表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/22

間話 夜刀戦記 編

隠れ世の森での戦いの後、カエデ達と別れた後、夜刀はカエデ達が陽の欠片と、対徳川の助力を求めて西側諸国を巡る間、徳川軍を引きつける為日々徳川へゲリラ攻撃を行っていた。

夜の森は静まり返っていた。


風の音すら、どこか遠慮がちに枝を揺らす。

その奥、焚き火の小さな灯りが、かすかに揺れていた。


「…オイ、じっとしてろ」


ぶっきらぼうな声。

エミは乱暴に包帯を巻きながら、50銭の傷を処置していた。


「イデッ、頭領、もうちょい優しくお願いしますよ〜」


「ほう?アタシに命令とは、随分と偉くなったなァ50銭ン?…そうだ、久々にスパーリングでもするか?ん?」


エミが笑顔のまま包帯を巻く手に力を込める。

その端正な顔に、小指ほどの太さの青筋が立てながら。


「アダダダダ!!すんません!遠慮致します!」


軽口が飛ぶ。

それが、いつもの夜刀の空気だった。


だが――呼吸の奥に疲労を隠しきれていなかった。


腕は重く、脚は鈍い。

小さな動作のひとつひとつに、微かな遅れが出ている。


ひと月以上。


徳川の軍事施設を狙ったゲリラ襲撃。

陽動のための戦いを、彼らは休みなく続けていた。


勝利はしている。

だが、それは“削り合い”だった。


「ほんと、よくやるよね僕らも」


芳ニが呟く。


「好きでやってるわけじゃねぇがな」


エミは肩をすくめる。


その仕草は軽い。

だが、その目の奥には、明らかな疲労が滲んでいた。


それもそのはず。エミの人格は、本来なら戦いが終わればすぐにミネと入れ替わる人格。

それが、長期間表に出続けているのだ。


それ自体が、異常な状況であり、彼女への負担となっているのは間違いなかった。


「……エミちゃん」


静かな声がかかる。


デビだった。


焚き火から少し離れた場所で、腕を組みながら全員を見ている。


「ん?」


「無理、してるでしょ」


軽い調子。

だが、視線は鋭い。


「ハッ、何を言い出すかと思えば…無理なんざしてねぇよ。アンタもナイーブになっちまったか?」


即答。

だが、その声はわずかに掠れている。


デビは小さく息を吐いた。


(エミが限界を迎えて、ミネに戻るタイミング)


デビは思考を巡らせる。


(その瞬間ーー)


口元がわずかに歪む。


(徳川は必ず仕掛けてくる)


