第八話 勝負の結果
一悶着あったが、収まった。
千条がそれから戻ってきて、謎のカレールーを投下した。よくある市販のブロックタイプではなく、瓶詰めでラベルも無し。
「フフ、フフフフフ」
と変な笑いをしていたのがちょっと怖かった。
大丈夫だろうな?
毒は止めてね?
「じゃあ、ちょっと色々、残念なこともあったけど、きちんと完成したし、お互いの健闘をたたえて、拍手!」
天川が拍手を促した。
俺達はカレーの鍋と飯ごうを運んで、一班と五班の合同の席を作っている。
早乙女の席には誰が置いたか黒いウサギのぬいぐるみが置いてあり、どうやら彼女は欠席と言うことらしい。シュールだ。
橘先生の方は何も無かった顔で上座に座っている。凄く気になるが、今は早乙女のことは忘れておこう。
たぶん、明日はそれなりに元気な顔を見せてくれるはずだ。うーん、一週間後くらいしてからかもしれないが。
「千条さん、悪かったわね。アーシは全然、そんなつもりは無かったんだけどぉ、ユッチのバカが変なことしちゃって」
「ええ、でも、雨宮さんのおかげで未遂に終わったわ。誰が指図していたかなんて、些細な事よ」
「あっそ。ま、アーシが疑われても仕方ないけど。じゃ、翔ぅ、これどうするの? 先生が食べ終わってからアーシらも食べるわけ?」
「そうだね。まずは先に先生に食べてもらおうか」
「では、まずは一班からだな」
「うん、ケイの自信作だもんね」
相川が隣に座っている背の高い女子に向かって言う。やはりギャルだ。
「まあね」
「ご飯もコレ良い感じで炊けてない?」
俺の前にも一班の作ったカレーの皿が置いてあるが、確かに、良い感じだ。ご飯の見た目はごくごく普通。
カレーの方はそぼろカレーのようだ。挽肉のつぶつぶが見える。
「じゃ、先生、お願いします」
「ああ」
先生が一口食べる。
「うん、悪くない。これは肉の味が生きるな」
「じゃ、アーシらも頂きまーす。うん、これいいよ、ケイ! アーシは好きだな、これ」
もう相川が食べてしまったので、まだ早い気がするが、俺も手を付けてみる。
「あ、美味しい」
奈緒が少し驚いた顔で言うが、確かに美味い。
ごろごろっとした歯ごたえのある野菜に、柔らかい挽肉が付き添い家庭的な味を出している。妙にご飯が進みそうだ。
「これは、果物が入っているのかしら…」
千条が確信が持てない感じで言う。
「入れてないよ」
ケイが素っ気なく答える。
「いや、待って福沢さん。焼き肉のたれを隠し味に入れてるから、そのたれに元から果物が入ってたと思うよ」
天川がネタばらしをした。
「あ、焼き肉のたれかぁ。なるほどねー、言われてみればその味もするなぁ。道理で肉が美味い! これ、ご飯、何杯でも行けそう!」
奈緒が言う通り、ご飯が進むわけだ。
「では、冷める前に、五班のも食べておくか」
先生がもう一方の皿に手を付ける。
「ふむ、これはカレーと言うよりはビーフシチューに近いか。ホテルのレストランによく有りそうな味だな」
「気のせいです」
褒め言葉だと思うのに、千条がすかさず否定した。なんか予想ついちゃったな、俺。
千条の奴、高級ホテルのシェフが仕込んだルーを持って来ただろう。市販のルーも原理的には他人が作った物なので、反則とまでは言えないが、相当せこいぞ。
「うわっ! なにこれ、全然、普通のカレーと違うねー」
奈緒もびっくりした様子。
「これ、カレーじゃねえよ。でも、うめー」
食べてみると、実に上品な味で、辛さはあまりない。
まろやかなカレーだ。
「確かにホテルの味だわ、これ。千条さんらしい味かもねぇ。ま、これはこれで美味しいんじゃないの」
あまり面白く無さそうな顔で、それでも正直な感想を述べる相川。
