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アルヴァトスの最後

あれから5時間ほどが経った。

「…そろそろだな」


「え、どうかしたの」


「デュポン、手筈通りに頼むよ」

デュポンはゆっくり首を縦に振った。その表情は少し曇っている。


「ハル、いこう。」


「どういうことデュポン?」

ハルは何も知らないため混乱している。それを無視し、デュポンがハルの手を無理やり引っ張り連れて行った。

デュポンは別れ際もこちらを一切見ることはなく、何もしゃべらなかった。

…それでいい、振り返らず前に進め。


その後しばらくして、背後から轟音とともに車のような音が聞こえる。


「さて、どうしたものか…」

音のほうへと目をやり、ゆっくりとため息を吐く。すぐにトラックほどの大きさの車がやってきた。

……おそらく車を罪とする能力者でもいるのだろう。

車の中からは案の定ギネーベ、そして数十人の悪魔がぞろぞろと降りてきた。


「しばらくぶりだなアルヴァトス…その他は一緒じゃないのか」


「……さぁな」

ギネーベの問いかけに適当に返した。


「まぁいい。ほかのやつらに行かせれば……」


「ギネーベ様!」

降りてきた悪魔のうちのひとりが慌てた様子でギネーベのもとへと走っていった。


「あ、どうした?」


「それが……結界が貼られていてこれより先にはすすめません!」


「なんだと」

デュポンたちを送り出したあと、周囲に巨大な見えない魔力の壁を作った。

その仕様上、その壁よりも高い魔力量でなくては通ることはできない。現状この中で通れるのはギネーベくらいしか通れない。


「そうか、俺がここを離れるわけにはいかないし……考えたな」


「どうも」


「まぁいい。後で捕まえればいいだけの話だ。今はお前を殺すことだけに専念するとしよう。」


「そっちのほうがありがたいよ」

ギネーベは構え、戦闘が間もなく始まろうとしている。

とにかく今は時間を稼げばいい。ここが俺の最後の頑張りどころだ。

…持ってくれよ、俺の体。


「いくぞ、私に感謝して死ぬがよい」


「……」

巨大な魔法陣がギネーベの背後に現れる。俺も咄嗟に同じ大きさほどの魔法陣を後ろに生成する。互いの魔法陣が大きく光り、巨大なエネルギー砲のようなものがぶつかり合った。

……ギネーベは能力者ではない。俺と同じ魔法使い側の悪魔だ。技量的には俺のほうが上だが、今はやはり……

数秒の拮抗の末、互いのエネルギーが相殺されてパッと消滅した。ほんのわずか、俺の体勢が後ろへとよろめく。ほんの少しだけ、俺の方が力負けして押されていた。


「……この間お前の正体に気づいたときに違和感があったが、まさかお前……虚無になってるな」


「…」


「図星だな」

ギネーベはにやっと笑った。

直後、さっきと同様の魔法陣がギネーベの背後に無数に現れ、雨のようにエネルギー砲が飛んでくる。自身の背後にも同じ量だけの魔法陣を生成し、打ち落としていく。


「っく……」


順当に打ち落としていくが、数が数であるため今の俺にすべてを打ち落とすのは不可能だ。かといって食らうわけにはいかない。打ち落とし損ねたものは最低限の防御でガードしていき、何とかやり過ごしていく。


「今ので打ち合いで確信したよ。私はお前を殺せる。」


「…あっそう?やってみないと案外わからないもんだぞ。」


「逆に勝てると思ってるのか?今のお前の状態で……」

ギネーベが嘲笑しても、俺は悠然とした態度をふるまい続けた。

……依然として勝てる気はしない。でも…だからといって手を抜くつもりはない。

仮に俺がギネーベに勝てているとしたら、要塞で気づかれたときに倒している。それはギネーベがよくわかっているはずだ。


「なるほど、そこまでする理由はあいつらを逃がすためということか。かっこいいことだ。」


数秒の間が吹き抜けた。


「やれ!」


ギネーベの周囲にいた悪魔が俺を囲むように近づいてきた。各それぞれの魔法や能力を使い、俺への攻撃をしかけてくる。おそらくここからが本番だ。

……さっそくか、創造魔法!

剣と盾をつくりだし応戦していく。こっちが手ぶらだと思って油断して近づいている悪魔の首を切り落とす。


「あがっ」

そのまま動揺から立ち止まった近くの悪魔のもとへ盾を構え間合いを一気につめ、腹部を突き刺した。


ふとギネーベのいた場所をみると姿が見えなかった。すぐに気配を集中させる。


……位置的にこれは、上か!

