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Akeenohi -アケノヒ-  作者: 大化
第三部 『救われるもの』
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二話 霞遠く



「ーーでは、均衡状態を作ると致しましょう」




「……ヒ……ヨシ……」




どこからともなく、声がする。

低く、濁った、ノイズのような不鮮明な声。


全員が反射的に視線を動かす。

すると、ホンガンの背後。

信者の列が、ゆっくりと割れる。


そこから現れたのは――


黒い百足のようなものをまとった影。


「カスミ……!」


カエデの声が揺れる。

それはかつて自分達が戦った相手。

徳川の死天王の一角、霞。


だが今、その姿は明らかに異質だった。


全身を覆う蟲。

あらぬ方向へ歪んだ肢体。

そして、焦点の合わない目。

それは彼女が既に、人ならざる者と化している事実を如実に表していた。


「……殺す」


その一言と同時に。

地面が爆ぜた。

無数の百足が、四方八方へと広がる。


「散れ!」


シンゲンが叫ぶ。


その声に反応し、カエデ達が即座に飛び退く。

すると次の瞬間、先ほどまで立っていた場所が、完全に抉り取られた。


「……ッ、馬鹿げた威力!」


テルトラが息を呑む。


打ち付けられるその力に制御も、加減もない。


ただ“壊す”為だけの、純粋な暴力。


ホンガンはその様子を、満足気に見つめていた。


「――おお、『蟲神様』」


恭しく、口に出す。


「どうか、その御力で……穢れを祓い給え」


─────


「来る!」


カスミが地を蹴った瞬間、あまりの衝撃にカエデ達の視界が歪む。

勢いのまま、両腕の百足が振り下ろされる。

カエデがアタラヨで受けるも、衝撃を殺しきれない。

足が滑り、そのまま数メートル押し込まれる。


「ぐっ……!」


「カエデ!」


「平気…!なんとか反撃を─!」


言い終わる前に、次の一撃。

百足の群れが鞭のようにしなり、空間ごと叩き潰す。


「そこだ!」


嵐のような連撃の間を縫い、シンゲンが割り込む。二刀が閃き、百足を斬り払う。


だが――


「再生している…!」


切り裂いたはずの節足が、瞬時に蠢き元の形へ戻る。


「距離を取って!」


シズメの矢が飛ぶ。

狙いはカスミの本体。

だが、蟲の壁が瞬時に形成され、矢を弾き落とす。


「…正面か突破は無理……!」


テルトラが歯を食いしばる。


カスミの勢いは止まらない。


「ヒデヨシィィィ……!ヒィイイデェエエヨォシィイイ!!!」


叫びと共に、さらに力が増す。

地面が割れ、建物が崩れ、空気が震える。


纏う百足の量は増え続け、それらは何層にもわたって霞の本体を守るように展開されていた。


「あれじゃあ近づけない…というかそもそも、あんなの倒せるの!?」


「─ホマレダワケミコトならば、あるいは。しかし、とても打ち込む隙がありません」


「…なら、誰かがヤツを引き付ける必要がある」


「よし、ならば俺が─!」



「いいや、俺が行く」


シンゲンが先陣を切ろうとしたその時。

カエデ達の後ろから、1人の男が現れた。


「ソルベ!?」


「俺が引き付ける。…その隙に何とかしろ」


そう言うと、ソルベは大刀を振りかぶりカスミへ斬りかかる。

何層と連なる百足の守りを易々と切り開き、本体へ肉薄した。


そして、その大刀を本体目掛けて振り下ろす。

すぐさま霞が両腕の百足で防御するも、その守りごと本体を斬り裂いた。


だが、縦半分に割れた体を瞬時に再生すると、霞の視線が明確にソルベへと向く。


「…ヒデヨシィイ……!!」


攻撃が、一斉に彼へ集中する。

百足の群れが渦のように襲いかかる。


「今だ!」


その瞬間、シンゲンとカエデが左右から突っ込む。


「コイツで!」


アタラヨが閃き、蟲を薙ぎ払う。

シンゲンの刃が隙間をこじ開ける。


2人へ向けても百足が襲い掛かる。


が、即座に矢と弾丸がそれを撃ち落とした。

カスミの意識が、今度はシズメとテルトラへと向けられる。


「─おおおおおっ!!!」


注意が散漫となった霞へ、ソルベが雄叫びと共に斬りかかった。


その攻撃を受けきれず、再び真っ二つになる霞。

そこへカエデとシンゲンの追撃も加わり、本体はバラバラと崩れ地面に落ちた。


だが、断面から這い出た百足が蠢き、再生をしようと動く。


「テルトラ!!」


「…了解、粉微塵にする」


テルトラがカエデの呼びかけに答える。

門天丸が足を固定し、火門の出力を上げていく。



ーーだが、その攻撃を放つ寸前。


門天丸とカスミの間に挟まるように信者達が並んだ。テルトラは咄嗟に門天丸の出力を落とす。


「そこまでです」


ホンガンが言うと同時に、空から轟音が響き渡る。


見上げれば、巨大なヘリが降下し、風圧が戦場を吹き荒らしていた。


「……テメェ、逃げるつもりか」


ソルベが睨む。

ホンガンは、変わらぬ笑みのまま答えた。


「『蟲神様』には、まだ役目があります」


百足が集まり、霞が再生する。

そして、すぐさま彼女の身体に細い糸のようなものが無数に絡みつく。


それは、ホンガンの持つ操作板から伸びていた。


「ここで本懐を遂げていただくには、些か早い」


霞は拘束されてなお暴れようとするも、強引に引き寄せられヘリの中へ押し込まれる。


「待て!」


「逃がすかよ!」


カエデとソルベが踏み出す。


だが、またもや信者がその身を持って行手を阻む。

その間にヘリコプターの扉が閉じ、機体が浮上する。


「それでは」


ホンガンは最後に振り返る。


「この場は、彼に任せるとしましょう。頼みますよ、エンリャクさん」


ヘリコプターが去ると同時に、空から灰が降る。

さらさらと、音もなく。

雪のように舞うそれは、どこか幻想的で、しかし、やはり異質な雰囲気を放っていた。

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