第八話 上 再会の町ゲルシュニアウプ、そして王宮
ピドーと小虎はケッセンを脱出する。
南の青神殿へ行きつく前に寄った町で
再び運命が絡み合う。
第八話 上 再会の町ゲルシュニアウプ、そして王宮
部屋の中は既に暗かった。
ピドーが灯りを付けた。眩しさなのか小虎の肩がぴくりと跳ねた。ソファから滑り降りそうになったものの、すぐに座り直す。顔色は更に白く、殆ど色がない。髪の色と相まって、まるで蝋細工のようだった。ゆっくりと帽子のつばを下げる。宝石の輝きを放つ瞳を隠した。
ピドーは胡坐をかいたままで後ろに倒れた。手足を広げる。天井を眺めた。父を横目で伺う。
「親父の話の通りなら…シロクマって呼ばれているじゃないか」
「…そうだったか?」
長い話を終えた父の声はいつもの調子だ。辛さや悲しみを充分に味わっただろう。だがそれを見せようとしない。レイナーはジャックを『穏やか』と称していたが、寧ろ強いのかもしれない。通信機をいじっている。
「そろそろ次の定時連絡が来るはずなんだが…遅いな。さすがにばれたか」
ピドーは寝転がったままだ。
「…親父。ハイケは無事だったんだな?」
「そうだ。だが…まあショックが大きいようだな。カイと一緒にソフィアを離れた」
ピドーは腕を顔に乗せた。目が隠れる。唇が歪んだ。
「やっぱりシュペートがいたからソフィアが襲われたのかな?」
「否定はできない。彼を恨んでいるのか?」
「…ああ…うん…よく分からない…」
家と生活の基盤は再び全て失われてしまったし、死傷者が出た。だが出自は彼のせいではない。シュペトレーゼの穏やかで困ったような笑顔が浮かぶ。
…僕は王太子じゃない…
シュペトレーゼの言葉の意味がようやく分かった。名前を王太子に使われている。キルヒェガルテンで見た写真は替え玉だ。
本人が望んだわけではなく、北州に連れて来られた。内戦が続く限りシェレンスは切り札である彼を手放さないだろう。
決して恨んではいない。ピドーはそう思った。憎むべきは内戦であり国の現状なのだ。
やがてジャックが言った。
「小虎とソフィアに戻れ」
静かな声だった。ジャックは二人の少年を見下ろす。
「お前達の力が役に立つだろう」
「嫌だ」
のろのろと腕を下ろした。ピドーは目だけで父の姿を追う。やがてがばっと起き上った。
「お袋は巻き添えを食ったんだろう?」
「…その通りだ」
「どうして犯人を探さない? 母ちゃんが死んでも平気なのか?」
ノイコムの証言からすると、ロッタを殺害したのはティーガ族だ。
「そんなわけがあるか。俺はお前らを守りたかっただけだ。おまえは仇を討つつもりか?」
「違う。内戦の始まり自体が太陽神話のせいかもしれない。俺は、もうそこに足を突っ込んでいるんだ。だったら最後まで付き合ってやるよ。最初に神話のシステムを動かした奴にな。黙って乗っかってなんかいられるか! ぶん殴ってやる。世界の崩壊なんかさせてたまるか。犯人捜しはその後だ」
拳をもう片方の手のひらに叩きつける。父を見つめる瞳はまっすぐだった。
「小虎。お前は親父とソフィアに行けよ」
小虎は黙ったままだ。いつものように俯いている。懸命に言葉を探しているようだ。しかし、なかなか感情に沿う単語を見つけられない。小虎にとって会話は必要のない物だった。元々の言語は北事変によって奪われた。いやおうなしに連行された地では、語るべき内容も相手もいなかったのだ。
「二人とも、だ」
ジャックにしてみれば子供だけで内戦中の領内に行かせたくはない。ただでさえ娘が重傷を負っている。
小虎がまた窓の外を伺った。帽子を深くかぶり直す。
「へいたい、来る」
「いよいよか。フランツって奴か?」
「違う」
怪我の治療の為に拘束を免れていただけだ。爆破事件もあり、そろそろ拘束されるかもしれない。通信機が鳴った。ジャックが無言で出た。答えずに切った。
「お前は誰だ? とさ。答えるはずがない。なぜここがばれたんだ? ハンナの方から漏れたか…」
密告ではないだろう。ハンナが契約した部屋だから捜索対象となったのかもしれない。
「だったら、まだ誤魔化せるかもしれない」
娘の見舞いに来ただけと言える。ジャックは通り側のカーテンをそっとめくった。二人の男が降りた。どちらも軍服だ。
すばやくカバンを掴んだ。ピドーの背にジャックが言う。
「さっきの話は覚えているな? 早く行け。財布は渡してあったな」
「え、親父は?」
「誰も居ないとまずいだろう。時間を稼ぐ。いいか、カーク商会の支店だ。オスヴィン・ゲープハルト氏だぞ」
「さっきの話の人?」
「そうだ。ソフィアへ戻れる手配をしてくれるだろう」
「でも」
「早くしろ」
ジャックはドアの前に立って外の気配を伺っている。
小虎がさっさと寝室の窓を開けていた。手慣れた様子で外に出た。ピドーも続く。身を伏せた。低い姿勢で進む。小虎は人のいない場所を選んで進める。すぐに大通りに出られた。人通りがあり、二人は目立たない。
ケッセン駅ではまだ喧騒が続く。
火災は収まったようだが、目や鼻を直撃する焦げたにおいが強い。相変わらず人並みが右往左往しているし警官や軍人が怒鳴ってはいる。しかし爆発箇所から離れたホームでは、かろうじて運転が再開されたようだ。雑音にかき消されようになりながらも何度も放送が流れていた。南州へ向かう列車についてアナウンスもあった。
「…ゲルシュニアウプ経由クロイツベルク行き特急列車は運休いたします。本日は全て各駅停車となります。各駅列車は出発準備が整い次第、発車となります。お乗り遅れのないよう…」
二人は急いでホームに向った。どこでも人があふれ出しそうだ。誰もが自分たちの事で精いっぱいだ。
車両も乗客でいっぱいだ。何とか体を押し込んだ。座席はもちろん、通路やデッキも乗客だらけだ。二人は人垣を掻き分けてデッキに落ち着いた。ここもほぼ満員だ。柵の近くに小虎を座らせる。彼はすかさず外向きに座った。それをかばうようにピドーが立った。柵に腕を預け、うずくまる小虎を見下ろす。
「お、いいじゃねえか。外の景色を見たい子供そのまんま。じゃなけりゃ乗り物酔いだな」
帽子を押さえて、ちらっと小虎が見上げる。少し唇が動いた。しかし何も言わなかった。
警笛が空気をつんざいて響いた。ごとん、と車輪が回る。蒸気機関の吐きだす煙が頭上を流れた。人と音でごった返す駅を離れる。高い建物の間を縫って列車は西へ動き始めた。
しばらくは街区のようだ。風が二人をなぶって通り過ぎる。
ピドーは柵に寄り掛かって空を眺めた。雲が流れて行く。星はない。ポケットに手を入れた。ジャックの財布に触れる。無意識にぎゅっと握りしめた。
「親父、どうしたかな」
「近く」
「まだアパートか?」
「うん」
小虎の返事はそっけない。飛ばされないようにしっかりと帽子を押さえている。
ピドーの千々に乱れる気持ちは、強い風にも乗らずに留まったままだ。心を重く押さえつける。過去を聞いたところで、現在の問題は何も解決しない。
(もどかしい…)
誰か、すぐにでも正解を耳元で叫んでほしい。もちろんすっきりした事の方が多い。だが違和感は残ったままだ。
(親父の話に小虎が出て来なかった。『西の白』の爆発には遭遇したんだ。でも『北の黒』はどうしたんだ? 敢えて何も話さなかったのか?)