■ 徳川・居城


「奴らもよくやる」


感情のない声が、広間に響く。


曽是は、無表情のまま言い放った。


「夜刀、と言ったか。なかなかに厄介だな」


その言葉に、周囲の空気がわずかに張り詰める。


彼女達のゲリラ戦術は的確だった。

小規模ながらも確実に要所を突き、

兵站を乱し、施設を破壊する。

そして、目的を達成すれば被害を出さずに即座に撤退。


「ーー流石は半蔵よ」


曽是の言葉に、側に立つ怨美の眉がピクリと動く。


「あれが敵に回った以上、雑兵では止められん」


デビ=ヘイリー、もとい元・徳川死天王 服部半蔵。彼女の存在がある為に、夜刀がいかに小規模とはいえ襲撃のたびに、徳川側は幹部級の戦力を割かざるを得なかった。


「蠱毒の失敗……クニムネの離反……」


静かに指を折る。


「西側諸国の結束も止められず……」


「ッ……!」


怨美は歯を食いしばる。

唇が裂け、血が滴る。


「お前の筆も残り少ない。決戦まで温存せざるを得まい」


その一言が、怨美の神経を逆撫でする。


「……ッ!!申し訳…ございません……!!」


「まぁまぁ」


そこへ、間延びした声が割り込んだ。


呪術師――山本勘助は、にやりと笑う。


「されども我々の将の質は別格。優勢は揺るぎませんよ」


「北条、毛利……」


飄々と述べる勘助を怨美が睨みつける。


「貴様の失敗は洒落にならん領域だ……次のループでは――覚悟しておけ」


「ほぉら、“次”がある、と。浮世絵師殿も仰っておりますし」


呪術師は楽しげに肩をすくめた。


「まぁいい」


曽是が言う。


「…少々目障りだな、夜刀とやら」


そして。


「十兵衛」


呼ばれた男が、一歩前に出る。


「奴らを滅ぼせ。……半蔵は生け捕りにせよ」


「了解致しましたぁ」


十兵衛は、朗らかに答える。

その笑みは、どこまでも軽く――残酷さを孕んでいた。



その日の襲撃は、順調すぎた。


「……妙だな」


50銭が呟く。

この日、夜刀が襲撃したのは、徳川領要所を結ぶ巨大な砦。

しかし、その大きさに反して警備は薄く、容易に砦の最奥まで入り込む事が出来た。


「なんだっていいさ。ヤツらが何考えてようが、落とすまでだ!!」


エミは蛇腹剣をしならせ、迷わず前へ進む。

だが――


「囲めぇぇぇぇ!!!」


怒号。

四方から兵が雪崩れ込む。

外壁にはズラリと銃兵がこちらに銃口を並べていた。


「ッ、罠……!」


完全な包囲。

退路は、すでに断たれていた。


「ようやっと捕まえたで」


正面の門が開き、ゆっくりと十兵衛が現れる。

彼の背後には、20を超える兵達が控えていた。


「十兵衛…」


デビが呟く。

十兵衛はデビ達を一瞥すると、ニコリと笑ってこう言った。


「なぁ、交渉しようや」


「交渉?」


「そこにいる半蔵さんーーいや、今はデビとか言いましたっけ?アナタさえ残ってくれれば、他は見逃したります」


空気が張り詰める。


「…何を寝ぼけた事を言ってやがる」


エミが即座に前に出る。

だが――


「わかった」


それを、デビが遮った。


「なっ……!?」


「賢明なご判断やね」


驚きを隠せない夜刀の面々に、デビは静かに言う。


「四方隙間がないくらいガッチリ包囲されてる。この戦力差は私達ではどうしようも出来ない。ここで全滅するワケにいかないでしょ?」


「デビ……!」


エミの声が震える。


「行って」


短く。


「……大丈夫、アタシ強いから⭐︎」


デビはいつもの軽い口調でエミ達に微笑みかける。しかし、その言葉には、確かに命令の重みがあった。


十兵衛達の兵に銃で押し出されるようにして、エミ達は包囲から抜け出した。

 

「確かに約束は守りましたよ。…さ、半蔵さん行きましょか」


その後ろ姿を見つめながら十兵衛が笑う。


「ああ〜っと、1つ言い忘れとりましたわ」


素っ頓狂な声にエミ達も思わず振り向く。

そして、目を見開いた。


目線の先にいたのは、手足を拘束され、猿轡を噛まされた三日月の森の民達。

彼らが兵士に膝立ちの姿勢にされていた。


「この人達はな?徳川へのクーデター企てた逆賊なんやて。そない危ない人達、処刑せなアカン」


デビの目が細くなる。


「ふざけてんじゃねぇぞ!!!」


エミが怒りのまま飛び出した。

しかし、兵達が壁のように立ちはだかる。


「あら?皆さんはもう逃げてもらって構わへんですよ?」


「やめろ……!!」


兵士達に抑え込まれるエミ達。

十兵衛が手を挙げると、兵士達が三日月の森の民達へ銃を向ける。


「まぁそんなら特等席で見てってもらって。…撃て」


放たれる、光。


「…ッッ!!」


その瞬間。エミの中で、何かが弾けた。

すると、脳内に濁流のように映像が流れ込む。


((ミネ))


二つの語りかける声。


「…んだよ、これ、は……」


エミは困惑気味に呟く。

目線を揺らすと、ある映像が目に入った。

それは、白い装束を着る二人の男女を見送る幼い少女の姿。

紛れもなく、幼いミネの姿がそこにあった。


「…そうか」


エミは目を伏せる。


「思い出させてくれたんだな」


声の雰囲気が変わる。


「今度こそ、ワタシの番…!」


ーーーー


凄まじい銃声と共に光が爆ぜる。

十兵衛が再び手を挙げると、その音がピタリと鳴り止んだ。


「…なんやの?アレ」


着弾点に舞う砂煙。

それが晴れるとーー巨大な結界が展開されている。


「…エミ…いや、ミネちゃんなの…?」


デビが目を見開く。


「…安心してください。みんなに守ってもらった分、今度はワタシが護りますから」


そこにいたのはーーエミではなく、夜刀リーダーであり、巫女として守護の力を覚醒させた、ミネの姿だった。


「…次や。次弾装填ーー撃て」


十兵衛が淡々と述べる。

そして、号令と共に再び凄まじい銃声音。

しばらくして、轟音が鳴り止むと、そこにいたのは変わらない姿で結界を保つミネの姿だった。


十兵衛は眉を顰める。

そして、三度銃撃の準備を指示しようとしたその時。


「十兵衛よ」


曽是からの通信が入る。


「時間の無駄だ。撤退しろ」


この様子を見ていた曽是から撤退の命令が下る。

十兵衛は不服そうに部下達へ銃を下げさせた。


「…今回はここまでみたいやね」


十兵衛は、撤収を始める部隊を率いながら振り返り、言った。


「ーー次はないで」


徳川軍が波が引くように撤収していく。

その場にはミネ達だけが残された。


戦いが終わり、張り詰めていた空気が崩れる。

徳川軍の撤退を確認すると、ミネが結界を解いた。


「頭領!!」


「ミネちゃん!!」


芳ニと50銭が駆け寄る。

それを見て、ミネは微笑んだ。


「よかった、みんな、無事、で……」


そう言い残すと、膝から崩れ落ちた。



ーーーその日の夜。


夜刀の拠点に静かな寝息が響く。

ミネは眠っている。

あの後、デビ達によって介抱されたミネはなんとか一命を取り留めた。


「……」


デビは、ミネの傍に座っていた。

そして、静かにその寝顔を見つめる。


(無垢な顔。戦場とは無縁であるべき存在)


拳を握る。


(こんな世界は間違っている。変えてみせる。ーーー必ず)


焚き火が、ぱちりと音を立てた。


ーー夜はまだ、終わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