エンマの覚悟
気が付くと目の前にはハルはおらず、執事たちとデュポンのいる場所へといた。
「はぁーーー。自信なくすわーーーー」
着くなりエリーゼが大きく溜息を吐き、その場で倒れこんだ。
倒れこむエリーゼを執事たちが慌ててキャッチし、すぐにベッドのほうへと運ばれていった。
「ど、どうでしたか?」
デュポンがすぐに私たちへ駆け寄ってきた。
「……無理でした。もうハルくんに意識は残っていないでしょう。確実に」
オクスタシアが苦い顔で答える。
「本当に……どうにもならないのか」
なんとか声を絞り出す。
「……」
オクスタシアは何も答えなかった。そして、それが全てなんだということを悟った。
「くっそ……」
そして1週間がたった。
ハルはあれから第3層を破壊し続けているらしい。様々な都市を崩壊させ、住民は逃げざる得ない。そして、ここ第3層の主である大将軍のうち3体中2体の破壊が確認されたらしい。このままのペースだと、第3層の敵は全員倒してしまうだろう。
……かつて私がやったように。
「エンマ…いい加減どうしようか考えましょう。」
「どうするって……」
オクスタシアがたんたんと答える。
「このままハルを助ける道を探すか、ハルに第3層をクリアさせ、私たちは第4層へと行く。」
「後者の場合は…ハルを置いていくってこと?」
「あぁ。僕たちはハルを置いて第4層へと行く。」
無意識的にオクスタシアの胸倉をつかんだ。
「本気で言ってんのか?」
「あぁ本気です。僕の今できることは君をこの無間地獄から出すこと。」
「だめだ。このままハルを置いていくなんて……」
「このまま時間をつぶしているうちに、無間地獄の外は滅んでしまう。それは君が望まないことでしょ」
「っつ…くそ……」
オクスタシアが言っていることは正しい。全部正しい。
「…しばらく僕は離れますから、その間にちゃんと考えてください。」
「……」
オクスタシアは無言で去っていった。
「一体どうすればいいんだよ」
ふとハルとの日々を思い出していく。そして、一つの疑問が出てきた。ハルとはたった1、2か月程度の付き合い。
……なんで、何百年も生きてきたのに、こんな数か月のほうが大切だって思ってしまうんだ。
オクスタシアは1時間の考える時間をくれた。
「それで、今の考えは?」
「……」
分かっている。私が今するべきは、きっとオクスタシアの言っていた「ハルを置いてここを出ていくこと」。
…でも、諦めたくはない。
「ハルを置いていかない。どうにか助ける方法を絶対に見つける」
「……やっぱりですか。まぁ何となくわかってはいましたよ。エンマがそう答えるくらい。何か具体的な……」
「具体的な案もない」
「……だと思いましたよ。」
そうだ、やはり置いていかない。今地獄がどうかよりもハルを優先する。だって約束したんだから。私が無間地獄から出すって。
「さっそく方法を考えよう。何か案はないの?」
「……はぁ~~~~~」
大きなため息をはき、オクスタシアはその場に座り込んだ。
「ありますよ、方法。成功するかどうかは分からないですが」
「ほ、本当!?」
「君が諦める選択をしなければ、提案なんかしないつもりでしたけれどね」
オクスタシアは終始嫌そうな顔をしていた。
「それで、方法は?」
「……あの状態のハルを500年間くらい亜空間放置させる」
「は?どういうこと?」
突拍子のないオクスタシアの言葉に混乱する。
「一回話を全部聞いてください。500年というのは適当に決めた数字です。とにかく長い時間をおけば、ハルの中にいるエンマの血は確実に薄まるでしょう。」
「聞きたいことはいろいろとあるけど、500年も時間を……」
「亜空間は現実の時間をとにかく圧縮したもの。つまり亜空間での数年が現実で数分程度まで圧縮される。500年ならたぶん1年、2年くらいだろうか。」
「でも、そんな空間をどうやって…」
「この試練の間に着く前にあった、真っ白い空間を覚えていますか?」
「あ。あぁ…」
「あの空間こそ、現実を圧縮した亜空間なんですよ。」
確かにあの時のことを考えると、オクスタシアの説明していた亜空間の説明と合致していることが多い。
あの時、あの空間では数時間程度しかたっていなかったのに、現実では1、2か月くらいたっていた。
「あの時、何となく亜空間の作り方を知ったんですよ。この間、実際に成功しました。」
「……でも、亜空間にいる間、ハルの意識は持つの?」
「そこが今回の問題点です。最初に言った成功するか分からないといったところ。」
いくら意識がないとはいえ、500年間の時間を耐えられるのだろうか。どうしても“虚無”という不安が残る。
「そればっかりはハルに意識を保ってもらうことを願うしかありません。」
「……でも、現状はこれくらいしか方法はないんでしょ」
「まだあるかもしれない。だけど…」
「まぁ、不安ですよね。……どうします?選ぶのはエンマです。」
「……」
数秒の間が空いた。目をつむり考えをめぐらす。
「頼む、オクスタシア。」
「分かりました。エンマがそう言うなら私はその通りにするだけです。」
「……一つだけお願いがあるんだ。」
「?」
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「本当にして大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。覚悟はできてる。」
「……まさか、君もハルと一緒に亜空間に行くとはね。」
「私を決めたことだ。ハルを独りで置いていかない。」
「……君が決めたなら私はとやかく言いません。行きましょう、時間が惜しいです。」
ハルのもとへと足を進めていく。オクスタシアからは辞めておいたほうがいいと言われた。あの状態のハルと一緒にいて、私が無事でいられるわけがないのは分かっている。
「もうすぐ着きますよ」
時間はあっという間で、考えているうちにハルの巨体が見えてきた。あと数歩ほど近づけばハルに気づかれるだろう。
「きっとつらく大変な時間になるでしょう。それでもいいのですか?」
「耐えるのは慣れっこだ。大丈夫、きっとなんとかなるさ。」
「……それじゃあ」
私とオクスタシアは一歩進める。ハルがこちらを振り向いた。私たちに気づいたようだ。
「いきますよ。」
オクスタシアが目を見開き、強大な魔力を放出した。それと同時に周囲の空間が大きくゆがむ。
「オクスタシア、あとは任せた。」
最後に見たオクスタシアの顔は、にこっと微笑んでいた気がする。次の瞬間、辺りの景色が一気に変化していった。




