54 混浴
「おじさん1週間ぶりです」
「カミナは元気?」
「ああ、元気だぞ。なんでここで待ち合わせなんだ?」
今日はダンジョンに潜る日。
俺は何とかレベルが下げずに過ごせてる。
3人で潜るときは先週までは500ダンジョンボス巡りをしていた。
呼び出されたのは下呂ダンジョン700。
まさか、ここに潜るつもりか?
「3人で鵺は駄目ですか?」
「いや、実は行けるんだけどさ」
「だよね?鵺はヒーラーいらないし」
物理攻撃が無い鵺、前回倒したとき大活躍だったミオコとミヅキ。
逆にカミナはあまり貢献出来てなかったな。
「ウチらも二人で回ってると全然レベル上がらなくて」
「フラストレーション貯まってるから700ボス倒したい」
「また肩車で行くのか?出来れば幻術を克服してほしいんだがな」
「少しずつ克服していくよ」
本当かな?肩車で幻術克服できるとは思えんが。
楽な方法見つけたと思ってないか?
「まあまあ、700潜るのはカミナが心配すると思うんで今日はこっそりお誘いしたんですよ?」
「いや、位置情報共有してるからバレてるぞ」
「ええ?せっかく現地集合にしたのに」
俺はカミナに隠し事などしない。
大丈夫、カミナには下呂行くって言ってきたから。
「許してもらえました?」
「カミナも前回自分が役立たずだったって思ったみたいでな、3人で行く事に不満無いって」
不満無いは方便だけどね。
少しいじけてたよ。自分も幻術克服したいんだろうな。
「まあいいよ。あと討伐後に一緒に温泉入るのは絶対に許さないらしい」
「あはは、この前は良かったのに?」
「自分がいないときは駄目なんですね」
そりゃ嫁の居ぬ間に他の女と混浴は嫌なんでしょ。
じゃあ行くか。チョイス使うぞ。
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「お疲れさん、おばはんがビキニアーマーってシュールだな」
「うるさいな!」
「うう、これが無ければ美味しいだけの敵なのに」
鵺を倒し601層に移動してきた。
いいから温泉入って来い、待ってるから。
「おじさんもウチらの後入ってくださいよ?」
「だから俺は吸われてないって」
「吸われてなくても念の為入った方が良くない?どんな影響があるか解らないし」
うーむ、ソロで吸われなかった時は温泉に入らなかった。
だから禿げたんだろうか?
いや、運命だったのだと思うけどね。
「じゃあ俺は501層で入ってくるよ。お前らはリターンで戻れるでしょ」
「入り口で待ち合わせですね。了解です」
リターンはみんな持ってる。誰でもレベル100までには覚える魔法だ。
やれやれ、心配性だな。
でも俺も守るものが増えるし、そう言われると心配になってきたので素直に従おう。
「あらら?温泉入ってる人いるな」
501層に行くとすでに使われてた。
仕方ない401層へ行くか。
「ここもか」
じゃあ301層へ。ここも駄目。
なんだよ、今日はずいぶん混んでるじゃないか。
201も駄目、こんな事滅多にないのにな。
「やっと空いてた」
101層まで来ることになるとは。チョイスの無駄遣いだ、MPポーション飲まなきゃ。
まだ午前中なのになんでこんなに混んでるんだろ。
まあ泊りがけでダンジョン潜ってる人には昼夜関係なかったりもするからな。
タイミング悪ければこんな事もある。
「ふいー、気持ちいい」
ダンジョンにある温泉も10人以上は余裕で入れる大きさなんだけどね。
でも各階一つしかない、男湯女湯がある訳じゃない。
なので使用には気を遣う。
