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第十話 獅子小田原編

「人数が増えるって、やっぱいいね」


街道を歩きながら、カエデが振り返った。


「足音が、前より賑やかだ」


テルトラが肩すくめる。


「…別に良いことばかりってことはないでしょ」


「何故だ、テルトラ?…ああ、飯の事なら心配ないぞ。シズメは少食だそうだ。お前の取り分は変わらず毎食3合用意してーー」


「…フン!」


「脛が!!!」


テルトラの鋭いローキックでシンゲンがその場にかがみ込む。

その様子をシズメは無言だったが、静かに微笑みながら見ていた。だが、その歩調は確かに一行と揃っていた。


その時、カエデの携帯に会話アプリの通知音が短く鳴る。


「ん、誰だろ……半蔵?」

 


 


既読

12:48「カエデ。時間がない」


12:48「どういうこと?」


既読

12:49「詳しい説明は省く。

   ウチらも限界が近い。

   持って5日…いや、1週間が限界」


12:49「寄り道してる余裕はない、ってことだね」


既読

12:50「そういうこと。なるはやで、ヨロ!」






「『了解!』っと」


一瞬の沈黙。


「急ごう。夜刀のみんなが耐えてくれている間に」


カエデが言った。


シンゲン達も頷く。


一行は、歩みを速めた。



時は少し遡る。


徳川領の一角。

冷たい空気の中で、風魔光太郎は呪術師、山本勘助と向かい合っていた。


「北条にかけた呪いを解く方法、ですが」


勘助が淡々と言う。


「その地にある“陽の欠片”を破壊する事です」


「……本当か」


「疑う必要はございますか?」


勘助は笑う。


「貴方に選択の余地などない。そうでしょう?」


風魔は視線を伏せた。


「民は……元に戻るんだな」


「左様ですとも」


一拍。


「……わかった」


それだけを言って、風魔は背を向ける。


勘助は、その背に声を投げた。


「急いだ方が良いかもしれません。呪いというのは時間が経てば経つほど染みつくもの。北条を思うならば…頼みますぞ、伝説の忍、風魔光太郎殿?」


風魔は何も答えなかった。



豊臣領の手前。

巨大な城門の前に、獅子小田原――シシコダワラはあった。


「ずいぶん立派な近代都市だねぇ?」

カエデが呟く。


「…建築様式は比較的新しい。けど……」


テルトラが言葉を切る。


「住民が、全員異形なのは一体どういうことだ」


通りを歩く者、門番、商人、子ども。

すべてが獅子舞の姿。


だが、誰もその姿に疑問を持つ事なく、人間のような暮らしを送っている。


「なんか、あそこまで自然に振る舞われるとあんまり怖くないね」


カエデが言う。


「そうだな。彼らの佇まいにはこの地の住民である事への誇りすら感じる」


シンゲンが応じる。

カエデたちは門番の前に立つ。


「当主・カザミ様への謁見を願います」


門番は一行を見回し、静かに頷いた。


「カエデ様御一行ですね。噂は予々。通行を許可致します」


門が開き、カエデたちは街へ入っていった。



その様子を、城門の影から見つめる男がいた。


風魔光太郎。


「来た、か」


あの一行。

聞いていた陽の欠片を求める者たちに間違いない。


だが――

城の奥を見据えた時、風魔の足は止まる。


(……今さら、戻れるのか俺は)


脳裏に浮かぶ声。


『ーーお前の姿が変わらないのは、忠誠がない証だ!』


風魔は歯を食いしばる。


「……」


足を止め踵を返す。

入国の列に並ぶことすら、できなかった。



「ちょっとちょっとー!

俺たち、怪しくないからさ!」


やけに陽気な声が響いた。


回天と、我楽多姉弟。

カエデ達と時を同じくしてシシコダワラにやってきた彼らは、見た目の奇抜さ(主に回天の)に門番に足止めを喰らっていた。


「なんだそのふざけた風貌は!」


門番が言う。


「えー、音楽家は見た目が大事なんだぜ?」


「ここは遊び場ではない!立ち去らぬようならばーー」


回天は肩をすくめると、ターンテーブルを置いた。


「まぁまぁ、ちょっと聴いてみ?」


音が流れる。


低く、心地よいリズムが場に満ちる。


「……ほう」

「…これは、なかなか……」


門番達の表情が緩む。


「悪くない……」


「だろ?」


回天が笑う。

いつの間にか、入国の為の広場は門番達や周りの臣民達を巻き込み小さなディスコ会場と化していた。


その様子を、未だ門に近づけずにいた風魔がじっと見ていた。


(…妙な力だな)


