みんなの決意
「裏仕事と言えば、それは私たちの専門ですよ。他人の仕事を奪わないでください」
こうやってカミトと話しているのは、軍士訓練学校に素晴らしい成績で卒業し、正式に特殊陸戦部隊、通称ドウイングレイヴンの指揮官に就任した藤原杏である。
事情の発端は、僕をシンに返す為に、セラフィーブリンガースの基地に帰ったカミトはそこにいるシンと杏に新しい部隊の事を話して、それを聞いた杏はその返事をした。
「狙撃兵科を舐めるなよ」
「まあ、それもそうですが」
いくら杏が採用した狙撃兵科の人がどんなに優秀だとしても、カミトより優れるはずがない。それを認めただろ、杏は素直に頷いた。
「でもそうすると、私たちは赤城さんの下にいる方がここより適任ではないでしょうか」
「その辺りはちゃんと凛と相談したからの話だ。俺は新しい部隊を成立しようとした事、既にセラフィーブリンガースの戦力に大きな影響が発生してしまった」
それは本当だ。新しい部隊の事を聞いたら、ロックオンと斎香はもちろん、まさか国光もカミトを追随したいと言い出した。
「狙撃兵科として、あの人を追随したくない奴はいない」
それもそうだけど。しかし国光が行ったら、妻の彩子さんも一緒だろ。僕の予想通り、研修中の彩子はそれを聞いたから、すぐえりなと相談してもらった。
そして今桜がここにいないけど、彼女にこの事を聞かれたら、間違いなくお父さんとお母さんに追随するに決まっていると思う。だって剣成が言ったぞ、桜はずっとお父さんの背中を追いかけていた。
「どういうわけで、総隊長、俺らの転調許可をくれ」
「断る」
カミトとの約束があるから、凛があっさりでロックオンたちの申し込みを断った。それにしても、ロックオンのその態度はさすがに無礼すぎるではないか?
「わかりました。試練というものが存在しますよね、総隊長」
少し怒っているっぽいロックオンをなだめている斎香は答えに辿り着いた。
「そうか、そういう事か」
斎香の話を少し考えたロックオンも答えに辿り着いたようだ。
「そして総隊長の顔から見ると、これ以上の情報はなさそうだな」
一度答えを辿り着いたから、ロックオンはすぐ全てを察した。
「私もそう思っていますわ。では総隊長、私たちはこれで失礼します」
あのさ、ヒント一つだけでも教えてもいいじゃない?
「もし他人だったら、多分私はヒントを教えるかもしれない。でもあの二人はカミトとえりなの大事な弟子だよ、ヒント教えれば超簡単になってしまうよ」
二人が離れた後、僕の顔を気付いたかもしれないから、凛は僕の疑問に答えた。うん、確かにそうなるな。
「そう言えば、君のご主人、シンたちは元々そういう類仕事のベテランだから、もし杏はカミトについて行きたいと言い出したら私は阻止しない。それにもしそうなったら、こっちとあっちの仕事範囲をはっきり分別できるから」
うん、わかっています。
「凛さん、さっきの話は本当?」
あのさ、一応ここは総隊長室、せめてノックくらいしろうよ!杏さん!
「こう言う事で嘘をつく趣味なんて私にはないわ」
「では私から正式申し込みます。特殊戦技部隊、通称ドウイングレイヴンは、カミトさんの部隊、通称—光神信使の下に転調したいと申し込み上げます」
「さっき私の独り言の通り、その申し込みを許可した。そして君たちはロックオンたちと違って、元々独立部隊として扱っているから、こちらから人員補填の要求をしない」
「感謝します」
卒業したばっかりなはずなのに、今杏の表現はまるで歴戦の隊長っぽい。
「それで良いのだ」
あの、凛さん、疲れているようだね。
「そうりゃそうだろ。いきなり部隊の再建なんて…さすがの私でも疲れるのよ。君がいてくれて本当にありがとう、ヴィク」
撫で撫で
どうやら僕は動物療法として使われたようだ。しかしそれで凛に助けられたらそれでいい。今一番忙しいのはカミトとえりなではない、あの二人がいなくなったセラフィーブリンガースの再編をしなければならない凛だ。
コンコン
今度はしっかりした扉をノックした音。
「どうぞ」
「総隊長、お呼びましたか?」
「ちょっと言い難いだけど、今日からあなたは狙撃兵科長代行よ」
「赤城兵科長が新しい部隊を作る事のせいですね」
来る人はなんと麻美だ。
「しかしどうして私ですか?私より凄い人いっぱいいるはずです」
「あなたも聞いたはずと思うよ。ロックオンもいい、国光もいい、あの二人はカミトの新部隊に行きたいと言ったよ。そして多分桜もだろ」
「確かにあの二人はそうしますね。兵科長は彼らの英雄ですから」
「私の判断によって、今あなたも転調したい確率はグレイトにかかっているけど、現状ではここに留める可能性が一番大きい」
「だから私は狙撃兵科長に指名されましたの?ありがとうございます。しかしもし転調したいかどうかと言言ったら、私の本音は転調したいの方に近いですけど」
えええ?本当に国光の言う通り、狙撃兵科であれば誰もカミトに憧れている事か?
「でもあなたはここに留めると決めたと思うけど」
「はい。この熾炎天使に入られることだけで、私は感謝しています。自分の実力を見劣りするつもりはありませんが、ランクレッドの二人は言うまでもない、今の私は桜さんにも及ばないです。こんな私は世界最後防衛線の部隊なんかに相応しくありません」
「つまりいつかあなたが相応の実力を手に入れた時、あなたも転調する事?」
「そうかもしれません。でもその前に、私はちゃんと今の狙撃兵科長の責任を果たします」
「今それでいい。あとでカミトと仕事の確認を忘れずに」
「はい!では私はここで失礼します」
撫で撫で
「まさかしっかりやっていたよね、カミトの奴」
え?そこは意外なのか?まあ、正直僕もそう思ったけど。
「最強の肩書は伊達ではないようだ」
「凛、俺だ。入るぞ」
凛の返事を待たずに、剣成は勝手にこの部屋に入った。
「ひとまず戦闘兵科の奴らを確保できた。カミトたち狙撃兵科の重鎮がいなくなった事は確かに大きな影響が発生したけど、俺らが心配する必要はない」
「そうか」
剣成は一体…?
「どんなに離れていても、守りたい思いはずっと一緒だから」
「そうね」
剣成の格好いい話に、凛はようやく楽な顔で頷いた。さすがだ。
「あとは麻美の事だが、あの子が秘めた才能は決して悪くない。俺はできる限り彼女を協力するとしよう。それにいつまでも教官としてカミトに見劣られるのも飽きた」
この瞬間剣成の表情、それは闘志が溢れていると言える顔だ。多分これは僕が初めて剣成のこんな真剣な顔を見えたかもしれない。
「任せたぞ、剣成」
「オリジナルエンジェルとして、凛の期待を無駄にしないとここで誓おう」
本当に剣成は本気の本気を出すつもりようだ。
「はいはい、ありがとうね」
凛が笑って剣成を見送った。
「オリジナルエンジェルか…」
凛が何かを呟いていたけど、さっきの重い顔は既に消えた。今の顔は間違わない世界を背負う最強部隊の総隊長である。
「さて、残る仕事を片付けようか」
夕立麻美:桜の同期である狙撃兵科所属の一般兵だった。
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