海外では水着着用ルールもあるらしく、男女かまわず入れたりするらしいが、日本ではそうはいかない。
温泉に水着というルールは日本では誰も考えなかった。
「いちいち水着になんて着替えてられないよな」
これだけ大きな温泉を一人占めするのは罪悪感もあるんだけどね。
でも順番待ちなんて本当に滅多にない事なんだ。
「お邪魔します」
「え?」
誰だ?女の声だったけど。湯気と多少老眼が来てるから解らない。
近づいてくる、シルエットが完全に女だ。ボンキュッボン(死語)のメリハリボディ。
「え?ケイトリンさんか?」
なんでケイトリンがここに?しかも素っ裸だぞ。
つかなんで俺が入ってるのに入ってくるんだよ。
「コンヨクハニホンノブンカ」
「また片言だ。嘘ついてるでしょ?」
エースがこんな低階層にいるなんて、ラッキーだったわ。
当局に言われて下呂まで来たけど潜った後。
ダメ元で追いかけては見たけどまさか会えるなんて。
しかも一人?邪魔者もいないなんて運が味方したとしか思えない。
この機会を絶対に逃してはいけないわ。
「あのね、確かに日本には混浴文化があるけど、同意しても無いのに一緒に入るもんじゃないんだぞ?」
「私と一緒に入りたくないんですか?人種差別ですか?」
「ええ?そんなこと言ってないでしょ」
エースは痩せてきてるわね。子供が出来てダンジョンは休みがちだと聞いていたけど…
さて、指示通りもっとよくエースの体を調べないと。
当局とは一度関係性が悪くなった。
以前はエースの成長を止めたいって話だったけど、奥さんが妊娠して結果的にそうなった。
エースの成長がゆっくりになった事で指令が復活したのよね。
良かったわ。私も立場を保つことが出来た。
上半身は以前より引き締まってきたように見える。
下半身はどうかしら?お湯が揺れて解りづらいわ。
勃っ…立ってくれないかしら?
「ちょ、近すぎない?つかお湯に顔ついちゃってるぞ」
「ファンなんです。少しでも近くにいたい、ぶくぶくぶく」
「ついに潜っちゃった」
外国人の女が温泉に潜り、俺の股間を凝視してるように見える。
やめさせたいけど女性の体、触ったらこっちが悪いって事にもなりかねない。
下半身を見たいの?アメリカ人に見せるようなものは持ってないと思うんだが。
「なんなんだ?この状況は」
ぶくぶく、もっと近づかないと見えないわ。
ちょっと、胡坐をかかないでよ。出来れば足伸ばしてよ。
ふむ、足の筋肉はなかなかね。脂肪もまだまだ多いけど洗練されていく過程なのが解るわ。
「ええ?体触ってきた」
足は思ったより硬い、やっぱり引き締まって来てるわね。
あら、ここはなかなか立派ね!うふふ。
これでお嫁さんを?悪い子ね。えいっ。
「ぎゃーーーー!!!」
さすがに今のはおかしい!俺は怒ってもいいはずだ。
ケイトリンの体をお湯から無理やりだし、説教だ。
「俺は嫁がいるんだぞ!なんで触るんだよ!」
「ニホンゴワ…」
「嘘つけ!俺に嫁を裏切らせる気か!人の家庭を壊して楽しいのかよ!」
「……」
「なんとか言え」
「の、のぼせたかも」
「ええ?うそだ…あれ?本当に顔色おかしいな?馬鹿だな潜るからだぞ?」
「も、もうだ…ブクブクブク」
「ちょ!溺れるぞ!」
仕方ない、ケイトリンを抱き上げ、お湯から出す。
涼しい場所まで持って行き寝かせよう。
しっかし良い体してるな。
アメリカ人だからケツがプリっと大きいけど、それ以外はカミナと遜色ないボディだ。
何か冷たいタオルでもあればいいんだけど…ああ、水とタオルはアイテムボックスの中にあった。
水は常温だけどないよりはマシだ。タオルを湿らせ額に置く。
仰いだ方がいいのかな?
