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第三話 七田土佐編

港に漂う潮の香りと油の煙が、混ざり合って鼻を突く。

カエデは眩しげに目を細めながら、賑わう港町の通りを見渡していた。


「……あの船、でっかい観覧車みたいなのが付いて動いてるよ!? あ、こっちのは浮いてる! あっちは水出てる! テルトラ、見て見て! すごい!」


「……うるさい。リアクションが全部大きい」


呆れた様子のテルトラが言うが、足は止めない。

日の本、越後より遥か西に位置する、港町・七田土佐――サイバー文化がわずかに混ざり込むこの国は、海運を基盤とした貿易国家だ。古びた和の建物の間を、忙しなくホログラムの広告やドローンが飛び交い、停泊する船も昔ながらのエンジン式から、最新の飛行型まで多種多様に揃い、今と昔がごちゃ混ぜになっているようだった。


中でも、目を引くのは一隻の巨大な船。港に鎮座するその船体は、ただの貨物船ではない。鈍く光る装甲、そこからは多くの砲塔が覗いており、難攻不落の城がそのまま水の上にいるような威圧感を放っていた。その異質な雰囲気に、カエデの目が輝く。


「ねぇ、アレ、乗ってみようよ!」


「…乗ってみようよ、って…観光地じゃないんだから……でもまぁ、少し気になる。この港であの船だけ、サイバー文化の痕跡がある。きっとあの船は領主…「アレックス」の船だ。陽の欠片と関係してる可能性が高い」


「じゃあ、決まり!」


その日の真夜中。


二人は船へと目立たないよう黒の外装に身を包み、船内へと忍び込んだ(門天丸は目立つので外で待機)。

内部は古風な港町とは打って変わり、まるで研究施設のような科学的な空気を漂わせていた。床にはカエデには意味不明な式と回路図。大型装置、壊れかけのサーバー。無機質な空間に、どこか人の気配が残る。

カエデとテルトラは、船内をその中でも船の中心に位置するーー恐らく心臓部のようなーーこれまた巨大な機械が鎮座する部屋にやってきた。

テルトラが中心に鎮座する装置へ歩み寄り、装置の端末に指を触れる。

「……やっぱり。記録データが残ってる。陽の欠片に関する事もきっとここに……これは……パトリック……?」


データの中に埋もれる個人名の付いたファイル。不審に思い、テルトラがファイルを開いた直後、船内に警報が鳴り響いた。すぐさま警備のドローンが大量に部屋になだれ込む。


「…早いな」

「カエデ、テルトラ。20機を超える警備ドローンが迫っています。全て銃火器で武装されている。撤退を推奨します」

「言われなくとも!」


カエデがアタラヨを飛行形態に切り替え、ドローンを弾き飛ばしながらテルトラと共に甲板へ飛び出す。

甲板に出てもなお、警備ドローンは追跡をやめる様子はない。それどころか数は20どころか倍以上に増え続けていた。


「…来て、門天丸」


テルトラの呼び掛けに船の外に待機していた門天丸が飛び出し、カエデ達をアタラヨごとキャッチする。そして迫り来るドローンにEMPを放ち、無効化させると、即座に離脱した。


港の外れ、倉庫の裏に門天丸を着陸させ、追手がない事を確認すると、カエデ達は詰まった息を吐いた。


「あっぶなかったぁ…あんなに早くバレちゃうなんて…私なんにも調べられなかったよ」


「…確かに異常な程のセキュリティだった。…よほど、このデータが重要って事なんだろうけど」


そう言うと、テルトラは胸ポケットに忍ばせたデータチップを取り出し、カエデと顔を見合わせ、ほくそ笑んだ。


ーーー


「あの船の持ち主か?そりゃあもちろん領主のアレックスさんだよ!なんでもまぁ、陽の欠片?ってのを守るには厳重な設備がいるとかで……俺もよく知らねぇけどよぉ」


次の日。


カエデ達は昼食を取る傍ら、「領主アレックス」について情報収集を行なっていた。


情報収集はテルトラの発案だ。


「欠片は領主が持ってるに決まってるんだからアレックスって人に直接会えば良くない?」

と、アタラヨを手に、また昨日の船へ向かおうとするカエデをテルトラが制止した。


「…昨日のことで警備も厳重になってるだろうし、下手したら私達の顔は既に割れている。それなのに、あちらから何かしてくる事はない…そこにある意味を分かった上で行かないと不味いと思う。…大丈夫。おおよそ見当はついているから」