汽車は煙を吐いて暗い空の下を進む。
「暑い暑い暑い」
ピドーはずっと呟いている。頬は赤く、額や首筋には汗が流れていた。公衆電話のボックスの中にいる。扉を開けたが、中はとても蒸していた。
ソフィアの工業地区には、電話が繋がらない。ピドーの居住地だ。復旧はまだまだらしい。
次に中央地区にかけた。こちらは直接的な被害を受けていない。ソフィア師団の事務所は、呼び出し音が長かった。かちゃり、と受話器を当てる音がした。
「はい…」
「あっ、出た!」
男性の声が聞こえるなり、思わず派手に叫んでしまった。無言になる相手に急いで話しかけた。
「自分はピドー・エフェレットです。ジャック・ドッジソン・エフェレットの息子です」
「本人か?
「もちろん。あっ人定確認する? 何でも聞いて! その声はハロルド? 姉ちゃんがいっつも泣き虫って呼んでいただろう」
はあ~とため息が聞こえた。それから、実は長い本名と誕生日と家族構成を聞かれた。本人の証明になったようだ。
「確かにマリアにはよく『泣くな』と言われたな。昔の話だ。まあいい。どこにいる?」
「南州」
「はあ?」
少し間が空いた。話し相手が交代だ。
「ピドー! 僕だ、イーブだ。マリアが大けがしたって? 親父さんもそっちへ向かったけど、会えた?」
「うん。会えたけど、はぐれた。姉貴は…入院中。もし師団に親父から連絡が来たら、伝えてほしいんだ。俺たちは無事で南州にいるって」
「南のどこだ?」
「今はゲルシュニアウプって所。これから南の青神殿に行くつもり」
「こんな情勢でまさかの物見遊山かい? 学者さんはどうした?」
「キルヒェガルテンから別行動。南の青神殿に行くんじゃないか。それに観光じゃないって」
「とにかく気をつけろ。早く戻れよ」
水に落としたインクのように、情報とは広がるものだ。ピドーはまだその危険性を理解していない。
南州はその名の通り連邦の南部の海沿いに位置する。東西に長い。州都ゲルシュニアウプは海辺からは遠かった。それでも湿った南風が吹き込む。まだ春の終わりで道行く人は薄い上着を羽織っているほどだ。Tシャツで汗をかいているのはピドーくらいだった。温度よりも湿度が辛い。
少し後ろを歩いている小虎もパーカーだ。フードはかぶっていない。デニムのオーバーオールは少し暑そうだ。新品で生地の青さがまばゆい。髪の色はピドーとよく似た茶色に染められている。買ったばかりの眼鏡は、牛乳瓶の底にも見えるほどレンズが厚い。敢えてのぞき込まれない限り、何とか瞳の色を誤魔化せる。
ピドーは地図帖を広げた。
「ここからどれくらいかかるんだろう」
列車はゲルシュニアウプから更に西へ向かう。グリュースゴットは南方向だ。乗り換えが必要になる。小虎の髪染めの必要もあり、下車したのだった。到着は既に深夜だった。おかげで夕べは駅の近くで野宿だ。
朝になってから毛染め剤や眼鏡や地図帖を買った。駅のトイレでこっそり髪染めだ。それで午前中はすっかり潰れた。それから子供二人でも泊まれる宿を探した。小さなコンドミニアムタイプのホテルが見つかった。まだ部屋には入れないが、荷物を預かってくれた。おかげで身軽だ。
小虎が呟いた。
「どこ…?」
ジャックの勧めを振り切り、強引に逆方向へ向かったのだ。まさか南の青神殿の場所を知らないとは。
「着けばいいんだよ」
振り返るなり、地図で小虎の頭を軽く叩いた。
ゲルシュニアウプ中央駅から少し離れた場所にいる。
小ぢんまりとした商店街が続いている。車がやっと通りぬけられるほどの通り沿いだ。くっつきあって建物が並んでいる。せいぜい三階建てで、平たい屋根だ。漆喰で固められた壁は、濃い青やピンクに塗られている。色は派手だが、ジュールの街並みにどこか似ている。
店の商品は道にはみ出すほどだ。花の籠や果物の屋台など、日傘の下に陳列してある。たまに通る車は、それらを縫ってゆっくりと進んだ。
「もどる?」
「どこへだよ。ここにもカーク商会の支店があるらしいんだ。ほら、行ってみようかと」
ソフィアに戻るつもりはない。色々と情報を入手できるかもしれなかった。
詳しい街区図を開き、指を指す。小虎は首を振る。見ようともしなかった。
「あ、そっか。その眼鏡じゃあ読めないな」
「違う」
「え? じゃあ何だよ」
ピドーは小虎の鼻先に地図を突きだしだ。
「ここが現在地なんだよ。で、上が北、下が南」
「字」
「あー、字が読めないか」
うるさそうに一旦は払おうとした。だが、ふと小虎の手が止まった。しげしげと地図を眺める。最後にはピドーから地図帖を受け取った。すっと小さな指が紙の上を滑った。
「ホテル。駅?」
「そう。あれ、分かるじゃないか」
しばらく首をかしげた。
「人たくさん。だから」
ホテルの位置は、フロントの係員でわかった。離れた場所でも、小虎は人を光として認識できる。しかも地図があればそこに重なるのだ。
「そりゃ便利だ。じゃあこれ、お前に預けておくわ」
半ば強引に押し付けられた地図を、手の中でもてあそぶ。
「で、カーク商会どっちだ?」
「わからない」
「へ?」
人はそれぞれ固有の光を放つ。それを認識するのは、顔を見るようなものだ。知っている人物なら、たくさんの見知らぬ顔から探すのはできる。しかし知らないのに探すのはできない。小虎がピドーを追いかけられたのは太陽の爆発があったからだ。
「なるほど。じゃあ寄越せ」
ピドーはまた地図を持った。カーク商会を探す。
「あー駅の近くに支店があるんだ」
ここか、と指を指す。
「俺たちの無事も知らせてくれるかな」
自分たちを逃がす為にケッセンのアパートに残ったのだ。行くように言われたジェールではないが、同じカーク商会だ。
「親父がどこにいるか分かるか?」
小虎は首を振った。ゲルシュニアウプの地図にはジャックを感じられない。
「遠く」
「無事なんだな?」
「生きてる」
「まあ…良しとするか」
手の届かない場所だ。小さくため息をついたが、ピドーは頭を振って心配を追いだした。何しろ北の白熊だ。困った状況になっても何とかするだろう。
二人はとある店の前で足を止めた。主に果物を扱う店らしいのだが、ウインドウの中には缶も並んでいる。一抱えほどもあった。ピドーの鼻には色々なハーブの香りが潜り込んでくる。その隣の店はウインドウが無い。普通の窓だ。しかも曇りガラスで中が良く見えない。緑のドアにそっけなく『営業中』の札がかかっているだけだ。それでもピドーには分かった。香料の店だ。