すぐに見上げると、上空で巨大な大剣を振りかざし、かなりの速度で俺のもとへと向かっていた。

速度と威力的にこの盾で受け止めることは不可能。


「創造魔法……戦機ギルロックアーク!」

目のまえに巨大な盾を創造し、たやすくギネーベの攻撃を防ぎ跳ね返した。その後、盾に割れ目が入りすぐに消滅した。

もちろんこれはただの盾ではない。先生が作り出した戦機と呼ばれる武器シリーズを模倣したもの。あまりに構造が複雑なため9割程度までしか模倣し切れておらず、一回使えば即消滅してしまう。

……一回きりだし燃費もわるいに加えて…

右腕がぶらぶらと動かなくなっていた。かなりの集中が必要となるため、自身の体の再生がおろそかになってしまう。今回の場合はおそらく神経辺りが死んでしまい、腕が動かなくなっている。


落ち着いて何もなかったように、既に死んでいる自身の神経を破壊して新しく神経を貼りなおした。軽く右手を動かし問題ないことを確認する。


「ふぅ…やっぱ虚無になっているとはいえ強いな君は。その状態でも戦機を作り出すのが可能なのか。」


ギネーベはぱっぱと手についている土を払い立ち上がる。

………できればあの盾はあまり使いたくはなかったんだがな

あの盾は不完全なため、仕様的に最初の一撃しか防ぐことしかできない。そのため対策は容易だ。攻撃する前に石でも投げられれば簡単に盾は消滅する。

おそらくギネーベにはもう通用しないだろう。


ギネーベの両手にはダガーのようなものが握られていた。さっそく盾の対策だろう。連続で多段の攻撃をされれば、あの盾はただの燃費の悪いものにしかならない。


「くっそ…めんどくせえな」


ギネーベとの間に盾を大量に創造して猛攻をなんとか食い止める。1撃1撃が重たく耐えるのでやっとの状態だ。その様子をみた他の悪魔たちが慎重に近づいてくる。

……このままじゃあ、だめだな。


ギネーベの1撃をあえて自身の胸辺りに受けた。ぎりぎり心臓を避けているため後で直せば何とかなる。


思いがけない形で当たった攻撃にギネーベが一瞬怯んだ。

反撃をしようとした瞬間、急に目の前が真っ暗になった。

…しまった、さっきの間に再生がすこし遅れてしまった。急いで目の再生を!!いやその前にいったん距離をおかなければ。


グサッ

急に息がしづらくなってしまう。おそらくのどが刺されたのだろう。痛覚がにぶりすぎているためよくわからなかった。

慌てて先に目を再生させ見えるようになったが、最初に見えたのは眼前まで迫っているダガーだった。

……反応しろ。脳をやられるのはさすがにまずい!


「ダイ…ナマ…イト」

自身に内蔵していたダイナマイトを爆破させた。その爆風と反動によりギネーベの攻撃をかろうじて避け、後方へと体が吹き飛ばされ距離は置けた。


多少は魔力で防御したが、それでも体内から直接爆破したためダメージはでかい。

すぐに回復に全神経を注ぎ込んでいく。


「ふふ、必死だな」

不敵に笑うギネーベを睨む。


「まだ…死ぬわけにはいかないんだ。」


■■■


その後も攻撃がひっきりなしに続き、すでにかなりの時間がたとうとしていた。


「そろそろ限界かな、にしても君は本当に硬いな」

俺の体はすでに再生が追いついておらず、体中のいたるところに傷ができている。しかし血液の生成が間に合っていないため血は流れていない。

重要な部位だけを再生させ、なんとか意識をたもっている状態だ。


……我ながらよく耐えたな。おおよそここまでところか。


「その状態で笑うのか…」

怪訝そうに眉をひそめて俺を見つめる。ギネーベ曰く、俺は今笑っているそうだ。


「…」

声帯が壊れており、喋ることはできない。


「まぁ、君の目標は達成できたんじゃないか。おめでとうアルヴァトス。」


…そうだ、あいつらを逃がすのが目的だった。それだけの時間は稼げたはずだ。そうだ、もう十分、そのはず…なのに…


頭が考えていることとは異なり、俺は剣を握りつづけギネーベの次の攻撃に備えていた。


…1000年以上もこうして生きたんだ。そう簡単に死ぬわけないわな。


戦いはまだこれからだ

次回は久しぶりのハル視点ですね

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