九話 三首猿
鋼鉄の猿が街路に降り立った。
石畳が砕け、建物の壁が崩れる。
三つ首の機械が腕を振り回し、街を蹂躙していた。
その前に立つ三人の影。
その一人、ミネが胸を張る。
「皆さんご安心を!
この夜刀が来たからには、暴虐の使徒の好きには─」
市民へ演説しようとしたミネに向かって、巨大な腕が振り下ろされる。
「きゃあああ!?」
ミネは慌ててその場から飛び退く。
その様子を見ていたデビが笑う。
「ミネちゃん、演説はあとにしよっか☆」
猿型真田獣雄肢が三つの頭でこちらを睨む。
コックピットの中、サスケが呟く。
「随分と早い再会だなぁ?ハンゾウ」
その瞬間。
デビが顔を上げて、にこっと笑う。
「だーかーらー☆今のアタシはね?」
鉄球を肩に担ぐ。
「夜刀のアイドル
デビ=ヘイリー☆…なんだってば!」
鉄球が唸る。
その勢いのまま、猿型機体の頭へ叩き込む――
しかし。
機械の腕がそれを掴んだ。
金属が軋む。
デビが舌を出す。
「あれ、止められちゃった☆」
デビに向かって、もう一方の巨大な腕が振り下ろされる。
ドゴォン!!
また、石畳が砕ける。
だが腕は途中で止まっていた。
いや─デビが止めていた。
「街を壊す悪い腕はコレかなー?」
そのまま腕に力を込めると、鋼鉄の脚が持ち上がる。
その様子を見ていた芳ニがぼそっと言う。
「うへ〜…姐さんいよいよ人間辞めてない?」
デビは笑う。
「いっくよ〜☆」
そのまま力任せに振り回し、投げ飛ばした。
ドォォォン!!
巨大な機体が地面に叩きつけられ、轟音と共に砂煙が舞う。
衝撃で建物が崩れ、瓦礫が飛ぶ。
その瓦礫の先。
市民が建物倒壊に巻き込まれそうになっていた。
咄嗟にミネが飛び出す。
「危ない!」
手を広げると、淡い光が展開され瓦礫が弾かれる。
崩れた瓦礫は市民の前で見えない壁に阻まれる様にして止まった。
「あ、ありがとうございます…!」
「お安い御用です。市民を守るのは夜刀の使命ですので」
礼を言いその場をいそいそと離れる市民を見送ると、ミネは猿型機体へと蛇腹剣を構えて飛び出した。
「先の大戦で疲弊している街を…それも罪なき市民まで巻き込むとは…!言語道断、悪鬼滅殺!!」
蛇腹剣が猿型機体の三つ腕を絡めとる様に巻きつき、動きを封じる。
「おお、ヤバいぜウスケ!」
「何処がよ。赤子に手を掴まれて焦る人間がいるっての?」
ウスケが冷静に巻き取られた腕を持ち上げると、ミネが蛇腹剣を支点に空中へと放り出された。
「なんのっ…!!」
「何よ、死んでも離さないつもり?それならお望み通り…殺してあげる」
機体が腕を大きく持ち上げる。
そして、真下へと迷いなく振り下ろした。
─ギィン!!!
刃が走った。腕の軌道が逸れる。
その拍子に蛇腹剣が外れ、地面へと放り出されたミネを、芳ニがキャッチする。
「やれやれ…おじさんが見てないと
頭領はすぐ死にますね」
「死にません!!…ですが、ありがとうございます」
その横で、デビが鉄球を回している。
遠心力が生み出すパワーにより、生み出される轟音と衝撃波が周囲へ響く。
「相変わらずの馬鹿力だなぁオイ!!」
サスケの悲鳴の様な声に、デビは笑う。
「褒めても何も出ないよ☆」
機体が腕を振るう。デビが避ける。
叩き込まれる鉄球を機体が躱す。
「流石にこれを喰らうのはヤバそうだ!なぁウスケ!」
「口じゃなくて手を動かしなさい手を─ッ!?」
そんな応酬が何度か続いた、その時。
蛇腹剣が再び鋼鉄の腕に巻きつく。
「デビちゃん!!今です!」
「ナイス、ミネちゃん☆」
デビが鉄球を振り上げる。
そのまま跳躍し、高高度から叩きつけた。
「あ、これマジでヤバいやつ─」
─ドォォォン!!
鉄球は胸部へ直撃。
装甲が割れ、機体は大きくひしゃげた。
内部からは絶え間なく黒煙が噴き出す。
膝をつき沈黙する機体にデビがゆっくり近づき、コックピットを見下ろした。
その目は冷たい。しかし、声色は明るく。
「じゃ、今度こそ終わりにしよっか☆」
鉄球を振り上げる。
ミネが叫ぶ。
「あっ、ちょっと!不要な殺生は…!」
ミネがデビを制止しようとした、その瞬間。
コックピットが開いた。
サスケとウスケが飛び出す。
サスケが肩をすくめる。
「痛つつ……死ぬかと思ったぁ!まぁ、俺達はもう役割は果たしたんでね。ドロンさせてもらうぜ」
言い終わると同時に、煙玉が弾ける。
辺り一面の白煙。
視界が晴れた時には――
二人の姿は消えていた。
ミネが辺りを見回す。
「逃げられましたか…!」
芳ニが言う。
「追いますか」
デビは鉄球を肩に担ぐ。
「んー、別にいーよ☆」
煙を上げる機械を見る。
「もう仕事終わりだし!アタシ、この後ネイル予約してるんだよねー☆」
「んなっ…!もし長引いていたらどうするつもりだったのです!そもそも勤務時間外であれど夜刀として恥のないように──」
デビは空を見つめる。
少し目を細めると、ミネに向き直った。
猿型真田獣雄肢は、煙を上げながら静かに止まっていた。