仰ぐもんなんかあったっけ?やれやれ、なんだよこいつ人騒がせな。
アイテムボックスの中に…ああ、ここに着て来た普段着でいいか。
立ち上がり、服をなびかせ風を送る。
俺も素っ裸で何やってんだか。
「………あれ?私、何を?」
「気が付いたか、のぼせたんだよ」
「私、裸で…犯しました?」
「犯してねえわ!」
覚えてないのかよ、自分から入って来ておいて。
まだぼーっとしてる、頭がはっきりしないようだ。
「まったく、もうちょっと休んでなよ」
はあ、せっかくの温泉タイムが台無しだ。
もういいや、装備着ちゃうか。
「リターンは使えるだろ?自分で帰って来いよ」
「え?こんな無防備な姿で、私置いていかれる…?」
素っ裸で横たわっている美女が一人。
確かに危ないけど、俺が面倒みる義理も…はぁ。
「体は乾いてるよな。装備は?」
「アイテムボックスの中です」
出せ出せ、ほれ、パンツから履かせてやる。
俺も人を待たせているから待ってられないんだ。
スポブラか。ほれ腕を通せ。ちゃんと着ないと形悪くなるぞ。
寝ながら着せるもんじゃないなこれは、世話の焼ける奴だな。
「すみません、迷惑をかけて」
「ほんとだよ、なあ、何が目的なんだ?ファンとか嘘でしょ?」
「…………」
だんまりか。一緒に温泉に入ってまでこいつがやりたい事は一体なんなんだろう?
まったく理由が解らん。
「理由は言えませんが、あ、あまり頑張らないでいただければ、と」
え?どういう意味だ?俺が頑張ったら何かマズいのか?
こんなおっさんが頑張ったところで年寄りの冷や水、ああ心配してくれてるの?
歳だから無理するなって事?いやでもなんで?どんな立場から言っているのだろう。
「子供が出来てね。子供が大きくなるまでは俺も頑張らないと」
「…あなたも守るものがあるのね」
「え?」
私だってそう、母国を守りたいの。
遊び気分で日本に来たけど、母国が大事な事に変わりはない。
エースの周りで目覚ましく成長している者達たちがいる。
このままでは日本の資源輸出量がまた増大してしまう。
…こうなったら私が刺し違えてでも止めないと。
「子供が大きくなるまで生きていられるかは解らない、だから出来るだけ多くの物を残してあげたい」
「お金ですか?お金ならもう不自由しないほど持っているのでは?」
「お金もそうだけど思い出が一番かな。いつまで一緒に過ごせるか解らないからたくさん遊んであげないと」
「……」
「俺はどうせ先に逝く。ならば残される者が寂しくないよう楽しい記憶を出来るだけ作ってあげたい」
「…」
「まだ生まれても無いのに、幸せを願わずにはいられないんだ」
………そんなこと言われたら、あぁ、敵意が引っ込んでいく。
子供を愛するただの親、未来を憂う優しい人。
はぁ、今回は私の負けね。
「きょ、今日のところは見逃してあげるわ!」
「へ?」
「貴方が休んでるうちにどんどんレベル上げてやるんだから!あまり調子に乗ってると痛い目見るわよ!」
「な、なん…」
「じゃあね!奥さん大事にしなさいよ!」
ケイトリンはリターンで帰って行った。
なんだったんだ、あいつ。
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「おじさん遅すぎ!!」
「のぼせてるのかと思いましたよ!」
リターンでダンジョンから出ると二人ともお冠だ。
説明も出来ないし、踏んだり蹴ったりだな。
「ごめんごめん、温泉入ったら眠くなっちゃってさ」
「もう!おじいちゃんか!」
「ぽっくり逝ってなくて安心しましたよ」
えらい言われようだ。ちきしょう、ケイトリンのせいで。
「まったく…あ、そういえばケイトリンを見ましたよ?」
「ふーん、元気そうだった?」
「悔しい、でも感じちゃうって顔だったね」
「なんだそりゃ」
「それより次行きますよ?この後は500層ダンジョンボスマラソンです」
「へいへい」
ケイトリンか。レベルどんどん上げてやるって言ってたけど、なんだったんだろうな?
まあせっかく日本に来れたんだから、好きにしたらいい。
良い体だったなぁ。




