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Akeenohi -アケノヒ-  作者: 大化
第二部 『天下征伐』
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六話 旧知

武田と豊臣の軍勢は、各地で同じように街へ踏み込み、反抗の芽を摘み取ろうとしている。

カエデとテルトラは、その進路を追いながらいくつかの街を渡り歩いていた。


丘を越え、小さな谷へ差しかかったところで、カエデがふと足を止める。


「…待って」


「…5…いや、6かな」


テルトラも同時に気づく。

次の瞬間、低い声がした。


「お前、ら」


木陰から、一人の男が姿を現す。

筋骨隆々の体格。

獣のような鋭い目。


彼は二人をじっと見下ろすと、指を差し短く言った。


「カエデ、テルトラ、だな?俺はゲンザブロウ、だ。ユキ様の、命令…排除、する」


2人は咄嗟に臨戦体制を取る。

しかし、その背後の木の上から、軽い足音が落ちてくる。


「お、当たりだ」


陽気な声の主は、細身の忍びだった。

彼は肩を回しながらカラカラと笑う。


「まさかこんなあっさり会えるとはなぁ。俺の勘は当たるって言ったろ?ウスケ」


「アンタの勘がいつでも冴え渡ってくれてりゃ文句はないんだけどね、サスケ?」


その隣へ同じように、音もなく一人の女性が降り立つ。

先程の男に瓜二つの見た目をした長身。

切れ長の目はこちらを値踏みするかのように無機質に、しかし執拗に捉えていた。

ウスケと呼ばれた女性は、彼に返す。


「─ふぅん。曽是を下したってのは嘘ではないみたいね。」


淡々とした分析だった。

彼女は「ま、ユキ様の足元にも及ばないけど」と呟くと、カエデ達へ興味を失った様子だった。


さらに続いて、巫女装束の女性が木陰から歩いて出てくる。

彼女はカエデを見て、わずかに目を細めた。


「貴女は…!」


カエデ達も驚きを隠せない。


「…あの子確か、シズメの…」


何故ならばそこに居たのは

以前、大友の国にてシズメの無二の友として側近を務めていた巫女の一人、「チヨメ」であった。


「…大友の巫女が武田の将として出てくるなんて、どういう風の吹き回し?」


「─ッ、それは…」


「いやぁ〜面白いですね」


チヨメの言葉を遮るように、戦場に似つかわしくないのんびりとした声が響く。


紫の外套を翻しながら現れたのは一人の青年。


「お会いしたかったですよ、救国の英雄殿?」


その青年はカエデ達に向かってわざとらしい大振りな手振りを加えて礼をした。

その様子を見て、チヨメが小さく息を吐く。


「……囲まれてるね」


カエデは周囲を見た。

逃げ道はない。

そして、目の前にいる五人は――


全員、只者ではない。


「どうする?話し合いでもしてみるか?」


サスケが楽しそうに言う。

ウスケが首を振る。


「つまらないお喋りはやめて。余計な事をしてユキ様に失望でもされたら……いや、そういうのも『アリ』なんじゃない?むしろ、ベストなんじゃない?」


明後日の方向を見ながらぶつぶつと呟きだしたウスケに割って入り、ゲンザブロウが拳を鳴らす。


「大人、しく引く、なら」


少し考えてから続ける。


「殺しは、しない」


短い言葉だった。

しかし意味ははっきりしている。


カエデとテルトラは一瞬顔を見合わせると武器を取り、向き直った。

テルトラが悪戯っぽく笑う。

門天丸の装甲が唸りを上げた。


「…悪いけど、アンタらが街を襲うの止めるまでは帰れない」


サスケが肩をすくめる。


「じゃあ決まりだな」


次の瞬間、地面が弾けた。

ゲンザブロウが突進していた。

門天丸が迎え撃つ。

巨体同士がぶつかる。


ドゴォン!!


