オクスタシアとアルカ2
青い光に包まれた数秒後、目を開けるとそこは見覚えのある場所だった。
「あれ、どうしたんじゃ? 急に……」
目の前にはエミさんがいた。
私は思わず口を開けて呆然とする。慌てて辺りを見回すと、そこは私やエンマが先日まで滞在していた村だった。
……なんで急に? 確かに私はアルカと戦っていたはず。まさか転移魔法か?
青い光に包まれる前に見えたあの魔法陣。今考えれば間違いなく転移魔法だ。
しかし、転移魔法は目的地の正確な座標がなければ成立しない。この村は秘匿してきた場所だ。アルカたちに知られるはずがない。
考えを巡らせていると、すぐ後ろから再び青い光が漏れ出す。
その中から、アルカと雑兵たちがぞろぞろと姿を現した。
「どうだい、オクスタシア」
「……なぜ、この場所を」
「それはどっちの意味かな? なぜこの場所に転移させたのか。それとも、なぜこの場所を知っているのか」
「……両方だ」
「ふふ、どちらの理由もオクならすぐに気づくよ」
騒ぎを聞きつけた村の住民たちが外に出てくる。
「エミさん! みんなをここから避難させて!」
「……わかった。オクスタシア、無事でね」
「あぁ」
エミさんはそのまま村人たちの方へと駆け寄っていった。
「逃げられるとでも思っているのかい?」
アルカの言葉とともに、村の周囲が不気味な光に覆われる。
「結界か……」
「嬉しそうな顔をするじゃないか、オク」
……だいたい分かってきた。アルカがここに私を転移させた理由が。
次の瞬間、悲鳴が聞こえた。逃げ遅れた村人たちが、アルカの兵によって襲われている。全く躊躇のない暴力だった。
「はぁ……本当に悪趣味な奴だな」
「ふふ、口調が戻っているけどいいのかい?」
「……はぁ」
ここの悪魔たちは数百年間まともに戦っていない。これから行われるのはただの虐殺だ。
私だけを狙うならまだいい。だが、他を巻き込むことだけは許せない。
内側から怒りが膨れ上がってくる。無意識に頬の糸に触れていた。私の中で何かが決壊した。
……いいよね、別に
糸を抜き、アルカを強く睨みつける。
縫い付けていた口角が自然と上がった。
「ぶち殺してやる」
「やってみ――あぁっ!?」
アルカが答え終わる前に、その顔面を衝撃で切り刻む。再生する前に怯んだアルカのみぞおちを、思いっきり殴りつけた。
「ガッ、アァッ!!」
アルカはそのまま結界の壁まで吹き飛ばされた。
「はぁ……落ち着け、私。怒りに身を任せてどうする。頭で考えろ」
自分の頭を叩き、理性を保とうとする。
今やるべきことは――。
すぐさまワープを使い、襲われている悪魔たちのど真ん中に立った。
突然のことに相手は何が起こったのか分かっていない。
一呼吸のうちに、そこにいた兵士たちを切り刻む。腕、足、目を優先的に狙っていく。一瞬にして敵を無力化した。
「あ、ありがとうございます、オクスタ……シアさん」
お礼を言ってきた悪魔は、私の頬が裂けた顔を見て怯えていた。
「…あぁ。それよりも、周りにいる悪魔をできる限りここに集めて」
集中し、周囲に小規模な重力のバリアを展開して村人たちを覆う。
……これで、とりあえずは)
ひゅんと後ろから何かが飛んでくる音がした。振り返ると、吹っ飛ばしたはずのアルカがもう戻ってきていた。
「オクスタシアは本当に優しくなったね……」
その言葉の後、アルカの背後に無数の魔力弾が出現した。
…私じゃなくて、後ろの悪魔を狙っているのか!?
前方へ大きなバリアを作り、全弾を受け止める。
結界の強度は高く設定したが、アルカの一撃に油断はできない。
…一旦、アルカをここから引き離さないと
バリアを維持しつつ、アルカの周囲の空間を歪ませる。アルカの体は裂け始めるが、すぐに再生が始まる。
再生していくと同時に、後ろから血飛沫と悲鳴が聞こえた。
「あがあぁああああ!!」
振り向くと、さっき私が手足を切り刻んで倒していた敵兵の体が、さらに大きく裂けていた。
……私は今、あの悪魔に何もしていない。何が起きているんだ?
「どれだけやっても無駄だよ。僕にダメージを与えることはできない」
次の瞬間、再び青い光が走り、200ほどの増援が現れた。
…まずい。このまま増え続けると守りきれない
アルカを仕留めるには最大出力の重力で潰すしかない。だが、それをすれば村人も木っ端微塵になる。アルカはそれを狙ってここを戦場に選んだのだ。
「ザイン」
アルカは近くにいた兵を剣に変えた。依然として斬撃を飛ばし続けているが、一切の効果はない。
どうするか。そう考えた時、すぐ横にいた兵の体からミシミシと骨の軋む音が聞こえた。苦痛に顔を歪ませている。
それに気を取られ、剣への警戒がわずかに遅れた。慌てて重力バリアを展開する。
――これ、食らっちゃいけない奴だ
咄嗟に後ろへ下がる。剣はバリアにぶつかった瞬間に砕け散った。しかし、その一撃でバリアはいとも容易く粉砕され、残った衝撃が私の胸を切り裂いた。
「う、ぐぅ……っ!」
傷は深くないが、久しぶりの痛みに思わず声が出る。
「ははは、よそ見をしているからだよ」
「……はぁ、落ち着け」
切られた場所を抑えながら今起こったことを整理する。
さっきも何もしていないのに兵が血を流した。今も隣にいた兵が突然苦しみ出した。
偶然なわけがない。明らかに何かある。そしてアルカの出した剣。威力は強すぎるのに、バリアに当たっただけで砕けるほど低耐久だった。
「……痛みを、他人に押し付けている?」
ふと漏れた声に、アルカが少し驚いた表情をした。
「気づいたか。さすがオクだね」
ほとんどただの思いつきだったが、アルカの反応を見る限り当たりだ。アルカは能力を使い、他人に自分のダメージを押し付けている。
それなら、あの不自然な剣や槍にも納得がいく。
ダメージを押し付けているのは、おそらく契約した者の魂のコピーを自分が持つことで発動している。魂に干渉できるなら、さっきの剣に魂を込め、一時的に強化しただけ。剣がすぐに砕けたのは、剣自身が魂の重さに耐えられなかったからだ。
…思えば、最初の槍もすぐに砕けていたな
バリアを破る剣と、ダメージの肩代わり。私という悪魔を殺すには十分すぎる条件だ。
「さすがオク、全部気づいたかい?」
「あぁ。にしても酷いな。契約でそんなことまで。いつもは契約した悪魔の能力を使っていたじゃないか」
「すべてはお前に勝つためさ。そこらへんの悪魔の力を使い潰しているんだ」
アルカの瞳には一切の澱みがなかった。
「種もバレたみたいだし、ダメ押しで」
アルカが手を合わせるそれとともに周囲にいた兵たちの体から、軋むような音が響く。
「い、いやだ……嫌だぁー!」
兵士たちの悲痛な叫びとともに、彼らの体は紙を丸めるように粉々になった。
それと同時に、空間に巨大な穴が開く。
……これは召喚魔法か
穴の中から、骨で構成された恐竜のような怪物が這い出してきた。
つぎの一話で決着つけたい。なんか戦闘描写とか能力の説明ばっかになってうまく書けてないなってなってます。