カエデは渋々従い、テルトラと共に、港近くの酒場で半分出来上がっている船乗り達にアレックスについて聞いて回っている。


「あの船にはなぁ、色んな機械やらなんやらが載ってんだが…あれは、アレックスさんの相棒のパトリックって技術屋の遺品なんだよ。なんだっけな…電子、航運?ってやつの発明者でな、スゲェ頭の良い人だった…」

「アレックスとパトリックといやぁ、この街で知らねぇ奴はいないほどの名コンビだった!力のアレックス、頭脳のパトリックって感じでよ…!本当に惜しい人を亡くしたよ、あんな事故さえなけりゃあ今頃……」


「…事故って?…船長、教えて欲しい。私と船長だけの秘密にするから」


「あー…これは結構込み入った話なんだが……わかった、わかった!そんな目で見るんじゃあねぇやい!…ただし、本当にお嬢ちゃんと俺だけの秘密にしてくれよな!」


「…うん、約束。私達だけの」


…意外にもテルトラは話を聞き出すのが上手く、その整った外見から繰り出される上目遣いと猫撫で声に船乗り達はすっかり絆されており、店の客や店員まで寄ってくるせいで、人だかりが出来ていた。


「…なんか、いつもと性格違くない?」

「声色が普段と比較すると、2オクターブ程高いですね」

店の皆がテルトラに絆され、蚊帳の外になってしまったカエデ達は離れた席から、知らない生き物を見る気分でその様子を眺めていた。


ーーーーーーー


「…あれは事故じゃない。多分、他殺。アレックスは、相棒のパトリックを意図的に殺している」


船乗り達や店員からの熱いラブコールを背に受けながら店を後にし、宿に戻ると、テルトラが開口一番に紡ぐ。

言葉の重さに、カエデが思わず息を呑む。


テルトラは、懐から昨日のデータチップを取り出した。それをPCに繋げると、昨日の部屋の映像が映し出される。


「…この中のデータを解析したら、事故当時の監視カメラの映像をサルベージ出来た。……これは、パトリックが最終試験として電子世界にフルダイブしたときの映像。彼の意識が機械に接続された直後……アレックスが、機械の電源を切ってる。…つまり、パトリックを電子の海に意図的に置き去りにした事になる。器だけが現世に残されて…死んだも同然」


「どうして…だって、2人は相棒で、仲が良かったんじゃないの?」


「どうしてかは、わからない」


映像は、最後にアレックスが監視カメラに気付き、それを破壊する瞬間で途切れていた。

テルトラは、PCを閉じながら続ける。


「…この映像を取引材料に、アレックスと交渉する。……陽の欠片と交換を条件に」


カエデの心がざわめいた。


「それって、脅迫する…って事?」


「…言いたい事はわかる。けれど、どんな理由であれ、彼は相棒を手にかけるような人物。何をしでかすかわからない、危険な奴って事。穏便に済むならその方がいい。彼もそれを望むはず」


テルトラは目を鋭く光らせながら、カエデを見る。その目は真っ直ぐで、半端な正義感での介入を許さなかった。

その目を前に、カエデは黙って俯く他なかった。


そして、その夜。


テルトラは部屋に戻ってきたドローンが持ってきたデータチップを受け取り、中身を確認する。

「…うん。アレックスはこの交渉を了承した。「丑三つ時、甲板にて待つ」、だって」


生憎この日は、年に一度の大嵐であり、歩道を大粒の雨が打ちつけ、停泊する船を大きく揺らめかせ、船同士がぶつかり軋み、不気味な音を響かせていた。

街に人気は全くなく、稲妻が海を照らし、風が唸りを上げる中、二人は再びあの船へと向かう。


甲板に上がると、アレックスと思われる男が立っていた。

その男は、嵐の中でも動じる様子を見せない。


「…貴方が、アレックス。例の件は全てこのデータチップに残っている。約束通り、陽の欠片を渡してさえくれればーー」

「…皆まで言わんでいい。さっさと寄越せ」


地の底から絞り出したような、低い声だった。その言葉に従い、テルトラが近づき、データチップを渡すと、彼は一瞬目を細め、次の瞬間、迷いなくテルトラへ背に抱えていた巨大な錨を振り下ろした。


