第五話 いけない大人のレッスン
2017/9/13 改行を修正。
「ご苦労だった。千条は帰って良いぞ」
時間になったようで橘がやってきた。
「先生、それは、如月君に何か別の課題を与えると言うことですか?」
千条がちらりと俺を見ながら質問する。
「そうだ。私は総合的に見て如月の方をコミュニケーション能力に長けていると判断した。ステップアップの課題だな」
「それほど、私たちの会話の内容に差があるとは思えませんが」
「まあ、五十歩百歩だ。そう気にするな。逆転も充分にあるだろう。それより、お前達はお互いの信頼関係の構築に専念して努めろ。最低条件として標準のクラスメイト以上、できれば、友人に近いレベルを要求したい」
「そんな無茶苦茶な!」
悲鳴とも付かぬ声を上げる俺。
「む」
眉をひそめた千条は、何か誤解したようだ。別に俺は千条の資質に問題があるから無理だと言ったつもりはない。そこは早めに言い訳しておく。
「友達って、作ろうと思ってすぐ作れるものじゃないでしょう」
「そうでもないぞ、如月。少なくとも作ろうと思わなければ、何も始まらないがな」
「ううん…」
「千条、まだ何かあるのか?」
「いえ、失礼します」
「ああ。自分が如月と比べて、何が不足しているか、考えておくように。現時点ではお前がクラスで最下位だ」
「……分かりました……」
下唇を噛んで視線をそらす千条は少し気落ちした足取りで去って行った。おそらく、これが彼女の人生にとって初めての最下位宣告のはずだ。
「何もあんな言い方しなくても……」
俺は橘に不満を言う。
「アイツは劣等感を煽られる方がやる気が出るようだからな。それに心配しなくとも気は強いし打たれ強い」
「そうですか」
「では、大人の女性との濃密な会話と行こうじゃないか」
そう言って橘は俺の真ん前に席を置き、前のめりになってくる。
「い、いや、そういうのは遠慮したいというか…」
近い。顔が。
「どうなんだ、生理的に受け付けないのか、照れくさいのか、そこだけ正直に答えろ」
「ええと、生理的に受け付けないって事はないですが、普通、女性にそこまで距離を詰められたら、誰だって戸惑いますよ」
「そうかそうか、私もまだまだでほっとしたぞ。こんなことを誰かに頼むのも面倒だしな。ご褒美に、胸をじっくり眺めることを許可する」
そう言って、ブラウスの上のボタンを外す橘。全部モロに出しちゃうのかと勘違いして、俺は慌てて目をそらした。
「ほら、見ていいと言ったんだぞ、如月」
見てみたが、ボタンはやはり一つだけだった。残念。
「意図はなんなんですか。女性に対する免疫力の向上?」
「その通りだ。千条は見ての通りとびきりの美少女だからな。お前が変な気を起こさないよう、少し訓練しておこうと思ったんだ」
それが必要ということは、千条との特別課題にはまだ続きが有り、さらにステップアップが用意されていることになる。
「いったい、僕らに何をさせたいんですか」
「察しがいいな。なに、すぐに分かるが、学生としての通常の活動だ、おかしな期待はするな。お前、セックスを期待しただろう」
どんな学校だよ。
「してませんよ」
「キスはどうだ?」
「それもしてません」
「手をつなぐのは?」
「あるかと」
「千条が恋人として付き合ってくれるというのはどうだ?」
「それは、まあ、妄想はちょっとしましたけど」
「ふふ、脈がありそうで何よりだが、勘違いはするな。これはあくまでお前に一般常識としての人間関係を学ばせるためのモノだ。恋愛については、そうだな、私がレッスンしてやるから、それで我慢しろ。さすがに、千条にはそこまでは無理だろう」
「でしょうね。それで、ど、どういうレッスンを…」
美人の女教師が恋愛を教えてくれるそうですよ?
