表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/24

第十四話 救護神アラハバキ

空は、O-SKでも重く沈んでいた。


黒雲の下、城門前の街道に、三つの影が並んでいた。足元には光の柱のようなーー豊臣のサイバー技術を元にした転送装置が光る。


前に立つのは、カズナリ。

その背を、ヒデヨシは顔を伏せて見送る。


その隣には、いつものおちゃらけた雰囲気が鳴りを潜め、神妙な顔をしたシーメウォンが立っている。


「……すまない。お前には損な役回りをさせる」


ヒデヨシの声は、かすかに震えていた。


カズナリは振り返らない。

ただ、少しだけ首を傾けて言った。


「何を仰います。これはこの国の存亡をかけた大役です。むしろ光栄ですよ」


ヒデヨシは拳を握りしめた。


「……そう、だな。お前にしか頼めない事だ」


カズナリは、初めて振り返った。

その顔に、迷いはなかった。


「万事このカズにお任せください。この国の王となるお方の右腕と呼ばれた私に、ね」


それだけ言って、背を向ける。


ヒデヨシは顔を伏せ、

見送ることしかできなかった。


その横で、シーメウォンが小さく呟く。


「…バイバイ、カズ」


その言葉が、終わるより早く。


光の輪が広がり、

カズナリの身体の輪郭が粒子状にほどけていく。


ーーー


「…さぁ!ここからが正念場よ。豊臣の天下も目前に迫りつつある今、余が呆けてはいられん!」


ヒデヨシが自らを激励するようにパン、と頬を張る。


「シーメよ!まずは例のプランを再確認するぞ!それから…」


「おっ?やる気ですねぇヒデちゃん!…けどごめん、ちょっと待って」


意気揚々と語るヒデヨシにシーメウォンが水を差す。

何事かとヒデヨシが彼女を見やると、自身の後ろへ控えるように手で促される。


突如空が裂けた。


キィィ……ン、と、金属を擦るような音。

地面を這う、無数の影。

ソレはO-SK城の城門を吹き飛ばし、飛来した。


「アッハハハハ!!面白い冗談じゃんね〜」


耳を裂くような、狂気じみた笑い声が城下に響き渡る。

すると、1人の少女が瓦礫の向こうから姿を現した。


小柄な体型。

戦場に似つかわしくないフリルの付いたゴスロリ衣装。

しかし、彼女がただの少女ではないと異形の存在たらしめているーー袖の奥から、蠢きながら伸びる数多の“百足”。


「徳川の…霞か……!」


ヒデヨシが苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。霞は狂気的な笑いを止めることなく話し続ける。


「ホント、可笑しい…『豊臣の天下』、だって…!!アハ、アハハハハハ!!!」


霞が腹を抱えて笑う度に、百足が地を叩き、城下の石畳を砕く。


「ーーーふざけんじゃねぇぞ」


突如、ピタリと笑うのを止めると、霞はくるりと回り、百足を鞭のようにヒデヨシへ振るう。

シーメは素早くヒデヨシを抱え、退避する。先程までヒデヨシがいた場所は石畳が砕け散り、地面が大きく抉れ、霞の殺意を物語る。


「お前が…お前さえいなければなァ……!!わーしも死なずに済んだし、殺さずに済んだのにさぁ…!!」


霞は怒りのままに叫ぶと、今度はゆるりと脱力しキョトンとした顔でこちらを見ながら言う。


「あ?……あ〜…?

殺す?わーしが、誰を?

…誰を、殺しちゃったんだっけぇ…?」


その瞳は狂気に濡れ、

奥には、深い怨嗟が渦巻いていた。


シーメウォンが前に出る。


「ヒデヨシ様、下がって!

