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ハルはヴァルの正体を知る

「ちゃんと説明してよ」

アルヴァトス…ヴァルの本名を聞いた瞬間、僕よりも最初にデュポンが詰め寄った


「何言ってんだよ。アルヴァトスは数60年も前に失踪して、もう死んでるって言われてるくらいだ」


「まぁそうだな。でも俺とデュポンが初めて会ったのはいつか覚えてる?」


「いつって…あ、60年前。失踪したタイミングとほとんど同じ…」


「だろ」


「で、でも僕はアルヴァトスの顔を見たことある。ヴァルとは全く違うじゃないか。」


「……しょうがないな、作り直すのめんどくさいんだけど」

ぶつぶつとヴァルが独り言を言っていると、とたんビリビリとヴァルの顔の表面が剥げていった。


「んな!?」


完全に剥がれ落ちた時そこには全く別の顔がそこにはあった。


「ええええ!!誰誰々?!」

動揺している僕の隣でデュポンはわなわなと口を開いて動きが止まっていた。


「ほ、ほ…本物だ」


「え?」


「本物なんだって。正真正銘僕たちの目の前にいるのは閻魔大王候補筆頭、最も閻魔大王に近いとされていた悪魔アルヴァトスなんだって!」

アルヴァトスの顔を知らない僕はいまいち納得はできなかったがデュポンがやけに迫真なことから嘘の類ではないということがすぐに分かった。


「これで信じてくれたかな」

それから少しの押し問答があったのちようやくデュポンが落ち着いた


「さて、これかどうしようか。」

落ち通た後僕たちは冷静になり次のことを考え始めた。

ヴァルの正体がばれた以上僕たちは、あの要塞に戻ることは不可能だろう。


「逃げるしかないんじゃ。えっと、アルヴァトスさん?」


「……今まで通りヴァルでいいよ。」


「じゃあヴァル」


「そうだな…間違いなくギネーベに鉢あうことにはなるだろうが、ここにいてもどのみち見つかるしな」


今まで、あの過酷なギネーベの環境から逃げ出そうとしたものはいる。

しかし逃げ出したものはいまだにいない。要塞から半径50キロ内で巨大な結界をはり悪魔たちの動きのをギネーベが把握できるからだ。といってもギネーベが把握できるのはおおよその位置というだけで何をしているかまでは確認できない。

