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ハルの絶望

あれからさらに少し探索を続けている。

「なぁ、ヴァル。そろそろ休憩しない?」


「俺はまだ平気だぞ」


「う……ハルはもう疲れたよね!!」


食い入るような目で、デュポンがこっちを見つめてくる。必死すぎて目が怖い。

「えぇと、僕は別に……」


「疲れてるんだ!!」


「う、あ、はい。……疲れてます」


デュポンの気迫に押され、僕はなかば強制的に休憩に同意させられた。


「デュポン!ここにベット作ったからゆっくり休めよ」


ヴァルが創造魔法で廃墟内にベットを作ったらしい。かなりふかふかでデュポンも気持ちよさそうに横たわっていた。

…すこしうらやましい

僕たちは廃墟の外に出て、ヴァルと一緒に見張りをすることにした。


「創造魔法ってもしかして、食べ物とか作れたりするの?」


「食べ物……は少し難しいな。水とか、あと植物の種とかなら作れるぞ」


「えぇ、何でもありじゃん!!」


そんな他愛のない会話。だが、それは唐突に終わった。

目の前の空間に、墨をこぼしたような「裂け目」が生まれたのだ。


ヴァルは即座にただ事ではないと判断し、一瞬で余裕を削ぎ落とした戦闘態勢へと入る。

僕の脳裏には、第3層へ飛ばされる原因となったあの「黒い球」が想起された。


……そうなると、あれは時空間の乱れから生まれた何か!


「ヴァル!」


「分かってる! 変に刺激はしない。このままゆっくりと逃げるぞ」


ヴァルもあれが時空間の乱れによるものだと気づいているようで、僕の二の腕をがっしりと掴んできた。

……また吸い込まれるかもしれない。

僕は息を呑みながら、一歩、また一歩と、慎重に後ずさりしていく。


だが、5メートルほど離れたとき、予想もしなかったことが起きた。

引き込まれるわけでも、衝撃が放たれるわけでもない。


「なん!!」


ヴァルがいち早く反応した。

空間の裂け目から現れたのは、白髪の、暗く死んだ目をしている若い女性だった。

その暗い眼差しが、じっと僕らを見つめる。

そして、感じた。


——一歩でも動けば、死ぬ。


「あ……がぁ……お」


呼吸を忘れてしまったのか、冷たい水の中に沈められたように息苦しい。頭もうまく回らない。

ふいに、首筋にぴたっと冷たい感覚が走り、ビクッと肩が揺れた。それと同時に、止まっていた呼吸が動き出した。

見ると、ヴァルの人差し指が僕の首筋に当たっていた。指先には、薄い氷のようなものが付着している。


「ハル、隙を見て逃げろ」


ヴァルが大きく一呼吸を置いた。

息を吐き出すタイミングで、隣にいたはずの彼の姿が消える。

一瞬にして女性の後方へと回り込み、左手に握られた剣を振りかぶっていた。


渾身の一撃が、彼女の背中を切り裂く。

それと同時に凄まじい衝撃波が走り、周囲の廃墟が大きく揺れた。舞い上がる砂煙の中、僕は吹き飛ばされそうになるのを必死に耐える。

……直撃だ。あんなのを喰らって、無事でいられるはずがない。


だが、砂煙の向こうには、依然として立ち尽くす女性の姿があった。

背中からは血が噴き出しているが、まるで行き止まりにぶつかった程度の障害としか思っていない様子だった。


ふっと振り返った彼女の眼光が、ヴァルを射抜く。


——ボンッ!


爆発音が響いた。

瞬きする間もなく、ヴァルの体に手のひらサイズの風穴がいくつも開き、大量の鮮血が滴り落ちる。


「がぁは……」


口から大量の血を吐き出しながらも、彼はなんとか倒れないように足に力を込めていた。

再び剣を強く握り、死力を尽くして切りかかる。


バシュッ!


乾いた音と共に、ヴァルの両腕が吹き飛ばされた。

武器を失うどころか、両腕そのものが消滅したヴァルを、彼女は冷酷に蹴り飛ばした。

ヴァルの体はなすすべもなく弾け飛び、コンクリートの壁に激しく打ち付けられた。


「ヴァル!!」


返事はない。かろうじてぴくぴくと体が動いているけどもう戦える状態ではなかった。

そして、彼女の視線が、ゆっくりと僕の方へと移った。

こちらに向かって、一歩ずつ近づいてくる。


……だめだ、逃げないと。あれ?

