五話 豊臣の為
巨大な石垣が、ゆっくりと積み上がっていた。
まだ建設途中ではあるが、その規模はすでに街を圧倒している。
職人や兵士が忙しく行き交い、巨大な城郭が少しずつ形を成していく。
新O-SAKA城。
豊臣の新たな本拠地だ。
その光景を、離れた高台から一人の男が眺めていた。
四脚機械に腰掛けたフードの男――
サー・リベロ。
彼は静かに城を見上げながら、思考を巡らせていた。
(徳川は滅びた。
だが、世界はまだ不安定だ)
各地の勢力。
宗教団体。
旧徳川残党。
そして――武田。
リベロは目を細める。
ユキ=ムラマサ。
あの女の狙いは明白だった。
豊臣に征伐を行わせ、各勢力と戦わせる。
その過程で豊臣も、その味方勢力も疲弊する。
そして最後に。
武田が天下を奪う。
リベロの口元がわずかに歪む。
「……こちらも利用させてもらおう」
ユキの思惑は理解している。
だからこそ、乗る。
豊臣は全面協力の姿勢を見せつつ、徐々に距離を置く。
そして、武田が征伐を主導するよう、誘導していく。
そうすれば、世間はこう認識する。
征伐は武田の暴走。
豊臣はそれを止めようとしている、と。
構図は自然に出来上がる。
その間に――
夜刀。
カエデ。
各地の勢力。
それらが武田と戦う。
武田は消耗する。
そして。
最後に残るのは――
「豊臣だけだ」
リベロは小さく呟く。
「天下の安寧は」
遠くの城を見上げる。
「最後に残った者が作ればいい」
その時、通信装置が鳴った。
「旦那、俺だ」
リベロは通信を開く。
「…サコンか。状況は」
通信の相手は、サコン。
豊臣の将の1人である。
リベロと同郷である彼は、リベロの右腕として戦場で陣頭指揮を取る役目を取っていた。
その為、サコンからの通信は専ら戦場から届く。しかし、通信の向こうでは風切音がするだけで、鉄の交わるような音はしてこなかった。
「征伐が止められた」
サコンの声は苛立っていた。
「夜刀だ。いきなり現れて市民を庇いやがった」
少し間が空く。
「応戦したが、市街地だ。これ以上やれば本格的に住民へ被害が出る」
サコンが大きく舌打ちを打つ。
「この地域の征伐は骨が折れそうだぜ」
リベロは静かに言う。
「構わない。撤退しろ」
サコンが少し驚く。
「……いいのか?」
「むしろ都合がいい」
リベロは声のトーンを変えずに続ける。
「夜刀や、カエデ達が征伐を止めようと動けば、武田はさらに強硬姿勢を取るだろう」
「それまでに、豊臣は征伐には後向きである事を市民にアピールしておけ」
リベロは言った。
「最後に勝つのは豊臣だ」
通信の向こうでサコンが笑う。
「相変わらずえげつないな」
リベロは答えなかった。
ただ、建設途中の城を見上げる。
新O-SAKA城。
いずれこの城が、天下の中心になる。
そのための戦いは、すでに始まっていた。