カエデがアタラヨを変形させ、その一撃をを受け止める。テルトラもすぐに門天丸を呼び出し、乗り込んだ。


「約束が違うでしょ!どういうつもり!?」


「コソ泥とまともに交渉する馬鹿が何処にいる?」


アレックスは、カエデの主張も一蹴し、言い捨てる。再び構え直し、見合う二人に割って入るような形で、門天丸が突っ込む。


「…穏便に済ませる気がないなら、少し大人しくなってもらう」


テルトラが先手を取り、門天丸の手がアレックスの肩を貫く。しかし、アレックスはその傷を顧みず、それどころか門天丸の腕を自ら深く突き刺した。自らの肉体を楔に動きを封じると、片手で錨を門天丸のコックピット目掛け振り下ろした。

そのまま、体制を崩す門天丸に乗り掛かると、コックピットをこじ開け、テルトラを引き摺り出す。


「調子に乗るなよ…小娘が…」


「ぐ…が……」


彼女の喉を締めあげると、無造作に投げ飛ばす。


「ッ……! やめろッ!」


カエデの叫びと共に、怒りのまま、アタラヨの刃がアレックスに振り下ろされる。

だが、アレックスは片手でその攻撃を受け止めた。…いや、正確にはアタラヨの攻撃自体は届いており、受け止めた腕からはとめどなく血が流れ、無事とは言い難い状況なのは、火を見るより明らかであった。


(この人、痛覚がないの…!?)


カエデはアレックスの痛みを感じないかのような振る舞いに恐々とし、一度下がる。


「…なんだ、来ねぇのか?…殺してみろよ俺の事を」


そんなカエデを挑発するかのようにニヘラ、と笑いながらアレックスは錨を振り回す。その度に腕からは血が飛び散り、体の悲鳴がこちらまで聞こえてくるようだった。

状況は明白。このまま防戦に持ち込めば、カエデは勝てるだろう。しかし、アレックスの狂気に押され、その優勢をカエデ自身はまともに感じる事が出来なかった。


依然として、雨は降り続く。勢いを増し、雷鳴は轟音を強める。

海のようになった甲板に足を取られ、カエデはその場に腰をついてしまう。


「…!!しまっ…!」


錨が振り下ろされる。

アタラヨの自動防御機能が発動し、カエデの身を守ろうとする。しかし、転んだ体制が悪く、防御よりも先に、アレックスの凶刃がカエデに伸びる。


(間に合わない…!!)


その瞬間。


雷鳴が轟く。雷はマストへ直撃し、強風に煽られた巨大な船旗が、アレックスの体を包んだ。


「…!!ウオオォッ!!!」


この好機に、カエデは渾身の一撃が放つ。

アレックスは膝を突き、崩れ落ちた。


「ア、アタラヨ!」

「問題ありません。致命傷は避けています。…ですが、これ以上動き続けるなら、失血死するでしょうね」


やりすぎたか?と不安になるカエデ。アタラヨが冷静に分析し、述べる。


すると、彼は、倒れ伏したまま、笑うでもなく、叫ぶでもなく、小さく語り始めた。


「……アイツは、パトリックは…俺の、唯一の相棒だった。全部、俺の……焦りが、壊したんだ……」


ーーー


「アレックス、見てくれよ!遂に、俺達の夢が叶うんだ!!」

「…ああ、そうだな」


この港で最も大きな船。その心臓部に鎮座する重厚な機械の周りを、嬉しそうに飛び跳ねるパトリック。

それを、俺はどこか他人事のように眺めていた。


いつからだろうか、アイツの為すことに誇りではなく、焦りを感じるようになったのは。


いつからだろうか、アイツを見ると、どうしようもなくドス黒い感情が湧き出るようになったのは。


「電子の海を渡る船、だァ?」


「そうとも!これさえあれば、天候なんて関係ない!水難事故も起こらない!だが、積荷はこれまでの比にならないほど積めるし、ここからO-EDOまでの航海時間が、5日から5分だ!5分だぞ、5分!!」


