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汝を除て 『瀬原集落聞書』  作者: 櫨山黎
第三章 確信
18/68

土耳古桔梗

 向子(さきこ)が去ってから、入れ替わりに、廊下にゾロリと正座して、一礼してから、女中達が入ってきた。


 一番先に入ってきた女中は、大きな花瓶を抱えていた。

 一番後ろに居た女中は哺乳瓶を持っており、(しの)から伊吹(いぶき)を抱き取ってくれ、部屋の(すみ)に控えた。


「まぁ」


 花瓶に生けられた、紫と白の美しい花や、青、紫色の薔薇の(よう)な花、白い花糸撫子(かすみそう)と、青や淡い紫色の不思議な、葉が茎とほぼ一体化している、全体的なシルエットが細い花を見て、早佐は驚いた。


「…何て、素晴らしい。見た事も無いわ…。此れは…青と紫色の花は薔薇(ばら)ですか?」


 ()()()きの土耳古桔梗(トルコキキョウ)です、と、恥ずかしそうに那智(なち)は言った。


(バイ)(カラー)と単色を、青と紫と白を基調に選びました。手土産に、と、父に頼んで取り寄せてもらいまして…。私の好きな花で恐縮なのですが。…其の…。花浜匙(スターチス)は、私が育てました」


 素晴らしいわ、と早佐は言った。

 自分の頬が紅潮し、瞳が輝くのが、自分でも分かるくらいだった。

 そんな事は初めてだった。


「園芸をなさるのですか?那智さん」


 那智さんは御上手ですよ、と、()だ起きない伊吹を抱きながら、篠が優しく言った。


「菊も見事に丹精していらして、感服しましたわ。大輪にするのは難しいでしょうに」


 そんな、と言って、那智は恥じらったが、早佐は、素敵、と言った。


「見てみたいわ。私、自分の屋敷の庭以外は(ほとん)ど知りませんから」


 那智は、益々(ますます)顔を赤くしたが、意を決した(よう)に、早佐の顔を見て、言った。


「其の(よう)に言って頂けて…。下手の横好きですが、もし宜しかったら、茉莉花(ジャスミン)の垣根を、見て頂きたいものです…。日当たりが良いせいか、()だ花が咲いておりますので。垣根の近くに植えた金襴紫蘇(コリウス)も、花が咲いて…」


 是非、と早佐が思わず言うと、篠も那智も、驚いた(よう)な顔をした。


「…私、誰かに、御庭に誘って頂いたの、初めて」


 早佐が、そう言って真っ赤になると、那智も頬を染めた。

 あらあら、と言って、篠も頬を染めた。


―困ったわ。対等に話をしようとすると、こんなに恥ずかしいのね。知らなかったわ。


 自身の歪みを押し隠そうとすれば、結局素直になるしか無いのだ。

 早佐は、包み隠さず、感激や称賛を口にするしかなく、そうすると、こんなに恥ずかしいのだ、という事を知った。


―私今まで、人間関係に期待なんてしていなかったのだわ。如何(どう)思われても構わない、っていう態度だった。どうせ、何時(いつ)か死ぬんだからって。


 (はる)に対してすらそうだった。

 其れが今、怖いと思われない(よう)にしよう、と、他人に気を遣う事で、(ほとん)ど、生まれて初めて、他人の那智に、自分を如何(どう)思っているかが気になる(よう)になったのだ。


