第八話 黛との誓い
さて、一人女子をゲットしたからな。宇佐見奈緒は顔も可愛いし、釣られる男子は多そうだ。
「他の人にも声かけてみようよ」
黛も積極的だ。
「ああ、そうだな」
やはり俺の予想通り、三人の男子が同意してくれた。うち二人は奈緒が参加と聞いて、態度を変えた現金な奴だ。
そいつらには入部届を書かせるために部室の場所を教えて送り込んでおいた。これで部設立に必要な最低限の五人以上はクリアできたし、千条部長が俺に課したノルマはクリアできたと言っていいだろう。
ちょっとほっとする。達成できていなかったら、どうなっていたことかと。
「じゃ、次は隣のクラスに行ってみようか」
「えっ、マジか。黛、俺はお前を本気で尊敬する」
俺は隣のクラスなんて絶対入れないし。教室の造りはまったく一緒でも、クラスが違えばそこに見えない壁、強固な結界が存在している。
だいたい、知らない奴ばっかりだぞ?
「ええ? やめてよ。中学の時からの知り合いが一人いるから、その子を頼ろうと思っただけだよ」
「ああ、なるほど。ちなみに、そいつ、男子?」
「ううん、じょ、女子なんだけど…」
「リア充爆発しろ!」
「ち、違うよ。彼女さんとかじゃ、全然そんなんじゃなくて、家が近所でクラスが一緒だったってだけ。タダの知り合いだから」
「そうか。なら信じよう」
これがもし小学校からの知り合いだったなら、それは『幼馴染み』。いろんな意味で、危険な香りがしていただろうがな。
おお、怖い。幼馴染み怖い。
お互いに弱点や人生の汚点を知っているという存在など、もはや地雷原に近い。
「ふう、良かった。だいたい、ボクがモテると思う?」
「んー、男子には、あ、いや、悪い」
「あはは、実際、そうだから別に謝らなくて良いよ。実は……これ、言いふらさないで欲しいけど、ラブレターは今まで五通、男子からもらっててさ。全部断ったけど…」
「五通。まあ、それくらいはもらってそうだな」
俺は黛の顔をもう一度チェックする。
うん、コイツなら行ける。余裕で。むしろど真ん中の好みだ。
「う、うん……」
困った顔で目をそらす黛。
おっと、いかん、男の目で見るとコイツも敏感に察して気分を悪くしそうだな。
「じゃ、とっととその子のところへ行こうぜ! 黛」
勘違いすんなよ、俺はノーマルなんだよ! という男らしさを全面に出して、親指でカモン!
派手に格好付けて言う。
「うん!」
「待って、如月君」
そんな俺を千条が呼び止めた。うっげ、ヤなところ見られたな…。格好なんて付けなきゃ良かった。時間を巻き戻したい…。
「ああ、千条さん。どうかした?」
羞恥心と自己嫌悪でフリーズ中の俺に代わって黛が聞く。
「ええ。あなたのスカウト能力を少し見くびっていたわ。そこは素直に謝るわ、ごめんなさい。でも、もうちょっと、メンバーを厳選してくれないかしら?」
「ええ? ひょっとして何か、問題があったか」
ちょっとチャラい男子もいたので、俺は不安になった。千条にまさか不遜な態度を取れる男子はそうそういないと思ったが。
「ええ。あなたはぬるい部活を売りにしているようだけど、そこも少し考えてくれるかしら。恋愛目当てや遊び目当てだけのメンバーが集まってしまうと、部活の体を為さなくなるわ。それと、私がボランティア活動も隔週でやるつもりだと言ったら、話が違うって言い出す男子もいたわよ」
「ああ、隔週か…」
ちょっと回数が多いが、教師の審査を乗り切るためには、これがぎりぎりの線と思われる。
「ええ、アリバイとして、妥当なところだと思うけれど」
「そうだな。その条件で渋る奴は、君が容赦なく落としてくれて良いし、悪かった。もう少し考えて話すよ」
「ええ。だけど、宇佐見さんはそれでもいいと言ったから、合格よ。ありがとう」
「そうか。黛、そういうわけなんだが…」
「うん、さすがに、遊んで食べてばかりじゃ、成立しないだろうし、大丈夫だよ、隔週のボランティア。でも千条さん、ボランティアって具体的には何するの?」
「ゴミ拾いや、老人ホームの慰問ね」
「ああ、なるほど、うん、じゃあ、ボクは大丈夫だと思う」
「そう。良かった。黛さん、いえ、黛君、これ、入部届になるから、書いて私に提出して頂戴」
さん付けを君付けに言い直した千条だが、千条の目から見ても女子と見間違えるほど黛は女子っぽくみえるのだろう。
「分かった」
笑顔が少し減ってしまったものの黛は頷く。
「じゃ、用件はそれだけよ」
「ああ」
千条がきびすを返して帰って行く。ただそれだけのことなのに、あの長髪がふぁさっと舞うのは、いちいち見とれてしまう。
「さすがに、あんまり軽いノリだとまずかったみたいだね」
「ああ、悪かったな、黛」
「ううん、いいよ。ダメだった男子もそこまで気にしないと思うしさ」
「そうだな」
ボランティア活動が嫌なら、入らないだけだろうし、千条と宇佐見の二人が目当てなら、無理して部に入らなくとも、友達になる方法はいくらでもあるはずだ。……いや、俺にはそんなアクロバティックな方法は思いつかないが、普通の奴なら手が無いわけでもないだろう。同じクラスなんだし。
隣のクラスに行くと、女子が一人反応した。
「あ、まゆまゆ! やーん、会いたかったー。もふもふしたかったー」
「ちょ、ちょっと、止めて、佐藤さん、抱きしめないで、お願いだからぁん」
黛は女子と言うより犬猫扱いか。分からんでも無いが。
愛玩動物……。愛のオモチャ。
いかんな、黛を裸にして首輪を付けさせた妄想をしてしまった。でも今夜のメインディッシュが決定!