気づけば、回天の前に立っていた。


「あの〜…スンマセン。その音楽は何スか」


「ん?おっ!忍者じゃん!」


回天が目を輝かせる。


「俺の音楽の良さがわかるのかい?」


「まぁ、その。嫌いではない、ッス」


「だろ?まぁあんたもノッてきな!」


回天が新たな曲をかけると広場の人々から歓声が湧いた。

その空気に圧倒されそうになる中、風魔に声をかける人影がいた。

我楽多姉弟のカグラである。弟のラクタも隣に控え、風魔を値踏みするようにジロリと睨みつけていた。


「よう!アンタ、“乱発”(らっぱ)※の頭領だろ?」

※日の本を代表する盗賊集団


「……!!なんでそれを」


「奴らには随分世話になったからね。…ああ何、別に言葉通りさ。アタシもコイツも、義賊様のお恵みに肖ったことが少なからずあるんだ。その事で改めて礼を言いたくてね」


「その節は、助かった。アンタのようなのが居なけりゃ俺達は野垂れ死んでたかもしれない。…礼を言うよ」


「や、義賊だなんて…悪党には変わりないし、そんな頭を下げられるような立派な事じゃないっス」


風魔が弁明するも、カグラとラクタが頭を下げ続けるので、頭を上げるよう促す。

すると、回天が近づき、風魔に鼻息荒く話しかける。


「ラッパー!?アンタ、ラッパーなのかよ!

なんだよ、早く言ってくれよ兄弟!!実はな、俺の音楽にあと一つ足りないのは熱いソウル込められる歌い手…まさしくラッパーだと思ってたところだったんだよ!!

どうだい、一緒にこの音楽街道を突っ走らねぇかい!!?」


「え、いやその。自分は乱発、であってラッパーでは…」


「いやぁ、実はな?一声聞いた時から良い声だと思ってたんだよな!これはもう、運命だぜ!!」


「や、違くて」


「カグラとラクタが頭を下げる程のラッパーなんてよォ…その気だるげな顔に一体どんな熱いソウルを持ってんだよ!!アンタのソウル、早く聴きたいぜ!!」


「あの!自分はそんなんじゃ…」


回天は止まらない。

カグラ達にこの誤解を解いてもらおうと、目をやると、生暖かい笑顔でこちらを黙って見つめていた。

わかる。顔に「お前もこちら側だ」と書いてあるのが。


「よし決まり!お前、ラッパーとして同行な!」


「……マジすか?嘘でしょ?ちょっと!?」


「よし!門番の兄ちゃん達!コイツも入れてくれ!心配いらねぇ、俺と共にビートを鳴らす仲間だ!」


「うむ、そうか。では、共に入れ」


風魔は、城門をくぐる。


その背に、回天が声を投げた。


「なぁラッパー忍者!