鼻息荒く語る相棒の姿を見やる。

俺は昔から力仕事は得意だったが、こういった計算事は苦手だった。

逆に、パトリックの腕っぷしはカブトムシと腕相撲して負けるようなもやし野郎だったが…頭がすこぶる良かった。そして、とにかくお人好しだった。

それ故に、よく輩に絡まれてたのを、俺が片っ端からぶちのめしていた。


「…なんだっていいけどよ。次の出航が近え。準備してっから、お前も程々にしとけよ」

「ああ!出航準備…もうすぐそんな苦労もなくなる、せいぜい最後の思い出になると思って噛み締めておくのをオススメするよ!」


…それからしばらく経った頃。

アイツはあっという間に、夢のような手段、「電子航運」を完成させた。

素直に誇らしかったよ。

俺の後ろでビービー泣いてただけの野郎が、瞬く間に世界のヒーロー扱いだ。

俺は今まで通り、アイツに降りかかる火の粉を払ってやればいい。

ーーそう、思っていた。


「船を全部廃船にする……?」


あの日までは。


「ええ!パトリックさんの開発した電子航運技術さえあれば、現実の船など不必要ですからな!」


恰幅の良い商人の男は悪びれる様子もなく言い放つ。


「船乗りを全員路頭に迷わす気か…?それに船はアイツらの魂だ。そう易々と廃船になんてーー」


「…アレックス。」


握る拳に力が入る。今にも目の前の男に掴みかかろうとする俺の肩をポンと、叩くパトリックがそこにはいた。


「もちろん、船乗り達の事情は重々承知の上だ。彼らの再雇用先も担保する」

「それに、君もわかっているだろう?サイバー文化が発展しつつあるこの国では、今のアナログな運輸方法は淘汰され始めているって事に」


パトリックは続ける。

その通りだ。今や、航運に使われる船は飛行式が主流であり、船が海を渡る時代ではなくなっていた。そして、その繁栄が最新技術によりどんどん加速することも、理解していた。理解は、していた。それでもーーー


「大丈夫さ、アレックス!君には頼みたい「役目」があるんだ!僕に任せてよ!」


パトリックは笑う。それに対して俺はああ、と、気の抜けた返事を返すことしか出来なかった。




船が無くなりゃどうなる?

俺には何が残る?

「役目」…だと…?その役目を奪ったのは…








ーーーお前じゃないのか?