―物が、よく見える(よう)になると…困る事も有るのね。


 しかし其れは、嫌な気持ちでは無かった。


 恥ずかしいが、那智に嫌われてはいない気がして、何だか其れが嬉しいのだ。


 浜花匙(スターチス)や、早佐の見た事のない、金襴紫蘇(コリウス)茉莉花(ジャスミン)の有るのだという庭が、早佐の頭の中で、とても美しく像を結んだ。


 揃って恥じらい合って俯いていると、女中達が御茶の準備をし終えて、伊吹を抱いて控えている女中以外は、部屋から去って行った。




「え?トップスのケーキ?」


 篠の言葉に、那智も、キャッ、と、喜びの声を上げた。

「嘘、嘘嘘嘘。待って、待って」


「那智さんっ、トップスよ、トップス。トップスのチョコレートケーキ」

「えーっ。嘘だわ。賞味期限三日くらいって雑誌で読みましたもん。九州で見られるなんて」

「私もー!雑誌でしか見た事無いわっ」

「私、赤と白のチェックのテーブルクロス買っちゃいましたもん、トップスのレストランの写真見て」


 流石に此の騒ぎで起きた伊吹が、あうぅー、と、不満そうな声を出した。

 篠が、嘘、今起きるの?と言った。

 其れは起きるだろうな、と思った早佐だったが、向子(さきこ)が、如何(どう)して此れを差し入れてくれたのかが分かった。


―…嬉しい。きっと、篠さんや那智さんの事も喜ばせて、私も一緒に同じ物を食べられる(よう)にしてくださったのだわ。…茶室に移動して御茶を点てる(よう)な御持て無しではなくて、本当に良かった。…こんなに、私の部屋で、御客様が喜んで、一緒に御茶を飲んでくれるなんて、思いもしなかった。


 伊吹は結局、女中が咥えさせてくれた哺乳瓶から、ゴブゴブと音を立ててミルクを飲んだ。

 体が丈夫、と篠が言っていた通り、食欲は旺盛らしい。

 篠は、ホッとした顔をして、改めて、嬉しそうにケーキを見てから、ハッとした顔をして、耳まで真っ赤になりながら言った。


「…取り乱しまして、失礼致しました」


 私も、と、恥ずかしそうに那智が言った。

「不作法で…申し訳御座いません」


 とんでもないわ、と早佐は言った。


(つた)の葉の模様にクリームが絞ってある、美しいチョコレートケーキです事ね。私も初めて見ました。初めてを、皆さんと一緒に味わえて、嬉しゅう御座います」


 其れは、本当の、本音だった。


 此の場に居る人間が誰も食べた事が無い物を、一緒に食べられる。

 しかも、相手に喜んでもらえながら。

 そう思うと、早佐は、再び頬が染まった。

 篠と那智も、頬を染めた(まま)、微笑んでくれた。


 早佐の知らない、有難いケーキは、如何(どう)やら長方形だったらしいのだが、切った人間のセンスで三等分にされて、如何(どう)見ても和菓子用の皿に載せられており、早佐には真ん中の部分が供されたらしい。


―分厚いわ。(ほとん)ど立方体ね。


 しかし、其のチグハグさが、如何(いか)にもぎこちない自分の持て成しの態度とは合っている風に思えて、早佐は自然と、クスクス笑った。

 篠と那智も笑ってくれて、早佐は嬉しかった。


 頂きます、と言ってから食べたケーキは、成程、美味しかった。

 三層になっていて、胡桃が入っていて、しっとりしていて、上品な甘さだった。


 しかし、三人でケーキを食べていると、ミルクを飲み終えて、女中にゲップをさせてもらった伊吹が、篠を見ながら、あーう、と言った。


 伊吹は、篠がチョコレートケーキを口に運ぶ(たび)に、じーっと篠の動きを目で追い、篠が咀嚼(そしゃく)を始めると、あーう、と言うのを繰り返していた。


―食べたいのかしら。


 伊吹、と篠が言った。

「御母様にも食べさせて頂戴。伊吹はミルクを飲んだでしょう」


 そう、『自分の分が無い』と主張しているかの(よう)に伊吹があーう、と唸るので、次第に、篠も那智も、食べ(にく)い雰囲気になってきたのである。


 可笑しくなった早佐は、ケーキを食べ終えると、伊吹に向かって、いらっしゃい、と言った。

 女中も篠も驚いた顔をしたが、早佐が、此方(こちら)へ、と言うと、女中が、早佐の所まで来て、伊吹を抱かせてくれた。


「ごめんなさいね、伊吹ちゃん。貴方(あなた)の分のケーキが無かったわね。()だ食べられないものね。大きくなったら、きっと向子(さきこ)様が食べさせてくださってよ。だから、ケーキが食べられるくらい、元気に大きくなってね。御約束よ」


 早佐の言葉に、伊吹は、ニヤッと笑って、早佐の帯を、小さな手で、ポンポンと叩いた。


―え?御腹?