そういや名前教えてくれよ!」


「ふ、風魔。風魔光太郎っス…」


「よし!風魔!んじゃあいこうぜ!」


風魔光太郎は、獅子小田原へ入国した。




――獅子小田原・王城


城内は、外の喧騒とは対照的に静かだった。


獅子舞の臣下たちが整然と並び、奥へ奥へと案内される。

その視線には、警戒よりも好奇心が混じっていた。


「……なんかすごい見られてるね」

カエデが小声で言う。


「俺達は異邦人だ。無理もない」

シンゲンは周囲を見渡しながら答えた。


「うう…さっきはあんまり怖くないって言ったけど、前言撤回。黙って見つめられるのはまぁまぁ怖いかも…」


玉座の間。

そこにいたのは、民と同じく獅子舞の姿をした領主――カザミ。


「遠路はるばるようこそ。獅子小田原へ」


弱々しく、自信なさげな声が、彼を年端のいかない年齢である事を示す。

同時に、領主としての聡明さも感じる澄んだ声色が部屋に響いた。


「私はカエデと言います」


一歩前に出る。


「陽の欠片を求め、この地へ参りました」


「陽の欠片、ですか」


カザミは言葉を濁し、視線を伏せる。


「…それと」


テルトラが続ける。


「…我々は徳川に対抗する勢力を探している。北条にも協力を仰ぎたい」


沈黙が続く。


「…すぐには、返答できません」


「え?」


カエデが思わず声を上げる。


「民のこともある。国のことも……軽々しく、決める訳にはいかないのです」


「でも――」


カエデが言いかけた、その時。


突如、城が揺れた。


「なに……!?」


外から悲鳴が上がる。


「空を見ろ!!」


一行は城の外へ飛び出す。

見上げると、空に黒い渦が現れていた。

アキノクニで見たものと、同じ空。


「あれは、あの時の!」


カエデが歯を食いしばる。


「山本勘助…!」


黒い影が空から降り立つ。


「久しいですなぁ、獅子の王よ」


「……勘助殿」


空からゆっくりと降り立った勘助の視線が

呪いから目下の逃げ惑う民を射抜く。そして、ニヤリと笑うと、カザミへと視線を戻した。


「相変わらず獣臭い国ですなぁ。貴方が心を正しく持ってさえいれば、こんな事にはならずに済んだものを」


「……っ」


カエデが前に出る。


「好き勝手言わないでよ!大体、この国を呪ったのはそもそもアンタのーー!」


「いいえ?」


勘助は遮る。


「呪いを呼び込んだのは、王の野心です。争いを望む野蛮な、ね」


勘助が両手を広げると、空中に呪術が展開され、黒い波動が街へ広がる。


「市民を守れ!」


シンゲンが叫ぶ。

カエデ達は一斉に市民守る為、防戦に移った。



一方、その頃。


「なんだァ?やけに騒がしいな」


回天が城外で空を見上げていた。


「こりゃあライブどころじゃねぇな」


「…!市民が襲われてる。とにかく行くよ!」


カグラが皆に呼びかける。


その影から、風魔も様子を見ていた。


(……カザミ様)



「この国の穢れ様はもはや取り返しがつかない。ですので、貴方にはその代償を払っていただこうと思いましてね」


勘助の言葉に、カザミは俯いたまま答えない。

カエデは、カザミに襲い掛かる呪いからアタラヨで守っていたが、突然堰を切ったように、カザミ自身がその守りから離れ呪いに身を晒した。


「なっ、カザミさん、どうして!?」


「いいんです…!これ以上民も、皆さんも巻き込む訳にはいきません」


すると、カザミはゆっくりと語り出す。


「呪いさえ受ければ徳川は北条に手出ししない、との盟約を交わし、この国はあの呪術師によって呪われました。何の害もない、契約としての呪い。…ですが、その代わり、僕が少しでも争いを望めば人々が魔物になる……そういう類の呪いです。僕が勧善の心を持っていれば害のない呪いだったんです」


