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第九話 応援

 俺が心の中で舌なめずりして優希に対するエロい提案を企んでいると、テントの入り口がすっと開けられた。


「何を変なことをやっているのかしら」


「げげっ、千条。の、ノックくらいしろ!」


 嫌なところを聞かれてしまった。あと、これ、部員としてアウトかもなぁ。強引に迫ったわけじゃないけど。

 ナンパと受け取られるか。


「テントだからそれは難しいのよ。ただ、あなたたちが高校生として不適切な遊び、一枚ずつ脱ぐなんて言っているから、踏み込ませてもらったわ」


「ま、大人しく制裁は受けよう」


「当然ね。だけど、あなたらしからぬ行動だわ。何かあったの?」


「……まあ、何も無かった訳じゃないが……」


 喧嘩で一時保留となっているが、橘は俺に柏木に告白するよう望んでいる。

 100%玉砕が確定している告白なら、別に俺はやってもいいんじゃないかとさえ思っている。

 ただ、俺の初めての告白だ。

 それならそれで、まず、自分の本当に好きな相手にチャレンジしてからの方が後悔しないのではないか。

 そんな気もしているのも事実だ。

 まあ、それで誰かに告白できるのなら、苦労は無い。

 きっと俺は強制でも無い限り、告白なんて無理なのだ。


「そう。悪いけれど、黛君、少し、私と如月君を二人きりにしてもらえるかしら。部長としての説教もあることだし」


「うん、分かったよ。じゃあ、ボク、友達のテントで少し時間を潰してくるね」


「悪いな、優希」


「ううん。また後で」


 ひらひらと手を振った優希は俺を嫌ったわけでも無さそうだ。


「行けるかな…」


「何をよ」


「い、いや、何でも無い」


「最初に禁じておくけれど、この林間学校で黛君に何か部員として逸脱する行為をすることはダメよ」


「明日からじゃ、ダメか」


「ダメに決まっているでしょう」


「それもそうだな。すまん」


「いいえ。でも、橘先生の仕業なのでしょう?」


「まあ、他にいないよな」


「ええ。私も、一つ、課題を与えられているの。だから、まず、約束して頂戴。黛君には何もしないと」


「分かった。この林間学校では何もしない。これでいいな?」


「ええ、ありがとう。ちなみに、あなたは黛君のこと、どう思ってるの?」


「文化部の同じ部員で、友達になれそうな奴で、あと、気を許せる奴かな。信頼もできる。得がたい奴だ」


「ええ。そうでしょうね。あなたたちってとても仲が良さそうだもの。でも、それは…その、俗に言う男女の関係として、そうなのかしら?」


「まさか。俺としてはそうなっても良いと思ってるが、今はそうじゃないぞ」


「そう。彼は男子ということになっているわ」


「知ってる。ま、そこはあまり重要じゃ無いかな」


「そう。分かったわ。あなたのプライベートまで踏み込んだようでごめんなさい」


「いや、流れとして当然の質問だろう、今のは」


「ええ。それと……約束を守ってくれているなら、私はあなたを応援するわ」


「応援?」


「ええ。あなたは今、何か難しい課題を与えられたのでしょう? でも、きっとあなたならできるわ」


「そう。気持ち悪いな」


 普段の千条とは違う言い方なので、思ったことを口にする。


「失礼ね。自分でも、らしくないことを言ってるのは自覚しているわ」


 ちょっとそっぽを向いた千条は、彼女も何かあったのか。


「それが君の課題なのか?」


「ノーコメント」


 肯定したも同じだな。


「なるほど、橘先生が手を回したか……」


「そうだとしても、勇気を出して、如月君。私は、あなたが間違った選択をするとは思っていないわ」


「どうだろうな。今からやろうとしていることは、人としてどうかって気もするぞ」


「それは、誰かを傷つけることなの?」


「不快に思うはずの人間はいるんだが、その人にとってはたいしたことじゃ無いんだってさ。だから、誰かを傷つける訳じゃ無いと思う」


「そう。なら、私も心置きなく応援できるわね。頑張って」


「わぁ。凄く嘘っぽい言葉なんだけど、それでも勇気が出た」


「そう。でも、あなたを応援したいと思っている気持ちは本気よ」


「そうなのか?」


「あなたは、私が橘先生の課題をクリアできない方を望んでいるの?」


「いや、そんなことは無いが……君がクリアした後で後悔しないなら、俺も応援するかな」


「後悔は、たぶん、しないと思うわ」


「そうか」


 お互い、沈黙する。落ち着いた雰囲気で、不快では無い。前に教室で二人きりで待たされていた時とは全然違っていた。


「千条、俺を応援してくれるなら、少し不快なことも我慢してくれるか」


「ええ、少しなら、我慢してあげても良いけれど」


「よし。じゃあ、俺と付き合ってくれ」


「いいけど、どこに?」


「ああ、違う違う。デートの申し込みというか、恋人として付き合ってくれって意味だよ」


「えっ! ……それが、先生の課題なの?」


「いや、これはまったく無関係だ。準備というか、心構えのためのものではあるけどな」


「ううん……急にあなたが何をさせられているか、不安になってきたのだけれど……」


「大丈夫だ。その後も、たぶん、俺も周りもそこまで変化しない、と思う」


「本当に?」


「ああ。だって、持って生まれた性格だぜ? そう簡単に変わるなら、苦労しないよ」


「そうね。さっきのお付き合いの申し込みに対する返事だけど、しばらく保留ということではダメかしら?」


「別に良いが、あっさり振ってくれて良いんだぞ? それでこっちは前に進めるというかな」


「よく分からないわ。課題でも無いのに、失敗がいいの?」


「そうだな。失敗が良いんだ」


「そう。でも、私は真剣に考えてみたいから、やはり保留よ」


「そうか。まあ、千条に告白したと言うだけでも、相当な経験値が入った気がする」


「人をゲームのモンスターみたいに扱うの、止めて欲しいのだけれど」


「君もそんなゲームをやるのか」


「いいえ。親戚の小さな子に付き合って、少しやった程度よ」


「ふうん」


「では、邪魔してごめんなさい。黛君を呼んでおくわね」


「ああ」


 携帯で黛を呼んで、そのままテントを去る千条。

 なんだか、前よりもずっと魅力的な女子になった気がするが、きっと俺がまともに彼女を見ていなかっただけなのだろう。彼女だって、すぐに変化したりはしないのだから。


「た、ただいま…」


「おお、悪かったな、優希。俺のせいで、追い出されたみたいになって」


「そんなことは無いけど。ワンゲームできたし」


「そうか。じゃ…」


「う、うん」


「ああ、安心しろ。林間学校ではお前に何もしないとさっき千条と約束した」


「そう。林間学校ではってことは、それ以降は分からないって事?」


「まあそうなるが、部員として、いや、人としておかしな事をやり始めたら、アイツは絶対許さないだろうし、それも俺はやらないつもりだ」


「人として…か」


「ああ。だから安心して、くつろいでてくれ」


「うん、安心はできるけど、ちょっと残念かな」


「んん?」


「な、何でも無い」


「そうか。だが、優希、お前との約束はそのまま続いてるからな。じゃ、清く正しくお友達として、トランプでも遊ぶか」


「うん、いいよ」


 ポーカーを何ゲームかしていると、俺の携帯が鳴った。


「私だ」


 さて、特別課題の時間のようだ。

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