Episode:泥棒猫22
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
翌日。
クロはこの前のパレード時にリアと待ち合わせていた、通りの一角にいた。
恰好はいつもの黒装束ではなく、町娘スタイルだ。
「お待たせ~」
しばらく待っていると、リアがやってきた。
こちらもいつもとは違い、その辺の町娘のような私服姿だ。
だが、その手には、大きな包みを二つほど持っている。
「何だ?その荷物。」
クロが尋ねると、リアはその包みを少しだけ解いた。
見えたのは、剣の一部だ。
「城から拝借してきた。これを見せて、武器の受け子のふりして潜入するわよ。」
「マジかよ。」
クロはまた、露骨に嫌そうな顔をした。
「あんたでも忍び込むのが難しかったんでしょ?だったら、偽装して正面切るしかないでしょ。」
「そりゃ、そうだけどさぁ……」
「そうとわかれば、さっさと案内しなさい。」
「……嫌な予感しかしねぇ。」
クロはぼやきながら道案内を始めた。
その光景は、普通の町娘友達二人組にしか見えなかった。
西の貧民街に入ると、リアが周りをキョロキョロと見渡し始めた。
「どうした?」
クロが声を潜めて尋ねた。
「あたしも貧民街にはあんまり来たことがないの。」
「じゃあ、あんまり見回すな。ただ通るだけなら大丈夫だが、勘に障ることをすると、厄介ごとになる。」
「……わかったわ。」
こういう時、リアは聞き分けがいい。
下手なことをしないから、リーンよりよっぽど扱いやすい。
そうこうしているうちに、貧民街の最奥まで来た。
「あれだ。」
クロが視線で示した。
そこには、大きいがボロボロの屋敷がある。
「壊れかけの屋敷にしか見えないわね。」
「外側はな。多分、それも含めて偽装だろう。」
「あえて、外観は手入れしてないってことね。」
リアの理解は早い。
「で、どういう手筈で行くんだ?」
クロが尋ねると、リアは正面の入口を指さした。
「さっきも言ったでしょ?武器を届けにきた受け子のふりをして、中に入って、銃を確認するの。それさえ確認できれば、すぐに押さえられるよう、憲兵達には待機してもらってるから。」
「そんなに大義名分が大事かねぇ。」
政治に疎いクロには、よくわからない決まりだ。
「あっ、それと訊きたいことがあるんだけど。あんた、火を起こすのは得意?」
リアはそう言って、火打石を出してきた。
「火?まぁ、起こすのは慣れてるけど。」
貧民街で暮らすクロにとっては、当たり前の技術だ。
「じゃあ、これ渡しておくわ。あたし、そんなに素早く起こせないのよ。」
「はぁ……」
何かよくわからなかったが、火打石を渡された。
「じゃあ、いくわよ。」
リアが先陣を切って、屋敷に向かって歩き始める。
クロが渋々その後をついていく。
屋敷の門を抜けて、リアが入口をノックすると、わずかに入口が開いた。
「これを持ってくるように言われたんだけど、ここであってる?」
リアは全く臆することなく、そう言った。
ついでに、包みをわずかに解いて、中の剣を見せる。
「……今日、入荷があるとは聞いていないが。」
中から男の声が聞こえてきた。
「じゃあ、確認してよ。っていうか、ここだと目立つんだけど。」
リアがそう言うと、男は一瞬逡巡したようだが、入口のドアを開け放った。
「ありがと。」
リアはニッコリ笑うと、中へ入っていく。その後ろに、げんなりした顔のクロが続く。
入口のエントランスには、この前クロが見た時と同じく、大小様々な箱が並んでいる。
「ここで待っていろ。」
男がそう言って、奥へ入っていった。
エントランスには、他に二人見張りが立っているが、リアとクロからは結構離れた位置にいる。
「今ね。」
リアが短く言った。
「何が?」
クロが尋ねる間もなく、リアは突然眼前にあった細長い箱に手をかけた。
そして、その蓋を強引に開ける。
「やっぱり。」
そこには、この前暗殺計画に使われたものと同じ、銃が入っていた。
「リア!何やってんだよ、おまえ!」
クロが慌てて駆け寄った時には、既に見張りに気付かれていた。
「おい、おまえ!何やってんだ!」
見張りが二人ともこちらへ駆け寄ってくる。
だが、リアは構わずさらに箱を物色し続けている。
「銃があるってことは……多分これ!」
リアは箱の中でも密閉性が高いものを強引に引っ繰り返した。すると、中から黒い粉が出てきた。
「クロ公!さっきの火打石で、これに火を点けて!」
「はっ!?」
「早く!」
リアは別の箱から、緩衝材に使われていたおが屑を取り出し、黒い粉の上にぶちまけた。
クロはわけがわからなかったが、こうなったら言われた通りにするしかない。
素早く火打石を取り出すと、一発でおが屑に火を点けた。
「離れて!」
「何なんだよ、もう!」
リアに促され、クロは壁の端まで逃げた。
その時だった。
ドォン!