「ふふ、なんだ? 私が、色々といけないことをしてくれると期待してしまっているのか? うん?」
「いけませんか」
「ダメとは言わないが、お前、恋人として付き合い始めたばかりの相手にそんなことを明言するのか?」
「それは…相手と場合によるんじゃないですか」
「ダメだな、零点。最初から妄想を全開でぶつける奴があるか」
「そうですか。でも…口説くって、同意を得るものじゃ」
「そこからしてどうやら分かっていないようだな。確かに同意は必要だが、お互いの愛を高めていくのが主な目的だ。雰囲気や相手がどうして欲しいと思ってるかをよく考えろ」
「先生が僕に望んでいるのは、しゃれた会話なんですか?」
「それもだが、それ以前に、相手との信頼関係だな。特に恋愛以外の分野になるが…」
「じゃあ、これ、意味が無いじゃないですか」
「そうでもない。こうして、色香に当てられていると、千条程度の小娘相手になら、余裕が出てくるはずだ」
「色香というのなら、もっと色々、過激なこともあってもいいかと」
「さすがに、教師と生徒という制限があるからな。それさえなければ、もっと刺激的な会話や態度が楽しめたかもな」
「はあ」
「想像しろ。想像の中なら、私を好きにして構わんぞ」
「そう言われても…」
「裸にしてみるか? それともデートかな。このまま押し倒しても力ではお前にもう敵わないかもな。試してみるか?」
「ええ?」
「私の手首を掴んでみろ」
言われるままに手首を掴んで押さえ込む。
「くっ」
「おお?」
見た目、武道をやっていそうな教師だったが、力の方は俺の方が上らしい。このまま押し倒して、本能の赴くままに行動したら、どうなるのか。
「そ、そこまでだ、もう止めろ、きゃっ!」
「先生が悪いんですよ…?」
「悪かった。だが、もういい如月、あっ!」
「ふふ、こうやって……うおっ!」
巴投げをやられた。俺の想像の中だけど。
「……やっぱり、負ける気がします」
「なんだ、意気地が無いな。ま、私が武道を嗜んでいると、誰かから聞いていたか?」
普通に力で勝ってくる橘。なんだ、やっぱ強いじゃん。
「いえ、でも、こんな無防備なことをやる先生は、何かあると思ってましたよ」
「つまらんな。じゃ、これはどうだ?」
先生が自分のスカートの裾を持ち上げる。
「覗いてもいいんだぞ、如月」
「はあ」
どうなるのか、怖い物見たさで椅子から立ち上がり、屈んでみる。橘はそのままの姿勢で何もしてこない。
黒のストッキングの向こう側に白のレースの下着が見えた。
なん…だと!
「あの先生、これ、写真に撮っても?」
焦って早口で言う。
「それはダメだな。お前に証拠を握らせると、私が奴隷にされかねん」
「そんなことはしませんが…」
「じゃあ、顔を写さないなら、撮っても良いぞ」
携帯を取り出し、胸までを写す。
「ああ…このままネットに上げられて、退職にまで追い込まれるかと思うと、ゾクゾクするな…信じているぞ、如月」
「まあ、僕も先生を退職に追い込むつもりも脅すつもりも無いですけど…もうちょっと脱いでもらえますか」
「仕方ないな。じゃあ、ちょっとだけだぞ?」
「え、ええ…」
ブラウスのボタンを外し、ブラのホックも外してしまう先生。
一応、指で押さえて乳首の部分を隠しているが、それが余計にエロい。
「ほら、生の胸だぞ」
「さ、触っても?」
おそるおそる尋ねる俺。
「それはダメだ。我慢しろ」
「くっ、そうですか…」
「ここで触らせてしまったら、私も歯止めが利きそうに無いからな。お前が高校を卒業したら、好きにさせてやってもいいが。ただし、妊娠したら責任を取ってもらうぞ?」
「責任ですか…」
その言葉に俺は急に現実に引き戻される。
「ふふ、まあ、お前はクラスメイトの女子と付き合うことを考えろ。私よりずっと御しやすいかもな?」
そう言われて俺は下着姿の女子が跪いている姿を想像していまい、ゴクリと唾を飲み込む。
「おっと」
先生の携帯が鳴った。
「分かった。すぐ行く。残念だったな。時間切れだ」
「仕方ないですね」
「だが、意外にお前は自制心があった。あとは千条次第だが、もっとステップを進められそうだ」
「その先には何があるんですか?」
「それは自分で確かめろ」
服を直すと、先生は俺の唇に悪戯っぽく指を当てて出て行った。
「参ったな…」
これでは、千条との特別課題、やってみるしかなくなった。
悔しいが、完全に先生に嵌められた気がする。