「あはは、ごめんごめん、ついね。それで、まゆまゆ、何か私に用?」
「うん、実はボクら、文化部って新しい部を考えててね」
「ああ、さっきのホームルームで先生が言ってたヤツだね」
手配が早いな、橘先生。ああ見えて割と有能なのか。
「で、佐藤さんもどうかなと思ったんだけど」
「あー、ごめんねえ。あたし、もうバレー部入ってるからさ。まあ、今日はサボりなんだけど」
「そう。まあ、もし気が向いたり、お友達に興味のありそうな子がいたら、ボクに連絡くれないかな」
「オッケー。じゃ、メールするね」
「うん。それじゃ」
「ほう、女子のメルアドを知っているのか、黛君は」
俺はそこは見逃せない。
「う、うん、まあ、なんというか、交換してと言われて……でも、ほとんどメールのやりとりは無いよ? と言うか、どうしてかボク、女子のメルアドしか持ってなかったりするけど」
「そ、そうか」
それはそれでなんだか不幸な気がしてしまった。
「う、うん。ドン引きしちゃった?」
「いや、そうじゃないが、ただしイケメンに限るという言葉が今俺の頭に浮かんできた」
そういうことにしておく。
「ええ? ボクはそんな感じじゃ無いし、それ言うなら、如月君がそうだと思うけど」
「何を言う。俺は生まれてこの方、女子のメールアドレスなんてもらったことないぞ」
「そう。なんでかな?」
「さあな。そこは深く追及しないでくれるとありがたい」
「あ、う、うん」
さすがにそれ以外のクラスは黛でも行きづらいらしく、今日はここまでとした。
「あ、如月君、良かったらだけど、同じ部の部員になるんだし、連絡も取り合いたいから、メルアド交換してくれるかな」
「お、おう」
なぜ俺は男子とのメルアド交換にこうもときめいて、緊張しているのだろうか。
「じゃ、これで」
「よしっ!」
黛のメールをゲット!
「そんなに喜ばれると、微妙だよ…」
「ああ、すまん、いや、男子でも俺は嬉しいぞ。いままでぼっちだったからな」
「そう。なんか不思議だね。如月君はすぐ友達もできそうな感じなのに」
「そうか? まあ、橘先生の特別課題で、ちょっと変わったかもな。少なくとも千条と話せるようになった」
「へえ、特別課題って?」
「時間決めて、千条と二人きりにされて、喋らされた」
「ああ、なんだか、スパルタだね……千条さん相手だと、ボクは結構、キツいかも」
「そうかもな。あ、千条には内緒にしててくれるか。悪い、これ秘密だった」
「あ、うん、大丈夫、言わないよ。じゃ、二人だけの秘密だね、ふふっ」
何だ今の笑顔の破壊力は。
「お、おう」
「あっ、ごめん、そういうのじゃ…」
「いや、いいんだぞ。俺的にはグッときた」
「ダメだよ、グッとこられるとまずいんだってば…」
「そうだな。お前とは清く正しい男子部員同士、クラスメイト同士、それでいいか?」
「うん、それでいいよ。ボクはついでに清く正しいお友達を目指したいかな」
「ああ、二人で目指そう」
「うん」
黛も女子と見られるのは嫌なようだし、気をつけよう。楽しそうにしている黛が側にいるだけで俺はなんだか幸せな気分だ。これは恋? いやいや、あくまで男子だからな? 夏のプールでは、絶対胸を確認しよう。ぐへへ。