「まぁ、伊吹ちゃん。私の御腹が気になるの?」


 伊吹は、再びニヤッと笑うと、傍に正座して控えていた女中の色無地の袖を、グッと掴んだ。


「…あら。抱いて頂ける?」


 早佐の言葉を受けた女中は、伊吹を抱くと、歩いて、部屋の(すみ)に戻った。


 しかし、女中が座ると、伊吹は、あーう、と言った。


「…立って、歩いて揺らせ、ですって」


 早佐の言葉に、女中も、篠も那智も、驚いた顔をしたが、女中が其の通りにすると、伊吹は満足そうに、鼻から、フン、と音を出した。


「扱いが御上手でいらっしゃるのですね」

 ケーキを食べ終えた篠は、本当に意外そうに、そう言った。


 いえ、と早佐は返した。


「何と無く分かっただけですわ。其れにしても、意思がハッキリしている事。きっと賢い子になるわ」


 そう言って頂けて、と、篠は恐縮した。

「先月首が据わったばかりなのに、もう自己主張をするものですから、驚いておりまして」


 同じくケーキを食べ終えた那智は、可愛い、と言った。

「私も、そろそろ水配り(ミックバイ)ともなれば…」


 ええ、と篠が優しく言った。

「きっと、来年には御子さんが生まれていてよ。那智さん、女の子が欲しいんですってね」


「ええ。名前も考えているんです。茉莉(まり)()とか、麻那(まな)()とか。植物の字を入れたいんです」


 はにかみながら答える那智に、篠は、良いわねぇ、と言った。


「『(あさ)』ね。那智さんらしいわ。麻の葉模様は、小さい子が健やかに成長する為の願いが込められた、魔除けの模様ですものね。きっと、そんな、思いの籠った字を名前に戴いた子は、元気に育ちましてよ」


―凄いわ。


 女の子が欲しい、と、ハッキリ言える那智に、自分は石女(うまずめ)だと決めてかかっている早佐は、衝撃を受けた。


―考えた事が無かった。


 しかし、次の瞬間、私も、と、早佐は口にしてしまっていた。


 あら、と篠が優しく言った。

「早佐様も、女の子が宜しいですか?」


「ええ」


―まただわ。口を突いてしまった。


 早佐が内心焦っていると、そう言えば、と那智が言った。


「御相手…如何(どう)なるのでしょう。発表が全然無くて。御正月には水配り(ミックバイ)なのに。最近、父が何だか、ピリピリし始めて」


 そうねぇ、と、篠が、言い(にく)そうに言った。

「…噂では、清水本家当主の、(ふじ)寿(とし)様が御参加なさるとか」


 ああ、と那智が言った。


「随分前に奥様を亡くされたとか。後妻さんですね、そうなると。そうですね、水配り(ミックバイ)は、男性側には年齢の決まりは無いし。…でも、再婚は、水配り(ミックバイ)で無くても良いんですよね?(おさ)からの許可制ですから、実質水配り(ミックバイ)と変わらないし、滅多に再婚する方もいらっしゃらないですが」


「そう、後は、…年齢でいくと、そろそろ、坂元本家当主の(はる)様ですとか。私の知る限りの噂では、そんなところでしょうか。まぁ…後は、清水分家で何人か年回りの合う人は居そうですけれど、清水本家当主と合同となると、本家の方が適切かとは」


