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アルヴァトスの理由

そして一夜が過た

眠そうなデュポンとハルを起こし、出発の準備を済ませていく。デュポンはやはり満足に眠れていないようだった。目の下に薄い隈ができている。まぁ、それも無理はない。

あくまでも予想にすぎないが、今日中にギネーベに追いつかれるだろう。猶予は六、七時間といったところか。その間に少しでも距離を稼がなければならない。

「よし、じゃあ出発するぞ」

「うん!」

ハルははきはきと答えてくれたが、デュポンは下を向いたまま黙っていた。

「おいおい、なんて顔してんだよ。」

ぐしぐしとデュポンの頭をかき乱した。すぐに嫌そうな顔でこちらを睨みつけ、ぐちぐちと文句を言い始めた。

……よし、いつも通りのデュポンに藻だったな。

それでも普段に比べて覇気がないのは隠せていなかった。デュポンなりに、昨夜のことを引きずっているのだろう。

こうして俺たちは目的地である結界の外へと足を進めた。一晩休んだおかげか、ハルの足取りは昨日より随分と軽くなっていた。

しばらく歩いていると、ハルが何気ない口調で聞いてきた。


「そういえば、ヴァルってなんで閻魔大王候補になったの?」


「……そんなに気になるか?」


「ちょっとだけ」

俺は少し迷ってから口を開いた。


「歩きながらでいいなら話すよ。話半分で聞いてくれ」

足を進める速度をおとさず俺は話し始める。


「俺自身が閻魔大王になりたいわけじゃない。ただ……ある人に会いに行くために、この無間地獄に来た。それだけなんだ。」


「ある人?」


「一回話したっけ…俺を育ててくれた、親みたいな存在だよ」


「話してたね…その人が無間地獄に?」

「……ハルにはピンとこないかもしれないが」

一拍置いて、俺は名前を口にした。


「その人の名前は、レグリア・ジーク・アレキサンドライト」


「だ、だれ……」


ハルが首を傾げるより先に、デュポンが足を止めた。


「え、ちょっと待って」

振り向くと、デュポンは目を見開いたまま固まっていた。


「アレキサンドライトって……五代目閻魔大王の? この無間地獄を作った?」


「あぁ、そのアレキサンドライトで間違いない」

デュポンは口をぱくぱくとさせ、しばらく言葉が出なかった。ハルは二人を交互に見ながら状況を飲み込もうとしている。

「なんで教えてくれな……いや、まぁ、しょうがないか」

ついこの間まで俺が正体を隠していたことを思い出したのか、デュポンはそれ以上追及しなかった。俺たちは再び歩き出す。


「俺は先生と呼んでいる。魔法の扱い方、この世界での生き方……いろんなことを教えてもらった」


話しながら、自然と視線がすこし上へと移動した。


「先生は現在の閻魔大王の生まれるシステムに疑問を持ってこの無間地獄をつくりだしそのまま姿を消した。俺を拾ってくれてから1000年も一緒にいたのにいなくなるのは突然だったな。その時のことは今でも覚えてるよ。」


「千年……」とハルにとっては想像もつかない長い年月にあまりピンときていないようだった。


「俺は先生が俺のことをどう思っていたのかを聞きたかった。なぜ俺を拾ってくれたのか、本当は何を考えていたのか。千年一緒にいたのに、先生の本意を俺は最後まで見られなかった」


「実の父親みたいに慕っていたよ。だから無間地獄を踏破したら、先生の本意を見ることができるってあの時は本気で思ってた」


「でも現実はそう簡単じゃない。俺は第四層でくじけた。第三層だって自分の力だけで越えられたわけじゃない。結局ただの出来損ないだったんだよ」

重い言葉が空気に溶けていく。ハルもデュポンも黙ったまま歩いていた。

しばらくして、デュポンが静かに口を開いた。


「五代目閻魔大王って……どんな悪魔だったの?」


「人格が五つあったから、一言で説明するのは難しいな」


「五つ!?」


「多重人格とかじゃなくて先生は四回転生している。そのたびに人格が増えていたんだ。」


「転生したら記憶が消えるのに、人格が増えるの?」


「普通はそうだ。でも先生は特別だった。転生しても記憶が消えなかった。」

先生は転生のたびに大きな戦争を引き起こし続けたらしい。大義があったわけじゃなくただ世界を我が物にするために。それだけはすべての人格が共通している理念だった。


「……それと、一つ言っておくと」

俺は前を向いたまま続けた。


「君たちはすでにその人格の一人と会っているぞ」


「え?」


「第二層の門番、オブシディア。あいつも先生の人格のうちの一人だ。というか、この無間地獄の各層の門番は全員、先生の人格のうちの一人だ」


「ええええ!!」


二人の声が荒野に響いた。

オブシディア、ルビー、オニキス、アンバー。皆それぞれ性格がバラバラで考えることが異なっているが、それらをまとめる人格としてアレキサンドライトがいる。

……俺がほとんど話してたのはアレキサンライトとしての先生だったけな

少し昔のことが懐かしくなる。


「まぁ、こんなもんだな。俺がここに来た理由は。」


少し間を置きハルが口を開いた。

「…ヴァルはもうあきらめてるの?」


「無間地獄のことか。まぁ、そうだな諦めてはいるな。」


「…ヴァルさえよければ、この結界を抜け出した後、僕たちと一緒に第3層を攻略しない?ヴァルが協力してくればだいぶ楽になると思うんだ。そしたら先生のもとに会えるかもしれないし」

思いがけないハルからの提案に目を大きく見開いた。しかしそれを了承することはできなかった。


「……別に協力してもいいが」

すぐに断ろうと思ったが、言葉を少ししぶってしまった。

俺がもうすぐ死ぬことをハルはまだ知らない。

……下手に期待させるくらいならバッサリ切ったほうがいいな。


「悪い、やめとくわ。でも変わりにデュポンが協力してくれるらしいよ」

すすっとハルの前にデュポンを差し込んだ。


「ええ……僕ぅ?いいけど別に…」


「まぁ僕とエンマたちが第3層をクリアしたら自動的にデュポンもヴァルもここを抜け出せるわけだし。でも協力してくれたらうれしいんだけど…」


「いや、自動的には抜け出せないぞ。」


「え?でも前にここがクリアされたときは自動的に全員次の階総に行ったって聞いたんだけど…」


「いや前がただ特例だっただけ。この第3層の試練で試されているのは統率力。」


「統率力…」


「そう、本来はこの第3層をクリアしたとき次の階層へ進めるのは最も悪魔たちを先導して活躍した10から20人だけ。」


「え、え、じゃあ前はなんで全員?」

俺は苦笑いを浮かべながら答える。


「君の知っているエンマがここを攻略したとき彼女は先導とか一切せず、たった一人でこの第3層を攻略した。だから少しシステムがバグってしまって試練の間全員を4層に送ってしまったってわけ」


「ま、まじか…」


「そうだよ…前は特別だっただけ。でも一応、誰かがクリアしたら一度この試練の間はとじて外に出られるはず。とりあえず頑張ってくれよ。」

そうして話を終え、俺たちは前へと進んでいった。


結構大事そうな回でしたね。情報過多になってて申し訳ないです。

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