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Akeenohi -アケノヒ-  作者: 大化
第二部 『天下征伐』
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十話 雉

鋼鉄の雉が大友の街の一角、神殿の上に降り立った。

翼が開いた瞬間、衝撃で瓦礫が舞い上がる。


真田獣雄肢――雉型。


複座式のコックピットの中で、ヒロカは静かに外を見ていた。

その隣でチヨメが操作桿を握る。


「任務開始。…全ては、親方様の為に」


「はいはい、それじゃあまぁぼちぼちやりましょうか!」


チヨメの感情を押し殺した平坦な声とヒロカの不釣り合いに上機嫌な声が交差する。

機体が動き出すと、広げた翼から放たれた弾幕が街を削り、建物の壁を穿つ。


その前に、ひとり。

シズメが弓を構え、静かに立っていた。


「まさか貴女のご友人は弓矢でこの鋼鉄の機体を落とすつもりですか?」


ヒロカがせせら笑う。

挑発するように、そのまま機体を彼女の前に着陸させた。


「蛮勇にも程がありますねぇ…まぁいいでしょう、撃ちなさいチヨメ」


そして、ヒロカがチヨメに射撃を命じる。

しかし、チヨメは引き金を引くことを躊躇っていた。


「『私の』頼みが聞けませんか?もう一度言います。─撃ちなさい」


「ッ…!!わかり、ました…」


ヒロカがチヨメに再び言う。今度は有無を言わさぬ雰囲気を纏いながら。それを受け、チヨメはトリガーへと指をかけた。


(お願い…逃げて、シズメ…!)


トリガーが引かれ、機体が大きく翼を広げる。

すると、翼から多数の銃弾が放たれシズメへと向かう。


それでもシズメは動かない。

向かいくる弾丸の雨を静かに見据える。

そして、懐から機械式の矢を取り出すと、ゆっくりと番え、放った。


その矢は、変形すると弾丸を正確に撃ち抜き、貫いて尚そのスピードを落とすことなく、機体へと向かう。

そのまま、翼の発射口へと弓が刺さり爆発を起こす。

衝撃に機体がよろめき、翼からは煙を上げる。


「…油断しました。どうやらただの矢ではないようですね。─しかし」


ヒロカが機体を上昇させる。

急降下。鋭い脚が地面を薙ぎ払う。


「所詮はまぐれ。対軍兵器に人が生身で勝てるわけないでしょう」


シズメは身を翻し、それを躱しながら距離を詰める。


(テルトラちゃんが送ってくれたこの機械矢─これさえあれば私でもアレを落とせる…!)


シズメが再び弓を構える。

しかし、狙いを定める前に機銃が放たれ身を翻し、物陰へと身を隠した。


「問題はもう一度撃つ隙があるか…」


シズメは機械矢の本数を確認する。

─残りは4本。

無駄撃ちする余裕はない。

シズメはフーッ、と息を吐く。


そして、ぽつりと呟いた。


「……チヨメ」


そして弓を構え直すと、勢い良く建物の影から飛び出した。


「必ず助けるから…!」


「…!!」


その一言に、トリガーを引くチヨメの指がほんのわずか止まる。

それを見てヒロカが横で小さく呟いた。


「おや?まだ迷っているのかい?」


チヨメは何も答えない。

そのまま機体を矢の届かない上空へと移動させた。


「見ての通り、彼女はこの機体への有効打を持っている」


ヒロカはチヨメの方へと手をかける。


「このままでは、『私』が死んでしまうかもしれない。─それでもいいのかい?」


「──ッ」


チヨメは俯きながら再び操縦桿に手をかける。

そして、機銃を放ちながら一直線にシズメへ目掛けて降下した。


シズメはさらに踏み込む。

矢を連射し、弾幕を切り裂きながら距離を詰めていく。


「戻ってきて」


チヨメの中に、わずかに揺らぎが生まれる。

並んで歩いた日々。交わした何気ない言葉。

一瞬、過去がよぎる。


揺らぎが、操縦に迷いを生む。

その隙を、シズメは逃さなかった。


放たれた一矢は一直線に走り、機体の関節部へと突き刺さる。

機体は爆発を起こすと、煙と炎に包まれ、雉型の巨体が崩れ落ちた。


───


煙の中に、チヨメは立っていた。


「参りましたねぇ、こうもあっさりと落とされるとは…それも長弓などに!オーバーテクノロジーとはいえど、機械は機械。脆いものですね」


素っ頓狂なヒロカの声が響く。

シズメは弓を構えたまま、2人に近づいていく。

その目は、まっすぐチヨメを見つめていた。


「ーーーッ私、は…」


チヨメが口を開き、シズメを見る。

しかし、彼女の言葉を遮るようにヒロカは続ける。


「ああ、そうそう。言い忘れていましたが……まだ君には役目が残っていますよ」


その言葉に、チヨメはわずかに目を伏せる。


シズメが、もう一度だけ口を開いた。


「お願い、帰ってきて」


短い言葉だった。


チヨメは答えない。

ただ、一歩だけ後ろへ下がる。


「答えは出たようですね」


ニコリと笑い、ヒロカが煙玉を落とす。

辺り一面へ白煙が一気に広がった。


視界が遮られ、空気が揺れる。


煙が晴れた時には、二人の姿はもうなかった。


その場に残されたのは、崩れた機体と――


弓を握ったまま立ち尽くす、シズメだけだった。


彼女は何も言わず、静かにその場に立ち続けていた。

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