し、今は日常品を買いに来ている。
東京は凄いな…日常品一つでもこんなに種類が…
あ、これ可愛い、でも高いなぁ。日常品にこの値段は…うーん。
やばいなここ、一日いても飽きそうにない。お金もあっという間に飛んでいきそう。
まずは勉強になれて、それから余裕が出来てきたらバイトも始めないと。
「あれ、カミナじゃない?妊娠したって聞いたけど」
「ベビー用品見てたね」
え?カミナ?!どこどこ?私大ファンだよ?
全然SNS更新してくれないのに毎日チェックしてるよ。
あ!見つけた!う、うわぁまるで外国の一流モデルさんだ!
等身が全然違う。明らかに同じ人間ではない。
私チンチクリンだから羨ましいな。見てるだけで幸せ…
隣の人がパートナーかな?結構なおじさんだと聞いたけど。
いやお父さんかな?たしかカミナのお父さんは野球選手、でもあんな感じだったかなぁ?
あれ?ちょっと待って、見覚えある。あの人は…
「そ、その節は、お世話になりました!」ズサー
「ええ?なんだお前?」
「ちょ、ちょっとどうしたの?」
あ、土下座だと顔見えないよね。
顔を上げてもよろしいでしょうか?
「カミナのファンか?」
「ねえやめて、人が集まってきちゃうよ」
私の事覚えてないみたい。
一応RINE交換もしたのに。全然メッセージくれないけど。
「私、熱海ダンジョンで貴方様に助けていただいた…」
「?………………………ああ!覚えてるぞ!」
すっごい間があったなぁ。
どうせ私みたいなチンチクリンに興味はないか。はぁ。
いや、きっと東京に来て洗練されてしまったから解らないのね(田舎者が言うやつ)。
「ITに強いって言ってた子だったよな、たしか」
「はい、4月から大学で東京に来たんです」
「そうか、やっぱり冒険者はやめたのか?」
「はい、きっぱりやめました。勉強して目黒の国立に入ることが出来ました」
「えらいなー。親御さんも安心だ」
「えと、その、貴方様がカミナさんの伴侶という事ですか?」
「おお、そうだぞ」
ええーーーーー知らなかったーーー。
大ファンの旦那様が命の恩人!こんな事あるの?
「ねえ、貴方」
「(やば、嫉妬の目)カミナさんも大ファンです!動画も欠かさず見てまして、好きな動画は初期の頃のヤマンバメイクやってみたで」
「きゃあああ!私の黒歴史!消したのに!」
そんな事やってたのか。見たかったな。
安定期で良かったよ。
「ヌンチャク体操、抹茶だと思ってたらワサビだった動画、私の好きなのどんどん消えちゃって」
「…(ずーん)」
「…(迷走してたんだな)」
「あ!すみません!デートの邪魔しちゃって、消えますね!」
あ、ああ、勉強頑張れよ。
嵐のようだったな。あんな子だったっけ?
「い、今の子可愛かったね?」
「産後によさそうだな。ヌンチャク体操」
「うぅぅ」
カミナに責められるところだったけど胡麻化すことが出来そうだ。
ありがとう、ヌンチャク体操。




