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Akeenohi -アケノヒ-  作者: 大化
第二部 『天下征伐』
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間話 前編 『鬼王・酒呑童子』

──大江山。


人の踏み入ることを許さぬ、妖の国。


その山には数え切れぬ妖怪が集い、ただ一つの名の下に膝をついていた。


酒呑童子。


日の本最強にして、妖怪の王。


その名を聞くだけで、人々は戸を閉め、武士は刀を捨て、僧は祈ることしかできなかった。


⸻


「今月の献上品は?」


玉座に腰掛けた酒呑童子は、頬杖をつきながら退屈そうに尋ねる。


配下の妖怪が慌てて頭を下げる。


「北の村より米百俵、酒五十樽、若い娘三名にございます。」


「ふぅん」


興味もなさそうに酒を一口。


「ここは毎月取りこぼさず納めよる。全ては村を守る為か。全く、健気よなぁ。律儀よなぁ」


「は、はい……。」


「さて、では襲おうか」


「……え?」


配下の妖怪が素っ頓狂な声をあげる。

そして問うた。


「な、何故…でしょうか…?」


恐る恐る伺う様子が面白いのか、酒呑はカカッと大きく笑って答えた。


「健気なモノを踏み躙りたい─そういう気分になったのでな」


その一言だけだった。

妖怪達は歓声を上げる。


酒呑は大笑いしながら立ち上がる。


「人間なんてのは泣かせて遊ぶ玩具だろう?」


その夜。


村は炎に包まれた。


約束など最初から守る気はない。


命乞いも、土下座も、涙も。


全てが彼女の酒の肴でしかなかった。


⸻


彼女の『気まぐれ』は一度や二度ではない。


献上品を受け取りながら滅ぼす。


命乞いを聞き届けるふりをして皆殺しにする。


子供だけを残し、絶望を眺めて笑う。


鬼だけではない。


天狗も。


河童も。


山姥も。


土蜘蛛も。


皆、酒呑童子の名の下に従った。


逆らえば殺される。


だから従う。


その力は絶対だった。


「酒呑ンン!!」


酒呑が燃え盛る村を眺めていると

巨大な鬼─茨木童子が嬉しそうに駆け寄る。


「西の山の妖怪ども、全部従わせたぞ!」


「ご苦労」


「ごちゃごちゃ言う奴は殺した!アンタに逆らう奴はもういねぇ!!」


「えらいえらい」


酒呑が茨木童子の頭を撫でる。それに対して茨木は、尻尾を振る犬のように喜んだ。


酒呑は酒を飲みながら笑う。


「力こそ全て。弱きモノに生きる資格ある訳もなし」


その言葉に誰一人反論する者はいない。

…いや、正確には『いた』のだが。


物言わぬ『ソレら』を1人、として数える事はもう出来ないだろう。


⸻


ある日のこと。


山の入口で騒ぎが起きた。


「侵入者ァ!!」


「人間だァ!!」


「一人だぞ!!」


人間が一人、大江山へと侵入したのだ。

自殺志願者にもほどがある、と妖怪達が口々に笑う。そして、我先にと愚かな侵入者へ牙を向いた。


─だが。


「ぎゃあああ!!」


「腕が!!」


「な、何だこいつ!」


笑い声は悲鳴へ変わった。


鬼が吹き飛ぶ。


天狗が叩き落される。


巨大な妖怪が一瞬で真っ二つになる。


まるで散歩でもしているかのように、一人の青年は山道を歩いていた。


長い黒髪に二振りの刀。

そして、顔に浮かぶは飄々とした笑み。


「ふーむ」


青年は肩を回す。


「ケイジに誘われて京を目指していたはずだが…ここはどこだ?」


その名は──シンゲン。


「まぁいい!邦楽はあっているだろうし…ついでに武者修行していくか!」


いずれ六英雄と呼ばれる事になる、一人の剣士である。


⸻


山頂。


酒呑の前へ、一人の鬼が転がってくる。


血塗れ、角は折れ。

片腕は斬り落とされ、無事なもう片方の腕でその傷口を苦痛に塗れた表情で抑えていた。


「酒呑ン…すまねぇ、やられちまった」


茨木童子だった。

酒呑は珍しく眉を動かす。


「誰にやられた?」


その返事の代わりに。


ザッ、ザッ、ザッ─と、林の奥から足音が響く。


そして、木々の隙間から一人の青年が姿を現した。


「よう。お前がこの山の親玉か?」


酒呑は笑う。


「驚いたな。贄以外の人間がここまで来たのは初めてだ」


「へぇ。贄、ね。そういや麓の村でそんな話を聞いた気がすんな」


シンゲンは転がる茨木を見下ろす。


「コイツはなかなか強かった。…だが、お前の方が万倍強そうだ」


酒呑の口角が上がる。

久しく忘れていた感情。


──人間への純粋な興味。


「面白いヤツだ」


酒呑が立ち上がる。

周りの妖怪達が一斉に道を開ける。


「お前に素晴らしい提案をしよう」


酒呑は巨大な金棒を肩へ担ぐ。


「一騎打ちだ。数だけの雑魚とやるのは飽きた頃だろう?」


(これ以上下手に部下を減らされても困るでな)


酒呑の提案にシンゲンは朗らかに笑った。


「おおっ、下劣な奴らかと思っていたが…妖怪にも武士道ってヤツがあるんだな!」


そして二振りの刀を抜き、構える。


「一騎打ち、望むところだ」


酒呑とシンゲンが構え、見合う。

その圧で、文字通り山全体が震えた。


鬼の王と一人の剣士。


日の本最強を決める戦いが、今ここに始まろうとしていた。

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