爆音と共に、辺りが白煙に包まれた。
「うわっ!」
クロは咄嗟に目を瞑ったが、そこをリアに引っ張られ、一気に入口まで引きずり出された。
「おいこら!どうなってんだよ!」
クロが喚くと、
「あれは銃の発砲用の火薬。銃の取引してるなら、一緒にあると思ったのよ。だから、煙幕代わりに使わせてもらったわ。」
リアが冷静に返してきた。
「そうじゃなくて!調べるだけじゃなかったのかよ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないわよ。」
見れば、既に入口の周りには数人の男達が集まってきていた。皆、手には剣や棍棒などの武器を持っている。
「マジかよ……」
「こうなったら、覚悟を決めて!」
「全部おまえのせいだろうが!」
クロはいつも常備している短刀を取り出した。
だが、リアを守りながら、この人数を相手できるかは、微妙なところだ。
「リア、とりあえず、手近の奴を何人か斬り倒すから、その隙に走って逃げろ。」
「何言ってんの。あたしもちゃんと戦うわよ。」
「はっ?」
次の瞬間だった。
リアは持ってきていた剣を包みから取り出すと、直近の男二人の足を薙ぎ払い、見事に倒してしまった。
「えっ……?」
クロは思わず、呆然とリアを見つめてしまった。
「なに驚いてんのよ。これでも一応、王族の端くれなんだから、剣術の心得くらいはあるわよ。」
確かに、リアは戦えないとは一言も言っていない。
クロが勝手に思い込んでいただけだ。
「ったく、妙に無茶すると思ったぜ。」
クロは一言ぼやくと、すぐに左手の男の足に短剣を突き立てた。
「ぎゃ!」
男はそのまま倒れ込み、その場でのたうち回る。
クロは目配せで左手の敵を掃討することをリアに伝えた。
リアは一瞬で理解したらしく、小さく頷くと、すぐに右手の敵を薙ぎ払う。
向かってきた見張りは十人ほどいたが、全員が爆発音を聞いて、バラバラにやってきた為、戦闘力に勝るクロとリアに各個撃破され、あっという間に全員が地面を舐める羽目になった。
「何してやがる!纏まって囲め!」
不意に頭上から男の怒鳴り声が聞こえてきた。
見れば、この前クロの侵入に気付いたあの男が、二階のバルコニーから指示を飛ばしていた。
「やっぱり、あいつが親玉か。」
クロはぼやきながら、リアのほうへ駆け寄る。
「リア、どうする?流石に束になって囲まれたら、きついぞ。」
「大丈夫。そろそろ来るはずだから。」
リアはニヤリと笑った。
その時だった。
「全員、突撃―!」
突然、けたたましい号令がかかったかと思うと、路地裏から何人もの憲兵が飛び出し、門から雪崩れ込んできた。
「よし!じゃあ、逃げるわよ!」
リアがクロの手を引っ張り、憲兵と入れ違いに外へ飛び出した。
憲兵はリアとクロには目もくれず、屋敷に突入し、その周りで倒れている男達を取り押さえていく。
斯くして、屋敷は一気に制圧され、リアとクロは逃げ遂せたのだった。