 篠は、更に言い(にく)そうに、チラチラと、早佐と那智の顔を見た。


 (はる)様、と言って、那智は、少し頬を染めた。

 満更でも無さそうである。


 早佐は、成程、と、強く納得した。


―金持ちの家の後妻。


 確かに、水配り(ミックバイ)は、再婚の場合は必須では無い。再婚は、()(ばる)(しゅう)(らく)の中に於いては、配偶者を失った、所謂(いわゆる)未亡人の経済的救済措置として使われる事が多く、集落内の互助(ごじょ)(よう)な意味合いが強いからだ。(おさ)の許可無しに集落の女性は外に出られないのに、夫を亡くして稼ぎ頭を失うと、其れは(ほとん)ど、経済的困窮による死を意味する。集落外に実方医院(さねかたいいん)という病院は在っても、老人ホームの(よう)な福祉施設も無い()原集落(ばるしゅうらく)では、跡取りに先立たれる事と、夫を早くに亡くす事は、文字通りの死活問題なのだ。


 だが、長い事再婚しなかった清水本家当主という大物が、態々(わざわざ)其れを遣るという事に、何某(なにがし)かの意味が有りそうである。


―私の御相手が(ふじ)寿(とし)様で、那智さんの御相手が(はる)様。有り得そうな事だわ。


 早佐は身分が高いが体が弱い。だが、那智はと言えば、身分は低いが、其れを補って余る程の美貌と健康さを持ち合わせている。


(ふじ)寿(とし)様御本人が、今更、後妻に、後継者を産んでほしいと強く欲しているとは考えにくいわ。其れなら、今までも、幾らでも再婚の機会は有ったのだから。伊吹ちゃんを養子に取るという保険も有る様子だし。そうね、私くらい体が虚弱でも、あれくらい御金持ちの家の後妻なら、(くりや)に立たなくても済みそうだし、後継者を産む(よう)に求められなさそうだし。


 何せ、集落の最高御権力者の妹ともなれば、確かに、本家の嫁、くらいの鳴り物入りで水配り(ミックバイ)に臨んだ方が体裁は良い。理佐(りさ)とて、相手の岐顕(みちあき)は、実方(さねかた)本家後継である一人息子だったのだ。


 そして、確かに坂元本家当主とは言え、坂元家は()原集落(ばるしゅうらく)の中では立場が微妙で、生存しているのが(はる)だけともなれば、資産の有無は知らないが、落ち目の家と言っても良い。


―確かに、()(ばる)本家の娘の私と、坂元本家当主の(はる)様は、有り得ない組み合わせ、という程では無いけれど。失礼ながら、(はる)様と那智さんって、年回りも合うし、『丁度良い』のだわ。


 那智も満更では無さそうな様子が、余計に、早佐を納得させた。

 御似合いだと思ったのだ。


―嫉妬くらいするべきなのかしら。


 しかし、(はる)に対して、(ほとん)ど期待というものを持ち合わせていない早佐は、(むし)ろ、那智のものになるかもしれないものに先に手を付けた(よう)な気分にさえなって、何だか申し訳ない気がした。

 甘噛みの度を越して強く噛んでしまって叱られた犬の(よう)な気分になったが、早佐は、其の罪悪感を押し隠し、良かった事、と言った。


(はる)様なら、年回りも合うでしょうし。御願いすれば御庭の事もさせてくださるかもしれませんよ」


 ()だ決まっておりませんから、と言って、那智は更に頬を染めた。

「…でも、本家の奥方(ウッカタ)だなんて…。私、御茶も御花も…」


 あら、と早佐は言った。


「…其の(よう)な。覚えれば宜しいだけの御話ですもの。裏でしたら、私も御教え出来ますわ」


 那智は、キョトンとした顔で、裏?と言った。

 篠が、サッと青褪めた。


 早佐も、しまった、と思った。


―御茶、御存じなかったのね。茶室で御迎えしたら、那智さんに悲しい思いをさせてしまったかもしれないわ。自室で良かった事。


 あの、と、再び、言い(にく)そうに篠が言った。


「ソトの高校に進学する方々は、茶道部等で、表を学ぶそうですよ。里では、大体の(かた)紀和(きわ)さんに教わるので、裏の方が多いですが」


 十二代目、瀬原(せばる)本家当主、瀬原永一(せばるとういち)落胤(おとしだね)だという噂の有る、瀬原分家の女性、紀和(きわ)は、気位も高く、永一(とういう)の死後、早佐の父の由一(ゆういち)に申し出て、集落外で、様々な習い事の免許を取得して、現在は、集落内で、御稽古事の先生役として、一目置かれている。