気が付くと、僕はその場にへたり込んでいた。動こうにも、足にうまく力が入らない。


そうこうしている間に、彼女は僕の目の前まで辿り着き、じっと見下ろしてきた。


……動け、動け、動け、動け!

何度も念じても、金縛りにあったように足が動かない。

彼女は、ゆっくりと僕の顔へ手を伸ばしてくる。


死を覚悟したその瞬間、僕の後方に魔法陣が出現した。


キュイィィン!


巨大な光のビームが女性を直撃し、彼女の体を遠くへと吹き飛ばした。


「あ“あ”あ……怪我な“い”が?」


喉に血が詰まっているのか、うまく喋れていないヴァルが、おぼつかない足取りで僕の方へ這い寄ってくる。

さっきのビームは、ヴァルが最後の力を振り絞って放ったものだった。


「よかった。無事で。」


「は“や”ぐ、逃げ——」


言い終える前に、ヴァルの右半身が目の前で爆散した。


「おい、ヴァ……ヴァル?」


そこには、もはや原型を留めていないヴァルの肉塊が横たわっていた。

今度は呼びかけても、ピクリとも動かない。


いつの間にか、吹き飛ばされたはずの彼女が立ち上がっていた。

……嘘だろ。あんな一撃さえ、まるで効いていないのか!?

ヴァルへの心配、目の前の得体の知らない恐怖…いろいろなものが頭の中でグチャグチャになっていく。

その絶望打ち消すかのように

「アルティメットギロチンカッタアァァ!!!!」


死を確信した瞬間、頭上から轟音が降り注いだ。

周囲に無数のギロチンが出現し、猛烈な勢いでそのモノを目掛けて刃が落ちていく。


ドドドドドドドドド!


勢いは止まらない。次々と現れるギロチンが、執拗に、絶え間なく叩き伏せていく。

……このギロチンは間違いなく、黒ポンだ!


次の瞬間、ぐっと何者かに服の襟を後ろから引っ張られた。

振り向くとそこには黒ポンの状態になったデュポンがいた。


「ばかばかばかばか!!やばいやばいやばいやばい!! なんだよあいつ!!!!」


彼は僕を抱え上げると、なりふり構わずその場から遠ざかろうと地を蹴った。普段の彼からは想像もつかない、余裕を失った焦燥しきった顔をしている。


「分からない! 突然現れて、ヴァルが……」


「とにかく、ここを離脱する。ヴァルに関しては後で回収するぞ!」


黒ポンは自ら出したギロチンの刃を掴み、それが落下する勢いを利用して空中を直線状に高速移動していく。

一瞬出かなりの距離を移動移した。こんだけの速度なら逃げ切れる。

そう安堵しかけた、その時だった。


真横から音もなく伸びてきた「一筋の線」が、黒ポンの頭を正確に貫通した。


「あが……」


掴んでいた刃が霧のように消え、僕たちはそのまま地面へと落下していく。

線の飛んできた先——そこには、先ほどまでギロチンの雨に埋もれていたはずのやつは何事もなかったかのように立っていた。


デュポンは墜落の衝撃に耐え、すぐに立ち上がると再びギロチンを展開しようとした。


「ギロチンカッ!!」

だが、それよりも早く、空間に複数の細い線がデュポンを交差した。

瞬きする間に、デュポンの体はバラバラと音を立てて地面に崩れ落ちた。鮮血が廃墟の瓦礫を赤く染め上げる。


「あああああぁああ!!」


僕を助けようとしたせいだ。僕を抱えていなければ、彼はもっと早く逃げられたはずなのに。

飛び散る血飛沫の中で、僕はただ泣きじゃくることしかできなかった。

残ったのは、僕だけ。次に死ぬのは、僕だ。


ふと前を見ると、彼女と目が合った。


「あ……」


一気に視界が暗転する。

痛みさえ感じないほどの速度。どうやら、僕は死んだらしい。

「楽に殺してやる」というのは、きっとこういうことなのだろう。呆気ないほど簡単に、僕の意識は消え去った。


けれど、最後に見たあの目が、脳裏に焼き付いて離れない。


見た目も、姿も、形も。すべてが違うはずなのに。


……僕には、彼女がエンマに見えてしまった。


やっとこの話までたどり着いたってかんじで満足です。ただ話の途中に黒ポンと入れるとなんか緊張感がすこし薄れてしまい名前ミスったなって後悔してます。ここまで読んでくれた読者には感謝しかありません。あ、まだ終わってないですよ。

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