ハルは驚いた
あの集会から数週間が経ったが、未だにエンマの情報はない。もしかしたらもう、会えないのかもという不安になる気持ちが増えていく。
要塞内では、上位部隊同士による熾烈な点数争いが激化していた。
僕たちも少し外れた戦域で、機械生物の相手をしていた。
「デュポン!! そっち、来てるよ!」
「うん、わかってる!」
デュポンが鋭い魔法を放ち、向かってくる機械生物を吹き飛ばす。よろけた隙を逃さず、僕がとどめを刺した。
……一体ずつの得点は微々たるものだが、今は少しずつ積み上げるしかない。
一通りの敵を掃討し、僕たちはようやく一息ついた。
「ふぅ……。それにしても、デュポンって魔法も使えるんだね」
以前、オクスタシアさんから「固有能力を持つ悪魔は魔法を併用するのは非効率だ」と教わっていた。だから、あの「ギロチン」を操るデュポンが魔法を使うのは意外だった。
「あー少し、わかりずらいのだけど僕は無能力者で、持ってるのはあくまでも黒ポンのほうで僕自身ギロチンを出せるわけじゃない。」
「えーと...じゃあデュポンと黒ポンは完全に独立してるってこと」
「そーなるね、だから僕は魔法を使うのになんもデメリットはないってわけさ」
てっきり黒ポンの力で敵をなぎ倒すのかと思っていたが、普段のデュポンも十分に戦える実力を持っていた。……たまに黒ポンが顔を出すこともあるが、最近はあの態度にもだいぶ慣れてきた。
そんな他愛のない話をしていた時、地を揺らすような足音が響いた。
「この足音……!」
「まずい、早く逃げるよ、ハル!!」
数百メートル先。猛スピードでこちらへ向かう巨大な機械生物の姿が見えた。
……まずい、あの巨体でこの速さ。このままだと間違いなく追いつかれる。
距離は瞬く間に縮まり、振り返ればもう、怪物の影がすぐそこまで迫っていた。
「おいヴァル!! 早く助けろ!!」
デュポンがそう叫んだ瞬間、後方でとてつもない轟音が鳴り響いた。
機械生物の顔半分が粉砕され、その場によろめいて動きが止まる。
「ハル、デュポン。下がっていなさい。」
いつの間にか、目の前にはさっきまでいなかったはずのヴァルが立っていた。
「ヴァル!? いつの間に……っ!」
驚く暇もなく、彼は視界から消えた。瞬きする間に怪物の懐へと踏み込み、立ちはだかっている。
化物はヴァルの数倍はある巨大な腕で、彼を踏み潰そうと振り下ろした。
だが——その一撃は、ヴァルの手前で虚しく阻まれた。
ヴァルは汗一つかかず、顔色も変えていない。
その右手には、淡く輝く「光の剣」のようなものが握られていた。彼がそれを軽く振るうたび、巨大な腕が紙細工のように切り刻まれ、化物の体勢が崩れていく。
「ヴァル……あんなに強かったのか」
彼が一体何をしているのか、見当もつかなかった。
「強いよ。僕もまだ、本気を出したところは見たことがないけどね」
デュポンの言葉を聞きながら、僕はふと疑問を口にした。
「……というか、ヴァルはなんでずっとあのフードを被っているの?」
「さぁ。目立ちたくないんだってさ。僕が初めて会った時もあの格好だったし」
風呂や寝る時はさすがに取っているが、それ以外は徹底して顔を隠している。
顔になにか傷があるわけでも隠すようなことはなかった。
……何か、素性を知られてはいけない理由があるんだろうか。
「でも、あの調子ならすぐに倒せるんじゃ——え?」
ヴァルの戦いを見て、違和感に気づいた。優勢かと思いきや、彼はいつの間にか防戦一方になっていた。
「心配ないよ。あえて倒さないようにしてるだけだから」
「どういうこと?」
「ヴァルはこの要塞で、徹底して目立たないように立ち回っているんだ。実際、彼は案だけ強いのに無名でしょ? ……不快だけど、僕(黒ポン)の方がまだ名前が悪い意味で売れてるくらいだ」
デュポンは忌々しげに言った。なるほど、ヴァルは実力を隠すために、時間をかけて化物の戦意を削ごうとしているのか。
「……じゃあ、ヴァルはどれくらい強いの?」
「さぁね。やること全部が気まぐれだし、誰も彼の『本気』なんて見たことがないんだ」
改めてヴァルを見ると、猛攻にさらされているはずなのに、傷一つ負っていない。一撃一撃を確実にいなし、すべての攻撃を最小限の動きでかわしている。
……本当に、底知れない人だ。
それから十分。
化物は急に動きを止め、数秒フリーズした後、ヴァルに背を向けて逃げ去っていった。
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要塞に戻ると、ヴァルはパタパタと手で顔を扇ぎながら呟いた。
「いやー、流石に大変だったわ。疲れた疲れた」
「……お疲れ様。にしても、ヴァルってあんなに強かったんだね」
「まぁね。いつか君たちにもあれくらい強くなってほしいかな。俺がいなくなっても戦えるようにさ。あ、俺のことはあんまり広めるなよ?」
「言わないけど……ヴァルはなんで隠してるの?」
「無駄だよ。どうせ答えないから」
ベッドに寝転んだデュポンが割り込む。
「よくわかってるね、デュポン。その通り、言うつもりはないぜ」
ヴァルの態度にデュポンは「でしょうね」とすぐにそっぽを向いた。
おそらく、何度も繰り返されてきたやり取りなのだろう。
「ま、君たちが気にすることじゃない。もっと強くなりなさい」
あれから、僕はこの二人とかなり仲良くなった。
デュポンも、そしてヴァルも。彼らなら、きっと信用できる。
……そろそろ、聞いてみようかな。エンマのこと。
「どうかした? 何か言いたそうな顔してるけど」
ヴァルたちは、エンマの正体を知ってもすぐに襲いかかるような悪魔じゃないはずだ。むしろ、事情を話せば一緒に探してくれるかもしれない。
長い沈黙の後、僕は拳を握りしめて決心した。
「……実は、二人に聞きたいことがあって」
タイトルが全然決まらず適当につけすぎてる気がします。こんなことなら最初から1話2話ってやっとけばよかったなと後悔してます。今更全部戻すのは少しめんどくさい。