「どちらも特徴があって、美味しいカレーだね。僕はどちらも好きだな」
天川、お前はたぶんそう言うと思ってたぜ。きっと勝敗が明らかなカレーでも同じ事を言うに違いない。
「んー、困っちゃうね。自分の班を応援したいけど、こっちも美味しいや」
優希も両方を評価。
「如月君、あなたはどっちが良いと思うの?」
千条が俺に聞いてきた。
ご飯が進むのはケイのそぼろカレーだが、味で上か下を決めるなら、やはり千条のホテルカレーか。
「お前の行きつけホテルのカレーかな」
「だから、ホテルでは無いわ…」
恨めしそうな顔でじろりとこちらを睨むが勘弁してくれ。別に反則だと言ってる訳じゃあ無い。
料理の過程も見ているから、腕としても負けているわけじゃ無いはずだ。
「ふうん、こんな味もあるんだ。千条、後でこのレシピ、教えてよ」
ケイが言った。
「ええ。私も、あなたのカレーのレシピ、知りたいわ」
「じゃ、交換で」
ケイがスマホを出した。
「今? 食事中だから、後にして欲しいのだけれど…」
「いいだろ。すぐ済むし」
「仕方ないわね」
交換成立。こんなことでも無ければ交流を持たなそうな雰囲気の二人だが、不思議なものだ。
「お代わり、ある?」
「あるよ」
「おっ! オレ、お代わり! そぼろカレー、頼むわ」
お代わりは圧倒的にそぼろカレーが多かった。かくいう俺もそぼろカレーをもう一杯。
「で、先生、一応、勝ち負けハッキリさせておいて欲しいんですけど」
相川が食べ終わったところで言う。
「そうだな。私の判定では引き分けだ」
「えー? それ、勝負になってないし」
「そうです。どちらが上か、きちんと判定を下して下さい」
「知ったことか。それが私のこのカレーに対する評価だ。どちらも美味い。それでいいだろう」
「仕方ないか。もうちょっとマシな審判を用意するべきだったってことね。それでいいかしら、千条さん」
「ええ、そうね。食べる人間によって、好みも違うみたいだし」
「じゃあ、勝負は引き分けって事で。ごちそうさまでした」
天川が締めて、それでお開き。
テントに戻る。
「ふう、苦しい。食い過ぎた…」
「だね」
「んじゃ如月、オレ、ユージ君のテントに行ってるから。戻ってこないかもしんないけど、先生が来たら適当にごまかしといてくれよな」
軽部が面倒なことを言うが。
「ええ? 橘先生が来たら、どうやってもごまかしきれないぞ」
「まあ、そのときはそのときって事で。んじゃな」
軽部は今夜は戻らないつもりらしいが、そうすると、優希と二人きりというわけで…。
思わず優希と目を合わせ、お互い、はっとしたように目をそらす。
いや、おかしいだろ、優希。そこでなぜ女子みたいな反応をする。俺もだけどな。
「あ、そうだ、ボク、トランプを持って来たんだ。恭一君、どう?」
「おお、やろう」
トランプで普通に遊ぶことにする。
「じゃ、まずは何からやろっか」
「そうだな。二人だけなら……ポーカー。ついでに、負けた方が一枚ずつ服を脱ぐという賭けをしないか?」
俺は凄い提案をする。割と真剣だ。
「ええと、その賭けはちょっと……欲望丸出しだよ? 恭一君。ボクが女の子だったら、警戒して、即お開きなんだけど」
「だが、俺達は男同士だ」
「そうだけど……ごめんね。その賭けはやっぱりダメ」
「そうか。なら、仕方ないな。じゃあ、勝った方が負けた方にキスってのは…」
「それも、勝負の意味ってあるのかな……? 二人きりだから、どうしたって、ボクと恭一君で、キスすることになるんだけど」
「ふむ、確かに、それもそうだな」
だが、優希は怒っているわけではない。なら、次は何を提案してみようか。