 しかし、身分としては、水配り(ミックバイ)でも、良家に嫁ぐ事は出来ず、色々と納得がいかなかった紀和は、瀬原の一門(イッケ)出身の夫を尻に敷き、御稽古の月謝で、集落内で現金収入を得ている、珍しい女性となった。

 成程、本来ならば、由一(ゆういち)の姉として育つべき人物だったのである。由一(ゆういち)が当時遠慮して、様々な特権を紀和(きわ)に与えたのであろう事は、早佐にも予想がついた。


 永一(とういち)という人の落胤(おとしだね)だと思われる人物は、他にも居るらしいのだが、ハッキリしない。ただ、噂されているのは、女児ばかりだとは聞く。

 紀和(きわ)は、瀬原(せばる)()の、早くに亡くなってしまった、三郎次(さぶろうじ)とかいう人の孫だそうである。寡婦になった三郎次の嫁、ユキを気にして、互助の意味合いで、(かつ)ての三郎次の家に出入りする人間が多かった為、永一(とういち)と、三郎次の娘のチヨが一緒に居るのを目撃している人間が、当時、大変多かったのだと伝え聞く。

 だから紀和(きわ)は、だけは、当時の状況証拠的に、永一(とういち)落胤(おとしだね)(ほとん)ど確定だと言われている、というだけの話で、本当は、もっと落胤(おとしだね)がいるのであろう、というのが、早佐の聞いた話ある。


 永一(せばるとういち)という人間の節操の無さを、真面目な由一(ゆういち)は恥じていたらしいのだが、何方(どちら)も亡くなっている今となっては、由一(ゆういち)が、実際は父親を如何(どう)思っていたのか聞く事は出来ない。




「ああ、女性の袱紗(ふくさ)の色が、赤ではなくて、朱、という事ですか」

「そうですね。表で覚えていても、里で、裏の御作法の御茶会に呼ばれる身分の(かた)は、そう多くもないでしょうし、困る事は少ない(よう)ですけれど。そうそう、紀和さんから伺いましたが、早佐様、茶筅(ちゃせん)の使い方が御見事ですとか」

「まぁ、そんな。御作法云々(うんぬん)より、()てる方が好きなだけですの。私、御茶は、皆様に気楽に飲んで頂きたいので」


 早佐と篠の会話を聞いていた那智が、大きな目を(しばた)かせた。


―不味いわ。篠さんが、会話を続けようと気を利かせてくださった(よう)だけれど、今は、混乱させてしまうだけね。話題を変えましょう。


 今悲しい気持ちにさせてしまっては、御持て成しが台無しだ。

 早佐は、今は、紫色の袱紗(ふくさ)の存在や、武者小路や薮内流、織部流等の存在は秘する事にした。




 突然、伊吹が、大きな声で泣き始めた。


 ほぉぎゃあ、ほぉぎゃあ、と例えても良い(よう)な、肺を目一杯有効に使った(よう)な其の泣き声に、話題を変えたかった早佐は、救われた気分になった。


「あらあら。申し訳御座いません。そろそろ御暇致します」

 篠は、丁寧に一礼すると、女中から伊吹を抱き取った。


 私も、と言って、那智も、丁寧に一礼した。


「御二人共、またいらしてくださいませね」


 きっとよ、と言って早佐が微笑むと、篠は微笑み返してくれて、那智は、真っ赤になって、はい、と返事をしてくれた。



 早佐と同じ年の那智は、少し仲が良かった、というのを何処かで書きたかったので、書けて良かったと思います。

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