「じゃあ、この姿は……」


「僕の心が、争いを望んだから…。約束通り、奴が呪いをかけると、臣民達は瞬く間に獣に姿を変えました。…当然国は大混乱に陥りましたよ」


カザミは続ける。


「だから僕は、嘘をつきました。

これは神から授かった姿だと。最も尊いとされた我々に賜った神化である、と」


「……」


「姿が変わらなかったのは、僕と、側近…『風魔光太郎』だけでした。僕は彼に……ひどいことを言って、国から追い出しました。

完全に、ただの八つ当たりだった」


カザミは話しながら獅子舞の被り物を外す。中からは現れたのは、小柄な少年であった。


「だから、これは当然の報いなんです。野心に溺れ、民や自分を信じてくれた部下を裏切り、なおも保身の為に嘘をつき続けた僕への…罰なんです」


返す言葉もなくカザミを見つめるカエデ。

しかし、横で話を聞いていたテルトラが眉をひそめる。


「…妙じゃない?」


「何が?」


カエデが問う。


「あれほど毛利の時は国一つ消費して呪物を作った勘助が、今回は呪いを“利用”せず、最初から呪いそのものを消しに来ている」


「それは…」


テルトラの疑問に考え込むカエデ。テルトラが門天丸にカザミを乗せながら続けた。


「…何か、きな臭い。とにかく、今貴方に死んでもらう訳にはいかない。このまま防戦を続行する」


――獅子小田原・上空


黒い渦の下、呪術が降り注ぐ街。


「南区画、守りが薄い!増援はまだか!」

「ダメだ!数が多すぎる…!!」

「コイツら斬っても斬っても増えやがる!」


獅子舞の姿をした衛兵が叫ぶ。

衛兵達の防衛線には、大量の呪術兵が押し寄せ、目の前に迫っていた。


「出し惜しみは無しだぞ、クニムネ」

《入れ食いだZeeee‼︎》


シンゲンは雷・国永と、強大な妖力の刃を形成したクニムネの二刀で大量の呪術兵を一振りで仕留める。


「…射線上に生体反応無し。門天丸、照準合わせて。いくよ、フルバースト」


さらに、上空から門天丸からの一斉掃射が降り注ぎ、瞬く間に呪術兵を蹴散らした。


「おりゃああ!!」


「退きなさい!」


カエデがアタラヨで残った呪術兵を薙ぎ払う。そこへシズメが放った一矢で呪術兵達が一掃される。が、すぐに漆黒の呪いの本流から呪術兵が生まれ落ち、迫り来る。


「〜ッッ!!ダメだ、倒す速度より敵が増える方が早い!」


「呪いは底無しという訳ですか…!!」


シズメが二の矢を継がえたその直後――

城門側から、軽快な音が割り込んだ。


♪――ン、タン、タン


「……?」


「なんだ、この音……?」


兵たちが振り返る。


「Yo!空気重すぎだろ、ここ」


屋根の上に立っていたのは回天。

背後には、我楽多姉弟。


「遅れて悪いな」


カグラがカエデに手を振る。


「カグラ!ラクタも!それと…えっと、どちら様…?」


かつて共に戦った我楽多姉弟との再会にカエデの声が弾む。

しかし、虹色の髷を蓄えた奇抜な格好をした男に目線をやると、困惑を露わにした。


「Yo!アンタら、カグラが言ってた陽の欠片を集めてるっつー勇者様御一行だろ?俺は回天!よろしくなァ!!」


回天が音楽を奏で始める。さらに、レコードをチャクラムのように投げ呪術兵を切り刻んだ。カグラとラクタがそれに続く。まるで音楽に合わせて、踊るかの様に敵を目を見張る早さで倒していく。


「ほう、ふざけた容貌にしてはやる」


「すごい!これなら行ける!」


回天達の思わぬ戦闘力に感嘆するカエデとシンゲン。するとしばらくして、空から地の底のような低い声が響いた。


「いやはや、皆様お強い!……ですが結局は時間の無駄という事がお分かりになりませんか?」


カエデ達が一斉に声の方を見やる。勘助が上空で貼り付けた様な笑みを浮かべながらこちらを見ていた。


「僭越ながら…小生が直接皆様に引導を渡すといたしましょう」


勘助が印を結ぶ。

次の瞬間、黒い呪符が雨のように放たれる。


「散開しろ!」


シンゲンが叫ぶ。

テルトラが前に出て門天丸の射撃で呪符を弾く。


「カグラ、ラクタ!後方支援頼める!?」


「「了解!」」


カエデは、我楽多姉弟の攻撃で呪術を相殺しつつ、アタラヨをスカイモードに勘助の元へ突貫させる。


「やった!?」


「残念、外れにございます」


しかし、アタラヨは虚空を斬り、勘助は別の場所に姿を現す。打ち出された呪術の本流に押し流され、カエデは地面に叩き落とされた。


「カエデ!無事ですか!」


「っ痛つ…!大丈夫。でも攻撃が通らなかった。どうすれば…」


シズメが駆け寄る。カエデが打ちつけた腰を恨めしそうに摩りながら上空を睨みつけた。


♪――ドン、ドン


突如として、音が広がる。

空気が、わずかに軽くなる。


「気分が、妙に高揚するな」


シンゲンが呟く。


「…あんなに喧しいのに、かえって集中力が増している……?」


テルトラも違和感に気づく。


「さあ、ノリ良く行こうぜ皆!」


♪――タッ、タ、タン


獅子舞の兵たちの動きが揃い始める。

徐々にではあるが、呪術兵を押し戻し始めていた。


「身体が軽い…!」

「恐怖心が、薄れていく…!!」


意味不明な状況の好転に

勘助は不快な態度を露わにする。


「ン〜不快ですねぇ、その音。

所詮は高揚による思い込み。貴方達の状況に何ら変わりはーー!?」


その時。1人の衛兵が勘助目掛けて矢を放った。


「こちら、南部防衛隊!敵は殲滅した!!これより、敵首魁との戦闘に参加する!!」


その言葉を皮切りに続々と衛兵が戦場に参加し、勘助に射撃を行う。

勘助は、煩わしそうにそれをいなすと、思わず吐き捨てた。


「全く、これだから嫌なのだ聖獣は…!!