「こんにちはっと」
迷わずドアを押した。一瞬ためらった小虎だが、おずおずと着いて来た。
店内は嗅ぎ取った通りだ。理科室か、薬局のような造りの内装だった。カウンターがあり、鼻眼鏡の男がぎょろっと来訪者を目踏みする眼つきで座っている。背後には棚がびっしりだ。上部の棚にはガラス瓶入りのハーブや乾燥した香料の元が入っている。引き出しにも同じような品が入っているのだろう。薄暗いのは、遮光で保存した方が良い商品の為だ。
主人は眼鏡をずり上げた。頭頂部にわずかに残った白髪をちょっと撫でつける。そしてにこっと笑った。
「いらっしゃい。お父さんか、お母さんのお使い?」
完全に子供扱いだ。
「俺! 俺の用!」
ピドーは頬を膨らませた。
「調香師の見習いなんだよ。材料が全部流されちまったから…」
そこまで言って言葉に詰まる。いつソフィアに戻れるのか分からない。戻ったとしてもすぐに香水を作成するのは難しいだろう。
「あー! 勉強だよ、こん畜生!」
「そうかい、感心だねえ」
客が少ないのだろうか。子供でも相手をしてくれるようだ。主人はカウンターをくぐって出て来た。二人に丸い椅子をすすめる。ピドーは座ったが、小虎は出入り口近くに立ったままだ。
「流されたって? 洪水とか? そんなのあったかな?」
「うん…まあ」
「そうかい。大変だったね。どんな材料が必要なんだね?」
「欲しいのはまずムスクだな。使っていたのはローズ、ラベンダー、ミントとか。バニラやオレンジ…。植物系ばっかりだから、香水っていうよりも香料とかハーブエッセンス作ってるみたいだな~」
「ふうん。どこの工房?」
言っていいものか、すこし戸惑う。北州ソフィアの名前は出しにくい。
「えーっと、エフェレットってんだけど」
主人が目を丸くした。
「え? ホントに? まさかクロイツベルクのゴドーさんの所? まだやっているのかい?」
「ううん。ダメになっちゃったから別のところに移った…だいぶ前だけど」
「そうだろうね。ゴドーさんが急にお亡くなりになったそうじゃないか。もうずいぶんになるよね? 内戦前だったか」
ピドーが目を丸くする番だった。
「爺ちゃんを知ってるの?」
「おや。お孫さんなのかい? そりゃ奇遇だねえ」
主人は、まるで自分の孫を見るようにピドーを見た。
「会った事はないけど、顔は知っているよ。有名人だったからね。取引なんぞ、ウチみたいに小さな店は無理だよ。なんたってクロイツベルクのエフェレット工房って言ったら、王室御用達だったじゃないか。中でもゴドーさんはすごい嗅覚で警察犬の代わりに犯人の追跡までしたとか…」
「してねえよ!」
「そうかい?」
主人は笑った。立ちあがって、横の壁にあるドアを開ける。持ち出したのはポットとティーカップだった。
「ハーブティーだよ」
「ども」
カップを手に取る。
「カモミール、ローズヒップ、ミント…アップルミントだろう」
「良く分かるな」
「うん。俺、一度嗅いだら忘れないんだ。爺ちゃんは三千種くらい嗅ぎ分けられたらいいって言ってた。それより大事なのは表現力だって」
何をどのように組み合わせるか。種類が分かるよりも、もっと大事なのは香りを表現できる能力だという。
「あっ、そうだ。ここには無いかな? 甘くて、けっこう個性的な香りなんだけど、何だか分からなくてもやもやしてるんだ。爺ちゃんの工房にはあったと思う」
「甘い。ふむ。色々あるけど、フローラル系?」
華やかな甘い香りと言えばこれである。
「違う。爽やか? でも甘い。樹脂系かな」
「樹脂系ね。うーん、爽やかかなぁ。白檀は?」
これも香木だ。安息香、別名サンダルウッドである。薄くカットされてセンスなどにも使われる。芳醇な甘さを持つ。
「近いけど、もうちょっと柑橘系っぽい」
「王室の工房だよね? 色々と揃っていただろうね。うーん。じゃあ珍しいところでフランキンセンスは?」
主人がまた立ちあがる。引き出しから白い塊を出した。親指の爪ほどの大きさだ。カンラン科の木の樹脂である。またの名を乳香。
「もっぱら焚いて香りを楽しむんだよ。このままじゃあまり香らない。水蒸気蒸留で香水にも使うね」
「ふうん…」
手の中で転がす。香りはかすかだ。けれどもピドーには充分だった。
「これだ…!」
キルヒェガルテンのホテルで嗅いだ香りだ。
「すっきりしたー!」
「そりゃ良かったね。買う?」
主人の目が笑っている。それに疑問を覚えつつ、おそるおそる尋ねる。
「俺にも買える値段?」
「あはは、どうかね。輸入物しかないし」
値段を聞いてピドーはがっくり肩を落とした。
「無理…。ほら、小虎も嗅いでみろよ」
と、乳香を鼻先へ突きだす。小虎はあらぬ方向を見ていた。おざなりに鼻を近づける。ピドーの手の平の温もりで、多少は薫っていた。小虎の眉がわずかに跳ねあがった。そして、またぐいっとそっぽを向いた。
それからしばらく香料談義が続く。
店を出てから、小虎が呟いた。
「あれルーカ」
「え? 『西の白』だよな。フランキンセンスを使っているのか?」
「うん」
「やっぱりなあ。ホテルであの匂いを嗅いだぞ。何で管理人を殺したかな」
「知らない」
小虎の話は決して自ら広がらない。質問に答えるだけだ。
「そっか。ルーカと管理人って知り合いだったのかなあ?」
「知らない」
「ルーカと管理人で何か揉めたのか?」
「怒られた」
「何で怒られたんだよ?」
「知らない」
「意味分かんねえよ」
小虎の返事も投げやりになってきた。一方的に質問をし続けるのにも疲れてきた。ピドーも口をつぐんだ。
熱気が道路からも迫って来るようだ。
太陽が中天に近づいている。光はますます強い。ピドーは額を拭った。頭がふらふらする。小虎の顔がぼやけた。足元が不意に柔らかくなったようだ。光景が歪む。地面が迫って来る。
あわてて小虎の肩につかまった。足を踏ん張る。
「なんか気持ちが悪い…」
頬が火照る。暑いのに背中を寒気が走った。
「カーク商会、後にするか。ちょっと…戻ろう」
駅から少し離れた場所が二人のねぐらだった。周囲に同じような建物が並んでいる。こじんまりした二階建てだ。ドアを開けるとカウベルが鳴った。小さなロビーだ。横幅は二、三メートルほどしかない。壁には風景画がかかり、観葉植物も葉を揺らす。カウンターはない。入ってすぐにガラス窓がある。その向こうが管理人室だ。ふっくらした中年の女性が窓を開けた。戻って来た二人をちらりと見る。グリンクラフト人らしい茶色の髪を頭頂部で束ねてある。ちらほらと白髪が混ざっていた。胸につけた名札は『マリアンナ』だ。よろよろしているピドーに声をかけた。
