八話 二狼
山間の街へ、鋼鉄の獣が降り立った。
巨大な四足機械。
鋭い爪。
重厚な装甲。
長くしなる尾。
狼型・真田獣雄肢。
その巨体が石畳を踏み砕きながら進む。
城門は破壊され、鋼鉄の狼が街へ踏み込んだ。
建物が倒れ、兵士達が吹き飛ばされる。
そこへ続いて、武田兵が後方から侵入してくる。
街は一瞬で混乱に包まれた。
コックピットの中で、ゲンザブロウは短く呟く。
「……脆い」
抵抗する兵士達を、狼型機体が次々と踏み潰していく。
その時だった。
「オイ、人が丹精込めて作った建物を積木みてぇに壊してんじゃねえよ」
屋根の上から声が落ちる。
騒然とした雰囲気に見合わない軽い声。
だが、その姿を見て武田兵がざわめいた。
「夜刀……!」
屋根の上に立っていた男が、ゆっくり立ち上がる。
50銭。
彼は狼型機体を見下ろして、肩をすくめた。
「デカい犬だな。だが、躾がなってないらしい」
そのまま屋根から飛び降りる。
着地と同時に筋肉が膨れ上がる。
骨が軋み、形を変え、口からは牙が伸びる。
50銭が半人半狼の姿となり、ゲンザブロウの絡繰を見据えた。
それを見て、ゲンザブロウの目が細くなる。
「……人狼」
低く呟く。
50銭が笑う。
「悪いワンコにはお仕置きが必要だよなぁ」
狼型機体が低く構える。
巨大な爪が地面を削り、鋼鉄の狼が50銭目掛けて突進した。
ドォォン!!
狼型機体の爪が振り下ろされる。
建物と石畳が砕け、巨大な爪痕が刻まれた。
50銭は横へ跳び、回避すると、壁を蹴って絡繰との距離を詰める。
拳が装甲に叩き込まれる。
鈍い衝撃が走り、機体の頭がわずかに揺れる。
「お?結構硬ェな」
狼型機体の鉄の尾が振られ、50銭を横から叩き飛ばす。
50銭は建物の壁に叩きつけられる。
が、瓦礫を蹴り飛ばして、すぐ立ち上がる。
「強い…な。これなら、どう、だ」
ゲンザブロウは機体を跳躍させる。
四足の巨体が空中で回転し、爪を振り下ろす。
広範囲の地面が一瞬にして抉り取られ、巨大なクレーターを作った。
しかし、その下に50銭はいない。
すると、機体の背中に50銭が着地する。
拳がコックピットへの入り口、装甲の継ぎ目へ叩き込まれる。
何度も、何度も。
ゲンザブロウも機体を動かして振り払おうとするが、50銭はしがみついて離れない。
そのまま、連続で追撃を続けた。
音を立てて金属が歪む。
だが、コックピットを破壊されそうになっても尚、ゲンザブロウは冷静だった。
「壊れる、か」
機体が激しく体を捻り、やっとのことで50銭を振り落とした。
しかし、装甲の裂け目は、もはや甚大な損傷となって広がっている。
「悪いな」
50銭はニッ、と笑って牙を見せる。
「作るのよりも壊すのが得意でね」
機体が再び50銭へと突進する。
50銭は正面で待ち構えると、噛みつきを躱し、開かれた口を踏みつける。
「む…」
「トロいんだよ、マヌケッ!!」
そして、装甲の裂け目へ掴み掛かり、強引に引き剥がした。
そのまま剥き出しになった内部機構へ一撃。
爆発が起こり、黒煙を纏いながら巨体が崩れる。
すると、機体の装甲が内側から蹴り破られた。
ゲンザブロウが中から降り立ち、50銭を見据える。その目はまるで、獣のようだった。
50銭が笑う。
「いい目だ。獲物を狩る目だぜ、それ」
ゲンザブロウは静かに拳を握る。
「……まだ」
一歩踏み出す。
「終わってない」
次の瞬間。
ゲンザブロウの身体が膨張する。
骨格が変わり、牙が伸びる。
その姿はーー50銭と同じく人狼。
だが、背丈は彼よりもさらに一回り大きい。
再び、50銭が笑った。
「やっぱりなァ、俺達ゃ同類ってワケだ!」
二匹の狼が向き合う。
そして。
同時に地面を蹴った。
拳がぶつかる。
ドォン!!
衝撃で地面が割れる。
爪が振るわれ牙が閃く。
純粋な肉体同士の戦い。
建物を蹴り、壁を砕き、屋根を飛び越える。
速度も、力も、互角だった。
ゲンザブロウが言う。
「面白い」
50銭も笑う。
「奇遇だな、俺もだ」
二匹の狼が同時に踏み込む。
最後の一撃。
拳が振り抜かれる。
─ドォォォン!!
この日1番の衝撃が街を揺らした。
そして、二人は同時に倒れこむ。
沈黙。
瓦礫の中で、人狼二人が動かない。
完全な――ダブルKOであった。




