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牛乳

 ケンジの活躍は、全生徒が知っている。同学年だけでなく、上級生も知っているんだ。すでに何度か絡まれているが、ケンジは上手にかわしているよ。ちょっと上手いことしたからって調子に乗るなよと言われても、気をつけますとの一言でその場を後にする。ケンジは意外なほどに大人な対応をするんだ。まぁ、ときによってはなんだけどな。ケンジは驚くほどに子供っぽい対応をすることもある。

 昼休み、ケンジはクラスの友達にジュースを買ってきてと頼んだんだ。構内には売店もあるし、自動販売機だってある。自分で行けばあんなことにはならなかった。けれど、休み時間のそんな場所は、とにかく混むんだよ。特に四月は、新入生が多く集まるんだ。中学時代にはなかった光景に、意味もなく興奮をし、たいして飲みたくもないジュースを買うために行列を作るんだ。

 俺は自慢じゃないけど、一度も自動販売機を利用していない。混雑が嫌だからとか、そんなつまらない理由だけじゃなく、そこの自動販売機には紙パックしか置いていないんだ。紙パックには、どうしても紙の匂いが混ざって嫌なんだよ。

 ケンジの友達は、あろうことか牛乳を買ってきたんだ。悪気なんてなかったようだが、ジュースを買ってきてと頼んだ相手に牛乳っていうのはいただけないよな。ケンジはその友達に、ジュースならなんでもいいなんて言ったから余計に話がややこしくなったんだ。その友達の言い分では、牛乳だってジュースなんだとさ。野菜や果物が原料じゃなくても、スポーツ飲料だってジュースだ。俺だってそう思うよ。高校生にもなってジュースといえばオレンジかりんごだろって考える方がどうかしているんだよ。ケンジは本気でそう思っていたんだ。

 かと言って、ケンジは特に牛乳嫌いってわけでもなかった。どちらかといえば好きな方で、毎朝毎晩飲んでいるよ。少しでも背が高くなりたいんだよ。ケンジは俺たち五人の中では一番のチビだからな。しかしまぁ、残念なことに、今のところはその効果が出ていない。

 その日のケンジは、朝に飲んだ牛乳のせいで腹を壊していた。俺たち五人は毎朝駅前で待ち合わせをして一緒に登校しているんだが、ケンジはその日、真っ青な顔で一番最後にやって来て、俺たちの顔を見るとすぐ、駅の中のトイレに駆け込んだ。

 ケンジは大抵早起きなんだ。待ち合わせに遅れたことなんてなく、一番乗りで俺たちを待っている。当時はタバコを咥えていたが、バンドを始めてからは吸っていない。学生の分際で生意気だって思うだろ? 確かにその通りだよ。あいつは生意気だったんだ。けれど不思議だよな。学生服姿でタバコを吸うあいつに対して、誰も文句を言わないんだ。注意すらしない。売店のおばちゃんだって笑顔で対応してくれる。

 俺はタバコなんて吸わないよ。一度も口にしたことはない。これからもきっと、吸わないだろうな。そもそも煙を吸うって発想が受け付けられない。煙ってのいうは、チーズや玉子を包むためにあるんだよ。

 ケンジはタバコを、陸上部を引退し、自転車で空を飛んだ前後から始めたんだ。頭を強く打ったせいもあるけれど、それだけじゃないのは分かっている。あいつの家では、全員がタバコを吸うんだ。両親も兄貴も、爺ちゃん婆ちゃんまでもがヘビースモーカーなんだから。


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