月日は経ち。

電子航運は実用化まで最終テストを残すまでとなった。

港からは船の姿はすっかり消え、街の形態は大きく変わろうとしていた。

俺は数少ない残された船の一隻である愛船を倉庫で手入れしていた。

…どうせ出航することも無いが。ここ数ヶ月、仕事らしい仕事をした覚えがなかった。


「七田土佐も、これで大都市の仲間入りだなぁ」


そんな中だ、あの会話を聞いたのは。倉庫の前をたまたま通りがかった2人の、何気ない会話。

俺は、何故か咄嗟に身を隠した。

…何故かはわからないが、俺には都合の悪い話な気がしたからだ。


「パトリックさん、様々だよなぁ…」

「ああ、けどこうなると…」


動悸が早まる。

これ以上は聞く必要はない。さっさと立ち去るべきだと、脳が告げる。

だが、足が動かなかった。


「アレックスさんは、残念だったな」

「ああ、あの人は…ただ腕っぷしがあるだけだからな、俺らとなんら変わりない。今やもう…パトリックさんのお荷物、だな」


「おい、よせ。誰が聞いてるかもわからんというのに…!」

「あ、ああすまん、つい…しかしなぁ」


2人の声が遠ざかる。

頭の中をぐるぐると、先程の会話が渦巻く。


「…お荷物…だと?」


そう呟くと、ドス黒い感情の奔流が溢れ出す。渦巻いて止まらない。

すると、目の前に一機のドローンが現れた。差出人は、パトリック。


「友よ、遂に電子航運の最終テスト日がやってきた。

ーー他でもない、君に同席を頼みたい」


ドス黒い渦を胸に、俺は相棒の元へ向かった。


ーーー


「しょうもない話だ」


「俺は、国と、己のプライドを天秤にかけ…後者を選んだクズ野郎だ」


彼は自嘲気味に語る。

カエデは静かに言葉を返した。


「じゃあ、取り返して。誰かを殺すことで、何かが戻るわけじゃない」


「…何を。もう終わった話だ。こんなーー」


「…終わってない」


そこに、意識を取り戻したテルトラが打ち付けられた頭を、不機嫌そうに抑えながら現れる。彼女が指差したのは――船旗。


「……オジサン、本当に何もわかってないんだね。機械も相棒のことも」


「…どういう意味だ」


彼女が、その場でノートPCを片手に何かを打ち込み始める。

すると、旗からデータコードが浮かび上がり、ホログラムのようにその場に投影され始める。現れたのは、亡き相棒パトリックのメッセージデータ。


『…あーあー、聞こえてるかな?あー、んっんー!…君がいなければ、俺は何もできなかった。改めて礼を言わせてくれ、ありがとう、相棒』

『実は、感謝の気持ちを込めて、サプライズプレゼントがあるんだ。君は勘が鋭いから…隠すのが大変だったよ。』

『これが君の新しい船、「ルドー・ヴィ・ゴール号」さ!…どうだい?まさか自分の船があるとは思わなかったろう?』


アレックスは上半身を持ち上げ、ホログラムを見やる。


『世間のみんなは、僕を天才だの革命児だの、色々と持ち上げてくるけどね。僕はこの電子航運は君と2人で成し遂げたものだと思っている。それに、やっぱり船長とかそういうのは、僕には向いていない』


『だから、君にこれを託す。この電子の海の1番船さ。さぁこれからだ!俺達の航海を続けよう、相棒!!……っと、決め台詞はこんな感じかな?…撮影終了』


ホログラムが閉じる。

同時に電子の海が全面に広がり、そこには巨大な船『ルドー・ヴィ・ゴール号』が鎮座していた。

アレックスは、船の甲板に膝をつき、嗚咽する。

雨はあがり、日も出てきた。

どこまでも続く、水平線を、カエデ達は見つめていた。


――後日。


治療を終えたアレックスは、陽の欠片をカエデに託した。


「…世話をかけたな。これから俺は相棒を殺した罪を償おうと思う」


以前のように狂気を孕んだ眼ではなく、澄んだ眼でアレックスはそう言う。


「でも!領主がいきなりいなくなったら七田土佐はどうなっちゃうの?」


「…その必要はない」


と、カエデの心配を跳ね除けるようにテルトラが言った。


彼女は小さな装置をアレックスに渡す。そこには、ホログラムのように浮かび上がるパトリックの姿。


「これは……!?」

「…パトリックは電子の海に落ちただけ。なら、サルベージすればいい。…これじゃあもう、“亡くなった”とは言えないかもね。体はなくとも、彼はここに“いる”。ホログラムとかの記録媒体ではなく、ちゃんと、今を生きる人として」


かつての相棒と向き合い、アレックスの表情が和らぐ。

互いに交わす謝罪。再会。かつての信頼が、再び息を吹き返した。


ーーー


「……次は“甲斐”に行こう。

……錨を振り回す狂人にぶっ飛ばされても大丈夫な、頑丈な仲間が欲しいから」


テルトラは旅の目的地を告げる。

アレックスを横目にジト目で見つめながら。


「…頼もしい相棒だな」と、アレックスがバツが悪そうにカエデに微笑んだ。


彼女たちは再び旅立つ。

信頼、という絆の、その果てを見たこの港を後にして。


かくして、この港町は電子航運という技術を元手に大きく発展していく事となる。

国を治める2人のリーダーは、互いを強く信頼し、皆を強く導き先頭に立ち続けたことから「日の本には西に、二芸の巧みあり」と呼ばれるようにーーー


なったとさ。

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