「おかえり。昼は食べたの?」
「まだ。ちょっと早いけど部屋に入れるかな?」
「そうだねえ…」
鍵をもらおうとピドーが手を伸ばす。もう片手で半ば小虎にもたれるような恰好だ。
管理人はピドーの手首をギュッと握った。
「熱いね。顔色も普通じゃないよ。気分が悪い?」
「うう」
鍵を受け取ってピドーは呻いた。目の奥が痛むし、ちかちかする。なかなか焦点が合わない。
「叔父さんと連絡は取れたの?」
「…まだ」
子供だけで泊めてもらう為に、親戚を頼って来た兄弟だと軽い嘘をついている。ちなみに宿帳では小虎の名前はピシェッツだ。
「しょうがない。特別だよ。早く横になりな。はいよ、二階に上がりな」
部屋の準備はできているようだ。マリアンナは鍵をくれた。
「へい。ありがとう」
「転ぶんじゃないよ!」
マリアンナは窓から身を乗り出すような勢いだ。その前を過ぎた。大きな鉢植えの置いてある角を曲がる。足を上げるのも辛い。部屋のある二階へ上がるだけでも息が切れる。
部屋は寝室が一つ、リビングと台所だ。カーテンは閉まったままだ。まるで知人の家に来たような錯覚を覚える。ベッドカバーのプリントは原色が基調の大柄な幾何学模様だ。地図を放り出す。倒れるように横たわった。足を振って蹴るように靴を脱ぐ。目を閉じた。瞼の裏できらきらと星がスパークした。額に腕を乗せると、自分でもはっきり分かるほど熱い。
遠巻きに見ている小虎に頼む。
「タオルを絞ってくれ」
弾かれたように小虎が動いた。持って来てくれたタオルはびしょびしょだ。しかし、いっそ心地よい。
ドアがノックされた。小虎は飛び上がった。急いで洗面所に駆けこんでしまう。帽子をかぶったままなのに用心深さは相変わらずだ。
「何だよ…」
ピドーがふらふらと起き上った。裸足のままドアを開ける。
「はいはい」
扉の向こうには管理人のマリアンナだ。片手にバスケットを下げている。
「やっぱり具合が悪いんだね。寝てな」
軽く肩を押されただけでよろめく。ベッドに逆戻りだ。
「弟ちゃんは?」
「トイレ」
彼女は荷物をサイドボードに置いた。まずはピドーを毛布の下に押し込む。額に手を当てて首を振った。
台所から水差しとコップを運び、枕元に置いてやる。バスケットから薬が出て来た。ついでゴム製の氷枕。
床に落ちていた地図を拾い、もう一つのベッドに置いた。
そして布の覆いがかかっている皿をリビングのテーブルに置いた。
「何も食べないのも良くないよ。ピシェッツちゃんも昼抜きじゃ辛いだろう。食べられるなら食べな。二人分あるからさ」
「わざわざありがとう」
「残り物さ。食べられそう?」
「…喰う」
マリアンナは肩をすくめた。サイドボードにピドーの分を運んでくれる。
「遅いね。あの子も具合が悪いのかい?」
「ああ…どうだろ。下痢でもしてんのかな」
「見て来ようかね」
狭い室内だ。会話は筒抜けである。突入されてはかなわない。小虎は急いで洗面所を出た。管理人が額に手を当てようとすると、のけぞって避ける。
「何? 取って喰ったりしないよ」
彼女は苦笑した。
「あんたは元気そうだね。ちゃんと食べなよ。兄ちゃんの看病、しっかりね。皿は後で持って来とくれ」
寝たままでピドーは手を振った。
「ありがと」
ドアが閉まると同時に、小虎の肩から力が抜けた。自分のベッドに寄りかかって床に座る。ここの寝台の足は短くて、下に潜れないようだ。
「あー、マリアってのはお世話好きになる名前なのかなあ。姉ちゃん、少しは良くなったかなぁ」
管理人は赤の他人だ。だからこそ好意はありがたい。
小虎は答えなかった。ピドーの姉がおせっかいなほど親切なのは知っている。自分の姉もそうだったのだろうか。ランデスヴァルトの生活を思い出そうとするのをやめて随分と経つ。
寝息がし始めた。ピドーは食事に手をつけずに寝入ってしまった。
眼鏡をはずし、胸ポケットに入れた。籠の覆いをめくると、パンとソーセージやハム、さらに生野菜が添えられている。マリアンナは手早く用意してくれたようだ。皿を手に取り、床に座った。いつもの食べ方だ。
かつては家があり、家族がいた。椅子に座り、揃って食事をしていたのに、あの惨劇の日からがらりと変わった。いつも人の目から逃れて食べている。しかも手づかみで。顔も思い出せない家族たち。あまり食欲はない。これもいつもだ。目の前の食物を口に押し込むだけ。食べ物の味はよく分からない。空腹感も、満腹感もそれほど感じなかった。
昔の食事の風景を思い出したのは久しぶりだ。
石造りの壁は灰色だった。テーブルには白い布がかけてある。赤い色のスープ、油で揚げたパンが大皿に盛られていた。それらを取り分ける白い手。食卓にいる全員の口元は笑っている。けれども顔は真っ白だ。無理にでも想い描こうとすると、マリアベル・エフェレットになってしまった。
小虎は皿を床に置いた。だらりと手を下ろす。最近はランデスヴァルトの惨劇を夢に見なくなった。それに始めて気が付いた時、焦燥にも似た気持ちになった。一族の光が一斉に消えていく。戸惑いと怖れと悲しみ。そんな感情が薄らいでしまうのか。
(忘れていないのに…忘れちゃいけないのに…)
ピドーを見る。タオルが額からずれていた。枕が濡れて色が変わっている。
(もうちょっと絞った方がいいのかな?)
さすがに気が付く。
体の熱が移り、タオルは温かくなっていた。洗面所でまた濡らす。ふと顔を上げると髪はピドーと同じ色だ。まるで自分ではないようだが、見返す瞳は銀色だ。
額に乗せ直す。ピドーのベッドに寄りかかった。
(眼鏡をはずしていたら? 髪を染めていなかったら?)
それでも管理人は親切にしてくれただろうか。一族を殺されて以来、周囲は全て敵だった。見つかれば殺されるか、良くてもクロイツベルクへ戻されるかもしれない。恐怖と一緒に過ごしてきたのだ。それが髪と目を隠しただけで、ごく普通の扱いを受ける。しかし自分がティーガ族なのはごまかしようのない事実だ。ピドーの言う未来はどこにあるのか? ただぼんやりしていた。
地図が目に留まる。
(どうせ読めないんだ)
だが何となく気になる。どうしても見なくてはいけない感じがした。眠っているはずのピドーが呟いた。
「…見なさい…」
言われるがままに這ったままで進む。テーブルの上に置いたまま手の平を当てた。
見知らぬたくさんの光。
(…え?)