こいつは……話が通じる相手じゃない!」


「わーしはねぇ…強いんだ…1人で、先陣切って、みーんな倒すんだ……!!みんな、みんな…アハ…アハハ…!!」


両腕から繰り出される百足が唸りを上げて、ヒデヨシ達へ迫る。


「かかれィ…かかれェエイ…!!アハハハハ!!!」


ーーーー


「ソゼは皆様がどんな抵抗をしてくださるのか、大変楽しみにしております。それでは、皆様のご武運をお祈りします」


瀬名姫が糸を引くと、O-EDO城が変形した巨大絡繰に吸い込まれるように戻っていった。


天地が、砲火で満たされつつあった、その時。

空間が、歪んだ。

転送光が徳川城の外縁に円を描き、

その中心から、巨大な影が現れる。


救荒覇神――アラハバキ。


徳川の絡繰達に劣らない巨体が、大地に降り立った。

その胸部で、光が脈打つ。


「徳川軍の皆様、お初にお目にかかります。私はカズナリ。ヒデヨシ様の忠実なる右腕。早速ですがーーー徳川軍大将の首、頂戴いたします」


カズナリの声が、外部スピーカーを通して響く。


曽是が、戦艦の甲板で目を細めた。


「ほう……豊臣め。あの様な旧式を引っ張り出してきたか。しかし残念だ、忠勝であれば、もう少し気の利いた玩具を用意しただろうよ」


怨美が、くすりと笑う。


「アレが此度の『世界の希望』という訳です。早々に手折ると致しましょう」


怨美が号令を放つ。

即座に徳川の護衛戦艦が、一斉に砲火を放った。


回避行動を行うも、全ては避けきれず、アラハバキの装甲が、次々と剥がれていく。


そして、三機の人型絡繰が、空からアラハバキへ急接近し、同時に、刃を叩きつけた。


二十メートル級の巨体同士の衝突が、

衝撃波となって周囲を吹き飛ばす。


アラハバキは反撃する。

だが動きは鈍く、反応速度も、相手に追いついていなかった。


「…くっ…!」


カズナリは歯を食いしばる。

警告音が、容赦なく鳴り響く。


【装甲中破】

【動力炉 損傷22%】

【制御系 システム不具合発生】


高速軌道で逃げ回るも、瀬名姫の巨大絡繰が糸を放ち、アラハバキの腕を絡め取る。


三機の人型絡繰が、

左右と背後から同時に襲いかかる。

刃が、装甲を引き裂く。


月の民から奪った技術で造られた、異様な兵器。

その圧倒的な質と数の前に、アラハバキの進行はすでに限界を迎えていた。

コクピットは赤く染まり、警告音が絶え間なく響く。


しかし、カズナリの駆けるアラハバキは片腕がもげ、脚部がひしゃげてもなお――戦場の中心を目指す。


「やはり性能の差は誤魔化せませんね……

ですが、それでも……!」


カズナリは、背後の操作パネルを開いた。

そこに収められた、封印付きの最後のレバー。


それは、誰も戻れぬ決断を下す鍵。


彼は深く、息を吐いた。


「……ヒデヨシ様。貴方の覇道、共に歩ませてくださった事……心より、感謝いたしております」


「貴方様の信じた未来に、私の命が少しでも寄与できるのであればーーー」


握った拳が震える。だが、それは恐怖ではなかった。


「本望でございます」


そして目を閉じる。


「……シーメ。貴方に託します」


「我が主を……ヒデヨシ様を、頼みます」


レバーを、静かに引いた。


【炉心臨界 準備】

【自爆シークエンス 開始】


アラハバキの胸部が、異様な光を放ち始める。

限界まで炊いたエンジンが轟音をかき鳴らし、アラハバキの性能を極限まであげる。

すると、先程までとは桁違いのスピードでソゼの乗る母艦目掛け突っ込んでいく。


瀬名姫の糸が、さらに締まる。

それでもアラハバキのスピードは緩まることはなく、その速さを持って糸は引きちぎられた。


その様子を見て、曽是が楽しそうに嗤う。


「あの動きは…特攻か?面白い、良い覚悟だ」


反面、怨美は焦りを露わにした。


「……!!各艦全砲門開け!絡繰共はヤツを死んでも止めろ!!!」


三機の人型絡繰が、同時に動いた。


一機が、アラハバキを正面から押さえ込む。

一機が、背後から抱え上げる。

最後の一機が、力任せにその二機ごとアラハバキを投げ飛ばす。

アラハバキの巨体が空を切り、瀬名姫の絡繰と、徳川の戦艦郡から距離を引き離される。


「――豊臣よ、永遠なれ」


眩い光が戦場を包む。


次の瞬間、世界が白に塗り潰される。


凄まじい轟音と共に爆炎が空を焦がし、

衝撃波が大地を砕いた。


アラハバキを羽交締めしていた一機の人型絡繰が、直撃を受け、

上半身は消し飛び、地面に叩きつけられる。


残る二機も、爆風に巻き込まれ、

装甲が剥がれ落ち、損傷を受ける。


一方で、徳川の戦艦と瀬名姫の巨大絡繰は爆心から外れ、致命傷は免れた。


煙の中。

その中心にはもう、アラハバキの姿はなかった。



高台からその爆発を見ていたカエデ達。


巨大絡繰の一機が崩れ落ちる様子を見届け、シンゲンが口を開いた。


「一機沈んだ。残り二つも損傷。戦艦の隊列も乱れ、地上への攻撃も薄まった…今しかない」


カエデは小さく頷き、前を見据える。


「うん、誰かが命をかけて作ってくれたチャンス。無駄にするわけにはいかないよね」


シンゲンは刀を抜いた。


「行くぞ。曽是を討つ――ここが決戦だ」


**


カズナリ、名誉の戦死。

主への忠義を胸に、静かに己の火を燃やし尽くす。

その死は、未来の礎となった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