衝撃で地面が割れた。

巨大なロボと人間が取っ組み合う。

しかしーー


「…押し返される!?」


驚きの声をあげるテルトラに

ゲンザブロウは淡々と言い放つ。


「軽い」


門天丸の腕を掴み、投げ飛ばす。

巨体が転がり、受け身を取った。

テルトラが舌打ちする。


「…冗談キツい……」


その隙に、カエデが踏み込んだ。

アタラヨが閃き、その刃は最短ルートでゲンザブロウへと向かう。



─しかし。 




キィン!!と。


刃を受け止めたのはチヨメだった。

細腕に添えられたクナイの先端は、僅かな一点しかアタラヨに触れていない。にも関わらず、カエデはそれを振り払えずにいた。


「良い判断です」


チヨメは静かに言う。


「…ですが」


次の瞬間、背後に気配。

サスケとウスケが同時に動いていた。

二人の忍びは、風のような速度でカエデの死角に回る。

左右からチャクラムが飛ぶ。


アタラヨがブースターを逆噴射。チヨメとの鍔迫り合いを離脱し、チャクラムの攻撃を弾いた。


「いい反応じゃん?」


サスケが背後から言う。


「でも、それだけね?」


ウスケが続ける。


「数的不利。勝率は限りなくゼロに近い…」


ヒロカは少し離れた岩の上から、その様子を見ていた。

カエデ達のやり取りが行われる度に、楽しそうに満面の笑みを浮かべる。


「この局面…どうするんですかねぇ、英雄サマは♪」


カエデは周囲を見渡す。


五人。…一人は戦う気はない様だけれどーー

それでも、どこを見ても逃げられる隙がない。


「…どうせなら徳川との戦いの時に出てきてよね」


テルトラも門天丸を立て直しながら悪態をつく。

カエデとテルトラを囲むのは、ユキ=ムラマサ直属の五人。


ゲンザブロウ。

サスケ。

ウスケ。

チヨメ。

ヒロカ。


数でも、実力でも、完全に武田側が上。


門天丸はゲンザブロウの猛攻に押し込まれ、カエデも三人の忍びに挟まれて動きを封じられつつある。




その時だった。




風が、わずかに揺れた。

誰よりも先に気付いたのはサスケだった。

視線だけが横へ動く。


「お?来やがったな」


次の瞬間、黒い影が地面へ降り立つ。

カエデの前に立ったその人影は、短く息を吐いた。

サスケが口元を歪める。


「…ハンゾウ!!」


少しだけ間を置き、続ける。


「ああ〜っと、違った違った。今は夜刀のデビ、とか言うんだっけか?」


その言葉に、デビは露骨に舌打ちした。


「うっざ…」


「オイオイ、ずいぶんとご挨拶じゃねぇの?鎬を削った忍び同士、久々の再会を喜んで──」


「サスケ」


低い声だった。

その異様なプレッシャーにサスケも思わず喋りを止める。


声とは裏腹に、デビは笑顔を浮かべていた。

しかし、それは貼り付けた仮面のような、見ている側の背に冷や汗が走るような

─確かな殺意を持った表情であった。


「やっぱりアンタら…シャッバいわ☆」


貼り付けた笑顔でデビは続ける。

だが、次の瞬間一転して笑顔は消え、感情のない顔になる。


「─さっさと殺しておくべきだったな、貴様らは」


地の底のような声で一言呟いた。

だが、その一言で場の空気が変わる。


頼もしい味方であるはずだが、カエデ達も先程より体が強張り、額に汗を浮かべた。

そして、まるで何かから隠れるように──無意味だとわかっていても──本能的に息を殺した。

ウスケが小さく息を吐く。


「主君裏切って好き勝手やってるだけのメンヘラ忍が…調子に乗ってんじゃないわよ」


怒気を孕んだ目をデビに向ける。

その側で、チヨメも静かにクナイを構えた。


「ハンゾウ…!久しいなぁ!元気そうでなによりだよ!」


この空気感を物ともせず、あくまでマイペースに、ヒロカは楽しそうに笑った。