すぐに飛び上がる。見覚えのある魂だ。急いで眼鏡をかける。ピドーを起こそうとしたが、眠ったままだ。そのまま部屋を飛び出した。
受付の前を過ぎる。マリアンナが窓を開けた。
「ちょっと! ピシェッツちゃん! どうしたの?」
小虎は立ち止まり、口ごもった。
「薬? 何か必要?」
黙って頷く。
「買って来てあげようか?」
首を振る。
「そう。ご飯は? 食べた?」
早く行きたい。何とか声を押し出した。
「…うん…」
「そう。気をつけて行きなよ」
窓が閉まった。小虎は眼鏡をはずしたい衝動にかられる。もしも銀の瞳を見たら彼女はどう反応するだろう? 追われるだろうか? そうしたいわけではない。けれども逃げまどう自分が本来の姿のような気がした。唇を噛み、町へ駆けだした。
タイヤがきしんだ。ドアが開き、金髪の青年が降り立った。空の目映さに目を瞬く。
「わざわざ送って頂いて感謝しています」
深々と頭を下げられて、エレノアは却って決まりが悪そうだ。
「いいえ。色々と世話になったし、お互い様。またいらして下さい。自分の家だと思ってと、伯父も言ってました」
運転席に座ったままで手を振る。助手席でルチアが笑った。
「叔母さん! 伯父さんの家よ。自分の家みたいに言ってる!」
「あら、私が言ったのはジェールの家よ! そこにいらっしゃいって」
細い手が頬を撫でる。ルチアはくすぐったげに身をよじった。足の包帯は相変わらずだ。赤く引きつれた皮膚が少し見える。だがやがて再生して、もっときれいになるだろう。
「ありがとうございます」
シュペトレーゼ・シュルツはほほ笑んだ。髪が陽光に透けて輝く。
ケッセン駅での爆発騒ぎで列車は運休してしまった。護衛ともはぐれ、身動きが取れなかった。そこで誘われるまま、宿を紹介してもらおうとエレノアに着いて行ったのだ。ケッセンに近い町に親戚が住んでいて、結局はそこに一緒に泊めてもらった。突然で身元もはっきりしない来客だったが、温かく歓迎された。シュペトレーゼの穏やかな品のある物腰も、警戒心を抱かせない要因だったらしい。さらにエレノアはゲルシュニアウプまでは送ってくれたのだ。車は親戚宅の所有である。
「あー、やれやれ」
エレノアはハンドルにもたれた。注文のあった品は爆発で失われてしまった。
「家に帰ったら、どう言い訳しようかな」
ルチアが彼女の髪を撫でた。
「頑張ってね。動物園はまた今度でいいわ。行けなかったのは許してあげるから」
「それはありがとう」
エレノアは身を乗り出し、シュペトレーゼに手を振った。
「ではシュルツさん。怒られに帰るわ。お気を付けて」
「あっ、はい」
ルプレヒト・ヴィプリンガーとはジェールで別れたままだ。隙を狙って脱走したのだ。ちくりと胸が痛む。
ルチアは角を曲がるまで手を振っていた。
「ちょっと待って。家に電話してくる」
娘の肩を軽く叩く。エレノアは車を降りた。近くの電話ボックスへ向かう。出たのは義姉でルチアの母ビアンだった。尖った声が耳を打つ。
「あなたねえ! こっちがどれだけ心配してるか分かってるの!」
「夕べ、電話したじゃない…。電車が動かなかったから、帰れなかったのよ。ごめんなさいって言ってるのに。落ち着いてビアン。もう帰るから…。え? 一緒の男? …ルチアが何か言ったの? 全然そんな関係じゃない! ケッセンでルチアを見つけてくれたの。遺跡にもいた人らしい…え? 金髪だったわ。大丈夫よ、シュペトレーゼ・シュルツって言うの。身分証も見せてくれたわ…」
駅はすぐそこだ。シュペトレーゼは雑踏に紛れていた。
窓口へ行く前に路線図の前で立ち止まる。西州クロイツベルクと南州ケッセン間は東西線が通じており直通で行ける。目的地グリュースゴットには、途中駅のゲルシュニアウプで乗り換えが必要だった。
「えーと…」
一人での行動には、まだ慣れていない。隔離された生活だった。そもそも基本的な社会行動が身に着いていない。通行の邪魔になっていると自覚もなく、通りすがりの人にぶつかられる。その度にていねいに頭を下げて、さらに路線の確認がおろそかになった。悪循環だ。なかなかその場から動けない。少し移動したら、今度は時刻表でひっかかる。時計と何度も見比べた。時間の配分もうまく考えられない。
(う~ん、お昼を食べてからにしようかな? でもどこで食べたらいいのかな? そうだ、まずは食べる場所を探さないと。あ、でも切符か。乗っちゃおうかな)
様々に考えを巡らせて、ようやく決まった。いつ自分の身分がばれるとも限らない。なるべく早く目的地へ行くべきだ。窓口へ向かった。グリュースゴットまでの切符を買う。
(南の青神殿を見たい)
たくさんの石板模造品があるのなら、誰かの策略である可能性が高い。ピドーがどうなったのか分からないものの、命を犠牲にする冥界の太陽だ。これ以上復活させたくはなかった。
改札前に来た。切符を係員に差し出す。
途端に体がよろめいた。手足に力が入らない。崩れて行く体を感じる。同時に、上に引っ張られた。妙な感覚だった。
「お客さん? どうしました?」
駅員の声が途中で消えた。次の瞬間には、駅前の雑踏を上空から見ていた。走っている子供に引っ張られているようだ。茶色の髪が揺れている。一緒に移動していた。子供は後ろ姿なのに銀色の瞳に見つめられているのを感じた。視線で縛られているようだ。
(え? なに…? どうして?)