無論、悪魔たちの数が多すぎるためすべてを常に見ることはできないが、逃げようとしているとわかればその位置まで一瞬でやってきてしまう。


「だから俺たちがこうして隠れていてもすぐにばれてしまうな」


「そういえば…ここってどこなの?」


「あー昔の拠点だよ。丁度、ギネーベの結界内にあったから緊急用の転移魔法で逃げられた。」


「転移魔法が使えるなら、結界の外に一瞬で逃げられるんじゃ……」


「残念だが、この結界が外への転移を封じているからそれはできないな」


「うぅ…対策されないわけがないか……」


「そういうこと。つまり逃げるなら徒歩で結界を抜けていかないといけない。ここからなら歩いて4日ってところかな」

4日間――。

ギネーベの網の目を潜り抜け、そんな長い時間を逃げ切ることなんてできるのだろうか。僕とデュポンの間に、重苦しい不安がのしかかる。


「安心しろよ」


ヴァルが僕たちの頭を無雑作に、だが力強くポンと叩いた。


「お前らは俺が責任をもって連れていく。アルヴァトスの名に懸けてな」


その不敵な笑みに少しだけ楽になった、次の瞬間だった。

コツ、コツ、と部屋の奥に続く暗い通路から、誰かが歩いてくる足音が響いた。

心臓が跳ね上がる。

しかし、暗闇から姿を現したのは、この絶望的な状況を根底からぶち壊すような、派手で奇抜な格好をした悪魔だった。


「え、は? だ、だれ」


呆気に取られる僕の横で、その悪魔の目が爛々と輝く。


「お師匠様ぁあああああああ!!!!」


「げげっ!?」


ヴァルが嫌そうな顔をした時にはもう遅かった。そいつは僕らなど目もくれず、凄まじい勢いでヴァルに飛び込み、そのまま床へ押し倒したのだ。


「お久しぶりっすねお師匠様! 最後に会ったのいつでしたっけ……あれ、なんか……」


押し倒した状態のまま、その悪魔はヴァルの胸元や首筋にぐいぐいと鼻を押し付け、犬のように匂いを嗅ぎ始めた。


「お師匠様、なんか臭くない?」

ヴァルは容赦なくその悪魔の顔面をわしづかみにした。


「うるさい、とにかく離れろ!」


バキキ、と嫌な音を立てながら、ヴァルはその悪魔を強引に引き剥がして床に放り投げた。


「ヴァルの知り合い? 師匠っていってたけど……」


戸惑う僕に、ヴァルは服の埃を払いながら、忌々しそうにその悪魔を指差した。


「……前に廃墟のときにはなしたきがするけど。こいつが閻魔大王候補生2期生のイムだ」


「どうも! 候補生2期生のイムっす!」


床から跳ね起きたイムが、丁寧に僕らにペコリとあいさつをする。そのあまりの緊張感のなさに、僕は「は?」と口を開けることしかできなかった。


■■■


それから、ヴァルが現在の最悪な状況を一通りイムに説明した。イムはふむふむと大袈裟に頷きながら話を聞いていた。

……イムってたしか要塞とか第2層のアルカの城とか建ててた悪魔だったよな。まさかこんな奇抜な恰好してるだなんて。というか師匠?ってどういうこと?

疑問がいろいろとあったがイムとヴァルが話を続ける。


「なるほどっす。最近、見かけてなかったのはギネーベのほうにいたからなんすね」


「ていうかいいのかここ、ギネーベの領域だぞ。捕まったらどうするんだ」


ヴァルの懸念に、イムはへらへらと笑いながら手を振った。


「ギネーベとは、要塞の増設とか修理をする代わりに自分を狙わないって協定を結んでるんで、問題ないっすよお師匠!」


「……なら、お前からギネーベに掛け合って、この二人くらいは逃がせないか?」


ヴァルの目が、真剣なものに変わる。

だが、イムはポリポリと頬を掻きながら、心苦しそうに眉を下げた。


「いやぁ、それは厳しいと思うっすね。ギネーベはお師匠様のことこれでもかってくらい嫌ってますから。関係してるお二人も、見つけたら絶対に逃がさないんじゃないっすかね」


「まぁ、そうだよな」


ヴァルは小さく息を吐き、小さく肩を落とした。


「力になれなくて申し訳ないっす! ……あ、でもギネーベの結界を抜けるまで、俺も道中手伝うっすよ!」


イムが胸を叩いて提案する。


「いや、そんなことしたらお前がギネーベに殺されんだろ」


「いけるっすよ、お師匠様の命令なら俺、何でも聞くっす!」

イムは曇りなきまなこでヴァルのことをじっと見つめる。


「……じゃあ命令だ。さっさとここを出ていって俺たちと今日あったことはことを忘れろ」


「はい任せてくださいっす! ……って、いいんすか? 協力しなくて」


「大丈夫だ。というかお前、この師匠のことが信用できねぇのか?」

ヴァルが軽くイムのことを睨む。


「いえ! そんなことないっす! ……でも、万一があったらいつでも呼んでくださいよ」


「呼ばんわ!」


「じゃあお元気でっす!」

と言葉を残して、命令された通りそくそくと部屋を出て行った。


「......まさかヴァルが大王候補イムの師匠だったなんて。無間地獄に来る前から?」

デュポンがヴァルに問いかける。


「うーん、話長くなりそうだしとりあえず俺たちも出発しようぜ。」


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