第3話 優秀な下級貴族
5時間目の授業が終わると、私は王政学園の第1クラスの前の廊下に来ていた。
そのクラスは、この学園の成績優秀な者が多く集まるエリートクラスである。
そして、あの最高の攻略対象の1人、ハーディア王子の在籍するクラスでもある。
私はある生徒に会うために、このクラスの前にやって来た。
私はこのクラスを覗き込み、その生徒を探す。
そうすると、前の席のほうに目的の彼が座っているのが見えた。
あと、どうやらハーディア王子はいないようだ。
できれば彼とは会いたくない。
私は第1クラスの中に入ると、席に座っている少年、ユーリ・ライナスに話しかけた。
「 ユーリ、ユーリ・ライナス。こんにちわ」
ユーリが振り返り、私を見る。
ユーリは青い瞳と髪を持つ落ち着いた感じの美少年だ。
ユーリ・ライナス
彼と出会ったのは3ヶ月前ー
王政学校の中等科にいた私は、戦術魔法の課外授業で、第1クラスとの合同訓練に参加した。
その時の合同訓練でパーティーを組んだメンバーの1人に、この青い瞳を持つ彼、ユーリ・ライナスがいた。
彼は子爵の爵位を持つ下級貴族である。
以前の私、悪役令嬢ルーナは上流階級至上主義者だったため、最初私は取り立てて彼に興味を持たなかった。
だが、訓練の最中魔物に襲われたところを、間一髪で彼に助けてもらう。
その事を切っ掛けに、合同訓練の期間中彼とよく話をするようになった。
ユーリは立ち上がると、私に挨拶する。
「おはようございます。ユーリ様。ハーディア様にお会いにいらしたのですか? 」
「 いいえ」
そう言って私は不敵な笑みを浮かべた。
「今日はハーディア様ではなく、あなたに会いに来たのよ 」
「 私にですか? 」
「そうよ」
そう言って私は小さく頷く。
「 あなたに会いに来たのは、あなたにお願いがあるからなのよ」
「お願い? 」
そう言われて、ユーリは深く考え込んだ。
「そう 」
「あっ、わかりました。恋文を変わりに渡して欲しいのですね。
お任せください。
お相手はやっぱりハーディア様ですか?それともシグナス様? 」
「 少し黙っててくださるかしら?ユーリ君 」
今まで私は上流階級至上主義者であり、しかも王子ハーディア様一直線の恋愛狂だった。
彼が勘違いするのも無理もないのかもしれない。
だが、今の私には心の余裕がない。私はその彼の対応に対して少し苛ついてしまった。
彼の立場からすれば理不尽極まりないが。
「ユーリ、明日私は、東のナディア厶の森に冒険に出かけるつもりよ。
あなたにも来て欲しいわ 」
「えっ!?ナディア厶の森にですか?」
ユーリが驚きの表情を浮かべた。
「ええ、私、王政学校を卒業した暁には、冒険者になろうと思うの。
そのための準備が必要だわ 」
「 ルーナ様が冒険者にですか? 」
「 どうしてそんなに驚いてるの? 」
「いえ、てっきりルーナ様は、王族や上流貴族の方とご結婚なされると思っていましたので。
どうして急に冒険者になろうなどとお考えに? 」
「あら、冒険者は素晴らしい、素敵な職業よ。それに私、堅苦しい、つまらない上流階級の生活に飽きたのよ。
将来は貴族のしきたりや風習に囚われずに、自由に羽根を広げて生きたいのよ 」
「 ですが、それは 」
ユーリが口を詰まらせる。
公爵家の貴族のご令嬢には、荷が重いとでもいいたいのだろう。
しかしー、
「それで、私のあなたに対するお願いとは、あなたに、私と2人で冒険者パーティーを組んで欲しいの 」
「???私と2人でですか??? 」
ユーリが今まで以上に困惑し、深く、深く考え込んだ。
いや、もはや混乱の極みだろう。
「ええ、あなたよ」
「 1つ聞いていいですか? 」
「何かしら? 」
「どうして私なんですか?ルーナ様ならほかにいくらでも上流階級の有能なパートナーやパーティーメンバーが見つかるでしょう?どうして私のような下級貴族の者にお声がけなどを?」
「私は、王族や貴族といった階級や家柄にはこだわらないの。
私はその人の実力や能力、人柄だけで、その人を判断するの 」
「以前ルーナ様は下級貴族や平民は人間ではないと仰ってましたよね?」
「あら?そんな事言ってたかしら?」
私は冷や汗を垂らしながら笑ってごまかす。
本当に酷いヤツだ。
ルーナ・バーミリオン。
ユーリが怪訝そうな表情でこちらを見つめてくる。
「うふふふっ、あれは冗談よ。冗談。何気にしてんのよ 」
「 しかし、2人だけでナディア厶の森は少し難易度が高くありませんか?
ルーナ様に何かあった時、私には責任はとれません」
彼の言い分はもっともだ。
公爵家の令嬢である私に何かあれば、彼は私の父や親戚一堂に責められ断罪されるだろう。
「 あら、あなたは別に、責任を取らなくてもいいのよ。あなたを誘ったのは、私なのだから、責任は私が取るわ。バーミリオン家のものたちにも、そう伝えておく」
「そういう問題ではありません。
もし冒険したいというなら、少し難易度の低い場所に行くか、もっとメンバーを増やすべきです 」
どうやら、彼は自分の保身の為だけではなく、純粋に私の身の安全を心配してくれているようだ。
たが、私は3年後にゲームの強制力によって断罪され、追放される可能性を持つ。
その時のために強くならなければならない。
そのためには多少無理をしてでも強い敵と戦いレベルを上げておかなくては。
だが、その事を彼に話す訳にはいかない。
ここは、彼にワガママと言われようとも強引にでも押し通さなければ。
こんな時、以前のルーナならなんと言うだろうか?
「冒険に、ある程度の危険はつきものよ。多少のケガを恐れていたら、未来は切り開けないわ。
そんな弱気な事では、いつまでたっても一人前の冒険者にはなれないわよ。
あなたを誘ったのは、あなたには以前助けてもらった義理があったから。
あなたに私の守護騎士になれる機会と栄誉を与えてあげようと思ったからよ。
あなたが来ないなら、私は1人でも行くわよ」
そう言って、私は振り返りその場を離れようとする。
「なっ!!!!お待ち下さい!!ルーナ様!! 」
ユーリが慌てて私を追いかけ、私の左手を掴んだ。
「わかりました。私があなたを全力でお守ります。あなたの仰る通り、私があなたのパートナーになります 」
「あらそう、それなら、お任せするわ」
そう言って、私はニヤリと笑う。