体の感覚がいっさい消えている。
駅が見えてきた。改札に人だかりができている。子供はするすると彼らを縫って走った。人の輪の中央に倒れている自分が見えた。
すっと銀の視線がはずれた。浮遊感に襲われるなり、落下した。どすん、着地した感触があった。手足が痙攣する。体に自分自身がぴったり収まったのだ。目を見開く。駅員が揺すっている。
「お客さん! あ、気が付いた!」
シュペトレーゼはゆっくり起き上った。両手で顔を覆う。何が起きたのかわからない。高鳴っている心臓を押さえた。息が少し荒くなっているようだ。指先が少ししびれている。
放送が流れた。
「…ゲルシュニアウプ経由クロイツベルク行きの急行列車は発車…」
乗ろうとしていた列車だ。間に合わなかった。
「大丈夫です。すみません、ありがとう」
立ちあがってほこりを払う。心配そうな駅員達に笑顔を向ける。
「平気ですから」
気分は何ともない。落下した時の恐怖感からか、少し動悸が早くなっているようだが、それだけだ。
(何だか自分の殻から抜けたようだったなあ…)
安心したのか、人並みは崩れていく。
不意に腕を掴まれた。背後からだ。
ぎょっとして振り向く。視線が自然と下へ落ちた。
茶色の髪だ。半ば不透明な分厚いレンズが見上げている。薄い唇はへの字だ。肌の色は薄い。シュペトレーゼには十歳くらいの子供に見えた。走って来たのか、息がはずんでいる。少年はすぐに手を離した。何を言うでもない。
「どうしたの?」
少年の目線まで屈み、声をかけた。
「迷子になっちゃったのかな?」
返事はない。シュペトレーゼは辛抱強く待った。
呼吸が落ち着いて来た。やがて子供が口を開いた。はじめは聞き取れなかった。あまりに細くて小さい声なので、周囲の喧騒に消されている。
「もう一回、言ってくれる?」
少年の手を取ろうとしたが、さっと引かれた。ようやく彼が言った。
「ピドー…いる」
「え?」
思わず子供の両肩を掴もうとしたが、彼はさらに下がった。
「ピドー? 彼がいるの? どこに? 君は…」
あわてて彼も手をひっこめた。子供の緊張が伝わったからだ。体に酷く力が入っているのが見て分かるほどだ。
「驚かせたようだね。ごめん。僕もびっくりしたんだよ。ピドー・エフェレットの知り合い? 彼は無事なんだね?」
うん、とかすかに頷いたようだ。
「どこに居るの?」
シュペトレーゼは日数を急いで数えた。もう二十日以上経過している。冥界の太陽との契約はどうなったのか。
子供がくいっと顎を動かした。着いて来い、と示す。先に立って数歩行き、振り返った。髪と背中の感じがさきほどの幻影と同じだ。
(なんだろう…)
しかし深くは考えなかった。シュペトレーゼにとって、目の前の少年はいたいけな子供にしか見えない。
「案内してくれるんだね」
他人に警戒心を抱かせないのは、自身にも余計な緊張感が無いからなのだろう。人間関係においては美点ともなるだろうが、時には危険な状況にも巻き込まれかねない。シュペトレーゼはまだこの点を理解していない。子供とはいえ、名前さえ知らない人物にあっさりと着いて行く。
ホテルの入り口で、マリアンナが窓から覗いた。
「あれ、ピシェッツちゃん! 親戚の人?」
シュペトレーゼは立ち止まる。丁寧に頭を下げた。
「こちらにピドー・エフェレット君がお泊りですか?」
「お泊りも何も、熱を出して寝ているよ。兄弟二人だけで旅行させるなんて、親は心配じゃないのかい? この辺は平和だけど内戦中だってのに。でも、まあ良かったよ。連絡が取れて」
「は、はあ」
全く話が通じない。けれどもピドーが居るのは確かだ。部屋を教えてもらってそこを離れた。
廊下を歩く背中に声をかける。
「ピシェッツ君? あの」
しかし、振り返りもしない。
ドアに鍵はかかっていなかった。薄暗い室内に目が慣れると、ベッドに横たわる顔にほっとする。
「ピドー!」
まだ眠っていた。シュペトレーゼが思わず出した大声に、わずかに目を開く。眉間に皺を寄せて、壁に向って寝返りを打つ。次の瞬間、跳ね起きた。
「え! どうしてここに居るんだ、シュペート!」
落ちたタオルを頭に乗せ直す。
「うわー、目が覚めた! 本物だよな?」
そう言いつつも、熱のせいか眼つきはどこかとろんとしている。
「うん、僕だよ。ピシェッツ君に連れて来てもらったんだ」
「へ…? 俺…」
一瞬だけきょとんとする。ピドーは苦笑した。ベッドに座ってヘッドボードによりかかった。頬が赤い。
「ピシェッツリーフは俺のセカンドネームだよ。そいつの名前として取りあえず書いたんだ。初対面だったっけ? そいつは小虎。俺達はそう呼んでいる」
当の小虎は、もうベッドの陰に隠れていた。
「弟さんがいたんだね。知らなかったよ」
「…まあな」
「よく僕を見つけてくれたね。偶然ってすごいな」
「そうだな」
やっぱりだるさは抜けていない。滑るように横になる。ベッド脇の小虎の頭を軽く叩いた。
「小虎、あいつの光が見えたのか? 知ってたんだな」
わずかにのぞく髪が揺れた。
「さすがだな。小虎、ここにいらっしゃるのはシュペトレーゼ・シュルツ。又の名をハンス・ヨアヒム・フォン・グリンクラフト王太子様だ。王位継承者第一位、次の国王陛下ってわけだ」
シュペトレーゼが息を呑んだ。
「どうして知っているんだい?」
「ジーノチカに聞いたんだよ。てめえら知り合いだったんだな。ハンナさんの家じゃ皆でだましてくれて有難うよ!」
タオルを投げつける。胸に当たった。シュペトレーゼは茫然としているだけだ。
「黒カマキリはどうした?」
首を振る。唇は開いているが、言葉が出ない。
小虎が顔を出した。唇に人差し指を当てる。
「人が…」
二人は大声を出している。他人に会話を聞かれるのは避けたい。ピドーはすぐに気が付いた。口をつぐむ。
だがシュペトレーゼは小虎の能力を知らない。だから彼のジェスチャーが何を意味するのか理解できないままだ。さらにいきなり素姓を言われて気持ちに余裕がなくなった。小虎の声を遮る。
「僕は王太子じゃない。普通の人間なんだから、行きたい処に一人で行くよ」
「黙ってろ」
「いいや、聞いてほしい。僕は」
ルプレヒトに対して罪悪感がある。彼を置き去りにした行動を正当化したい気持ちだ。また、自分は守られているだけの存在ではいたくない。それを伝えたい一心だ。
「黙れって!」
氷枕が飛んだ。シュペトレーゼを頭をかすめてドアに当たる。留め金が外れ、氷水が飛び散った。ほぼ同時にドアが開く。
マリアンナだ。腰に手を当てて室内を睨む。
「あーあ。ケンカしてんの?」
心臓が激しく脈打つ。シュペトレーゼの息は少し荒くなっていた。
「汚して申し訳ありません。片付けます」
「そうしてちょうだい。お兄ちゃん、ご飯は?」
「ちょっと喰った。ごちそうさま」
「そりゃ良かった」
彼女はずかずかと部屋に入った。薬以外の物をバスケットに詰め込む。いつまでも皿が下がらないので取りに来たようだ。
「せっかく会えたんだから仲良くしなよ。全く、男の子たちときたら! 息子たちを思い出すよ」
