四話 連鎖する呪い
「一旦、手分けするぞ」
ソルベが周囲を見渡しながら言った。
エンリャクとの戦いが終わっても、街の混乱は収まっていなかった。
遠くではまだ悲鳴が上がり、煙が立ちのぼっている。
十字軍の侵攻は、未だ止まっていない。
「俺は街の避難指揮に戻る。とはいえ、大元を放置すれば、被害が広がるだけだ。…頼む」
「了解」
シンゲンが頷く。
カエデもそれに続いた。
「気をつけて。さっきの連中、普通じゃなかった」
「あんなのがまだいるとは考えたくねえが…もしもの時はまたテメェらを頼るさ」
ソルベとカエデ達は短く言葉を交わし、それぞれが別方向へ散っていった。
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カエデ、テルトラ、シンゲン、シズメ。
四人は街の奥へと進んでいた。
途中で何度も信者と遭遇する。
皆が一様に武器を持ち、突進してくる。
「止まれ!」
シンゲンの声も、もう届かない。
カエデは踏み込み、アタラヨで信者の手の武器のみを弾き飛ばす。
テルトラが体勢を崩させ、シズメが動きを封じる。
だが、先程のホンガンに操られていた者達とは違い、完全に正気を失っているわけではなく、無力化すると、戦意を喪失しているようだった。
「先程までの方達とは違い、糸で操られている訳ではないのですね…戦う意志も希薄に感じられます」
「きっと無理矢理戦わされているんだよ。何とかしないと…」
「…でも、武器を持って襲い掛かってくる以上無視は出来ない」
シズメとカエデの話にテルトラが割って入る。
銃火器は使えない為、門天丸の腕を振り、襲い掛かる信者達を弾き飛ばすようにして無力化する。とはいえ当然、当たりどころが悪ければ致命傷に繋がりかねない。細心の注意を払いながら最低限の動きで門天丸に組みつこうとする信者達を振り払う。
「…危ない!!」
門天丸が信者達を振り払う為、腕を大きく動かしたその時。
コックピットの死角に、年端のいかない少年が立っているのに気づいた。
「しまっーー!」
接触は避けられないかと思われたその時。
鈍い音が響いた。
少年へ迫っていた門天丸の腕が剣で弾かれ、間一髪で少年との接触を防ぐ。
そこに立っていたのは、一人の男だった。
荒々しい気配を纏いながら、剣を肩に担いでいる。
「……誰?」
テルトラが小さく呟く。
「僕が代わりにお答え致しましょう」
そのすぐ後ろから
ブロンドの髪をボブにまとめた少年が
琵琶を抱え、静々とやってきた。
カエデ達を一瞥し微笑を浮かべる。
「僕はフラン。フラン=シスコ。こちらは僕の相棒兼用心棒のヤジロウ。…コラ、挨拶しなさい」
その少年――フランが言うと、ヤジロウと呼ばれた男はぶっきらぼうに会釈する。
突然の乱入者に場が静まる中、シンゲンが一歩前に出る。
「先ほどは助かった。…が、単刀直入に聞こう。お前達は敵か?それとも味方か?」
歯に衣着せぬ質問に驚いたのか、フランは閉じられた両の目を丸くすると、くすりと笑った。
「普段ならばどちらでもないーーと、言うところだけど…僕も正直に答えよう」
一つ咳払いをすると、フランは続ける。
「僕達の所属は『十字軍』。けれど、僕達は貴方達と『味方』になりたくて、ここに来た」
フランの口から、今まさに街を襲う元凶の名が飛び出し、カエデ達は臨戦体制を取る。
それを見たヤジロウが一歩踏み出すも、フランが手で制する。
「皆さんのお気持ちはよくわかります。…ですが、どうか僕の話を聞いてくださいませんか」
フランが頭を下げる。ヤジロウも渋々、と言った形でそれに追従した。
カエデ達はお互いに目を見合わせる。
「…いきなり現れて、『味方になりたい』?…コイツらだってあのペテン師の仲間でしょ?嘘に決まってる」
「確かに信じるのは難しいよ。けど、話を聞く価値はあると思う。…だって、ほら」
テルトラが突き放すと、カエデが答える。
周りを見渡すと、この一帯の信者達が争いの手を止め、こちらのやり取りを不安そうに見つめていた。
フランは少しだけ顔を上げる。
「十字軍の中で起きていること……貴方達も知っておくべきだと思う」
その声は、慈愛を含んだ優しさと共に、強い決意を感じさせた。
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「場所は、加古の都。十字軍が聖地、ホンガンカテドラル」
「そこでは、ある計画が進められている……通称を“神の子計画”」
「……神の子計画?」
カエデが聞き返す。
「身寄りのない子供達を使った、人体実験だよ」
フランの声は、淡々としていた。
「呪いを使った、ね」
その一言で、カエデ達の表情が変わる。
「そんな…!呪いは既に根源を絶ったはずです!」
「呪術師……山本勘助なら斬ったはずだが」
フランは首を振った。
「いたんだよ。彼の技術を受け継いだ人間が1人ね」
ヤジロウが口を開く。
「ソイツが信者に神託と嘯き、呪いを仕込んでいる」
「神託の正体に気付いた時にはもう手遅れだった。無闇に逆らえばどうなるか……貴方達なら分かるはずだ」
カエデがゆっくりと口を開く。
「……じゃあ、この人達はどうなるの?」
「─死ぬしかないだろうね」
フランは、はっきりと頷いた。
「このままなら、ね。だから彼らの命は僕が預かる事にしたんだ」
そして、真っ直ぐな瞳でカエデを見つめる。
「あの人達が“人じゃなくなる”前に呪いを解かなくてはならない。だから、どうか。僕に力を貸してくれないか」
フランが、再び頭を下げた。
カエデがフランに近づいていく。
「案内、お願い」
「…‼︎ ああ、任せて!」
カエデが言った。
「行こう。加古へ!」
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こうして、目的は一つになった。
呪いの源を断つために。




