ハルと第三層
前回のあらすじ——みんなで風呂に入った。
……さすがに恥ずかしかったな。エンマもオクスタシアも恥じらいがなさすぎると、僕から見るとどうしてもそう感じてしまう。
「やっぱ、価値観が違うのかなぁ」
第三層に来てすぐなのに、いろいろな体験をした。
まず第二層を突破してこの層へ移る時、辺りの空気が一気に変化した。どこかデジャブを感じると思ったら、第二層へ来た時と全く同じ感覚だったのだ。
あの時と同様、僕の目の前には彼女が現れた。
「アンバー……だったっけ」
「うん、アンバーだ。会うのはワーグの時の夢の中以来だね。まずは第二層踏破おめでとう。この調子で、私の兄弟を倒し続けてほしい」
「……やっぱり、関係があったんだ」
アンバーは最初、レコリフ・アンバーと名乗っていた。でもって二層の門番の名前はレコリフ・オブシディア。やはりつながりがあったようだ。
「そう。そして第三層の門番はレコリフ・ルビー。この子も私の兄弟の一人だよ」
「……ってことは、アンバーもどこかの層の門番っていうこと?」
思わず少し身構えてしまう。
「ん? まあそうだけど、戦うことはないかな。私は第五層の『願いの間』を担当している管理人であって、門番とはまた少し違う。それに、私に戦闘力は皆無だから」
アンバーは困ったように笑った。
「ごめんね、詳しいことを話している暇はないんだ。また話す機会があったら話すよ。第三層は、今までになく苦労を強いられると思う。だけど、どんなことがあっても生きることを諦めないでほしい。それだけで、君はきっとなんとかなる」
「なんか、これといったアドバイスとかはないの?」
「アドバイス……ね。まあ今言ったことが一番大事だけど。そうだね……何かあったら『アルヴァトス』という悪魔を頼るといい」
「アルヴァトス?」
聞き覚えのない名前に首を傾げる。
「閻魔大王候補筆頭の悪魔。彼ならきっと君みたいな人を見捨てることはしないし、君を裏切るという心配もほぼいらない。ま、会えたらだけどね」
「……一応、意識しておきます」
「そろそろ時間かな。あ! ここでのことはエンマには言ったらダメだからね。それじゃあ」
その言葉とともに辺りの壁が崩れていく。そうしてしばらくすると、景色は第三層の火山へと変わっていた。エンマには少し怪しまれたけれど、なんとか誤魔化せたみたいだ。
でも、その後に会ったエリーゼっていう閻魔大王候補の悪魔は、とにかくおかしかった。一目見ただけで、一瞬で頭の中がかき回されるような、今まで感じたことのない気持ちにさせられた。
……正直、あれは怖い。
そしてあれから一日が経ち、僕たちは出発することになった。試練の間までは二日間ほどで着くとのことだった。
「あれ、なに?」
出発する僕たちの前には、執事たちによって神輿のようなものが担がれていた。
「何って、私が入るに決まっているわよ」
その神輿にエリーゼが近づいていく。
「えっ!」
「私がこんなところを徒歩で行くわけないじゃない」
彼女は全く疑問を抱いておらず、当たり前のことを言っているという顔だった。
そんなこともあったが、僕たちは豪邸を後にして試練の間へと出発した。道中、足場が悪くてたまに転びそうになる。しかし、神輿を担いでいる執事たちは表情一つ変えず、黙々と足を進めていた。
「そういえば、エンマ。どうやって第三層を攻略するつもりなの? 話を聞く感じだと、かなり厳しくない?」
最後に第三層が突破されたのは、千年前のエンマがいた時らしい。つまり、エンマが突破した後の千年間、誰も突破できていないわけだ。
「うーん。正直、第三層を私たちだけで攻略するのは絶対に無理だと思う。門番の名前はレコリフ・ルビー。オクスタシアがいたとしても、こればかりはしょうがない」
「あの門番は、私の最大火力でも倒しきれませんでしたからね」
「え!! オクスタシアさんでも!?」
「ええ。どちらかというと、ルビーを倒せない理由は圧倒的な再生力ですから」
「再生力……」
昔のオクスタシアは今のように落ち着いた性格ではなく、力もほぼ全解放していたと聞く。そのオクスタシアが倒せないということは、どんな手を使っても絶対に勝てないのでは……。
「大丈夫だって。そんな不安がるなよ。ルビーを倒す方法はちゃんとある」
エンマの話によれば、試練の間にはルビー以外にも「三体の大将軍」がいるらしい。彼ら大将軍によって、五十万もの兵が動かされている。大将軍自体も弱くはないが、ルビーほどではないという。重要なのは、その大将軍を倒すことで、門番であるルビーの再生能力が大幅に失われるということだ。
「じゃあ、その大将軍を倒せばいけるじゃん!」と思ったが、その大将軍三体がそれぞれ強い再生力を持っているらしい。しかもそれぞれ距離が離れていて、大量の兵士を従えている。一体を倒しきることすら困難なのだ。
……あれ、本当に勝てるの?
「だから、試練の間ではできる限り仲間を集めたい。試練の間にいる他の閻魔大王候補とは、敵対するんじゃなくて協力関係になりたいわけだ」
「まあ、なんとかなるから。ハルは私たちについてくればいいんだよ」
エンマに頭をポンポンとなでられた。改めて自分よりも小さいエンマになでられるのは少し照れてしまうけれど、嫌ではなかった。
……むしろ、心地いい。よし、僕も頑張ろう。
「あらあら、君たちは本当に仲がいいみたいですね」
神輿の中からひょこっとエリーゼの顔だけが飛び出し、話しかけてくる。
「うわああ!!」
エリーゼの顔を見て、思わず叫んでしまった。
「おいエリーゼ。次から喋りかける時は一言よこしてほしい」
「ふふ、はいはーい」
僕は、はぁはぁと息切れのようになってしまっていた。
……本当、一体どうなってるんだよ。
ふと横にいるオクスタシアの顔を見ると、少し顔を赤くしていて面白かった。
次くらいで第3層の試練の間に着くと思います。たぶんおそらくエンマ視点です。