知能のない獣であれば、楽だったものを」


「……何を言っている?」


テルトラが鋭く反応する。


「制御できぬ力など……利用価値がない、と言っているのですよ」


「利用……?」


カエデが目を細める。


勘助は独り言のように続ける。


「…ああ、そうそう。風魔という忍びも実に愚かでした」


勘助が笑う。


「陽の欠片を壊せば呪いが解けるなどと、本気で信じて――」


そこまで言うと勘助はハッ、とした表情で沈黙した。


「……なんだ?私は、何を言っている?」


回天が音を止めず、にやりと笑う。


「YO、随分気持ちよく喋ってるじゃねぇか。不快だ何だの言いながら、アンタもしっかり『波威譜素』上がってたみたいだな」


「…ドーパミン分泌を促して、気分を高揚させる…味方の士気向上だけでなく自白作用まであるなんて」


テルトラが回天の能力を冷静に分析する。

すると、勘助はわなわなと、拳を握り締め回天を睨みつけた。


「貴様…!!」


「おっと。アンタとセッションするのもやぶさかじゃねえが…まずはそちらさんに譲るぜ」


回天が暗闇をクイ、と顎で示す。

そこに目線をやると影から1人の男が現れた。


「……やっぱ、嘘だったんスね」


「風魔!?」


「…ちょっと、あんまり身を乗り出さないで。危ない」


カザミが門天丸から飛び出し、目を見開いた。


「カザミ様。愚かな俺を許してください。この風魔光太郎、二度は違えません」



風魔が戦線に加わると、戦況は一変した。


「速い……!」


カエデが驚く。


「これが、日の本を代表する忍びか…!」


シンゲンが唸る。


「ぐぅ…!!」


解き放つ呪術を悉く避けられ、追い詰められた勘助は、門天丸から飛び出していたカザミを捕らえた。


「動くな!」


「!!」


「己の心の弱さ故に、国にも帰れず盗賊もどきに落ちぶれていた若造風情が…調子に乗るのもここまでです」


勘助は呪符を放ち、風魔の胸に貼り付けた。


「その弱さがある限り、貴方は私の駒でしかないのですよ」


「風魔!!」


カザミが悲痛の叫びを上げる。

勘助が印を結び、高らかに叫んだ。


「さぁ、傀儡となりなさい!!」


だが――


「……確かに、俺は弱いっス。ちょっとのことで、己の忠誠心に自信が持てなくなるくらいに」


「な、に?」


「風魔…」


風魔は胸についた呪符に手をかけ、呟く。


「カザミ様はずっと正しかった。信じて隣に立ち続けるべきだった。なのに、俺は主を言い訳に逃げ出したっス」


そして、呪符を胸から引き剥がすとそれを乱雑に放る。


「バカな、最上級の呪符だぞ…!?まともな精神力では…く、来るな!これ以上動けばーー」


次の瞬間。彼の手にはカザミが抱き抱えられ、勘助の首は宙を舞っていた。


「…なっ…!!」


「けどもう、迷わないっス」



「風魔、その…すまなかった」


カザミが深く頭を下げる。


「頭をお上げください、カザミ様。謝るのは俺の方っス…本当に申し訳ございませんでした」


風魔も負けじと深々と頭を下げる。

その様子を見て、カエデがやれやれ、といった様子でカザミの頭を上げさせた。


「…欠片はお渡しします。

そして……来るべき決戦の時、北条は必ず貴方達の力となる事を約束しましょう」


「ありがとう、カザミ様」


カエデが頷く。

カザミは風魔を見る。


「……行きなさい」


「し、しかし」


「もうこの国は大丈夫だ。お前の力はここだけじゃない、日の本全体を守る事に使われるべきだ」


カザミは獅子舞の被り物を外し、膝をつき頭を垂れる風魔の顔に両手を添え、目を合わせる。


「そして、全てが終わった時。また、私を助けてくれるか?風魔よ」


「…!!もちろんっス…!」


回天が笑う。


「よぉーし!行こうぜ、風魔!こっからが俺達の本当の音楽街道の始まりだ!!」


「しっかし、そんなんしてる暇あんのかね?徳川との決戦も遠くないと思うんだけど」


「そんな時だからこそ音楽が必要なのかもよ、姉さん」


カグラがラクタに「そんなもんかねー」と適当に相槌を打つと、回天がうんうん、と頷きながら同調した。


「よくわかってるじゃねぇの!これもまた一つの救世ってワケだ。世界を救う為にもよろしく頼むぜ、ラッパー忍者君よ!」


「……っス」


「さ、音楽が俺達を待ってる!次の街へ行こうぜ!」


肩を組む回天に風魔は困った様に笑った。



そして、カエデたちは、次の目的地――豊臣領へ。


戦いは、いよいよ佳境へと向かう。


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