「戦国屈指の忍び達が、まさかこんな所で一堂に会するだなんて…面白すぎる‼︎」


デビはヒロカを一瞥すると武器を構える。

もはや、言葉を交わす必要はない。

そう判断した様だった。


そして、デビが得物に手をかける─よりも早く。

ゲンザブロウが動いた。


デビへ向かって目にも止まらぬ速さで突っ込む。その軌跡は、地面が弾け飛び、音を置き去りにした。

そして、およそ2tは下らない門天丸を軽々投げ飛ばすその腕力を持って、自身の得物をデビへと振り下ろした。


「デビちゃん!!」


「っと…!おい、ゲンザブロウ!早まるんじゃねえ!」


腕を振り下ろしたまま、ゲンザブロウはサスケを見やる。

ハンゾウ、という人物については自分はよく知らないが、戦いに水を差した邪魔者である事は明白。

それを排除する事に何を迷う必要があるのか。

そう思っていた。


「目を離すな!!!『そんなモン』じゃそいつは死なねぇ!!」


ゲンザブロウが目線を戻す。

そこには、自分の得物を『片手』で掴む、無傷のハンゾウの姿があった。


「─貴様から死ぬか?」


ゲンザブロウは得物を手放すと、咄嗟に首元を両腕で覆う。

本能的な反応だった。

頭で考えるよりも先に、体が「急所を守らなければ」と、防衛本能を動かした。


が。



次の瞬間、ゲンザブロウは木々を薙ぎ倒しながら彼方へ吹き飛ばされていた。

体勢を立て直すと、既に目の前には二撃目を構えるデビの姿。


「ッッ!!!」


ゲンザブロウが反撃の体勢を取る。

それぞれの刃がぶつかるその刹那。



「まてまて!やめだ、やめ!」



二人の間にサスケとウスケが割って入った。

デビとゲンザブロウも振りかぶる手を止める。


「ユキ様の大義の為…私達はは1人も欠ける訳にはいかないの。少なくとも、今はね」


ウスケが尚も、デビへ向かおうとするゲンザブロウを目で制す。

サスケは小さく笑うと、デビを見た。


「…今回は見逃してやるよ。その方がそっちの為だろ?」


サスケの提案に、デビは肩をすくめると、いつもの人畜無害な笑顔を浮かべて答える。


「ふーん、ちょっとは分別が着くようになったんだ?サッスーの事、見直しちゃったカモ☆」


その飄々とした態度に、サスケは思わず苦笑した。

そして、ウスケ達を見やると、彼らも一斉に動き出す。


「またお会いたしましょう。─次は、もっと面白い舞台で」


最後にヒロカがカエデ達へ言う。

そして、木々の間へ溶けるように消えていった。


場に静けさが戻る。

しばらくして、テルトラが大きく息を吐いた。


「…さすがに今のはヤバかった」


そのまま、門天丸の装甲に寄りかかる。

カエデもゆっくり刀を下ろす。


「うん、まさかあんな強い人達が武田にまだいたなんて…」


少しの沈黙。

そして二人は同時にデビを見る。


「…助かった」


テルトラが言う。

だが、デビは答えなかった。

笑顔のまま、サスケ達の去った森の奥を睨んでいる。


「…デビ?」


「あっ、ゴメンゴメン☆何でもないよ☆」


カエデの問いかけに、デビは短く答えた。


カエデとテルトラが顔を見合わせる。

デビは視線をカエデ達に戻す。

すると、先程までの険しい雰囲気はなく、再び明るい笑顔に戻っている。


そして、少しだけ間を置いて言う。


「それよりも、さっきのアイツら止めないと不味いかも☆」


デビは視線を遠くへ向ける。


「武田はもう次の段階に入ってる」


遠くの山の向こう。

そこでは、すでに次の戦いの準備が進んでいた。


「─真田獣雄肢。徳川十二機神将を回収、改造したモノ。アイツらはそれを使って、各地の街を襲うつもりなの」


武田の征伐は、さらに激しさを増していく。

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