シュペトレーゼは懸命に息を整えた。何気ないふりをしようと試みる。
「失礼ですが、息子さんはどちらに?」
「二人は西州だよ。一人は兵隊、一人は何だか商売をやっているみたいだ。もう一人いるけど、ずっと遠くさ」
「おさみしいですね」
「何が! いっそせいせいして気楽だよ」
手早く皿を片づけ、逞しい腕でバスケットを持ち上げる。
「ここには仕事がないからね。観光だって内戦のおかげでめちゃくちゃさ。戦場にならなかったってだけだ」
南州は内戦の戦場にはならなかった。穏やかな気候だが土地は痩せている。工業地帯は東州が先に発展し、こちらの開発が遅れた。肝心の観光も、温かさや海を求める北州からの客は絶える。
シュペトレーゼは黙り込んだ。内戦の影響は、行く先々のどこでも見てとれる。
「晩御飯はどうする? 持って来てあげようか?」
ピドーとシュペトレーゼは顔を見合わせた。
「何とかします」
「そう。じゃあね。私は五時で帰るけど、何かあったら言ってよ。静かに寝てなさい」
ドアが閉まった。シュペトレーゼはぺたんとソファに腰を下ろす。
「びっくりした…。まるで管理人さんが来るのが分かっていたみたいだね…」
「分かるんだよ。もう大丈夫か?」
小虎が頷いた。
「うん」
「で! 掃除道具はそこ! 小虎、また氷を入れて来てもらってくれ」
ピドーの指が洗面所方向を指している。シュペトレーゼは大人しくロッカーからモップを出し、床掃除を始めた。
小虎は氷枕を拾った。シュペトレーゼに顔を向けたが、眼鏡の奥の表情は分からなかった。足音を立てずに部屋を出る。
ピドーはまた眼を閉じた。起き上って怒鳴ったせいか、また体中が熱くなってきた。
「辛い?」
「てめえのせいだよ」
「…ごめん」
ピドーはうっすらと目を開いた。
「そこで謝るか?」
「あ、あの、ごめん」
「あはは」
思わず笑いが漏れる。
ソフィアで模擬格闘をした時と同じだ。投げたシュペトレーゼが、負けたピドーに何度も謝った。
「相変わらずだな、お前は。小虎…あいつな、知っている奴ならどこにいるか分かるっていう便利な力を持っている。だからお前を連れて来られたんだ」
「え…それはすごいけど僕らは初対面だよ?」
「そうか? もしかしたらどこかで会っているのかもな」
「記憶がないなあ…」
キルヒェガルテンでまともに顔を合わせたのはピドーだけだ。魂を抜かれたのはルプレヒトで、シュペトレーゼと小虎の接点は無い。だが小虎はシュペトレーゼを覚えていたようだ。
「へえ。あいつはキルヒェガルテンにいたらしいんだ。アディートまで付いて来た。それからずっと一緒」
「じゃあ本当の弟ではないんだね」
「まあな」
ピドーは少し笑った。
「でも、ちょっとほっとした。元気そうじゃないか」
「僕もだよ。色々な事があって、少し…なんていうかな、疲れていたかもしれない」
見知らぬ土地だ。知った顔に会うのに懐かしさを感じる。モップをしまい、ピドーの足元へ座った。
「キルヒェガルテンを出てから東州へ行ったんだ。そこから…」
かいつまんで説明する。東の赤神殿跡、ルチアとの出会い、ルプレヒト以外にも護衛が居た事、ジェールからケッセンへ、ケッセンの爆発…。
「ふぅん。バスにも一人で乗れなかったのに、頑張ったじゃないか。ケッセンには俺達もいたんだ。姉貴が怪我してさ」
「マリアが? あの爆発で? 大丈夫なの?」
「うん、とりあえず。場所はアディートっていうか、もうケッセンの近くだったからな。すぐ病院に運べたんだ。でも小虎が助けてくれなかったら、今頃…」
顔の上に腕を乗せた。瓦礫からのぞくマリアの足、シートに横たわる血まみれの体。それらは自分のせいだ。
「小虎君が? どうやって? あんな小さな子が…」
「あいつはすげえよ。魂を体から引っこ抜ける。俺も一度やられたけど、気持ちいいもんじゃないな。そのおかげでマリアは助かった」
「…魂を…抜く…?」
シュペトレーゼは首をかしげた。駅の改札で倒れた事を話した。確かに体と魂は別の場所にあるかのようだった。銀の視線を感じている間、触感はまるでなく、宙に浮いている。自分の体を見下ろすなんて初めてだった。
「あ、多分ソレだな。気持ち悪かっただろ」
「うーん。変な感じだったかな」
なぜ魂を抜かれたのか。もし倒れていなかったら、改札を抜けていた。電車に間に合っただろう。小虎は追い付けないのが分かり、強制的にシュペトレーゼの動きを封じた。
ドアが静かに開いた。小虎が戻った。素早く鍵を閉める。いささか乱暴に枕をピドーの頭の下へ押し込んだ。
「小虎君、挨拶がすっかり遅れちゃってごめん。僕はシュペトレーゼ・シュルツだよ。ピドーは遅いって呼ぶけど。彼とは幾つ離れているの?」
ピドーが答える。
「俺より一コ上」
「え? あれ? だって弟って」
せいぜい十歳ほどにしか見えない小虎とピドーを見比べる。
「しょうがねえだろ。どう見たってこいつが兄貴って言うのは無理があるだろうが」
枕がはずれた。頭がシーツに落ちるなり、べし、と氷枕がピドーの顔を直撃する。小虎がつんと顎を上げ、ベッド脇に消えた。
ピドーは唸った。枕を首の下にひきこむ。呼吸が早い。少し苦しそうだ。毛布を蹴る。
「暑い~…。も少し寝るわ」
「うん。そうだね」
復活の契約について尋ねてみたい。アディートの件もだ。色々と気にかかる。しかしピドーの具合は悪そうだ。シュペトレーゼは言葉を呑みこんだ。
やはり疲れているようだ。すぐにピドーは寝息を立て始めた。毛布を掛け直してやる。
「彼は風邪をひいたのかな?」
隠れている小虎に話しかけても返事はない。
「晩御飯はどうしようか? 台所があるけど…料理はできる?」
覗きこむと、小虎は眼鏡を外していた。宝石のような瞳がぎろりと睨み、すっと逃げる。
「君は…」
シュペトレーゼはちょっと口ごもった。自分も床に座る。小虎の隣だ。しかし、彼は這うように別の方向へ逃げた。
「小虎君。その…僕の勝手な…夢というか、幻なんだけど…。さっき駅で倒れただろう? その時に、君の顔を見たような気がしてしょうがないんだよ。変だね。ピドーは魂を抜いたって言うんだ。やっぱりキルヒェガルテンで会ったんだろうか?」
あくまで返事をするつもりはないようだ。ピドーの病気に不安になり、知り合いだろうというだけでシュペトレーゼを連れて来たのだ。特に話はない。
(ピドーがお喋りな分、彼は無口になるのかな)
本当にピドーより年上なのか確信が持てない。部屋にはラジオはない。カーテンは閉まり、薄暗い。ピドーが眠っているから明かりも付けづらかった。時計の音ばかりが響く。
(ルプレヒトは怒っているだろうか? ベルクマンさんとエイミールは…)
どうやって連絡を取ればいいのか。
北州の電話番号で覚えているのは、大学寮だけだ。歴史研究所は配属されて間が無いうえ、外からかける事はまずなかった。本当に社会から隔絶されていたのだと、改めて実感する。ケッセンから一人だ。こんなに自由に行動できるのは生まれて初めてだ。楽しくもあったが、心細かった。ピドーに会えて本当に安心したのも事実だ。
ドンドンドン。
強いノックの音がした。
シュペトレーゼは飛び上がった。うっかり眠っていたようだ。お尻が痛い。妙な姿勢をしていたせいで首も背中もきしむ。部屋は真っ暗だった。ピドーはまだ眠っている。
またノックがする。
どこからか小虎の声がした。
「さっきの」
「管理人さんかな?」
体のあちこちに砂袋を提げているようだ。引きずるように立ち上がる。リビングの電気だけを付けた。ドアを開けると、やはりマリアンナが立っている。
「ああ、本当に分かるんだ…」
「何が!」
昼間と同じバスケットを下げていた。部屋を覗いて首を振る。全く火の気はなく、寝室も暗い。
「やっぱりねえ。本当に、男ってのはどいつもこいつも! ほら、食べな」
と、差し出す。彼女が帰ると言っていた時間はとっくに過ぎていた。わざわざ差し入れに来てくれたのだ。
「ご好意はありがたいのですが、受け取る理由がありません。僕らはちゃんと自分たちで」
言うそばから腹が鳴った。マリアンナはからからと高笑いだ。
「あるだろう。どうせいっぱい作ったんだ。その方が美味しく出来るからね。今度こそ皿はちゃんと洗うんだよ。明日、管理人室へ持っておいで」
彼女は手を振って帰った。バスケットは温かい。
シュペトレーゼは寝室を振り返った。枕ははずれ、腹まで出してピドーは寝ている。床に蹴り落とした毛布を拾い、また掛けてやった。小虎がベッドに肘をついている。まるで不思議なものでも見るような眼つきだった。
「良く寝ているようだね。僕らだけで先にいただこうか」
小虎の手がさっとバスケットの中に入った。まさぐったかと思うと、パンを取るなりベッドの陰に戻った。
「一緒に食べようよ。こっちへおいで?」
反応がない。
「じゃあ僕がそっちへ行くよ」
小虎が隠れていると思しき近くに腰を下ろした。床に座って食べるなど、シュペトレーゼには考えられなかったマナーだ。暗い寝室の床で食事だ。そんな自分がおかしい。
「床で食べるなんてお行儀が悪いけど…同じ部屋にいるなら一緒に食べたいな、と思うんだ。椅子に座ろうか?」
だが返答はない。シルエットだけだ。
「その目は本当にティーガ族なんだ。髪は茶色なんだね? 染めたのかな?」
シュペトレーゼはため息をついた。腕をだらんと垂らす。
「以前、王宮にもティーガ族の親子がいたよ。きれいな髪と瞳だった。…僕は…ピドーの言う通り、王家の人間なんだよ。北事変の原因を作った…。君の一族は…。今、何と罵られても言い訳はできない。ごめん。それから生き残ってくれてありがとう」
小虎は息を吐いた。色々な感情が一気に沸き起こる。それらは言葉にならない。肩の古傷を無意識にさすった。おそらく先に倒れた誰かの体が盾になり、致命傷を免れたのだろう。
ふと小虎は奇妙な感覚に捕らわれた。自分は家族の犠牲の上に生きている。名前を亡くしたのは、その代償ではないのかと。
「…なの?」
シュペトレーゼが何か尋ねていたようだ。もう一度繰り返す。
「事件の後は? 聞いてもいいのかな? 僕は…僕も関係者だから。事件の後、君はどうしていたの?」
クロイツベルク。小山のようになった廃墟。地下の一室に閉じ込められた。岩がむき出しの床はいつでも濡れて寒かった。どこからか水が流れてくる。天井からは水が滴り落ちていた。
もっとも連れて来られた頃の記憶はあいまいだ。何が起きているのか、さっぱり理解できない。理解しようとする気力もなかった。冥界の太陽が傍にいる。それさえ気がついてはいなかった。時折ルーカが訪れては、格子の向こうから小虎を小突く。ある時は強い風を巻き起こし、丸くなる姿を見ては嘲笑って帰って行った。
『絶望』
それが与えられた名前だった。小さなほら穴の奥で縮こまるばかりだ。周囲を見回す余裕もない。
どれほどの時間が過ぎたのか分からない。ある時、近くにもう一人が閉じ込められているのを知った。大人の男だ。金色の髪とひげが伸び放題で、こけた頬に目ばかりがぎょろぎょろと動いていた。
小虎の位置から、その部屋はよく見えた。内装がまるで違う。調度品はしっかりしている。ベッドは天蓋付きだ。サイドボードの天板は湿気対策なのか大理石だったし、洋服ダンスも厚い木だ。濃くニスが塗られてあった。全てが水に触れないよう、石の台に据えてある。トイレも備えられているらしい。ただ鉄の格子が牢獄なのだと示している。
小虎に掛ける声は優しい。マックスと名乗り、誰も居ない時には冥界の太陽について教えてくれた。
牢獄からは地下の広間が見渡せた。ランデスヴァルトにあったのと同じ模様の壁があった。
マックスは何度も逃げようと言った。君ならできる、と。
『ランデスブァルトで出来たはずだ』
確かに心にほら穴が開いていた。でも自分が何か出来たとは思えない。誰も救えなかったのだから。
だがある日の夜、ついに爆発は起きた。ルーカが来たはずだ。あまり記憶がはっきりしていない。牢獄は壊れた。小虎は歩くのがやっとだった。長く監禁されていたせいだ。急な斜面を上がったところで見上げると、月明かりに尖塔があった。白く輝く城が視界いっぱいに広がっている。たくさんの兵士が出て来た。ひどく目が痛かった。
小虎はもう対処を知っている。電流は土を裂き、木を砕く。石は細かい矢じりとなって彼らに襲いかかる。その場ですぐに男とはぐれた。どうやってあの林を抜けたか記憶はない。気が付いたら逃げまどう日々だった。ティーガ族の気配を含んだピドーの爆発を見るまで、誰かと会おうとも思わなかった。
「ごめん…僕の責任でもある…」
「違う。いなかった」
小虎の口調はずっと一定だ。か細く頼りない。
失った時間を取り戻すなど、誰にもできはしない。たどたどしい言い方にかえって突き放されたように感じる。口だけの謝罪など意味は無い。言葉が空しくなるだけだ、と。
「ご…ごめん…。僕は…僕だけ一足先に北州に脱出して…」
言いかけて口をつぐむ。頭を抱えた。やはり自分は守られていたのだ。命ばかりではない。人々の怨嗟、戦い、どろどろした感情の全てから。
その後、誰も口を開かなかった。時間がただ過ぎてゆく。リビングの電気は付いたままだ。それでも暗闇は忍び込み、部屋を重く押さえつけていた。
ツヅク! 第八話 下 再会の町ゲルシュニアウプ、そして王宮
けっこうな無理をしても、みんなでやれば怖くない? いやアブナイって!
お読みいただきありがとうございます。
長かった過去編がいったん終了です。
そして物語は新たな局面へ。
ちょっと地名をまとめてみますね。
ソフィア 北州、ピドーの居住地。謎の襲撃を受ける。
キルヒェガルテン 北州、ハンナ・ティッシュバンの居住地。
ジーノチカ、小虎、ルーカ、アウゲンと賑やかな顔ぶれが初お目見え。
アディート 北州、ターミナル駅がある。小虎、電気系統をショートさせる。
東の赤復活の地。
グレンツェ 北州、ホテルグレンツェで暗殺事件勃発。
ランデスヴァルト 北州、ティーガ族の居住地かつ終焉の地。
ケッセン 南州、東西鉄道、南北鉄道が交わる巨大ターミナル駅がある。
ルーカが大暴れ。




